アブノーマリティーって、鎮圧したらそうなるのかよ!?
この話は深く考えずにお楽しみください。
「よし、そろそろ次行くか!」
「はいはい、次はなんの作業ですか?」
恐ろしくも心満たされたあの日から数日後
「いやいや、何言ってんだよ。この前の続きの話だぞ?」
「この前の続きって…… まさか!?」
彼は再び、満面の笑みで
「そう、そのまさかだよ」
私に絶望をたたきつけるのだった。
Menu 2 スープ ~空虚なスープ~
「はぁ、全く先輩ときたら……」
あのアブノーマリティー調理実験から数日がたちました。
もはや行われないと思っていた(願っていた)実験の再開をあの先輩に告げられた私は、呆れてため息をつくしかなかった。
「あれ、後輩さんどうしたんですか?」
「いや、私は貴方の先輩なんですけど……」
ため息に反応したのは私の後輩、お抹茶ぶんぶく丸さんです。
可愛いところはあれど、中々生意気なので頭をグリグリしておきましょう。
「痛い痛い、パワハラですよ先輩!」
「だったら先に生意気なその態度を改めなさい、まずは先輩と呼ぶことから!」
「お~いこうは~い!」
うげっ、先輩!?
まずい早く逃げないとまた面倒なことに…… グエッ!
「先輩、捕まえましたよ!」
「でかしたぞぶんぶく丸!」
「なっ、離しなさいお抹茶ー!」
「グヘヘヘへ、さっきのお返しです! 絶対に離してやるもんですか!」
畜生! このあほ後輩め! あとで覚えていろよ!
「よーし、それじゃあ今日も素材集め、頑張っていくか!」
あーもう、どうしてこうなるんですかぁ!!
「メェェェェ!!」
「よぉーし、一石二鳥の食材ゲットだな!!」
「えっ、えぇぇ……」
先輩はさっそく『T-02-99』、またの名を『空虚な夢』を鎮圧して食材にしていました。先輩にしてはまだまともそうな食材……
いや、よくよく見たら結構気持ち悪いですねこれ。えっ、これ食べるつもりですか? 正気ですか?
「うーん、もう少し食材が欲しい所だけど、今日は時間があまりないしこれくらいにしておくか」
「えっ、今回はこれだけですか?」
「あぁ、でも羊と鶏だし、そこそこ美味しそうなものが作れるんじゃないか?」
「ねぇ先輩、これ作るの私ですよ? 自分が作らないからって適当過ぎませんか?」
確かに同じ肉ですけど、羊って結構癖ありますよ? それどころかアブノーマリティーなんですからもっとやばそうなんですけど……
「まぁ、お前の腕は信用してるし、大丈夫だろ!」
……まったく、そんな笑顔で言われたら答えたくなっちゃうじゃないですか。卑怯ですよこの先輩、ばーかばーか。
「わかりましたよ、それじゃあ調理するんでちょっと待っててくださいね、先輩」
「おっ、楽しみに待ってるぞ!」
まぁ前回の料理である程度はコツを掴めましたし、今回も頑張ってみましょうか! まずは先輩に例のシェルターを借りてもらうところから始めましょうかね。
「……よし、できた!」
今回も結構な自信作です。正直羊と鶏が合うのか心配でしたが、やっぱり同じアブノーマリティーであったからか親和性が高かったです。
さて、そろそろ先輩もお腹を空かせている頃でしょうし、持って行ってあげましょうかね。
「さーて先輩、可愛い後輩ちゃんが手料理を持ってきましたよー!! ……あっ」
「おっ、待ってました!」
「あー……」
「……」
さっそく先輩が待っている部屋にテンション高めで入っていきましたが、ここで私は大切なことを忘れていました。
前回万が一のために介錯用に職員が配置されていたということを。
「あっ、あぁ……」
「えーと、やっぱり二人とも仲がいいんだね」
「……心配するな、俺は何も聞いていない」
そこにはペペロンチーノ政宗さんと無情左衛門さんがいました。さっきの謎テンションを見られて顔から火が出そうなくらい恥ずかしくなって固まっていると、先輩がこちらに近づいてきました。
「まっ、こいつ等なら大丈夫だよ。言いふらすようなやつじゃないって。それより早く食べようぜ!」
「えっ、あっちょっと先輩……」
そういって私の手からお皿をひったくると、お皿を机に置いて私をテーブルの前までエスコートしてくれました。
……なんか妙に手馴れててむかつきますね。
「さて、今回はなんなんだ?」
「えぇ、今回は結構シンプルですよ」
そういって席を立ってクローシュをとろうとする私をペペロンチーノ政宗さんが手で制し、代わりにあけてくれました。
「さて、今回は名付けて“空虚なスープ”です!!」
お皿から湯気が立ち上り、食欲を掻き立てる香りが私を夢心地にさせます。
それはほんの少し青紫っぽくキラキラ輝く、夜空を彷彿とさせるスープです。中には『空虚な夢』の羊形態と鶏形態の肉と、ニンジンや玉ねぎといったシンプルな野菜が入っています。
「おぉ、すげぇなこれ……」
そういって先輩はいつも通り手を合わせて私を待ちます。この人はこういう変なところで律儀なんですから……
「わかりました、それでは」
「あぁ、一緒に」
「「いただきます!」」
まずはスープを一口。うん、鶏形態のガラでとったダシがよく聞いている。普通の鳥と違って少し甘くて、でも目覚めのようにすっきりとした美味しさ。なんだかとっても気持ちがよくなってきます。
「さて、お次は……」
次は羊肉をいただきましょうか。
先ほどとは打って変わって、微睡みの様に濃厚で、いつまでも味わっていたくなるような旨味が口の中に広がります。もう少し味わっていたいという気持ちをスープで洗い流すと、また目覚めのようなすっきりとした感覚が口の中を広がります。
眠りと目覚め、素敵なサイクルをもしかしたら先輩は直感的に感じていたのかもしれませんね。
ふと先輩のほうを見ると、先輩は夢中になって私の料理を食べてくれていました。
その光景を見ているとやっぱりうれしくなって思わず口元が緩んでしまいます。
「先輩、おいしいですか?」
思わず、周りのことを忘れてそんなことを先輩に問いかけてしまいました。
すると先輩は手を止めて、満面の笑みで口を開きました。
「もちろんだ、お前の料理は最高においしいよ!」
その言葉が嬉しくて、ついでに恥ずかしかったので照れ隠しに食事に戻りました。
「ふぅー、おいしかった」
「ふふっ、お口に合ってよかったです」
「あぁ、それじゃあ」
「「ごちそうさまでした」」
不思議な不思議な微睡みのような、夢心地の食卓は、今回も無事に終わったのでした……
「それでさぁ、今日新しく収容されたアブノーマリティーがかわいくってさぁ」
「はははっ、大丈夫かよそれ?」
「それがピンク色の……」
「あれ、二人とも何を話しているんですか?」
実験が終わってしばらくしてから、廊下を歩いているとあのにっくきお抹茶ぶんぶく丸後輩が他の職員とおしゃべりをしていました。
どうやら新しいアブノーマリティーの話をしているようで気になったのですか、どうやらお抹茶は以前私を先輩に売ったことを覚えていたらしく、顔を引きつらせていました。
「あっ、後輩先輩! 大丈夫ですか?」
「お抹茶後輩、その変なあだ名をやめなさい!!」
「まぁまぁそう怒らずに、可愛いお顔が台無しですよ。あっ、これはお詫びのお菓子です」
この後輩は何を考えているのだろうか? そんな見え見えのお世辞と賄賂でどうにかなると思っているのでしょうか? まぁいただきますけど、このお菓子美味しい!!
「そういえば先輩知っていますか?」
「えっ、何がですか?」
「いやぁ、この前こいつがですねぇ……」
「おいやめろって!」
そういってお抹茶後輩はもう一人の彼とじゃれ合いながら私に面白い話をしてくれました。
そして話をしている途中でふと気が付くと、彼のほほがほんのりピンク色に染まっていることに気が付きました。
もしかして彼は…… 私に惚れているのではないか!?
たっ、確か男の人は好きな人に意地悪をすると聞いたことがあります。もしかしたら彼もそれで私にあんな態度をとっているのではないだろうか?
だとしたらなかなか可愛げがありますねぇ。でも私にはすでに心に決めた人が……
「おーいこうはーい! なにして……っておい!!」
「げっ、先輩…… って、うわぁ!?」
先輩がいつも通り何か企んでそうな笑顔で近づいてきたので咄嗟に身構えると、突然先輩はすごい剣幕で私の腕をつかんで引っ張っていきました。
「ちょ、先輩どうしたんですか!?」
「くそっ、ちょっとこっちこい!!」
めったに見ない真剣な表情に、思わず先輩の言うとおりにしてしまいます。いっ、いったいどうしたのでしょうか?
「悪いな、こんなところに連れ込んで」
「えっと、どうしてこんなとこに……」
「ここなら、あいつの目をごまかせるからな」
先輩に連れられてきたのは、物置のような部屋でした。しかしほこりをかぶっていて、もしかしたらもうずいぶん前に使われなくなったのかもしれません。
それにしても、先輩はいきなりどうしてこんなところに……
はっ、もしかして先輩、私がお抹茶後輩と楽しそうに話していて、それで嫉妬してくれたんですか?
も、もしかしたらそれで……
「後輩、ちょっと目を閉じていろ」
「えっ、ちょっ、いきなり心の準備が……」
「いいから早く!!」
「はっ、はい!」
先輩に言われたとおりに目を閉じる。
今から先輩に何をされるのか、ドキドキしながら待つ。この時間が、とっても長く感じました。
「……ール、展開」
心臓がバクバク言って、先輩が何かをつぶやいたように聞こえましたが、私にはうまく聞き取れませんでした。
「……よし、もう大丈夫だ」
「……えっ?」
そして、結局なにもされずに終わって、思わず間の抜けた声が出てしまいました。
そして変な勘違いをした恥ずかしさをごまかすために文句でもいおうとしたその時に、先輩はいきなり私を抱きしめてきました。思わず壊されてしまうのかと思うほど、強く。
「もう大丈夫だ、後輩」
「えっ、えっと……」
『謎のピンク色の粘液体が多数出現し、『D-03-109』が脱走した。今から大きな粘液体を『D-03-109-1』、小さな粘液体を『D-03-109-2』と呼称し、これらの鎮圧を命令する』
「おっと、まずいことになったな。行くぞ後輩!」
「あっ、待ってくださいよ先輩!」
放送を聞いて先輩は、結局何の説明もなしに走っていきました。
私も先輩の後を追っていこうとしたときに、足元に何かが落ちていることに気が付きました。
「なんだろうこれ、先輩の落とし物かな?」
なんて書いているかわからないノートを手に取って、先輩の後を追いかけていく。
結局私はそこにかかれている内容を知ることはできなかった。もしもその文字を知る人間なら気が付けたかもしれません。
そこには日本語で、『後悔日記』と書かれていました。