【完結】誰も知らないアブノーマリティー   作:名無しの権兵衛

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ユメノ、オワリ

 ……夢を見ていた気がする。長い、長い夢を。

 

『ずいぶんな寝坊助だな』

 

「……輪廻魔業」

 

 目覚めて一番最初に視界に入ったのが一番視界に入れたくないやつだった。

 

 忘れられない夢を見ていたというのに、こいつのせいで全部飛んでしまうところだった。

 

『そう睨むな。ほれ、お客さんだぞ』

 

「客?」

 

 こんなところで何を言っているのかと思ったが、懐かしい香りにつられて奴の指さす方向に目を向ける。

 

「……はっ?」

 

 そしてそこにいた存在を目の当たりにして、俺は思わず呆気に取られてしまった。

 

 白銀に輝く巨大な貝殻の玉座に座しているのはかの巨大すぎるイカ、『異界の主』だった。

 

 その巨大な黄色い瞳は俺をはっきりと映しており、なにやら懐かしむように目を細めている。

 

「……それで、いったい何のようなんだ?」

 

 俺の問いに、目の前の怪物は意外にもしっかりと答えてくれた。

 

 しかしそれは言葉でもなく、直接脳に語り掛けるようなものでもなく、ただただ自然といいたいことを理解することができていた。

 

 そう、たとえるのなら直感のようなものであった。

 

「再契約? さすがにもうしないよ」

 

「やめてくれ、アブノーマリティに気に入られたってうれしくない。正直そこの外道だけでも手に余ってるんだ」

 

「そんな悲しそうにするなよ、俺が悪いみたいじゃないか」

 

 それはまるで独り言を言っているみたいだったが、相手の反応を見るにちゃんと会話は成立していた。

 

 ……まぁ隣で輪廻魔業が爆笑しているのがしゃくだが。

 

「というか、お前って起きてていいのか? たしか目覚めたら大変なことになるって……」

 

「あぁなるほど、ここではあんたも夢を見ているようなもんなのか」

 

「それで、契約はもういいって言ってるんだが…… いやいや、代理人抜きの直接契約とか言われても困るから」

 

「えっ、じゃあ祝福を? いやいやロボトミーの祝福はろくなもんじゃいたたたたっ!? やめろ脳みそがかち割れる!!」

 

 ふざけるなこいつ!! これじゃあただの押し売りじゃないか!?

 

 ……畜生、まだ頭がくらくらする。いったい何をされたんだ?

 

 

『くくくっ、大丈夫だこれを見ろ。少しはいい男になったんじゃないか?』

 

「はぁどれどれ…… いやふざけるなよこれ!?」

 

 輪廻魔業がどこからともなく持ってきた鏡を見ると、そこには明らかにやばい状態の眼が映っていた。

 

 『O-05-i18』*1のギフト、“残滓”の揺らめく左目の炎のその奥に、異様な鍵穴が瞳の中に入っていた。

 

 いやいや、これってギフトの上書き!? いや重複か? どのみちやばいことになってしまったようだ。

 

 こんな怪物のギフトなんて、やばいものに決まっている。

 

「はぁ!? おいふざけるなってぉぃおいおいっ!? なんだこれ目玉の中に手が入ってくるぞ!?」

 

 いや明らかにまずいだろ!?

 

 ナニコレナニコレ!? あっ、もしかして穴の中が異空間につながっている!?

 

 あっ、指先に何か当たった!! 一体何が入っているんだよ!?

 

「……」

 

 とりあえず取り出したものを見て、見なかったことにして元に戻した。

 

 特徴的なおててが青い炎を噴出していたが、たぶん気のせい。もしかしたら他のもいるかもしれないけど全部気のせいだ。

 

『俺からのプレゼントはどうだ? 何もないとさみしいだろうから特別に用意してやったぞ?』

 

「正直最悪だよ!!」

 

 なんでこいつは余計なことをしてるんだよ!? 本当にふざけるな!!

 

 とりあえず文句を言おうとしたその時、『異界の主』が何かを伝えようとしてきた。

 

 とりあえずこいつにも言いたいことはあるが、耳を傾けることにする。正直無視したほうが怖いっていうのもある。

 

「……えっ、こっちに向かえと?」

 

 とりあえず『異界の主』が触手を向ける方向に目を向けるが、白い空間があるだけでなにもない。

 

 ……いや、目に見えないだけで何かがいるようにも感じる。

 

 それは確かに、俺を呼んでいる。

 

 その何かのほうに歩いていくと、俺の後ろを『輪廻魔業』と『異界の主』が付いてくる。

 

 ……いや、その玉座ホバー移動できたのか。

 

「さて、ここか」

 

 結局、向かった先にあったのはシンプルな白い扉だった。

 

 俺はそれを知っている。遠い昔に、見たことがある気がする。

 

『もう、行くんですね』

 

 ドアノブに手をかけると、背後から声が聞こえた。

 

 それは『輪廻魔業』でも『異界の主』でもなかった。だが、とても聞きなじみのある声だった。

 

『あの地獄に、どれだけ頑張っても報われない、絶望の監獄に』

 

『……わかってます。たとえどれだけ止めようとも、行ってしまうんですよね』

 

『きっとここで会えたことは忘れてしまうかもしれませんが、これだけは伝えさせてください』

 

『今度こそ、貴方に幸運がありますように』

 

『……さぁ、行ってらっしゃい』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『誰も知らないアブノーマリティが、貴方を待っていますよ』

 

*1
『魂の種』

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