【完結】誰も知らないアブノーマリティー   作:名無しの権兵衛

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Lost Days 『■■■■』

「……どうして、こんなことに」

 

 呆然とする男性に、隣に立つ空色の髪の女性が口を開く。明らかに目の前の光景にショックを受けている彼とは対照的に、彼女は機械のように冷たく、冷静であった。

 

「それは、アブノーマリティーのせいでしょう?」

 

「だが、これほどの怪物がどうしてここで出てくるんだ!?」

 

「管理人、そんな風に嘆くよりも仕事をしてはどうですか? このままでは壊滅ですよ」

 

 明らかに動揺している男性を意にも介さず、彼女は冷静にそう告げる。

 

 確かに彼女の言う通りにすぐにでも動くべきだろう。だが、彼がこうなってしまうのも無理もない。

 

 めちゃくちゃになってしまった施設に軋みをあげる空間、その影響は管理人室にまで届こうとするほどである。

 

 世界が悲鳴を上げる、この施設内のあらゆるところを確認できるこの場では、それが嫌でも伝わってくる。

 

「……あぁ、そうだよな」

 

 だが、さすがは管理人、かの■である。発狂しそうになる精神をなんとか押さえつけ、事態の鎮静に向かう。

 

 だが、その手はどうしても震えていた。

 

「……アンジェラ、頼みがある」

 

「はい、どうしました?」

 

「手を、握ってくれないか?」

 

 そこで、彼が頼んだことは、幼子のようなささやかな願いだった。

 

 アンジェラは表情には出さないが、このお願いに衝撃を受けた。

 

 今までろくに弱みを見せようとせずに狂っていった彼が、初めて弱みを見せた気がした。

 

「……ありがとう」

 

 その衝撃に思わず手を宙で止めてしまったのを、彼は承諾と受け取ったようだ。

 

 彼はアンジェラの手を取り、握りしめた。決して強くはないが、しっかりと、放さないように……

 

「……ひんやりしているな、少し心が落ち着くよ」

 

 それは機械なのだからそうだろうと思ったが、彼女は何も言わなかった。

 

 そのまま無言で時間が過ぎる。その間にも、管理人は現状を打破するために思考を張り巡らせていた。

 

 

 

 

 

 どこか、懐かしい匂いがした。

 

 それは、白い大きな二枚貝の玉座に座っている。

 

 薄く灰色がかった白い肌はなめらかで、その表面で粘液が虹色の光沢を放つ。

 

 太く数多の吸盤のついた触手は十本にもおよび、獲物を求める獣のように蠢動する。

 

 そのうちの2本は他のものよりも長く、先端も雫のような形をしている。

 

 目だけでも人ほどの大きさがあり、その黄色い瞳は完全にこちらを捉えている。

 

 その大きさは玉座に座しているにもかかわらず、記録部門の天井まで届くほどであった。

 

 『異界の主』

 

 かつて『O-02-i23』*1より聞いた話では、決して目覚めさせてはならないという怪物であった。

 

 さらに、その目の前には、巨大な門が出現した。

 

 そして、その怪物は、明らかに目を覚まして確実にこちらを見つめていた。

 

 巨大な烏賊の形をした怪物は、ゆったりとした動きで体をこちらに向けると、他よりも長い2本の触手を振り上げ、こちらに向かってたたきつける。

 

「まずい、よけろ!」

 

 それぞれ別方向によけて体勢を立て直す。触手が床にたたきつけられたことによって、施設が大きく揺れる。

 

 そこですこし体がよろけそうになるが、何とか持ち堪える。

 

 そのまま攻撃に移ろうとしたその瞬間、管理人から通信が入った。

 

『今施設全体に4つの“門”が出現した、そちらにもあるだろう?』

 

「あぁ、確かにあるな。正直邪魔だ!」

 

 通信をしながら地面にたたきつけられたまま伸び切った触手を“転生”で切りつける。

 

 傷をつけることはできたが、さほど深くない。こいつ、かなり固いぞ!?

 

『それが無関係とは考えられない、そこにある“門”も破壊できないか?』

 

「そんなことを言われても…… おっと!?」

 

 2本の触手を“転生”で切り付けていると、悪寒がしたので後ろに飛び退く。すると先ほどまで俺がいたところを『異界の主』から放たれた水圧カッターが通り過ぎ、床にきれいな断面が刻まれた。

 

「くそっ、やるしかないのか……」

 

『とりあえずシロ、君なら動かない相手に強力なダメージを期待できる。できるか?』

 

「わかった」

 

「なら俺はリッチと一緒にやつの気を引けばいいんだな?」

 

『あっぁ、頼んだぞ』

 

「それはいいが、ほかはどうなっている?」

 

 そこで、一緒に『異界の主』に切りかかっていたリッチが口を開く。一応マオやメッケンナがいるから大丈夫だとは思うが、確かに不安である。

 

『そちらは大丈夫だ、福祉部門の“門”はメッケンナとマオ、ミラベルが、懲戒部門はパンドラとマキ、アセラが向かっている。ほかの職員も援護に向かっている』

 

「こっちに援護は?」

 

『さすがにそっちまでは難しい、ほかの“門”が鎮圧出来たらそちらに向かわせることができると思う』

 

「残りの一つはどうなっている?」

 

『それが、『O-02-i23』と『O-02-i24』*2、『O-02-i25』*3が代償無しでの協力を持ち掛けてきた。だからそちらは任せている』

 

「……そうか」

 

 まぁ、奴らにとっても『異界の主』は無視できない相手だ。手伝ってくれるのならば文句はない。

 

「ジョシュア、そっちにばっかり集中するな!」

 

「すまん!!」

 

 『異界の主』による攻撃を受けそうになりながら、何とか“転生”で攻撃を防ぐ。

 

 かなりの衝撃が腕に伝わってくるが、何とか耐える。だが何度も受けていい攻撃ではないな。

 

「シロ、そっちはどうなっている!?」

 

「リッチ、話しかけないで」

 

 『異界の主』の気を引き付けている間に、シロが“門”を破壊しようとする。しかしかなりの硬さなのかなかなか破壊することができないようだ。

 

「くそっ、このままだと……」

 

 『異界の主』が再び2本の触手を振り上げる。

 

 確かにその攻撃は強力だが、予備動作が大きければ隙も大きい。そのままリッチとともに『異界の主』の懐に潜り込む、さすがに強力な攻撃であろうとも、懐に入ってしまえば逃れることができる。

 

「よし、これで……」

 

「!? “門”が開く!!」

 

 その時、先ほどまで何の動きも見せなかった“門”が、徐々に開き始めた。

 

「くそっ、リッチ!!」

 

「わかった!!」

 

 緊急事態にリッチを向かわせる。

 

 『異界の主』のたたきつけが終わると同時に、リッチが“門”のところへと向かう。

 

 シロとリッチの二人で“門”を切りつけ破壊しようとするが、ついに門が完全に開いてしまう。

 

「なっ、なぜ中から『T-04-i57』*4が出てくるんだ!?」

 

『記録部門で『T-04-i57』が脱走しました。エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

『福祉部門で『O-03-i20』*5が脱走しました。。エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

『懲戒部門で『O-01-i37』*6が脱走しました。エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

『情報部門にて『正体不明の扉』が出現しました。エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

『中央第二にて『正体不明の扉』が出現しました。エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

『抽出部門にて『正体不明の扉』が出現しました。エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

『設計部門にて『正体不明の扉』が出現しました。エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

「くそっ、そういうことか!!」

 

 おそらくは一定時間が経過すると“門”からアブノーマリティーが脱走する。さらによくわからないものまで出現するようになるのか!

 

 まずい、このままでは確実に施設が壊滅する。もしも先ほど出てきた“扉”にも似たような能力が存在するなら、その時は施設全域を使った大運動会のはじまりだ。それだけは避けなくては!!

 

「くそっ、このままだと……」

 

「シロ、そっちに集中しろ! こいつくらいなら一瞬で片を付ける!」

 

「リッチ、頼んだ」

 

 『T-04-i57』の相手をリッチが引き受けてくれたので、このまま『異界の主』に攻撃を加える。

 

 『O-01-i37』の脱走により施設全域に音楽が流れる。彼女の旋律は俺にとっては影響はないが、ほかのやつらには有害だ。一刻も早く鎮圧しなくては……!!

 

「くそっ、ほかのところは大丈夫か!?」

 

『福祉部門は退避が完了した、そちらにいたメンバーは中央第二に出現した“扉”を鎮圧後懲戒部門の“門”へと向かわせる。現在攻撃対象のいなくなった『O-03-i20』が“門”に対して攻撃を加えている』

 

「くそっ、変な奴らが脱走する前に何とかしないとまずいぞ!!」

 

『懲戒部門では『O-01-i37』が“門”の鎮圧に協力してくれている。そのままともに鎮圧を続けている』

 

『教育部門は相変わらずだ、ほかの部門に出現した“扉”は他のメンバーを向かわせた。これ以上戦力の分散はできない!』

 

「わかった、なるべく早く頼むぞ!」

 

 『異界の主』の攻撃を避けながら、何とか反撃を加えていく。しかし相手はかなり硬く、あまりダメージを与えることができない。

 

 もしかしたら“門”を破壊出来たら攻撃が通りやすくなるのかもしれないが、とにかくにも“門”を破壊しないことにはどうしようもない。

 

「ジョシュア、大丈夫か!?」

 

「こっちは大丈夫、そっちは!?」

 

「こっちは『T-04-i57』を鎮圧した、あとは“門”を破壊するだけだ!」

 

『こちらでは中央第二の“扉”を破壊した! 戦力を懲戒部門に集中させる!』

 

「了解した!」

 

 『異界の主』を切りつけながら、現状を把握する。結局のところ俺にできるのはここで奴の気を引き付けることだけだ。

 

 『異界の主』による薙ぎ払いを“転生”で逸らしながらいなし、再び接近して“転生”で切り付ける。

 

 しかしやつもやられてばかりではいられないのか、残る8本の触手で周囲にたたきつけを行う。

 

 周囲に衝撃とともに泡が飛び出す。おそらくはあれも食らうとまずいものだろう、宙に浮く泡を避けながら再び接近して攻撃を加える。

 

 だが、やはりどうしても気を引く程度でしかない。今はこれで頑張るしかないようだ。

 

『朗報だ! 今懲戒部門の“門”が鎮圧完了した、ついでに福祉部門の“門”も『O-03-i20』の手によって破壊されている。今奴は設計部門に向かっている』

 

「はぁ!? 一体どんだけやばいんだよ魔王のやつは……」

 

 あの時戦った時は何とかなったが、それほどまでに強力だったとは。やっぱりあいつZAYINじゃないだろ……

 

『教育部門ももう少しだ、今パンドラをそっちに向かわせる。ほかのエージェントは『O-01-i37』の鎮圧ののち、残りの“門”と“扉”の鎮圧に向かわせる!』

 

「助かる!」

 

 どうやら門のうちの二つを破壊することに成功したようだ。このまま何とか風向きはこちらに向いたようだ。

 

「行くぞ!」

 

 『異界の主』による触手の攻撃を避けながら、その触手に“転生”を叩き込む。

 

 すると、先ほどまであれほど硬かった『異界の主』の肌がより深く切りつけることができた。

 

「よしっ!」

 

 やはり、“門”を破壊することにより『異界の主』の耐性が変化するようだ。

 

 このままいけば、何とか……

 

「なっ、まずい!!」

 

 シロとリッチが何とか“門”を破壊することに成功する。しかし、それと同時についに『異界の主』が貝の玉座から立ち上がった。

 

 そして、ついに立ち上がった『異界の主』はその口からものすごい勢いの水塊が吐き出される。その矛先は俺、ではなくシロとリッチであった。

 

「シロ、リッチ!」

 

「まずい、シロ!」

 

 その攻撃からシロを守るべく、リッチがシロを突き飛ばす。それと同時に水塊が着弾した。

 

「リッチ!!」

 

「ジョシュア、危ない!!」

 

 そこで気を取られていたのが悪かったのだ。『異界の主』による触手の薙ぎ払いが迫り、すぐに衝撃が俺を襲う。

 

 そのまま体を吹き飛ばされ、気が付けば壁にたたきつけられていた。

 

「ジョシュアァァァ!!」

 

 シロの悲痛な叫び声が随分と遠く聞こえる。そこで、深いところへと落ちそうになっていた意識をうまく引き起こすことができた。

 

「うっ、ぐっ……」

 

『情報部門で『O-05-i18』*7が脱走しました。エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

『中央第一にて、『正体不明の扉』が出現しました。エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

『福祉部門にて、『正体不明の扉』が出現しました。エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

『まずいことになった、現在懲戒部門のメンバーは『O-01-i37』と交戦中、そちらに向かっていたパンドラは抽出部門の“扉”を破壊して移動した『O-0-3i20』と福祉部門にて交戦中だ』

 

『頼む、どうにか持ち堪えてくれ!』

 

「あ、あぁ……」

 

 周囲を確認する。今シロが『異界の主』と交戦している。リッチは重傷を負いながらも、何とか立ち上がれるようだ。

 

 俺も傷は浅くない、どうにもまずい状態だ。増援も絶望的、ここで何とかするしかない。

 

『なんとか教育部門の“門”が鎮圧された、今『O-02-i24』を情報部門に向かわせている。そちらには『O-02-i13』と『O-02-i25』で援護できそうだ』

 

 その通信の直後に、俺の目の前に『O-02-i25』が現れる。どうやら俺を酷使するようだ、まぁシロが酷使されるより何倍もましだ。

 

「無駄口をたたくつもりはないよ、僕を盾にして奴をどうにかしてくれ!」

 

「もちろんだ!」

 

 痛む体をたたき起こし、『異界の主』に立ち向かう。すべての“門”を破壊したのだ、ここで決める!

 

「行くぞ!」

 

 『異界の主』に近づくと、奴はシロに攻撃している2本以外の触手をこちらに差し向けた。

 

 その攻撃を避けながら接近し、触手の一振りとともに現れる虹色の泡をなるべく避けながら攻撃を加えていく。

 

 そこで今までシロに向いていた『異界の主』の視線がこちらに移る。それと同時に2本の触手による薙ぎ払いがこちらに襲い掛かる。

 

「そう何度も食らうかよ!」

 

 触手を避けると同時に“転生”で切り付ける。どう考えてもさっきよりも柔らかい、これなら戦える!

 

「ジョシュア!」

 

「シロ、大丈夫か?」

 

「うん!」

 

 『異界の主』が口から水塊を吐き出す。それを避けると今度はよけた先に触手による叩きつけが待っていた。

 

「まずっ」

 

「俺を忘れるな!」

 

 そこをリッチが“超新星”による斬撃で触手を切り飛ばす。よかった、無事だったのか!

 

「リッチ!」

 

「俺を抜いてイチャイチャするな! 忘れられたかと思ったぞ!」

 

 リッチはそう軽口をたたいているが、どう見ても重症だ。何とか早く決着をつけて治療しなければ。

 

「リッチ、嫉妬は見苦しい」

 

「誰がジョシュアに嫉妬なんてするか!」

 

「えっ、私にじゃないの?」

 

「お前の中の俺はどうなってるんだ!?」

 

 いや、結構元気そうだ。とりあえずは大丈夫そうでよかった。

 

「とにかく集中するぞ!」

 

『中央第一で『O-04-i16』が脱走しました。エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

「くそっ、かなりまずくないか!?」

 

 また脱走のアナウンスが聞こえる。このままだと確実に手が足りなくなる。

 

 そこで、先ほどまで施設全域に響いていた『O-01-i37』の演奏がついに途切れる。ようやく『O-0-1i37』の鎮圧が完了したらしい。

 

『……すまない、ようやく『O-01-i37』の鎮圧が完了した』

 

「そうか、増援は?」

 

『ただ、そちらに増援は向かわせられない。いや、向かわせられる人材がいない』

 

「……そうか」

 

 もうこうなれば俺たちで『異界の主』を鎮圧するしかないようだ。

 

 だが、“門”の破壊により『異界の主』の動きは活発になっている。正直思う様にダメージを与えられていない。

 

「くそっ、このままだと……」

 

「うっ!」

 

「シロ!!」

 

 もう戦闘も随分長期化している。これほどの相手との長い戦いにより、ついに疲れが出たのかシロが『異界の主』の触手に吹き飛ばされる。

 

「ジョシュア、気を抜くな!」

 

「くそっ、わかっている!」

 

 『異界の主』の水圧カッターを横によけながら、何とかシロのほうに攻撃が行かないように気を付けて位置を変える。

 

 再び接近して攻撃を加えていくが、意外に動きがすばやくなかなか攻撃が当たらない。

 

「くそっ、手が足りない!」

 

 リッチが触手を“超新星”で切り飛ばしながら嘆く。

 

 しかしその顔に悲壮感はなく、諦めの色は全くない。

 

「なら俺たちだけでやるしかないだろ! 少し時間を稼いでくれ!」

 

「わかった!」

 

 あまりやりたくなかったが、ここで“転生”の力を少し引き出す。

 

 正直“墓標”よりも奴に近い“転生”でするのはかなり危険だ、だがここでやらなければどこでやるというのだ。

 

 リッチにおとりになってもらいながら、“転生”に意識を傾ける。

 

 一刻もはやく、奴を鎮圧するにはそれしかないのだ……

 

 

 

 

 

『どうした、俺が恋しくなったか?』

 

 そんなわけあるか、さっさと力をよこせ

 

『ふん、相変わらずつれない奴だ』

 

 今のんびりしている時間はないんだ!

 

 お前の力、使わせてもらうぞ!

 

『……くははっ』

 

『本当にお前は、欲深いな』

 

『自分の力が足りないから、他人の力に縋る』

 

『しかもそれを、寄こせというではないか』

 

『まっこと弱く、欲深い』

 

 否定はしない

 

 俺は弱い、一人じゃ何もできない

 

 だから仲間と一緒に戦ってきた

 

 その仲間が危険なんだ、だったらどんな手を使ってでもやるしかないだろうが!

 

 だからよこせ『外道魔業』!

 

 俺のために、仲間のために!

 

『……くはは』

 

『嫌だ、といっても無駄だろう』

 

『正直に言えば、こうして語らわずともお前なら力を引き出せるだろう?』

 

 ……別にいいだろう

 

『そうか、恥ずかしいか!』

 

 おい馬鹿黙れ!

 

『なんだかんだで俺にも情を感じているのか!』

 

 黙ってよこせよ本当に!

 

『まぁ、奴に好き勝手されるのも気に食わんしな。手を貸してやる』

 

 ……最初からそう言えよ。

 

『まぁ、俺もお前のことを気に入っている』

 

『結局お前は人すぎる』

 

『愚かで弱く、欲深い』

 

『そのくせ変な善意は残っている』

 

『人間は、嫌いじゃない』

 

 ……もういい、力をくれるならサッサとしてくれ

 

『まさか照れているのか? 面白いなお前』

 

 もういい、行くぞ!

 

『わかった、わかった』

 

『行くぞ、ジョシュア』

 

 任せろ

 

 

 

 

 

「待たせた、行くぞ!」

 

「ジョシュア!」

 

 全身から青白い炎が噴き出す。いやこれやばくないか? ちょっと力が強すぎない?

 

「さっさと決めるぞ!」

 

「あぁ、もちろんだ!」

 

 迫りくる『異界の主』の触手に“転生”を振るい、斬撃が触手を切り刻む。

 

 それと同時に身を焼くような痛みが体を走るが、さほど問題ない。

 

「このままいくぞ!」

 

「任せろ!」

 

 触手を切り裂きながら『異界の主』に接近する。

 

 『異界の主』は接近する此方に対して水塊を自身の足元にたたきつけ、津波となって襲い掛かる。

 

 それをリッチが“超新星”で引き裂いて道を作る。開かれた道を突き進み、『異界の主』の懐に潜り込む。

 

 そしてそのまま青白く燃え上がる“転生”を『異界の主』の瞳に突き立てる。『異界の主』は暴れるが、決して離れてなるものか。

 

「ジョシュア!!」

 

 迫る触手をリッチが切り裂く、切り裂かれた触手はすぐに再生するが、片っ端から切り裂いて反撃の手をつぶしていく。

 

「うおぉぉぉ!!!!」

 

 青白い炎を“転生”を通して突き刺した『異界の主』の目玉に流し込む。

 

 内部から体を焼かれた『異界の主』は、もだえ苦しみながら暴れまわる。

 

 十分に焼いてから離れ、『異界の主』の前に立つ。そのまま槍を構えて力を籠める、燃え上がる炎が“転生”の先の部分に集まっていく。

 

「これで、おわれぇぇぇ!!」

 

 そのまま全力で“転生”を投げ付け、『異界の主』の額に突き刺さる。

 

 さらに全力で『異界の主』に接近して、額に突き刺さる“転生”を勢いのまま踏みつける。

 

 突き刺さった“転生”から炎を流し込んで『異界の主』を焼き尽くす。

 

「ぐおぉぉぉ!!」

 

 “転生”を引き抜き、噴き出す炎の勢いのまま回転して再び『異界の主』に突き立てる。

 

 『異界の主』が咆哮をあげ、世界が軋む。徐々に施設も悲鳴を上げ始め、揺れが大きくなっていく。

 

 そして、ついに“転生”が『異界の主』を貫いた。

 

 

 

 

 

「……ようやく、終わったのか」

 

 全てが終わり、燃え上がる炎が収まりつつある。そのまま膝をつきそうになるが、何とかこらえる。

 

「よし、このまま…… ごふっ」

 

「ジョシュア!?」

 

 戦いが終わりリッチに声をかけようとすると、いきなり胸から腕が生えた。

 

 その腕は手に何かを握っていた、それは脈動し、赤い液体を垂れ流している。正直自分のそれを見るのは初めてだな……

 

「あの子には悪いが、人間は鏖殺するのが信条でな、許せ」

 

「『O-03-i20』、よくもぉぉぉ!!」

 

 リッチが『O-03-i20』に切りかかる、『O-03-i20』はそれに応戦して戦いが始まる。

 

 こんな状況にもかかわらず、なぜか冷静な自分がいる。正直長くはないが、まだ少しだけ生きられるという確信があった。

 

「シロ……」

 

 『O-03-i20』の断末魔が聞こえ、誰かが駆け寄ってくる足音が聞こえる。そして彼は俺を支えてくれると、彼女のところまで導いてくれた。

 

「……よかっ、た」

 

 シロの顔に触れると、まだ暖かい。それに息もしている、気絶しているだけのようだ。

 

 気が付けば、この場には俺とシロだけになっていた。そこで、最後に伝えなければならないことを思い出す。

 

 誰宛かも思い出せないが、回らない頭を頑張って回転させて言葉を紡ぐ。こうなってはもう未来はない、だから最後に伝えなければ……

 

「きこえて、いるか……?」

 

『……あぁ、聞こえる』

 

「も、う…… 世界が……」

 

『わかっている、奴を鎮圧しても、止まりそうにない』

 

「あぁ…… だ、から、頼みが……」

 

『大丈夫だ、落ち着いて話してくれ』

 

「リ、セットを、あん、た、なら、戻、れる、だろ……?」

 

『……どこで、それを』

 

『いや、そうだな。もしかしたら何とかなるかもしれない。時間もない、すぐに始める』

 

「あり、がと……」

 

『もうしゃべるな』

 

「……」

 

『最後くらいは、二人きりにしてやる。後悔の無い様にな』

 

「……ありがと」

 

 

 

 

 

「……アンジェラ、お願いがあるんだ」

 

「はい、それでは準備を……」

 

「いや、それとは別だ」

 

「……なんでしょうか?」

 

「あぁ、別に嫌ならいいんだ。その時は無視してくれ」

 

「だが、もし約束してくれるなら、どうか……」

 

 

 

 

 

 通信が切れる。どうやら気を使わせてしまったらしい。

 

「……シ、ロ」

 

 彼女のほほをなでる。最後に話そうにも、起こすことすら難しい。

 

 だが、彼女の目覚めを待つには時間が足りないだろう。だから、誰も聞いていなくても、言葉にしておきたい。どうか、俺の気持ちを伝えたい。

 

「お前は、ずっと無口で、何を、考えて、いるのか、わから、ないやつだっ、たよな……」

 

 あの頃を思い出す、初めは話しかけても返事どころか反応すらしてくれなかった。

 

「最、初は、仲よく、しようって思って、声を、かけたけど、だんだん、一緒にいるのが、楽しく、なっていったんだ」

 

 せっかくだから仲よくしたい、そんな思いでシロとかかわっていたら、いつの間にか、彼女といるのが当たり前になっていた。

 

「初め、て、お前の声を、聞いた、とき、驚いた、のと、一緒に、うれし、かった」

 

「ちゃん、と、俺の、こと、認識して、くれて、いたんだなって、ことと、俺のこと、心配して、くれた

、こと」

 

 あの時は、落ち込んでいた俺を、励ましてくれたんだよな。初めて声を聞いたときは、そんな声だったのかと正直びっくりした。

 

「それ、から、一緒に、食事、して、会話、して、遊んで、お前を、失いたく、ないと、思っ、たんだ」

 

 一緒に食事をしながら会話をして、一緒に遊んだりゲームしたり、仕事をしたり。その一つ一つの当たり前が、俺にとってはうれしかった。

 

「あぁ、恐れずに、もっと、早くに、伝え、たかった」

 

 俺にとって大切なものになったら、きっと俺は失うことに恐れてしまう。だからどうしても一歩踏み込むことができなかった。

 

 幸せになろうとすることが、今まで助けられなかった仲間たちに、なんだか申し訳なかった。

 

「お前が、どう、思って、いるのか、わから、ないけど、俺は……」

 

 だけど、本当は伝えたかった。こんな状況にならないといえないのは、我ながら情けないが、それでもそれを伝えずに終わってしまうのは嫌だった。

 

 本当はわかっていた、気が付いていた、でもどうしても一歩が踏み出せなかった、怖かった。

 

「お前の、こと、が、す、……」

 

 最後に俺の瞳に焼き付いた光景は、嬉しそうに微笑みながら涙を流す、シロの姿であった……

 

 

 

 

 

 

 

 世界は緩み、たわみ、巻き戻る。

 

 重力が消え失せて、体が水中に投げ出されたかのように、上下の感覚すらわからなくなる。

 

 世界は流れを逆らい、光をおいていく。

 

 瞳が熱く痛み、己の感覚がまだ生きていることを思い出す。

 

 歪みは正され、いや、正しき世界に巻き戻り、かの影響を最小限に抑える。

 

 特異点は正常に働き、目的の時間へと向かっていく。

 

 世界は加速する、ここにいるすべてを置き去りにして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、あの時とは反対ですね」

 

 それは眺める 倒れる二人を見て

 

 無感情に それを眺めて

 

 世界は巻き戻る

 

 残酷にも

 

 この時間の全てを置き去りに

*1
『老殻』

*2
『鋏殻』

*3
『宿殻』

*4
『蠱毒の災禍』

*5
『魔王シャイターン』

*6
『儚きハーモニクス』

*7
『魂の種』




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