とっても嬉しいことだけど
ここは地獄のような場所
みんながみんな暗い顔
だあれも幸せそうじゃない
私が笑顔にしようと思ったけれど
それより前に彼がいた
彼のおかしな行動に 誰もがびっくり目を剥いて
みんなが慌てふためいて 彼を止めようと頑張るの
結局彼は止められたけど 皆は笑顔に変わってた
彼ならきっと 私にも
教えてくれるよ 笑顔をね
「それでですね……」
彼女が笑顔を向けてくる。その太陽のような笑顔を
「あれ、先輩どうしたんですか?」
それだけで俺は、心が救われたような気持ちになる
「いや、ちょっと考え事をしててな」
あの地獄から生き残ってくれたあの時から
「考え事ってなんですか?」
君は俺にとって
「そんなの気にするなよ! そんなことよりさ……」
掛け替えのない存在になったのだから
Menu 5 サラダ ~蓋の空いた世界樹のサラダ~
「……ったい、これはどういうことですか?」
「いきなりどうしたんだ? 何を言っているかわからないんだが?」
廊下を歩いていたら、どこからか話し声が聞こえてきました。なんだか少し剣呑な雰囲気です。
「先日のO-01-15に関することです、何も知らないではすみませんよ」
「何だそのことか」
これは先輩と…… あの機械人形でしょうか? 一体何の話をしているのでしょうか?
「別にいいだろ一体くらい、アンタの計画に支障は無いはずだ」
「いったいどの口が…… 待ちなさい」
「ど、どうしたんだよ急に」
真剣な様子の声色に、すこし狼狽えた様な先輩。ちょっと空気が重いです。
「少し私達の認識に齟齬があるようです、貴方は一体何をしたと認識しているので?」
「だから俺は「誤魔化しても無駄です、なぜ完璧である私がわざわざ死角となる場所を作ったのか、愚かな貴方でもここまで言えばわかるはずです」……ちっ、罠かよ」
なんとなくですが先輩もあれも、とても苛立っている様子、もっと笑顔のほうがいいと思うのですが。
「方法は言えないが、俺は「にゃぁぁぁん!!」だけだよ」
「なるほど……」
ちょうどいいタイミングで哀れな犠牲者の声が響いてしまいました。おかげでなんといっているかわかりません。
「話はわかりました、しかし今後計画に支障が出た場合、貴方の『退社』を決定します。よろしいですね?」
「別に構わねぇよ、そうやすやすと使えるもんでもないしな」
「分かればいいのです」
どうやら話も終わった様子、少し緊張が抜けたような気がします。
「あぁ、話は変わるのですが」
と思ったら、まだ何かある様子。でも先ほどまでの緊張感は感じられません。
「風の噂で小説を書いていると聞いたのですが、リクエストとか受け付けていますか?」
「えっ、お、おう……」
「なら早速これを……」
最後の方はよく聞こえませんでしたが、一体アレと何の話をしていたのでしょうか?
「よう後輩」
「あっ、先輩遅いですよ…… って、それどういう状況ですか!?」
気が付けば、先輩は目の前に来ていました。 ……なぜか頭を小鳥につつかれながら。
「いやぁ、ちょっと『O-02-56』と戯れてるだけだって」
それを見た瞬間、私は悪寒に震えました。それは見た目こそ可愛らしいですが、その内に恐ろしい何かを秘めている気がしたからです。
「いやいや、頭が大惨事になってますよ!?」
「ちょっと待ってて下さい、今助け「止めろ」……えっ?」
「それだけはやめてくれ、後輩」
慌てて先輩を助けようとすると、真剣な顔で止められました。そうこうしているうちに件の小鳥はどこかへ飛んで行ってしまうのでした。
「い、今のは一体……?」
「あいつは満足すると勝手に帰って行くのさ」
「なるほど、でもなんで止めたんですか? そんなに傷付く前に鎮圧したほうがいいじゃないですか?」
「アイツは攻撃すると襲い掛かってくるんだよ。そうなると多分俺でも間に合わずに御陀仏だ」
「ひえぇ、他の鳥さんと違って可愛いと思ったのに、やっぱりアブノーマリティはアブノーマリティですね」
思わずがっくりと項垂れていると、先輩はびっくりしたような表情をして口を開きました。
「いやいや、『O-02-62』はともかく『O-02-40』は可愛いだろ!?」
「えっ、先輩目が腐ってます?」
口から飛び出たあまりにも冷たい言葉に、先輩は地味にショックを受けているようでした。そんな繊細な部分があったんですね。
「……さて、そんなことより今回の食材だ」
「あっ、話をそらしましたね」
「とりあえず糞樹木から葉っぱをいくつか拝借してきたから、次の食材を拉致って来たいと思う」
「あっ、もう一つは確保してるんですね…… って、拉致?」
もうすでに食材の一部を確保しているのかと思っていたら、信じられない言葉が聞こえてきました。
一体どういうことかと聞き返そうとすると、すでに先輩は近くの収容室に入っていってしまいました。
「ぎゃははぁ!! 大量じゃい!!」
「一体何やってるんですかぁ!?」
一体どうしたものかと思っていると、収容室の中からエビ頭の何かを両脇に抱えて先輩が飛び出してきました。
いや、なんでそんなにテンションが高いのでしょうか?
「だから言ったろ? 拉致ってくるって」
「だからって『F-05-52』の人? エビ? を拉致って来る人がどこにいますか!?」
「まぁまぁそういうなって、それよりこれで食材もそろったし、何か作ってくれよ」
こちらの疑問にまともに答える気がないのか、サラっと受け流されました。 ……というか、これを調理するのですか?
「いや、こんな食材使いたくないんですけど……」
「そういうなって、絶対おいしいから! 頼むよ!!」
「嫌ですよ気持ち悪い!!」
しばらくの間先輩との押し問答が続きましたが、結局折れてしまいました。
「……はぁ、今回だけですよ」
「さすが後輩、楽しみにしてるぜ!」
「まぁ、楽しみにしていてくださいね」
「さて、今回もいい感じにできましたね」
「それじゃあ先輩にお届けしましょうか」
今回も出来上がった料理をもって先輩の待つ部屋へと向かっていきます。
扉を開けると、前と同じように先輩がウキウキしながら待っていました。
「はい先輩、今回は結構苦労しましたが、そこそこ自信がありますよ」
「名付けて、『蓋の空いた世界樹のサラダ』です」
先輩の目の前に料理を置いて蓋を取ると、中からシンプルなサラダが出てきました。
爽やかな緑色をした葉に大きめのエビの切り身が乗っかり、その上から特製のドレッシングがかかっています。
今回はサラダですが、シンプルな分料理人の腕が試されますね。
「あぁ、今回もうまそうだな」
「えぇ、そうでしょう。なんたって苦労して生のまま葉っぱの異常性を取り除いたんですから」
「すごいな、さすが後輩だ」
「えへへっ、それほどでも……」
本当ならどれだけ頑張ったかを自慢したそうにしていますが、時間がもったいないので早く食べる方向へシフトしました。
「さて、それよりも早く食べてしまいましょう」
「おう、そうだな」
「それじゃあ」
「「いただきます」」
一緒に食前のあいさつをしてからサラダを口に含む。先輩のほうをちらっと見ると、どうやら満足してくれたようです。
「すごいな、めっちゃ爽やかでエビもぷりぷりしててうまい」
「そういってもらえると嬉しいです」
言葉も少なめに、気が付けば二人のお皿は空になっていました。
「あぁ、うまかった」
「えぇ、それじゃあ最後に」
「「ごちそうさまでした」」
「いやぁ、なんだか最近調子がいいですね」
「体の調子は悪くないし、メンタル面も順調」
「なんだかんだで、現状も悪くないのかもしれません」
「さて、さっさと次の作業をしに行きましょうか」
最近のことや先輩とのことを考えながら廊下を歩いていく。少し胸が暖かくなったが、気持ちを切り替えて気を引き締めます。
次の作業は新しい未知の存在、油断はできません。
少し緊張しながら収容室の中へと入っていきます。
「あっ」
そこで出会ったものを、きっと忘れることはないでしょう。
悍ましく、夥しいほどに集まった人の足の真ん中には、ハートのような形の何かが鎮座している。
見た瞬間に理解する、圧倒的な格上の存在に、成す術などないことを嫌でも理解させられます。
それでもこの身をかけて抗おうと決意しても……
「綺麗……」
そんな抵抗など、塵芥でしかなかったのです。