どこまでも響く潮騒と、悲しい赤子の鳴き声と、いろんな音が聞こえたよ
どんより暗いお空とね、浅瀬の海がどこまでも
広がる不思議なとこだった、日々の入った場所だった
ハナウタ歌ってスキップし、ルンルン気分でお散歩だ
素敵なカニと、ヤドカリと、物知りエビの、おじいさん
海の素敵なお話をいっぱいいっぱい知ってたよ
みんなと別れてお散歩の、続きをしながら歌ったよ
歌につられていっぱいの、お魚たちが寄ってきた
大きな口を開いてね、私にぱくりと噛みついた
ご飯は嫌だと逃げまどい、気が付いたらどこだろう
周りをぐるぐる見たけれど、知ってるものは何もなし
周りをうろちょろしていたら、泣き虫おじさん見つけたよ
私がこっそり近づくと、泣き虫おじさん気が付いた
うにょうにょお口を動かして、私にびっくりしてるみたい
しばらくじろじろ見て彼は、知らんぷりして歩いてく
何をするのか見てみたら、両手を組んでお祈り中
しばらく見てたら紫の、大きな怪物やってきた
泣き虫おじさん涙とめ、怖い顔して戦った
仕方がないから歩いてく、赤子の鳴く方向かってく
こっちへ歩いていくならば、きっと扉があるでしょう
「あっ、見てくださいよ先輩!!」
どこか遠くから赤子の声が聞こえた気がした。
「私ルーレットに当たりましたよ!!」
そんな時に始まったルーレットに私は釘付けになった。
「これで苦しい生活ともおさらばですね」
大金を手に入れれば、家族たちを安心させてあげられる。
「あれあれ、さっきから口数が少ないですねぇ。もしかしてうらやましいんですかぁ?」
もしかしたら私との別れを惜しんでくれている? そんな淡い期待は彼の顔を見て打ち砕かれた。
「……あれ、先輩、どうしてそんなに悲しそうな顔をしているんですか?」
「どうして何も言ってくれないんですか?」
「ねぇ……」
……どうして、そんな何か覚悟をしたような表情をしているのですか?
Menu 4 肉料理 ~大きくて悪いジビエ~
赤子の泣き声がこの地下施設に鳴り響き、私はその鳴き声のする方向へと向かっていく。
「はぁ、それにしても転属の前に最後の作業をしてこいなんて……」
せっかくの栄転なのに、管理人から「君に最期の作業を伝える」と、『O-01-15』への作業を命じられました。
なんでも最近やってきたアブノーマリティーのようで、詳しい話はよく分かっていないそうです。
さっき謎に知識豊富な先輩に聞いてみたんですけど、詳しくは教えてくれなかったんですよね。
ただ、「絶対に大丈夫だから安心しろ」って言われましたけど。
……でも、なんでそう言い切れたんでしょうね?
アブノーマリティーたちに安全な奴はいないって私に教えてくれたのは、他でもない先輩なのに。
「『F-02-58』が脱走しました。鎮圧可能な職員は、直ちに向かってください」
「えぇ、今から向かう部門のやつじゃないですか……」
そんなことを考えていると、何やらアブノーマリティーが脱走してしまいました。
気が付けば静かな廊下の向こうから、何やら獣の遠吠えのような声が聞こえてきます。
とりあえず鉢合わせする前に早く作業に行かなければいけませんね。
「……よし、それじゃあ行きますか!!」
そして私は、収容室の扉を開いた。
……そこは、一人ぼっちでさみしい場所でした
血まみれで、腐臭の漂う収容室の真ん中で、それは一人で泣いていた
それはきっと泣くことしかできなかったのだろう
それはきっと笑うことができなかったのだろう
楽しいことも、嬉しいことも、面白いことも、欲求を満たされることも
これまで一度もなかったのだろう
一人ぼっちの怪物は私に気づいて顔を向ける
相手はアブノーマリティー
心を許してはいけないし、隙を見せたら殺される
そんな相手であるというのに、私はその眼を見ながら歩み寄る
悲しそうな瞳 零れる涙
そんな名前も知らない怪物を、私は……
抱きしめた
抱きしめて、名前を呼んだ
名前を知ることはできないけれど、つけてあげることならできる
大丈夫だよ、安心して
私があなたに、笑顔を教えてあげる
嬉しいことも、楽しいことも、面白いことも
約束だよ
自慢じゃないけど、私は約束を破ったことが一度もないんだよ
だから絶対に、約束を守るから
……だからそんな寂しそうな顔をしないで
床に涙が零れ落ちる
それが私のものか、相手のものかはわからない
そんなことを考えていると、耳のあたりに暖かい何かを感じる
怪物はもう泣かない、私との約束を信じているから
「後輩!!」
部屋から外に出ると、真っ先に誰かがやってきました。
「あっ、先輩! どうしたん…… わひゃぁっ!?」
「よかった、代償が足りているか心配だったんだ」
いきなり抱き着かれてびっくりしているけど、胸にうれしい気持ちが広がってくる。
「あっ、あのですね。いきなりこんなことをされると困りますよ、先輩」
「あっ、すまん。でも本当に良かった、どこも怪我はないよな? 体調が悪かったり変わったところとか……」
「いやいや、大丈夫ですって!? だからそんな体中まさぐらなくても!!」
先輩は心配そうに体中を弄って変化がないことを確かめています。
そして視線をこちらに向けると、少し目を細めて真剣な顔つきになりました。
「後輩、その耳のってもしかして……」
「えっ、あぁはい。私こういうの初めてなんですけど、たぶんギフトってやつですよね」
先輩はこちらをじろじろと見ながら、何か考え事をしているようです。
そしてしばらく静まり返ると、ようやく口を開きました。
「……特に、身体に変化はないんだな」
「えぇ、だから大丈夫ですって!!」
「精神とかの変調もないんだな?」
「えぇっと、今のところはないと思います」
「……わかった」
そういうと彼は振り返り、廊下を歩いていきました。
「あっ、そういえばこの作業が終わったら私転属なんですよ!!」
「残念でしたね先輩、もうこれであの実験は終了ですね!!」
立ち去る先輩の背中に、自慢げに声をかける。最初こそ威勢はよかったですが、振り返る彼の表情を見て、自分の考えの間違えに気が付いたのです。
「あぁ、その話ならもうなくなったぞ?」
「……えっ?」
「そもそもあの実験は管理人とアンジェラの両方から許可をもらっているからな。これで逃げられると思うほうがおかしくないか」
その言葉を聞いて膝から崩れ落ちそうになってしまった。このままだと実験の餌食になってしまう、それだけは嫌だと何とか色々と考えるが、彼はそれを許してはくれませんでした。
「さて、今回も実験の時間だ」
「そんなぁ、せっかくルーレットが当たったのにぃ」
目の前の悪魔に引きずられ、廊下に哀れな子羊の悲鳴が響くのでした。
「……さて、結局今回も作ってしまった」
今回の食材は『F-02-58』、またの名を『大きくて悪い狼』っという獣の肉です。
調味料をかけてただ焼いただけものを料理といっていいのかはわかりませんが、とりあえず完成しました。
先輩の待つ部屋へ料理をもって運びます。今回は特別ゲストがいるとのことで、3皿用意しています。
「お待たせしました」
「おっ、待ってたぞ!」
「……あの、特別ゲストが来ると聞いていましたが、そちらの方は?」
「おう、『F-01-57』、またの名を『赤頭巾の傭兵』だ! よろしくしてあげてくれ!」
「紹介に預かった、やつを食えると聞いていてもたってもいられなくってな」
「……」
思わずポカーンとしてしまいます。
なぜなら目の前にいるのは明らかに人ではなく、こうして食卓を囲う相手ではないと断言できるからです。
「なんでアブノーマリティーがいるんですか!? おかしいでしょう!!」
「いやいや、ちゃんとアンジェラから許可はもらってるからさ。大丈夫だって」
『おーいアンジェラ、ちょっとこの前許可をもらった実験についてお願いがあるんだが』
『………………えぇ、話くらいは聞きましょう』
『そんなに身構えなくても大丈夫だって。ただもう一人実験にご一緒してもいいかって話なんだ。もちろん今回だけだからさ』
『……その相手は、ちゃんと自分の意思で願い出たのですか? 強要したり発言を曲解したりしていませんか?』
『そこらへんは大丈夫だって、ちゃんと本人の意思で参加したいって言ってるから』
『……そこまで言うなら自己責任ということであれば許可しましょう』
『ありがとう!! さっすがアンジェラ、話が分かるな!』
『ところで、その奇特な人物は誰なんですか?』
『おう、『F-01-57』っていうんだ!』
『なるほど、それでは私はこれで…… ちょっとまt』
『じゃあさっそく行ってくるぜ!!』
「ほらな、ちゃんと許可とってるだろ?」
「……これって、突っ込んでいい奴ですか?」
でも正直突っ込んでも意味ないですよね?
……さて、何がともあれ、これ以上時間をかけるとせっかくの料理が冷めてしまいます。
それはさすがにもったいないので、細かいことは気にせずに早く食べてしまいましょう。
「ほら先輩、長話もこれくらいにして早く食べますよ。ほら赤頭巾さんも」
「……恩に着る」
意外にもきちんとお行儀よく座っている赤頭巾さんは、見た目の物々しさとのギャップからなんだかかわいく見えてきました。
ちなみに先輩は両手にナイフとフォークをもってウキウキしながら待っていました。
なんだか子どもみたいですね。
とりあえず料理を差し出しふたをとる。
中からは狼の豪快なあばら骨のローストが出てきました。
野性味あふれる匂いが部屋に充満して食欲を刺激してきます。
匂いを嗅いで赤頭巾さんも目を血走らせて今にもかぶりつきそうです。
「今回は、名付けて『大きくて悪いジビエ』です!」
「さて、それじゃあいただきましょうか」
「おう、それでは手を合わせて……」
「「「いただきます!」」」
食前の挨拶を済ませるが否や、みんな一斉に肉にかぶりつきました。
あぁ、野性味あふれる肉に豪快にかぶりつき、肉汁が頬を汚すことすら気にせずに二口目をかぶりつく。
周囲を見渡しても同じ様子で、特に赤頭巾さんは一心不乱にかぶりついていました。
まるで親の仇のようにかぶりつき、じっくりと咀嚼するその姿は、ぶっちゃけ怖かったです。
「あっ、もうなくなっちゃった」
結構な量があったにもかかわらずに、あばら肉は消え去っていました。
「いやぁ、しっかりと溢れる肉汁に、本能を刺激する野性味あふれる味、とってもおいしかったですね!」
「あぁ、それに、ちゃんと後輩の味で良かった。本当に大丈夫そうでよかった」
「先輩……」
「少女よ、今回は馳走になった。礼を言う」
「いえいえ、赤頭巾さんも満足できましたか?」
「いや、うまかったが、それ故に満足できなかった。もしまた機会があれば、同席しても構わんか?」
「えぇ、もちろんですよ! ……あっ、許可がもらえたらですよ?」
「わかったそちらについては交渉しておこう」
なんだかんだでやばい約束をしてしまった気がします。
本当に大丈夫だろうかと思っていましたが、この日から彼女は定期的に『F-02-58』を狩って持ってくるようになってしまい、大変な思いをすることになるとはだれも知りませんでした。
「さて、それではそろそろ」
「あぁ」
「うむ」
「「「ごちそうさまでした」」」
「さて、今日も色々あって疲れました」
「結局転属はなくなって、不思議な出会いがあって、先輩と一緒に実験をして」
「そう、先輩はいっつも突拍子のないことをして、そのくせ最後にはみんなで笑顔になっているんですよ」
「本当に不思議で、変わってて、目が離せなくて……」
「いつまでも、一緒にいれたらいいなって、思ったり」
O-01-i39『笑わないピエロ』
新規アブノーマリティーの変更により、「職員たちの平穏なひととき『予感』」の内容を一部変更させていただきます。
ご了承ください。
気付いてもシーッですよ。