※原作のアブノーマリティーたちが出ます。
「おっ、琥珀の黎明って結構いけるな」
「……えっ、今なんて言いましたか?」
このろくでもない地下施設、Lobotomy Corporation
そんな地獄のいつもの出来事の中で
「いやいや、こいつ意外とおいしいんだって」
「何言ってるんですか! ぺっ、してください!」
今倒したばかりの怪物を食べた彼は、満面の笑みでそういった
「ほら、お前も食べてみろって!」
「ぎゃぁぁぁぁ!!」
これは、私と彼の、ささやかな楽しみのひとときだ
Menu 1 前菜 ~小さなソテー~
「おーい後輩、新しい仕事だぞー!」
「なんですか先輩……」
今日もまた、頭のおかしい先輩がやって来た。
白いスーツを身に纏い、真っ黒な音符の形をした大鎌を背負った彼は、笑顔で手を振りながらこちらに向かってきます。
人懐っこい笑顔は人によっては見惚れるかもしれませんが、私にとっては悪魔の笑みにしか見えなかった。
なぜなら、彼は私にとっては天敵と言える存在だからです。
「おいおい、そんな嫌そうな顔するなって」
「嫌そうなじゃなくて、実際嫌なんですよ!」
彼はいつも突拍子もないことをしては回りを困らせ、自分のやりたいことをやっている。非常に厄介な人物だったりする。
そのくせ被害を出すわけでもなく、ほとんど自分で解決したりするので最後には皆が笑顔になっていることが多い。そういった意味でも厄介な人物だ。
そんな不思議な彼だが、私にとっては優しくない。
確かに自分で解決するけど、毎回巻き込まれるのは私だ。
魔法少女パンツ強奪事件の時だってそうだし、色々やっていることがひどすぎる。できれば巻き込まれたくないのにわざわざこっちにやってきて私を巻き込んでくる。こっちからしたらたまったもんじゃない。
「後輩よ、さすがに俺でもそれは傷つくぞ」
「いやいや、今までの自分の行いを思い返してみてください。そうすれば…… って、先輩!!」
およよよと傷ついたふりをする面倒な先輩を突き放しつつ話していると、先輩の背後から恐ろしい怪物が忍び寄ってきていた。
人型のそれは、ほとんど裸のような格好で拘束されており、うめき声をあげながら芋虫のように這いずりこちらに向かってきている。
確かにそれは人と同じ形をしている。ただ一つ、その頭部を除いては。
その頭部は、鉄の塊だった。
鉄の塊をかぶっているのではない。頭の上にのせているのでもない。首の部分から鉄の塊が生えている、いや、頭部が鉄の塊に置き換わっているのだ。
それは我々職員を憎む狂気の殺人者、我々を憎み、殺戮することを願う哀れな男。
『T-01-54』、またの名を『捨てられた殺人者』。
その怪物を、我々は幻想体、『アブノーマリティー』と呼ぶ。
そしてその怪物は異様に肥大化した鉄の塊の頭部を振り上げると、その頭部を先輩に勢いよくたたきつけようと……
「うん、なんだ?」
して、先輩の振り向きざまの一撃でそれは一刀両断された。
「……はぁ!?」
「なんだ、一般人じゃないか」
『捨てられた殺人者』は切り裂かれ、その鉄の塊の頭部がころころと床を転がる。その断面は、精神攻撃系の“ダ・カーポ”で切られたとは思えないほどなめらかなものだった。
こともなさげにそういっている彼ですが、やっていることの異様さに気が付いているのだろうか?
確かに『捨てられた殺人者』はアブノーマリティーの中では“TETH”という低い危険度であり脱走するアブノーマリティーの中では弱いほうだが、それでも一撃で倒すとなるとかなり厳しい。というかおかしい。
「さて、それじゃあさっきの話の続きなんだがな……」
「いやいやいや、今さっき一撃で倒しませんでしたか!?」
ふるった“ダ・カーポ”を肩に担ぎ、何事もなかったかのようにこちらに振り向いて語り掛けてきた。
だがさすがに見逃すことはできない。確かに先輩が強いことは知っていましたが、ここまで強いとは思いも知れませんでした。
「いやいや、そんなことどうでもいいんだよ。それより聞いてくれよ」
「……わかりました、それで話って何ですか?」
正直気になるが、先輩はこうなるということを聞かないので仕方がない。
それにしても、話とは何だろうか? 正直先輩がこういった話を持ってくると嫌な予感しかしない。
しかしここで逃げてしまうと、手綱を握れる人がいなくなって結果的にやばいことになることだろう。今までの経験的に確実にそうなる、私の直感がそういっている。
「おう、この前琥珀の黎明を食っただろう? あれ意外とうまかったじゃないか」
「……えぇ、確かにそうでしたね。不本意ですけど」
本当にあれは驚きました。琥珀の黎明がブドウ味であったことに対してもそうでしたが、無理やり完全にゲテモノな見た目のものを食べさせられたことに関してもですが。
「そこでな、アブノーマリティーも食べれるんじゃないかって思ったんだ」
「……はい?」
「ところで話は変わるけど、お前って料理得意だよな?」
「ま、まさか……」
非常に嫌な予感がする。正直耳を塞ぎたいが、それをすれば余計に面倒なことになるのは目に見えている。
ならばせめて心の準備をさせて欲しいが、無情にも先輩の口が開く。
「頼むからアブノーマリティー調理してくれないか?」
「絶っっっ対、嫌です!!!!」
この人ヤバイです頭おかしいです。
普通に考えてあんなヤバイやつら食べようと思うなんておかしいです。
だってあいつら人を殺しますよ? 食べますよ?
23区の人間じゃないんですから、そんなもの食べようとしないでください!
「そもそも、アブノーマリティーに対する勝手な実験は禁止されています。いくら食い意地張ってるからってそんなことしたら……」
「あぁ、それなら大丈夫。ちゃんと許可とったから」
「えぇ!?」
『おっ。いたいたアンジェラ!』
『……またあなたですか、今度は一体何をやらかしたんですか?』
『いやまだなにもしてないって! 今回は実験の申請だよ、ほら』
『全く、たかがエージェントの貴方が実験なんて……』
『いやいや、ちゃんとした実験だって管理人のお墨付きだから。他の研究者達にも見てもらったし』
『はぁ、確かに必要書類は全てありますね。管理人への根回しも済んでいるようですし、拒否するわけにはいきませんね』
『意外と素直だな』
『……それで、なんの実験ですか?』
『あぁ、アブノーマリティーを調理して食べる実験だな』
『わかりました、それでは許可します。 ……えっ?』
『それじゃあ言質とったからもういくわ、またな!』
「……うわぁ」
この人本気でなに考えているんだろうか?
実験の許可をとった時の話を聞いて、もう思考を放棄したくなりました。
誰か私の代わりをしてくれませんか?
ダメですか? そっか……
「そういうわけでよろしく頼むぞ、後輩」
「出来るかー!!」
「えー、でも既に実験メンバーに入ってるからなぁ……」
「この外道!!」
この人酷すぎる! 私が断るとわかっていて先回りしてた!
実験のメンバーに入っていたら逃げられないじゃないですか、ちくしょう……
「やぁ二人とも、今日も仲がいいね」
「うわーん、ペペロンチーノ政宗さぁん! 聞いてくださいよぉ!」
「はいはい」
私はペペロンチーノ政宗さんにこれまでのいきさつをすべて伝えました。
彼の名前はペペロンチーノ政宗さん。黒い髪と羊のような角、それと顔に張り付けられた恐ろしい“笑顔”のせいでよく勘違いされますが、本当はとっても優しい人なんです。私のオアシス……
「あんまり後輩をいじめちゃダメだよ?」
「別にそんなつもりはないんだけどな……」
そういいながら先輩は、頭をかいて困ったような表情をする。全く、もっといってやったください!
「それで、これからどうするんですか?」
「あぁ、取り敢えず食べれそうなやつをとってこようと思ってな」
「材料集めですか? お供しますよ」
「助かるよ、ありがとう」
そういうと二人はさっさと歩いたいきました。
……いやいやいや!
「ちょっと待ってくださいよ! 何で私を置いていこうとするんですか!?」
「えっ、ついてくるのか?」
「当たり前ですよ、誰が料理すると思っているんですか!?」
全く、流石に自分が作るとなると、変なものを持ってこられると困ります。それにいくらペペロンチーノ政宗さんがいるとはいえ、私がストッパーをしないと……
「確かにそうだな、ついでだしどんな料理が行けそうか見てもらおうかな」
「なにも考えていなかったんだね……」
ペペロンチーノ政宗さんの呆れた声が聞こえてきます。全く同感です!
「にゃあぁぁぁん!!」
「よし、それじゃあ早速探しにいくぞ!」
「いやいや、今明らかに悲鳴が聞こえましたよ!?」
「気にしなくても良いよ、いつものことだから」
部門にはいると共に叫び声が聞こえましたが、二人とも無反応です。さすがに達観しすぎではないでしょうか?
「あれ、あんまりこっちには来てないのか?」
「そもそも他の部門で作業する方が稀ですよ」
食材集めにきた場所は、中央本部でした。確かなここは他部門へのアクセスも良いですが、そもそもここに目的の食用に出来るアブノーマリティー何ていたでしょうか?
一応どこに何が収容されているかは知っているのですが、ここには危険なアブノーマリティーばかりが収容されていたと認識していますが……
「よーし、それじゃあ行ってくる」
「うん、頑張ってきてね」
軽い調子で収容室に入っていく先輩に、ペペロンチーノ政宗さんが応援の言葉をかける。すると先輩は振り返って笑顔で親指をたてて返事をした。
『どっせーい!』
『あなたも祝福が必よ……』
『あーらよっと』
『……うでしょぎゃあぁぁぁ!!!』
「おーい、良い感じの葉ものと果物とってきたぞー!」
先輩は笑顔で手に持った青々とした葉っぱと果物を見せびらかしながら走ってきた。
……私はなにも知らない、聞いていない。
「さて、キノコに妖精も取ったし、そろそろいいんじゃねぇか?」
「ちゃんと食用出来そうなのを選んでくださいよ先輩……」
その後先輩が選んできたのは、どう考えても食用に出来なさそう、というかしたらダメそうなアブノーマリティーばっかりであった。
途中で『溶ける愛』のところに行ったときなんかは、本気で正気を疑いました。何とかペペロンチーノ政宗先輩と一緒に止めることはできましたが。
「いやいや、とりあえずやばそうなのが食べれたら、他のも大丈夫だろう?」
「まぁその通りですけど…… えっ?」
「どうした?」
「いや、まさかまさかと思うんですけど…… もしかして、今後もやるつもりですか?」
「はっはっはっ、まさかそんな……」
あぁよかった、さすがに先輩でもそんなやばいわけがなかったですね。そうだそうだ、さっきのは私の聞き間違いだったんだ、そうじゃなかったら勘違いだ。
「当たり前のことを言うなよ、後輩」
「いやぁぁぁぁ!!」
やっぱりそうですよね! 私知ってました先輩がそういう人だって!!
何考えてるんですか本当にこの人は!? まじで頭に脳みそが詰まっているんですかね!?
人間なんでしょうか、実は私たちに紛れたアブノーマリティーだったりしませんかね!?
「まったく、さすがにその冗談は笑えないよ?」
「えっ、冗談じゃないけど」
「……あぁ、僕も協力するんじゃなかった」
あのペペロンチーノ政宗さんでもため息ついてあきれるレベル、まじでこの人どうにかしないと駄目なレベルだ……
「まったく、さすがに騒がしい。仕事中だぞ?」
「あ゛ぁ゛、む゛し゛ょ゛う゛さ゛え゛も゛ん゛ん゛ん゛ん゛」
「うおっ、抱き着くな」
そんなところに無情左衛門さんがやってきてくれました。スキンヘッドに傷だらけの顔で恐ろしいし態度も怖いですが、なんだかんだで女の子には甘い人です。なんというかお父さん味を感じます。
それに、この化け物じみた人ならきっとこの化け物をどうにかしてくれるはずです! 化け物には化け物をぶつけるんですよ!
「やめろ、鼻水が付くっ」
「た゛す゛け゛て゛く゛だ゛さ゛い゛よ゛ぉ゛!」
「いや、何を…… いや、言わなくていい、大体わかった」
そういうと無情左衛門さんはじりじりと私から、正確には先輩から離れようとしていた。なんでぇ、私を助けてくださいよぉ。
「やめろっ、俺を巻き込むなっ」
「い゛や゛た゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛」
「その、悪かったって、そこまで嫌がるなんて……」
「ぐすっ、本当ですよ、一回だけでもすこぶる嫌だったんですから……」
「まぁ、決まってることは覆せないけど、結果によってはもうやらなくてもいいからさ!」
「……本当ですか?」
「まぁ、そうだな」
「……それなら、そうなることを祈ります」
「……うーん、出来れば、いや何でもない」
何とか希望が持てました、それにしても一回で終わるかわからないですけど。
先輩が何か言いよどんでいますけど、別に気にしなくでもいいでしょう。
「もう行っていいか?」
「うん、もう大丈夫だよ。ありがとう無情左衛門君」
「政宗、お前も大変だな」
「あはは、もう慣れたから」
「そうか」
そういうと私が離れてしまったせいで無情左衛門さんは逃げて行ってしまいました。
あぁ、イケニエが減った……
「さて、一応聞くけどこれで何か作れそうか?」
「えぇっと、まぁ一応できそうなのはなくもないですね」
「本当か!?」
素材からして、キノコをメインにしたほうがいい気がします。とりあえずアブノーマリティーだけって縛りもないので、幅は広がりますが、キノコの無害化から考えないといけませんね。
しかしそのためにはかなり危険を伴います。そうなると必要なのは……
「ただ、出来れば条件があります」
「あぁ、出来る限りのことはするさ。なんだ?」
「はい、今からいうツール型アブノーマリティーの許可を……」
作るからには、全力でやらせていただきます!
「ふぅ、なかなかにきついですね……」
さすがに危険なアブノーマリティーです。完全な無害化となるとかなりの労力を費やすことになりました。
普通の料理もダメ、特異点を利用した料理器具でも十分でない。
とりあえず普通の方法では確実に無理なので、別の方法をとっています。
「いやぁ、それにしてもやっぱり難しいですねぇ……」
青色に怪しく光るキノコを前に、随分と苦戦する。少なくともここでなければ三回は死んでいたかもしれません。
もうこの場所を使える時間も少なくありません、なるべく早く無害化しなければ……
「うーん、こうなったらこうするしか……」
目には目を、アブノーマリティーにはアブノーマリティーを。
E.G.O.“名誉の羽根”
凍った体も心も溶かしきるこのE.G.O.なら、もしかしたらこのアブノーマリティーも何とか出来るかもしれません。
「やーきまーしょーやきましょおー」
調理器具を用いても意味はなさそうなので、“名誉の羽根”で直接焼いてみます。
これで無理なら何をやっても無理でしょう。こうして半分やけくそで行った調理の後、ついに制限時間が来たため先輩の元へと向かうことになりました。
最期の最期に(誤字に非ず)ぶっつけ本番となりましたが、こうなっては仕方ありません。どうせ何があっても自己責任です。私は完成した料理を手に持ち、先輩の待つ実験室へと向かっていきます。
「先輩、お待たせしました…… ってあれ? 無情左衛門さんどうしたんですか?」
「いや、気にするな」
実験室に入ると、そこには椅子に座りスプーンとフォークを握りしめて紙エプロンを付けたワクワクを隠し切れない先輩と、なぜか完全武装して壁に寄りかかっている無情左衛門さんがいました。
……正直その光景のアンバランスさに頭痛がしてきました。先輩のことなので考えても仕方がないのかもしれませんが。
「よっ、待ちくたびれたぜ後輩。それが今回の料理か?」
「えぇ、そうですよ。先輩が望んだゲテモノ料理です、しかも超弩級の」
「何言ってんだよ、お前の料理がまずいわけないだろう? 正直お前の料理をめちゃくちゃ楽しみにしていたんだよ」
「そうですか、もちろん私も味には自信があります。何度も試しましたからね。まぁ、結局最後まで安全性を確保することはできませんでしたけどね」
「それはこれからわかることだろ? って、え? まさか味見したのか?」
「当たり前ですよ! 味見もせずに料理を出せるわけないじゃないですか!!」
人に料理を作れと言っておいてなんですかその言い草は!?
これでもここに来る前は料理人の端くれだったのです。味見もせずに人様に料理を出せるわけがないでしょう!! ……まぁ、そのせいで何度も死にかけたんですけどね。
「悪かったって、そう怒るなよ。それにしても二つも用意してくれるなんて、なかなか気合入ってるな?」
「はぁ、何言ってるんですか?」
「えっ?」
私の答えになぜか素っ頓狂な声を上げる先輩。まったく、こんな短時間で二つも料理を作れるわけがないじゃないですか。
「じゃあ、そのもう一つの皿はなんだよ?」
「これは私の分です、先輩の分じゃありません」
そう告げると、先輩はなぜか信じられないような表情をしていました。いやいや、自分の行動を思い返してからその反応をしてくださいよ。
「いやいやいや、死ぬかもしれないんだぞ!?」
「理解してますよ、だからこそ一緒に食べるんです。責任は一緒に取りますよ」
「ちょっと待ってこれは予想外だ…… 無情左衛門!!」
「いや、こいつはこうなったら譲らないだろう? ちょっと待ってろ」
先輩は無情左衛門さんに助けを求めましたが、残念ながら空振りです。日ごろの行いのせいですね。
「待たせたな、もう一人連れてきた」
「えっ、えっ、いったいどうしたんですか? なんで私はここに連れてこられたんですか!?」
無情左衛門さんが部屋から出て行くと、物の数秒で帰ってきました。
その手には、引きずられるように贄贄さんが連れてこられていました。おそらく偶然そこを通りかかっていたのでしょう、彼女はいつも貧乏くじを引かされているので親近感がわきます。
「ことが起きれば嫌でもわかる」
「結局何も答えてくれないということですねぇ」
がっくりとうなだれる贄贄さんは、諦めたのかのっそりと壁にもたれるように立ち上がりました。
「さて、気を取り直して飯にするか! ……本当にいいんだな?」
「えぇ、もちろんですよ」
こちとら最初から死ぬときは貴方と一緒と考えていたんです。これくらいへでもありません。
「それではどうぞ、名付けて“小さなソテー”です」
そう先輩に差し出すとともに、皿の上のクローシュを持ち上げる。中で充満していた香りが一気に解き放たれ、食欲を掻き立てる。
皿の上にのせられているのは、青白いキノコのソテーであった。キノコには黄緑色のソースがかけられており、淡く光る緑色の粉がかけられている。付け合わせには青々とした葉が添えられている。
またキノコ自体もほんのりと青白く光り輝いており、まるで夜空に浮かぶ星空のようで、原材料さえ知らなければ幻想的な美しさに心を奪われていたかもしれません。
「ほぉ、きれいだな」
しかし正体を知ってなお、先輩には美しいものに見えるようです。その気持ちもわからなくはありませんが、それよりも先輩に普通の人間と同じような感覚があることに驚きです。
「さて、それじゃあさっそく食べるとするか」
「そうですね、せっかくですから冷める前にどうぞ」
「それじゃあ」
「一緒に」
「「いただきます」」
先輩と一緒にいつも行う不思議な食前の挨拶。その後はもちろん、言葉はいりません。
まずはキノコをナイフで切り分けて、そのままで口に運ぶ。
「……っ!」
口の中に入れた瞬間、私は星空の光に包まれました。それは、味見の時には感じえなかった感覚であり、味は今まで以上の美味しさでした。
キノコのうまみとソースの爽やかさが絶妙にマッチし食欲を増幅させ、かけられた粉が体の奥底から活力を滾らせる。味も星の瞬きのように幾重にも変化していき、遊び心を感じ食べているものを飽きさせない。
不思議で、楽しくて、おいしい。今までに感じたことのない美味しさと不思議さ。それは、味の限界を知った私にとって衝撃的でした。
「……すごい」
ぽつりと、先輩のつぶやきが聞こえる。その思わずといった様子の言葉は、先輩が心の底からそう思ってくれている証拠なのでしょうか。
「やっぱりすごいな、後輩は」
「まったく、こんなの当たり前じゃないですか」
「そういうなよ、これはお前にしか作れなかった料理だ。本当にありがとう」
「まったく、気にしなくてもいいんですよ」
そういいながらも、やっぱり彼に褒めてもらえるのはうれしい。それに、今回の料理では私も得られるものがありました。
物語がなくても、味の限界を超えられる。今回はその可能性を見出すことができました。
あまり口には出せませんが、そういった意味では彼に感謝してもいいかもしれません。
そのあとは、言葉を交わすこともなく黙々と食事に没頭しました。静かな場所はあまり好きではありませんが、この静寂は、嫌いではありませんでした。
「「ごちそうさま」」
「後輩、今日は本当にありがとな。久しぶりに満足できる、いいや今までで一番うまい料理だったよ」
「そんなことを言っても何も出ませんよ」
「さて、それじゃあそろそろ終わりましょうか」
「待て」
食事も終わり、そろそろ業務に戻ろうとしたその時、無情左衛門さんに待ったをかけられました。
……そういえばすっかり忘れていましたが、なんだか嫌な予感がします。
「お前たちは今日一日ここで様子見だ。何もなければ大丈夫だが、少しでも異変があれば即座に切り捨てる」
「えっ!?」
まさかとは思ったが、どうやら無情左衛門さんは介錯係だったようです。そのことに驚く私とついでに贄贄さん、そしててへぺろをする先輩。
まずい、今日のノルマが達成できないと私の給料が……!?
「せ、先輩!!」
「その、なんかごめんね☆」
結局業務終了まで拘束されましたが、何の異変もありませんでした。精密検査でも異常は見られず業務に無事復帰できましたが、お給料は……
「おーい後輩、今度の料理なんだが……」
「もうやりません!!」
もうこんな目はこりごりです!!
続きはありません。