「私ルビー、よろしくね♪」
「……マオだ、言っておくが俺の足を引っ張るなよ」
「あら、そんな怖い顔をしてどうしたの? せっかくのイケメンが台無しよ?」
「うるせぇ、黙ってろおっさん!!」
今目の前で言い争いをしているのはルビーとマオ。二人ともかつて一緒に仕事をしてきたが、やっぱりかつてのことは覚えていないらしい。
二人は今日から新しい職員として配属されてきた。
なんというか、またこの二人と出会えたことをうれしく思う。
「おう、二人ともよろしく頼む。とりあえず二人とも順番に『O-04-i31』*1に作業を頼む。俺は新しいアブノーマリティに作業をしてくる」
「わかったわ、それじゃあ行きましょうか」
「てめぇが仕切るな、全く……」
とりあえず今日の予定を伝えると、二人とも作業に向かっていった。
さて、それじゃあ俺も作業に向かうとするか。
『おいおい、久しぶりに会ったっていうのに、随分淡泊だな』
「仕方ないだろ? あいつらにとって俺は初対面なんだから」
『そんなことは気にせず、自分がやりたいようにやればいいだろう?』
「あいにくだが、これが俺のやりたいことなんだよ」
『なんだつまらん』
頭の中で輪廻魔業が騒がしいが、軽く流して廊下を歩く。
確かにあいつらとはもっと関わりたいが、別に焦る必要はない。
『O-04-i31』は現状、管理を間違えなければ安全だ。それにあの二人はかつて長いこと生き残った優秀な二人だ。特にマオは最後まで生き残っていた。
今回も大丈夫とは言えないが、それでも心のどこかでそう信じてしまう。
「……さて、たどり着いたな」
気が付けば『T-06-i73』の収容室の目の前にたどり着いていた。
いつものように収容室の扉に手をかけて、お祈りをする。
そして思い切って扉を開けて、収容室の中に入っていった。
「……なんだこれは?」
収容室の中は、その全体がセピア色になっていた。
これは収容室の色が変わっているのだろうかと思ったが、どうやらそうではないらしい。
自分の手足を確認すると、手足や服装までもがセピア色になっていた。
……どうやらこれは、空間そのものがセピア色になっているらしい。
「色の変化以外には特に異常はなさそうか? 現状何か問題があるようには思えないが……」
『相棒、これはある意味猛毒だ。余り長居はしないほうがいい』
「……わかった」
輪廻魔業がこんなアドバイスをするとは思ってもみなかったが、ここは素直に従うことにする。
いつも茶化すようなことを言うこいつだが、まじめに警告をするということは本当によくないのだろう。
「さて、何の作業をするべきか……」
輪廻魔業のアドバイスに従って早めに作業を終わらせようとするが、正直如何しようかあまり思い浮かばない。
どの作業をしたらいいかわからない時によくやる作業があったはずだが…… まるでそこだけ風化してしまったかのように思い出せない。
いや、これはまずくないか? あまり頭が働かないぞ。
『……相棒、もう時間だ、早く出たほうがいい』
「あ、あぁ、そうさせてもらう」
どうやら作業が終了したようだ。俺自身は何かしたわけではなかったが、どうやら勝手にやらせていたことが本能作業扱いにされていたらしい。
頭の中に響く声の主に従い収容室から出る。
その声の主について思い出そうとしたが、まるでその情景が一枚の写真のように思い描かれ、徐々にセピア色になって輪郭がぼやけ、そして何の写真であったかが判別できなくなってしまった。
とりあえずメインルームに向かって歩き出す。
視線を下に向けると、なぜか俺の体だけセピア色になっていた。
「ジョシュア、戻ったか…… おい、どうしたんだその体は!?」
メインルームに戻ると、そこにいた人物に声をかけられた。
頭の中でその人物について思い出そうとするが、どの写真も色褪せてしまい、セピア色になっていた。
彼とはたくさんの思い出があったはずだが、どれも色褪せ、判別できない。
「シロ、パンドラ、お前ら手伝え! シロは精神汚染中和ガスの用意、パンドラは担架をもってきて俺と一緒にこいつを運び出すぞ!」
とりあえずうまく頭が回らない俺は、彼らの言う通りに医務室まで連れていかれ、そこでしばらくの間休憩をとることになった。
リッチとシロ、あとついでにパンドラの献身のおかげで何とか俺は色と思い出を取り戻し、精神も回復していた。
『なるほど、時間経過で戻ったか。このクリフォト抑止力というものに感謝するんだな』
輪廻魔業の言葉に思わず恐怖する。その言い方からすると、まるで本来は戻ることがないかのようだ。
……そうだ、俺はこの状況に慣れているが、ここにいる奴らはクリフォト抑止力で力を押さえられているんだ。
もし本来の力を振るうことができれば、より恐ろしい被害を出す存在が多くいるということを覚えておかなければならない。
「……はぁ、いきなりやばそうなやつに出会っちまったな」
「……いや、いったいどういうことだよ?」
中央部門も解放されたころ、俺は久しぶりに『O-04-i31』の作業を任せられた。
奴の危険性についてはすでに知っていたが、それでも管理を間違えなければ安全であることは知っていた。
しかし、その管理方法を思い出そうとすると虫食いになってしまう。しかも、俺だけでなく職員全員がだ。
何らかの異常が発生しているとされ、とりあえず俺が収容室に向かうことになったのだが、そこで俺は目を疑うものを見た。
なんと、『O-04-i31』がセピア色になっていたのだ。いやそれだけでなく収容室も所々がセピア色になっている。
……何となく、犯人に目星がついた。
前回作業を行った職員を確認すると、その職員は『O-04-i31』に作業を行う前に『T-06i73』に作業を行っていた。
さらにその職員はセピア色が治る前に作業を行ったらしい。
とりあえず『O-04-i31』に作業を行っていく。
収容室に水を撒いてやるととても喜んでいる様子だった。
そして作業を終えると、いくつかの『O-04-i31』が色を取り戻して、その内の一匹が俺についてきた。
そうだった、こいつは作業をうまく終わらせるとついてくるんだった。
とりあえず今回分かったことを管理人に伝えると、その後何度も『O-04-i31』に作業が行われ、最終的にはその色と管理情報すべてを取り戻すことができた。
そこは最初、一つの部屋に広がる異常だった。
ただ限定された空間だけがセピア色に染まる、それだけの異常現象だと、誰もが思っていた。
しかしある時、その空間に長いこと留まった職員がセピア色になってしまった。
そこからは、あっという間だった。
異常は部屋から建物全体へ、建物から周囲へ、そしてついには町一つがセピア色になってしまった。
我々はこの状況をどうにかしようと町を完全に封鎖し、町について調べた。
しかし、町についての情報は全て消えてしまっていた。
だが、町の封鎖で誰もが安心していた、これ以上はこの空間も広がらないと。
……だれが、人間だけにセピア色が移ると思ったのだろうか。
セピア色は人だけでなく鳥や虫、ネズミたちに移っていき、そしてその範囲は爆発的に広がっていった。
今では、この星にその空間から逃れるすべは存在しない。
私も今は、この空間の中でゆったりと椅子に座ることしかできない。
思い出は色褪せていく、しかし、それはある意味幸せなのかもしれない……
T-06-i73『思い出隠し』
なんかやばいことになっている気がしますが、あくまで施設内では安全です。