大きな傷だらけの狼が脱走した 彼は暴れ馬に乗るように乗りこなしていた
全てがあべこべなサンタが脱走した 彼はなぜか引きずられていた
長い鳥が脱走した 彼にうらみでもあるのかつけ狙って天秤が傾かないように抵抗していた
足だらけの蒼い星が脱走した さすがにふざけなかった
ピンクのどろどろが脱走した 赤いつぎはぎを倒したところを後ろから狙ってた さすがに卑怯だと思う
冷たい女王様に囚われた人を助けに行った いつもこれくらいかっこよくすればいいのに
寝てる羊が脱走した なぜか足置きにして読書していた
ぶくぶくしたサメが脱走した 優しい表情で撫でていた
一般人は…… まぁいいか
彼がやることはめちゃくちゃで みんながみんな驚いていた
でもびっくりしたり呆れたりする人たちも 最後にはみんな笑顔になっていた
「まぁ、まさかすでに先客がいるなんて」
出会った瞬間だめだと思った。それの視線は正確に私を射抜いていた。
「でもそれもそうよね、いっぱい使ってないと■■■のところまで来ないし……」
それはどうしようもない怪物、あの星の化け物と同等の、私では手に負えない圧倒的な格上。
「それにしては、全然崩れてないみたいだけど」
それは私のことなどお構いなしに語り続ける。
「あぁ、そもそもここにはいっぱいお友達がいるのね」
何かまずいことをしている。それは直感でわかるのに、防ぐ方法がわからない。
「すぐダメになっちゃう着せ替え人形、自分勝手な恋人ごっこ、壊れたオルゴールにさっきの蒼いビー玉さん」
その言葉を聞いてドキリとする。なぜ、今の一瞬でそこまで……
「へぇ、■■■と遊べそうな子がこんなにいるなんて、ワクワクしちゃうわ」
それは笑う、私の知りたくない笑みで。
「あっ、ごめんなさい。■■■ばっかり話しちゃったわね」
それは一瞬私に視線を向けて、向き直って唇をゆがめる。
「一応無駄だと思うけど、聞いておくね」
軽い口調で声を出すが、それにどれほどの悪意が込められているかが伝わってくる。
「貴女の名前を教えて?」
そしてそれは、悍ましい呪いを口から吐き出した。
Menu 7 デザート ~女王のリンゴシャーベット~
「……それで、それに一体何の意味があるんですか?」
「ふふっ、だって挨拶は大事でしょう?」
あの美しい星に会いに来たはずなのに、そこにいたのは■■い■■でした。
……あれ、私はどうしてあのアブノーマリティに会いに行こうとしたんだっけ?
作業でもないのに。
「それにしても、なんだか体が重いわ。もしかしてこの場所のせいかしら?」
「いや、それよりもあなたはなんですか? 一体どこからここに入ってきたのですか!?」
「ふふふっ、だから私は■■■よ」
そうだ、それよりもここは『O-03-93』の収容室だったはず。なのにこの子はどうしてここにいるのでしょうか?
「そんなことはどうでもいいわ、それよりもお話をしましょう?」
「■■■と一緒に、ずうっとね……」
「よう後輩、どうしたんだ?」
「うげっ、先輩……」
廊下を歩いていたら、偶然先輩に鉢合わせてしまいました。
何たる不運、こうなったらきっと例の実験の続きとか意味不明なやらかしに同行されたりとかするんだ……
「なんか元気無さそうだな、気分転換にうまいもんでも食うか?」
「またそうやって例の実験をさせるつもりですね!?」
「えっ?」
「えっ?」
あれ? もしかしてこれはやっちゃいましたか?
今の流れは実験の前フリだと思ってましたが、まさか本当に気分転換!?
「あぁぁぁぁ!!!! やっちゃったぁ!! これ完全にやぶ蛇じゃないですかぁ!?」
「……いやいや、俺の事何だと思ってるの?」
「えっ、そういうことなら実験しようって流れですよね?」
「いややらないよ……」
そう言うと先輩は苦笑して私の頭を撫でました。
あれ、なんかおかしい……
なんというか、言葉にできないのですが、いつもの先輩じゃない気がします。
いつもならこんな直接的じゃなくて、もっと遠回しにいろいろトラブルを巻き込みながら心配してくれるっていうのに。
これがタダの気まぐれならいいんです。
でもこれは、なんというか、先輩の中の大切なものが変わってしまったかのような……
『T-01-54*1が脱走しました、F-01-57*2が脱走しました、近くの職員は鎮圧に向かってください』
「おっ、脱走か。ちょっと行ってくる」
「えっ、ちょっと先輩!?」
アブノーマリティの脱走アナウンスに真っ先に反応した先輩は、すぐに駆け出して行きました。
私は駆け出して行った先輩の背中を追って走ります…… ってかはや!? やっぱこの人おかしいですって!!
「はぁっ、はぁっ、ようやく、追いつきました、よ……」
先輩がいるであろう廊下に続く扉を開いた私の目には、凄惨な光景が広がっていました。
あたりに撒き散らされた血飛沫と抉られた肉片の数々が壁を汚し、床にはT-01-54だったものとF-01-57の四肢が転がっていた。
むせかえる濃密な血の匂いに思わず手と鼻を口で押えると、今まさにF-01-57の首を愛用の“ダ・カーポ”で無表情に切り落とした先輩がこちらに顔を向けた。
「よう後輩、遅かったじゃないか」
「は、え、はい……」
先ほどの冷たい表情なんてつゆほども感じさせないいつもの笑顔は、私の心を大きくかき乱しました。
……どうして、先輩はこんなことをしているのでしょうか?
いつもはこんな乱暴な戦い方じゃなくて、もっとスマートに、ほとんど一撃で戦いを終わらせていたのに……
戦うときは、もっと無駄にいろいろと意味不明なことをやらかして皆を唖然とさせるのに……
こんな怖い戦い方じゃなくて、もっとコミカルで、生き死にが掛かっているのにふざけるなって言いたくなるのに、思わず笑ってしまうような、そんな……
「……どうしたんだ、後輩?」
「えっと……」
どうしよう、何を聞いたらいいのかわからない。
先輩はいつもみたいに太陽のような笑みを向けてくれています。しかし、私にはそれがとても恐ろしいもののように感じてしまったのです。
「……あっ、そうだ! 先輩まさかこのアブノーマリティたちを実験の食材にしようとか言いませんよね!? さすがに人型ですし、それにこんなにめちゃくちゃだと料理にも使えませんよ!!」
「はははっ、さすがにそれはないって」
よかった、とっさに思い付いた冗談だったけど変な反応されなかった。ほんのちょっぴりこれを食えって言われたらどうしようかって恐怖もありましたが……
でも、先輩がいつも通りみたいで安心しました。正直人が変わってしまったのかと……
「そういえばさ……」
「もう、その実験もやめにしないか?」
「……えっ?」
今、先輩はなんて言いましたか? 実験をやめる?
いきなり何を言い出しているのですか? 自分で言い出したのに、そもそも実験の中止なんてできるんでしょうか?
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ……」
「実はさ、もう実験の目的は終了してるんだよな。でもお前の料理がおいしくてついつい続けてしまった」
「このまま俺が死ぬまでずっとと思っていたけど、さすがに後輩の負担が大きいなって思ったんだよ」
そんなこと、いきなり言われても困りますよ。それに、先輩が始めたことじゃないですか。私はこれでようやく私の理想に近づけると思っていたのに、いきなり突き放すつもりですか?
「せ、先輩どうしたんですか? もしかして何か変なものでも食べましたか? 先輩がそんなこと言うわけありませんもんね、いっつも私のことなんてお構いなしに好き勝手やって……」
「いや、だから悪かったって」
「いまさら!! 私をほっぽり出すんですか!? もう私は、用済みなんですか……」
「後輩……」
なんででしょう、なんで泣きそうになっているのか自分でもわかりません。本当は実験が終わってよかったはずなのに、それでもいざ終わるってなると、なんでこんなにも胸が苦しいのでしょうか?
「グスッ、先輩、やりましょう」
「……えっ?」
「実験の続き、まだやりたいことがあるんです!!」
「さて、ようやくできましたよ」
今回はちょっと嗜好を変えてデザートに挑戦しました。いつものように“名誉の羽根”で火を入れることはできませんが、その代用は考えていました。
「さぁ先輩、こちらをどうぞ」
「……アイスか」
「シャーベットです」
まったく、これだから素人は。
まぁそれはいいとして、今回は『雪の女王』に手伝ってもらってシャーベットを作りました。
「……別にどっちでもいいだろ?」
「あれ? 先輩ちょっとふてくされてますか?」
「いや違うって!」
「仕方ないのでそういうことにしておきますね」
まったく、先輩もかわいいところがありますね。
いや、それよりも早く食べないと溶けてしまいます。アブノーマリティ由来なのでそう簡単には溶けないと思いますが、早めに食べるに越したことはありません。
「ほら先輩、そろそろ食べましょうよ」
「わかったよ」
「それじゃあ」
「「いただきます」」
さっそくスプーンですくって口に運ぶ。まず最初に驚いたのはその冷たさだ。
彼女の冷気を使っているのだからもっと冷たいものだと思っていましたが、口の中に入れると優しい冷たさが口いっぱいに広がりました。
そして同時にリンゴの柔らかい甘さがやってきて、二人の女性に優しく抱擁されているかのような錯覚さえ感じてしまいます。
そして後味もすっきりで冷たさも後を引かない。思わずシャーベットを口に運ぶ手が止まりません。
「ははっ、やっぱり後輩の料理はうまいな」
「……先輩」
「悪いな後輩、心配かけちまって」
「いえ、先輩にはいつもお世話になっていますから」
……よかった、先輩はやっぱり先輩だ。優しくて、ちょっと不器用で、そして強い心を持っていて。
なんだかずっと思い詰めていたみたいですが、少しでも気が晴れたみたいでよかったです。
「……なぁ後輩」
「難ですか先輩?」
「実は俺、お前に黙っていることがあるんだ」
「……はい」
それは、薄々感じていました。日を追うごとに追い詰めた表情になる先輩、いきなり思う様にE.G.O.を振れなくなったり、今朝なんて一夜にして人が変わったのかと思うくらいでした。
「本当はお前にも伝えないといけないと思ってるんだけど、もうちょっとだけ待っててもらえないか?」
そうか、先輩はそのことでも悩んでいたんだ。きっと私にかかわることで、伝えたら大変なことになるって思って……
それならもう答えは決まってます。
「そうですか、それならいつまでも待ちますよ」
「えっ?」
「先輩の覚悟が決まるまでいつまでも待ちますから。だから、いつかそのうち覚悟が決まったら、ドーンと私の胸に飛び込んできてください」
そういって私が胸を叩くと、先輩はびっくりしたような表情を浮かべて、そしていつもみたいに笑顔になりました。
「そっか、それじゃあその時は間にクッションを置いてもいいか?」
「はっ? どういうことですか?」
「いやだって衝撃吸収性が低そうだし」
「もしかして私が貧乳って言いたいんですか!?」
悪い悪いといいながらも全然悪気なさそうな先輩。まったく、この人は人が気にしていることを……
「もう、それじゃあそろそろお開きにしましょうか」
「あぁそうだな」
「それじゃあ」
「「ごちそうさまでした」」
「それにしても、よく解毒できたよな?」
「……へっ?」
「えっ、もちろん『白雪姫のリンゴ』には毒があることは知ってるよな?」
「……」
「お、おいまさか……」ゴロゴロゴロッ
「ごめんなさい先輩、私も一緒ですから……」ギュルルルルッ
「ちょっ、おまっ、まじで……!!」
この日私たちは、一日中トイレの住人になりました。