【完結】誰も知らないアブノーマリティー   作:名無しの権兵衛

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Days-08 F-01-i05『生まれぬ魂に、憎しみだけが集まった』

「見ろよ、新しいE.G.O.だ。これで、今まで以上に戦えるぞ!」

 

「全く、あまり調子に乗るなよ?」

 

「わかってるって」

 

 リッチとシロに新しいE.G.O.を見せびらかしながら会話する。

 

 今俺が持っているE.G.O.は、『T-04-i13』*1から作られた槍型のE.G.O.、“幸福”だ。枯れた植物の根のような見た目だが、意外と丈夫で軽いため使いやすい。

 

 振れば悲しみの、突けば歓喜の叫びが聞こえてくるが、この際聞こえないことにする。ちなみに、自制心の無いやつがこれを装備すると人に自分を食べさせたくなるそうだ。やだこわい。

 

「これならそうそう負ける気はしないな」

 

「そう調子に乗ったやつから死んでいく、いつもお前が言っていることだぞ」

 

「わかってるって、ちょっとくらい良いだろう?」

 

 新しいE.G.O.を身にまとい、機嫌良く廊下を歩いて行く。今日はなんだかいけそうな気がする。

 

 

 

 

 

 今日相手するアブノーマリティーは、『F-01-i05』。果たしてどんなやつが出てくる事になるのだろうか……

 

「はたして、鬼とでるか蛇とでるか」

 

 気合いをいれて収容室の扉に手をかけ、中に入る。すると、甘くすえた臭いが漂ってきた。その余りに強烈な相反する臭いに、思わずむせそうになる。

 

「うっ、なんだこの臭い」

 

 手で鼻を押さえたくなる衝動を抑えて、中の様子を窺う。

 

 それを見た瞬間、さっきまでの機嫌はどこかへ消え去り、俺は恐怖を感じてしまった。

 

 

 収容室の中には、巨大な桃が置いてあった。その桃は完全に腐っており、形を残していることによりかろうじて桃と判断できた。

 

 やはり、先程の甘くすえた臭いはここから放たれており、嫌でも存在を認識させてくる。さらには恐ろしいほどの邪気が漂い、俺を引きずり込もうとしてくる。

 

 ついでに桃の方から視線のようなものを感じる。……もしかしてサンドバッグみたいに見ちゃダメとか無いよな?

 

「と、とりあえず作業をしよう」

 

 今日も今日とて、作業は清掃。いつも通り作業をしていくが、なんだかどんどん集中力が無くなってきた。

 

 ……もしかしてこれは精神ダメージか? まずいな、この装備は精神ダメージが弱点だ。

 

 しかもこいつ、ZAYINやTETHなんかじゃ無い。HE、いやもしかしたらそれ以上の可能性も……

 

「あっ、まずい……!?」

 

 そこで、油断していたのがまずかったのか。一瞬意識が遠のきそうになった。精神を蝕まれ、どんどん恐ろしい考えが頭の中を埋め尽くしていく。まずい、このままだと死んじまう。どうすれば良い? きっとみんなこいつにやられちまう、そのうちだれもがおかしくなってしんでしまう。どうせなら、いっそみんなでいっしょに……

 

「あぁ! だめだ、そんなのはだめだ!」

 

 『F-01-i05』からかんじるじゃきがどんどんつよまり、おれをおそおうとしてくる。それがおそろしくて、こわくて、やつからにげだそうとして、どうにか踏みとどまる。ここで逃げ出そうものならこいつがどうなるかわからない。明らかにやばそうなこいつのことだ、脱走せずとも何らかの特殊能力を持っていてもおかしくない。

 

「とにかく、なんとしてもこの作業を無事に終わらせなければ……」

 

 気合いを入れ直して作業を続ける。そしてなんとか作業終了の時間まで意識を耐えきる事が出来た。

 

「こ、れで、終わりだな……」

 

 なんとか作業を終えて収容室から退出する。精神にあまりの負担がかかってしまい、どうしても頭が痛い。

 

 作業中の疲労が大きかったせいか、俺は『F-01-i05』の異常に気づくことができなかった。『F-01-i05』の外側から、いや外殻からミシミシときしむような音が出ていたことに……

 

 

 

 

 

「おい、大丈夫かジョシュア」

 

「あぁ、リッチか。まぁ、なんとかなったよ……」

 

 収容室から出ると、リッチが待ち受けていた。最近作業が終わるとこいつがいつもいる気がする。なんというか、こいつ俺のこと好きすぎない?

 

「随分手酷くやられたらしいな。ほら、これでも食え」

 

「おっ、ありがとう」

 

 リッチが手渡してきたのは、チョコレートだった。それも、おそらくは『T-01-i12』*2から受け取ったものだろう。せっかく受け取ったものだ、ありがたく頂戴しよう。

 

「それで、今回の……」

 

「まて、なんか変な感じがする」

 

「えっ?」

 

 チョコレートを食べて多少元気がわいてきたとはいえ、リッチの言うことにまだ鈍る頭を必死に振り絞る。確かに恐ろしい気配を感じる。それにこの邪気、先ほどまで感じていたような……

 

「ギュオォォラァァァァ!!」

 

「なっ、まずいぞ!!」

 

「くっ、非戦闘員はすぐに避難しろ!!」

 

 何の準備もする時間も無く、『F-01-i05』の収容室からおぞましいナニカが飛び出してきた。

 

 リッチが非戦闘員の避難指示を出したがすでに遅く、何人ものオフィサーが発狂してしまった。

 

 思わず吐きそうになるほどの腐臭は眼がしみるほどであり、おどろおどろしい邪気が体にまとわりついてくる。

 

 そこにいるのは、大きな桃。いや、その大きな桃から上半身だけを這いずり出した死体のような餓鬼であった。

 

 眼孔には何も無く、虚ろな孔だけがこちらをのぞき込んでくる。その枯れ果てた喉からは声にならない雄叫びを絞り出し、こちらに向けてくる。

 

 憎しみの詰まった悪鬼が、その凶刃を俺たちに向けてきた。

 

『『F-01-i05』が脱走しました、エージェントの皆様は直ちに鎮圧に向かってください』

 

「まずい、リッチ避けろ!」

 

「言われなくても!!」

 

 『F-01-i05』の突進からなんとか逃れるが、明らかに調子がおかしい。『F-01-i05』の背後をとりつつ、“幸福”で薙いで突いて攻撃する。リッチも遠距離からショコラで援護してくれている。

 

 リッチが相手の注意をそらしつつ、俺が『F-01-i05』に攻撃を加える。細心の注意を払って攻撃をよけていたが、明らかに精神へのダメージが蓄積されている。

 

「……これは、もしかしなくても継続ダメージ付きか?」

 

「おいおい、そいつはまずいな」

 

 継続ダメージがあると言うことは、ネツァクのコア抑制も行っていない今、長期戦になればこちらが不利になる。特に今、俺は作業による精神へのダメージが大きく、このままだと俺がパニックになってしまう。そうなればこの中で一番装備の良いせいで、確実に戦線が崩壊する。

 

「このままだとやばいな、短期決戦しか無い」

 

「あぁ、出来るか?」

 

「やるしかないだろ?」

 

 その言葉を皮切りに、リッチが『F-01-i05』の顔に集中的に攻撃を加える。やつはひるみはしないものの、その気を引きつける事が出来た。

 

 その一瞬の隙を突いて“幸福”で『F-01-i05』の口に突き刺す。よく見れば、『F-01-i05』の口の中は歯も無くカラカラで乾燥していた。そんなどうでも良いことを考えながら突き刺し、奥に押し込む。

 

 『F-01-i05』はそれに抵抗して、喉をかきむしるように俺をひっかいてくる。そのたびに精神がごりごりと削れていくが、ここで手を離せば結局終わりだ。気がつけば他の職員たちも集まって攻撃を加えてくれている。

 

「くそっ、いい加減、早くくたばりやがれ!!」

 

 幸福をさらに奥に差し込み、ねじる。すると、『F-01-i05』は痙攣してしばらくすると、動かなくなってしまった。

 

「よ、ようやく終わっ…… あっ」

 

 最後の最後で気を抜いたのが悪かったのか、『F-01-i05』の最後の一撃が俺に当たってしまった。

 

「ジョ、ジョシュアァァァァ!!」

 

 『F-01-i05』の最後の一撃を受けてしまい、俺はパニックになってしまったそうだ。その後俺は“ショコラ”による一斉攻撃を受け、なんとかパニックから立ち直った俺は、もう二度と初手に洞察作業を行わない事を決意した。

 

 

 

 

 

 川から流れる大きな桃は、優しい老婆に拾われる事を願っていた

 

 しかし、いくら川を下っていっても、誰にも出会うことすら無い

 

 いずれ川を抜け、海へと至る

 

 桃は波に揺られ、そのまま時だけが過ぎていく

 

 割られることの無い桃に、誕生の瞬間など訪れるはずも無かった

 

 やがて鬼たちは人々を迫害し、宝も、食料も、命すら奪っていった

 

 救われぬ魂はこの世に怨念を残し、救いの手を差しのばさぬ英雄を呪った

 

 その怨念は大地を漂い、川から流れ、波に運ばれ、そして……

 

 

 

 

 

 生まれぬ魂に、憎しみだけが集まった

 

 

 

 

 

F-01-i05 『彷徨い逝く桃』

 

*1
『魅惑の果実』

*2
『蕩ける恋』

次回のアブノーマリティーの情報は?

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  • 上記に加えてアブノーマリティーの姿
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