「ようジョシュア、なんか面倒なことに巻き込まれたみたいだな」
「リッチか、あれは面倒なんてもんじゃなかったぞ」
リッチがにやにやしながら話しかけてきたので、何があったかをあえて誇張せずに話してやった。
「はははっ、それは大変だったなぁ!」
しかしリッチはこの話を聞いて大爆笑しやがった。
畜生、自分が何の被害にもあってなかったからって、完全に他人事じゃないか!!
「うるせぇ、お前も『F-01-i63』*1の担当をすればそんなこと言えなくなるさ」
「悪かったって、そうすねるなよ」
「拗ねてねぇよ、それよりも早く次の作業に行ってきたらどうだ?」
「あぁ、そうするよ」
一通りリッチとじゃれ合ってから、お互いに次の作業へと向かっていく。
次の作業は今日追加されたツールである『T-09-i92』だ。
正直ツールなんてどう頑張っても番号から予想できるものでもないし、入っただけで即死なんてこともないから気分がだいぶ楽だ。
速足で廊下を歩いていき、『T-09-i92』のある収容室の前までたどり着く。
いつものように乱雑に扉を開けて、収容室の中に入る。
どことなく、ひんやりとした空気が漏れてきた気がした……
「……えぇ、何だこれ?」
そこにあったのは、明らかにシャワールームだった。
シャワールームはカーテンで区切られており、微妙に光が透過しているため中に誰がいるかが丸わかりだ。
その隣には柵のようなものあり、恐らくそこに脱いだ装備をかけておくのだろう。
「いや、でもこれを使うのか……」
なんというか、シャワールームということに不安があるのもそうだが、管理人にもみられているというのに使うのは少し恥ずかしい。
まぁ、管理人もわざわざ野郎のシャワー姿なんて見たいとも思わないだろうが。
だがそう考えると、これ女性が使うのはまずいのでは?
シロとか見られたらブチ切れそう……
「はぁ、とりあえず使うか……」
ひとまず使うために仕切りの向こうに入る。
内部も普通のシャワールームだ。正直デメリットどころか、メリットすら思いつかない……
装備を脱いで外の柵にかけ、生まれたままの姿となる。
そしてさっそく蛇口をひねろうとして、あることに気づく。
「うわぁ、これ熱湯と冷水で別れてるタイプか」
面倒なことに、蛇口のひねり具合で温度を調節するタイプのものらしい。
ロボトミーの寮にあるシャワーは普通に温度調節してくれるタイプなので、不便でしかない。
『いちいちこんなことで文句を言うな、早く使え』
「うるさいなぁ、わかったよ」
グダグダ考えていたせいか、輪廻魔業にせかされてしまった。
まったく、もう少し余裕を持ってほしいね。
「はぁ、なんていうかふつうだなぁ」
シャワーを浴びてみるも、特に何か感じるわけでもない。
しばらく浴びてみるも、何か力がわくような様子もなければ体が溶けるような様子もない。
「もうやめてもいいかな? おーい管理人!」
『……一応聞こえてはいるが、いつでも聞いているわけじゃないからな?』
なんと本当に聞こえていたようだ。とはいえさすがに盗聴なんてするわけじゃない…… よね?
「これいつまでやってればいいんだ?」
『こちらとしても何の変化も見られないため、もう少し使ってほしいのだが…… 大丈夫か?』
「大丈夫かといわれても、命令なのでやらせてもらいますよ。でも本当に何なんだこれ?」
『正直私にも…… あっ、少し変化があったようだ。今確認するからもう少し使っていてくれ』
「了解」
どうやら何か進展はあったらしい。いったいどんな変化があったのか、少し興味があるな。
『……もう使用を中止してくれてかまわない、ある程度効果はわかった』
「了解した」
とりあえずもう大丈夫なようだ。さっそくシャワーの使用を中止して着替える。
……なんというか、濡れた体がすぐに乾くといいう慈悲はあったようだ。
今思えば、体を拭くものがなかったからこの効果がなかったら大惨事だった。
「さて、いったいどんな効果だったんだ?」
『周囲の職員のステータスを上昇させる効果があるようだ』
「……そうか」
これ、使えるか? いや、上昇量によっては使えるのかもしれないけれど。
「まぁいいか、とりあえず戻ろう」
とりあえずメインルームへと戻ることにする。
メインルームに戻ると、職員たちが全員待っていた。
「……どうしたんだよ皆、そんな雁首揃えて?」
「いや、お前のシャワーを浴びる音が聞こえてな……」
あぁ、もしかしてシャワー音を聞いている奴のステータスをあげるのか。
……でもどうしてそんなことで?
「俺やリッチは特に気にしなかったんだが、女どもはそうはいかなかったみたいだな」
どういうことかとシロに視線を向けると、目をそらされた。
「正直私たちはちょっと興奮しちゃったのよね、だから気恥ずかしく感じちゃったみたいね」
シロの代わりにルビねえが答えてくれる。なるほど、そういうことか……
「まぁ、そういうこともあるよな」
フォローしたつもりが、シロにぽかぽかと叩かれた。……仕方なくないか?
「はぁ、今日もまたこれを使うのか」
ある程度の使い道があるからか、定期的に『T-09-i92』の使用を命令される。
こんなの使わなくてもいいとは思うのだが……
「はぁ、気持ちいい……」
『『F-01-i63』が脱走しました。職員の皆様は至急鎮圧に向かってください』
「えー」
どうやら『F-01-i63』が脱走したようだ。
まぁあいつはほっといてもいいだろうと考えたその時、なぜか視線を感じそちらを見ると……
なぜかそこには、『F-01-i63』がいた。
「「きゃあぁぁぁ!!」」
あたり一面に、二人分の叫び声が聞こえた。
T-09-i92『真夏の夜のシャワールーム』