【完結】誰も知らないアブノーマリティー   作:名無しの権兵衛

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03.ネムル、ソノマエ

 思い出す

 

 あの時の語らいを

 

 

 

「ジョシュア、ここに来る前に一人で掃除屋を倒したって本当か?」

 

「……いやいや、そんなことできるわけないでしょうが」

 

 最近恒例となってきた管理人との談笑の中で、突然そんな話が飛び込んできた。

 

 いやいや、何言ってるんだこの人は?

 

 あの誰もが恐れる掃除屋を一人で倒せるわけがないだろう?

 

「そもそも、なんでここに来る前の俺のことをあんたが知っているんだ?」

 

「あぁ、とある人から聞いたんだ」

 

「いやここに知り合いは…… あっ、わかったもう言わなくていい」

 

 あの病んホモおじさん俺の個人情報流しやがったな! まぁ別にばれて困るようなことは…… いや、藪蛇になりそう。

 

「それじゃあなんでそんな話になっているんだい? さすがに火のないところに煙は立たないだろう?」

 

「いや、別に……」

 

 思わず口をつぐむが管理人がこちらに期待のまなざしを向けてくる。なんとか無言で貫こうと思ったが、ついにこの空気に耐え切れず話を始めることとなった。

 

「あれは俺がへまして掃除屋に追いかけられたところを必死に逃げ回っていただけなんだ」

 

「なるほど、彼らから逃げ切ることができたから、掃除屋を倒したなんて話になったってことか」

 

「そうそう、たまたまはぐれた一人を眠らせたくらいで大げさだよな」

 

「まったく本当だな!」

 

「「ははははっ!!」」

 

「……うん?」

 

 さて、今のうちに別の話題に切り替えておこうかな。

 

「それで、管理人は俺以外のやつの話も聞いてきたのか?」

 

「えっ、確かに話は聞いたけど、それがどうしたんだい?」

 

「いや、なんか面白い話はないかなって」

 

 正直過去の話はあまり興味はないが、何か話のタネになるものがあればいいかなくらいの考えだ。

 

 しいて言うならパンドラ当たりの話は楽しそうだ。

 

「そうだな、マオが孤児たちを集めて組織を作っていたからロリコン、ショタコン扱いされていたこととか衝撃的だったな」

 

「ふふっ、なんだそれ」

 

「まぁ、そこが壊滅したからここに来たらしいけどね」

 

「……そうか」

 

 いや、笑える話をくれよ。いくらよくあることでも、重すぎて全然笑えねぇって。

 

「サラはここに来るまではそこそこ裕福な家庭で普通に過ごしていたらしいし、メッケンナやミラベルたちはまぁよくある不幸って感じだね」

 

「ルビーはどっかでお店を開いていたって聞いたな、アセラは…… 面白い話じゃないな」

 

「リッチとかシロはどんな感じなんだ?」

 

「リッチはなぁ、親が翼に目をつけられたって話は聞いたが、詳しくはなぁ」

 

「シロに関しては、ホクマーもよくわかっていないらしい」

 

「よくわかっていない?」

 

「あぁ」

 

 シロの出自が不明? 記録部門をつかさどるホクマーにもわからないなんてあるのか? いやそもそもシロには不思議な力もあったらしいし、そこも関係しているのだろうか?

 

 ……というか、いま情報の出自を明かしたなこいつ。

 

「そういえば、意外なことにパンドラは23区出身らしいよ」

 

「あぁ、確か料理のおいしいってところだよな? 一回でいいから行ってみたかったんだけどなぁ」

 

「……本当にその認識なのか?」

 

「えっ、何かおかしかったか?」

 

「ジョシュア、君外でどうやって生きてきたの?」

 

「あー、基本ひとりでだな」

 

 あの時は本当に大変だった。一人だと大体襲われるから逃げ足だけはよくなっていったからな、むしろ良く今日まで生きてこれたよ。

 

「それだと23区に関して知らないのも無理ないのかもしれないけど、本当に一人で生きてきたの? あの路地裏で?」

 

「いや、さすがにずっとそうだったわけじゃないぞ? 最初は親代わりのじいさんと一緒に暮らしてたんだけど死んじまったんだよなぁ、それからは基本ひとりだ」

 

 あの時は最悪だった。俺に恨みを抱いた誰かが殺人組織に依頼を出してわざわざじいさんを……

 

 はぁ、あまり思い出して気分がいいものでもないな。

 

「……路地裏って、一人で生きたら真っ先に殺されるって聞いたけど?」

 

「あぁ、だから逃げ足だけは自信あるぞ」

 

「そういう話なのか……?」

 

「そういう話だよ、それでパンドラがどうしたんだ?」

 

「ええっと、意外にも料理ができるらしくてな」

 

「あぁ、そういえば何回か料理を出してきたことがあったな。結局食えていないけど」

 

 そういうことなら一回くらい食べてみたいな。今度部屋に行ったときにでも頼んでみようかな。

 

「それで、あの性格で長女で弟や妹たちの面倒を見ていたらしいんだ」

 

「いやいや、あいつは面倒みられる側だろう」

 

 それにしてもあのパンドラが長女とか、あの性格なら一人っ子か末っ子だろう。いや、そういう枠に当てはまる存在ではないか。

 

「それがな、ホクマーの評価がかなり高くて最初驚いたよ」

 

「えっ、嘘だろ!?」

 

 あいつの評価が高いとか一体どういうことだよ!? ホクマーもついに老いたか……

 

「いったいどういう評価だったんだよ……」

 

「ええっとなぁ……」

 

 

 

『それで、次はだれの話を聞きたいのですか?』

 

『そうだな、パンドラはどうだったんだ?』

 

『はて、パンドラですか?』

 

『あぁ、ちょっと気になってな』

 

『まぁいいですが…… 彼女は非常に勤勉でした』

 

『早くに父親を失い、働きすぎて体調を崩した母と幼い弟たちの面倒を見るためにこの会社に来ました』

 

『彼女はその面倒見の良さをこの会社でも存分に発揮してくれました』

 

『そんな彼女の家族がどうなったかというと、もう言わなくてもわかりますよね?』

 

『彼女がここに来てからすでに10年、人の身には長すぎる』

 

『……そうか、ありがとう』

 

『いえいえ、それにしても彼女の話を聞きたがるとは意外でした』

 

『うん?』

 

『いえ、なんでもありませんよ』

 

 

 

「……って感じだったよ」

 

「あいつ節穴だったのか」

 

 パンドラの面倒見の良さとは…… むしろ甘えてくるようなやつなのに。

 

「……おっと、そろそろ時間だな」

 

「あぁ、もう人が来そうだな」

 

「それではまた」

 

「あぁ、また」

 

 さすがにそろそろ朝が早い奴も来るだろう。管理人はさっさと準備を終えると、流れるように食堂から出ていった。

 

 

 さて、それじゃあ俺も食事にするかな。

 

 今日食べる食べ物を考えながら、しばらくしてから食堂にやってきたメッケンナたちと一緒に食事を買いに行くのだった。

 

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