思い出す
心癒える安らぎを
「さて、今日も一日頑張るか!」
「?」
今日の仕事の始まりは『T-01-i12』*1、まずはここで存分に癒されてから仕事に励むとしよう。
正直ここくらいしか安らげるところがないからな。 ……いや、『O-03-i07』*2もかな。
『T-0-1-i12』の頭を撫でながら考え事をする。そうしている間にも『T-01-i12』はこちらにすり寄ってくる、本当に癒しだ。
「さて、それじゃあもう行くよ。またな」
『T-01-i12』に十分癒されて、収容室から出ていく。彼女も満足したのか笑顔で手を振りながら見送ってくれた。
「今日の作業は…… なんか面倒だな」
今日の予定は『O-01-i43』*3、『O-01-i40』*4、『O-01-i41』*5、『O-01-i42』*6、『T-01-i21』*7、『F-01-i26』*8、『T-05-i11』*9、『O-01-i37』*10…… なんか作為的なものを感じる、おかしくない?
「というか、この量を一日でやるのか……」
さっきの『T-01-i12』を合わせて9体、そうでなくても8体か。しかもALEPH2体のおまけ付き、相当気を付けないといけないな。
「じゃあ、今日も頑張って生き残るか」
次の収容室に向かって歩き出す。とりあえず懲戒部門からかな。
「よっ、久しぶり!」
収容室の中に入ると、少し背の高い女性が立っていた。
玄い着物を身にまとい、甲羅のようなものを背中に背負う彼女は、姿勢正しく背筋をピンと伸ばしている。
玄い髪から伸びる二本の白い髪の束は大蛇を思わせ、爬虫類のような目の眼光は鋭く冷たい印象を受けるが、よく見れば怯えが見える。
そして顔の大半は白い鱗のようなものに覆われており、口元を見られたくないのかとっさに隠していた。
『O-01-i43』、どこか亀を思わせる彼女は、入ってきたのが俺であると理解すると警戒を解いてこちらを出迎えてくれた。
「さて、それじゃあ今日もお話でもするとするか」
こちらの言葉はちゃんと通じているようで、嬉しそうに何度もうなずいた。
「そうだな、それじゃあ今回は……」
話始めると、彼女は目を輝かせながら耳を傾ける。
ここまで好意的だとこちらもうれしくなってくるが、さすがにアブノーマリティー相手に心を許すわけにはいかない。
現にこの前収容室に監禁されそうになったしな。
それに彼女たち姉妹? はほとんどがこちらに好意的だが、全員厄介な能力を持っているので注意が必要だ。この子はまだましなほうではあるけどな。
「それでな、その時彼は言ったんだ……」
話をしているうちに、どんどん彼女の頭がこちらに近づいてくる。
なんとなくそれを見ているうちに、思わず頭を撫でてしまった。
すると彼女は一瞬驚いたような目でこちらを見てきた。まずかったかと思ったが、特に抵抗する様子もないので再び頭をなでてやると、うれしいのか自分から頭をこすりつけてきた。
「さて、それじゃあそろそろ終わりにするか」
頭を撫で続け、『O-01-i43』がうとうとしてきたころに時間が来たので、そろそろお開きにする。
頭から手を離すと、彼女は少し悲しそうな顔をしたが、自分がしていたことを思い出したのか顔を赤面させていた。かわいい。
「それじゃあまたな」
「マタネ」
手を振る彼女に見送られ、収容室から退出する。さて、今日は作業量が多いから急がなくては……
「今日も元気かー?」
次にやってきたのは、『O-01-i40』の収容室だ。収容室の中はほんのり暖かく、春の陽気を感じる。
そんな収容室の中心を陣取っているのは、大きな卵の殻だ。
中央には亀裂が入っており、そこから何者かがこちらを覗いて警戒している。そして入ってきたのが俺であるとわかると殻を勢いよく持ち上げて顔を出してきた。
それは青い髪をして、頭から珊瑚のような角を生やした少女であった。
元気な彼女の頭がちょうどいいところにあったので頭をなでてやると、くすぐったそうにしながらも喜んでいた。
「うん? あぁ、それじゃあ始めるか」
しばらくすると彼女は俺の手から逃れようとし始め、持っていた卵の殻をたたき始めた。
それをいつもの合図だと理解して、頭から手を放してやると彼女は再び殻の中に閉じこもった。
「よし、行くぞ!」
いつものように、殻にノックをする。はじめは軽く、そして徐々に激しく。
すると内側からもノックが帰ってくる。こちらがすれば同じように、強くなればなるほど彼女も強く、リズミカルにすれば彼女もリズムに乗って。
「ふぅ、そろそろ終わりにするか」
しばらくの間一緒に殻をたたいていたが、もう時間が過ぎてしまった。
最後に終わりのノックをすると、彼女は殻から顔を出してきた。
「悪いな、今度もっと一杯やろうな」
もっと遊びたかったようだが、残念ながら今日は仕事が立て込んでいる。それは彼女もわかっているのかちょっとすねながらも手を振ってくれた。
「また今度な」
それに対して俺も手を振る。今度はもっと一緒に遊んでやろう。
「……ふぅ」
収容室から出て、体にまとわりつく死の匂いを手で払う。
彼女自身は悪気がないのだろうが、やっぱりこの匂いにはなれない。どれほどおとなしく見えるアブノーマリティーでも、やっぱり安全な存在はほとんどいないのだろう……
「さーて、調子はどうだ?」
今俺はテンションが上がっている。なぜならモフモフがあるからだ。
次に来たのは『O-01-i41』の収容室だ。なんだか蒸し暑い。
収容室の中にいるのは、朱い瞳に朱い髪の少女、少し露出の多い着物に身を纏い、情熱的な舞を踊り続ける。
そして何よりもその背中から生えている朱き翼! そのモフモフのなんていい触り心地。
たまにこの収容室に来ては堪能して女性陣から白い眼を向けられるが、そんなことはどうでもよくなるくらい気持ちよかった……
「……」
だから、彼女からジト目で見られながら距離を取られていても傷ついたりしないぞ! ……本当だぞ?
「なぁ『O-01-i41』、そんなに警戒しなくてもいいんじゃないか?」
そういって敵意がないことを示すために両手をフリーにして挙げたが、余計に警戒したか翼を胸に抱いて一歩下がる。
「いや、前は悪かったって。確かにちょっとやりすぎたかもしれない」
「だから俺もお前が嫌がるようなことはしない、絶対だ」
こういう時はとにかく真摯に対応したほうがいい。すると彼女にこちらの思いが伝わったのか少し警戒心が緩んだ。
「そうだ、今日はお前の踊りを見せてくれよ」
そういってやると、彼女は一気に上機嫌になって踊り始めた。ちょろいな。
溢れるような情熱を踊りで表現し、室内の温度まで上がってきている気がする。というかおそらくは実際に上がっている、アブノーマリティーとはそういうものだろう。
「いやぁ、さすがだな!」
『O-01-i41』の踊りは素人の俺でもわかるくらい上手であった。
「おっと、危ない」
そんな彼女も踊りすぎたのか少しふらついたので、とっさに抱きかかえる。すると彼女は顔を真っ赤にさせて硬直してしまった。
「おいおい、大丈夫か?」
額に手をやって熱を測っても意味がないだろうし、とりあえず頭を撫でてやる。すると何か抗議をしようとしていた彼女は手を止めて、目を閉じて撫でられるのを許容した。
しばらくなでてやると、さっきまでつんつんしていたのにだんだん目元がトロンとしてきた。このままいけばこっそりモフモフしても大丈夫かもしれないが、さすがに時間がないからやめておく。
「さて、それじゃあ今日はもう行くよ、体に気をつけろよ」
そういって彼女をはなして収容室から退出する。
『O-01-i41』は少し呆然としている様子だったが、こちらに手を振って見送ってくれた。
次に会うときには機嫌が直ってくれているといいのだが……
「それにしても、もしかしたら俺には撫でポの才能があるのかもしれない……」
なんだかんだで今までのアブノーマリティーたちも喜んでくれたし、そのおかげで好感度も上がっているような気もする。……それはそれでまずい気がするが。
「いや待てよ、それならもしかしたら……」
次に向かうところは『O-01-i42』の収容室だ。もしかしたら彼女も俺の力があれば…… ぐへへっ
「そうと決まれば善は急げだ!」
そうだ、もしも頭を撫でて許されるなら、彼女も許してくれるはずだ。
以前は些細なすれ違いで収容室を出禁になってしまったが、今回は大丈夫だ。なんせ俺は技術を身に着けたのだから。
それにあれほどすばらしいモフモフがありながらそれをモフれないなんて拷問にも等しい。モフモフは非常に優れたコミュニケーションでありモフる側モフられる側両方が幸せになれる素晴らしい行いなのであるモフれば非常に柔らかくそのふかふか具合に世界の真理を垣間見るしモフられる側も天にも昇る快楽を得ることができるそもそもモフモフとは有史以前からある由緒正しい精神安定法であり、神事にも使われる神聖な儀式でもあるのだそれを不健全だのなんだの言って禁止しようとしているほうが悪いのだ。
こちらもモフらねば、無作法というものよ。
「よし、待ってろよ~!」
「に゛ゃ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛~!!!!」
出禁になった。