【完結】誰も知らないアブノーマリティー   作:名無しの権兵衛

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Days-05 『魅惑の桃香』

「よし、俺の勝ちだな」

 

「畜生、また負けた!」

 

 負けが確定すると、マオは手に持っていたカードを放り投げる。

 

 カードは宙を舞ってひらひらと落ちていき、マオはしばらく頭を抱えた後せっせとカードを拾っていた。

 

「てめぇ、まさかいかさまをしてるんじゃないだろうなぁ?」

 

「いやしてねぇよ、つーかやろうとしていたのはお前のほうだろうが」

 

 けっ、と悪態をつきながらカードを片付けるマオ。

 

 なぜこんなことをしているかというと、マオも路地裏出身であり会話の中で同じカードをしていたことが分かったので、話の流れで一緒にやることになったのだ。

 

 なんだかんだで路地裏の流儀を平然と持ち出すので、いかさまを全部指摘してあとは全部運任せ。

 

 俺は運が低いほうだと思っていたが、どうやらマオはそれ以下だったらしい。

 

「それじゃ、今日の飯はお前のおごりな」

 

「ちっ、次は負けねぇからな」

 

 なんだかんだ言いながら素直におごろうとしてくれるマオ、こいついい奴だな。

 

 前回はなぜか嫌われていたから、今回こうやって仲良くできるのはうれしいことだ。

 

「さーて、何を食べようかなぁ」

 

「常識的な範囲でたのむぞ」

 

 マオと一緒に廊下を歩き、食堂へ向かう。

 

 もう飯時だからか、周囲にオフィサーたちも見えてきた。

 

「そうだなぁ、なんかいいもんないかなぁ」

 

「もう今日のおすすめとかでいいだろ?」

 

「私のお肉とかおすすめですよ~」

 

「「……」」

 

 今幻聴が聞こえてきた気がした。いやいや、まさか『F-01-i63』*1がこんなところにいるわけがないだろうが。

 

 そもそも奴がいるならアナウンスが聞こえてくるはずだし……

 

 あれ、そういえば最近あいつが脱走してもアナウンス聞いてないような気がするぞ?

 

「……今日のおすすめって、安く済ませようとしてるだろ」

 

「あれ、無視ですか? もしかして蒸しが良いって暗喩でございますか!?」

 

「あぁん? おすすめなんだから一番いいもんに決まってんだろ!」

 

「もちろんです、だから私のお肉がおすすめなんですよ!」

 

「いやいやおすすめってそもそも…… あれ、もしかしてまじでそう思ってる?」

 

「疑う必要はありません、私のお肉が一番です!」

 

 もしかしたらこいつ、単純というか、意外とピュアなのかもしれないな。

 

 時々耳に入る雑音を無視し、会話と続ける。

 

 とりあえずマオとアイコンタクトをし、会話が途切れないように雑談をする。

 

「にしても、最近愛着作業ばっかで面倒だ、なんで化け物たちに接待をしなきゃいけないんだよ」

 

「あー、あの作業って私嫌いなんですよね」

 

「そういうなよ、あいつらの機嫌を良くしたらその分俺たちにもメリットがあるんだから」

 

「だったら私の機嫌もよくしましょう! 私を食べればとっても機嫌がよくなりますよ!」

 

「ったく、あんな化け物どもにこびへつらっていると考えると反吐がでるぜ、まぁ最近はだいぶ我慢できるようになったがな」

 

「なんと、我慢は毒ですよ! その鬱屈とした気持ちを私を食べることで解消しましょう!」

 

「ならいいじゃないか、その分生存確率が上がるぜ?」

 

「ほら、私がいっぱい癒してあげますので、さっさと剥いて生でがぶっといっちゃってくださいな!」

 

「まぁそれは「ほらほら、どうしたんですかぁ!?」んだが、なんというかな「もしかしてびびってっますかぁ?」……」

 

 

 

 

 

「うるせぇ!」

 

 

 

 

 

 ついに堪忍袋の緒が切れたのか、マオは『F-01-i63』を殴りつけた。

 

 殴られた『F-01-i63』は血を流して倒れこむ、どうやら吹き飛ばされて頭部を壁にぶつけたらしい。

 

「いつもいつも面倒くさい絡み方しやがって、本当にうざいんだよ!!」

 

「いくら俺が路地裏出身だからって好き好んで人肉なんて食べるわけがねぇだろうが! 路地裏の住人を馬鹿にしてるのか!?」

 

「そもそも化け物のくせに人間みたいに話しかけてきやがって! 前々から思っていたんだが……」

 

「マオ、いったん落ち着け。こいつはもう……」

 

「あぁん!? ……あっ」

 

 とりあえずマオを落ち着かせて現状を確認させる。

 

 殴られた『F-01-i63』はすでにピクリとも動いておらず、真っ赤な血だまりの中に倒れていた。

 

「くそっ、まさか一発で……」

 

「いや、それもだけど、まずは匂いを嗅がないように鼻を塞いでこっちに来るんだ」

 

「てめぇ俺に…… わかった」

 

 俺に言われて切れそうになったマオも、周囲の状況に気が付いたのかおとなしく従ってくれた。

 

 とりあえず俺たちは鼻を塞ぎながらゆっくりと後退する。

 

 周囲には血の匂いは一切広がらず、代わりに今までにないほどに濃厚な桃の香りが充満していた。

 

 そしてそれはおそらく、人間の精神に影響を与えるのだろう。

 

 周囲にいたオフィサーたちは、明らかに正気を失った顔をしていた。

 

 血走った目を見開き、よだれをだらだらとたらしながら『F-01-i63』の死体を見つめている。

 

「ウッ ウマソッ」

 

 そして誰かがつぶやくと、狂人たちは『F-01-i63』の死体に殺到した。

 

「ウマイッ ウマスギルッ!」

 

 ブチブチぐちゃぐちゃと肉を嚙みちぎり、咀嚼する音。

 

「コンナニウマイニクハハジメテダッ!」

 

 じゅるじゅると液体を啜る音。

 

「ニンゲンッ、ウマスギルッ!」

 

 バリボリと骨をかみ砕く音。

 

『規制済み』

 

『規制済み』

 

『規制済み』

 

 

「うっ」

 

「これくらいで吐くな、路地裏でも見たことくらいはあるだろうが……」

 

「だけど、このレベルは見たことねぇよ」

 

「……それは、俺も同感だ」

 

 悍ましい光景だ。

 

 正気を失ったオフィサーたちは、『F-01-i63』の死体に群がっていた。

 

 そして、群がった狂人たちは、一瞬のうちにその肉体を、血の一滴すら残さずに食らいつくした。

 

「ニンゲンッ、マダノコッテルッ」

 

「ちっ!」

 

 そして全てを食い散らかした彼らは、次の狙いを定め始めた。

 

「モットッ、モットタベルッ!」

 

「……畜生がっ」

 

 結局彼らを拘束することはかなわず、鎮圧するほかになかった……

 

 

 

 

 

「さぁお客様、今日こそ私のお肉を食べていただけますか?」

 

 あれから、『F-01-i63』の鎮圧は原則禁止となった。

 

 まぁ、あんなことがあったのだから当然だが、あれからも『F-01-i63』は日常のように脱走をしている。

 

「ほらほら、今日も私のコンディションは完璧ですよ! 今日こそガブっといっちゃってくださいな!」

 

 あの事件の後も、こいつの様子が変わることがなかった。今日も変わらずに俺たちに自身の肉を食べさせようとする。

 

 こいつは人間と一緒のような姿なせいで、どこか人と同じように感じてしまっていたらしい。

 

 だがこの異常な行動を見れば嫌でもわかってしまう。

 

 やっぱりアブノーマリティとは、わかり合うことができないのだろうと……

 

 

 

 

 

 おい、こんな話を聞いたことがあるか?

 

 なんでも桃だけ食わせた人間を食用に売っている店があるらしいぞ?

 

 しかもその肉はめちゃくちゃうまくて、食えば不老長寿の妙薬にもなるって話らしい。

 

 ……えっ、興味があるのかって?

 

 いやいやそんな店があるわけないだろう?

 

 おいおい、紹介してやろうかって、もしかして……

 

 本当に喰えるのか、最高の肉を!

 

 

 

 

 

 F-01-i63 『桃源の甘露』

 

*1
香り以外良いところがない奴




一日遅れてすいませんでした。
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