Days-06 F-02-i32『騙されるほうが悪いのさ』
「僕の名前はフリッツです、よろしくお願いします!」
「私の名前はぁ、サラっていいますぅ。よろしくお願いしますねぇ」
今日から情報チームが解禁され、新たな職員たちがやってきた。
一人は、やる気十分な青年、フリッツ。もう一人は前回でも何かと問題を起こしていたサラであった。
サラはギフトが大好きな変人で、その分ギフトのためなら何でもしようとするところがある。
かつてはなんどか苦労させられたが、今回はどうだろうか?
「さて、とりあえず二人には『O-04-i31』*1の作業を行ってもらう」
「危険性は低いが、十分気を付けて作業を行ってくれ」
「わかりました!」
「さぁて、私も頑張りますねぇ」
新人二人が作業へと向かっていくのを見送ってから、俺も廊下を歩き始める。
今回収容されたアブノーマリティは『F-02-i32』だ、Fカテゴリだが、出来れば知っている童話であってほしいところだが……
『まぁ気にすることはないだろう? どうせこんな番号でわかるはずないんだからなぁ』
「そうは言うが、少しでも事前に情報が得られるのは大切なことだろうに」
『ふっ、そうやって得た情報に足をすくわれなければいいな』
「うるせぇ」
まったく、こいつはこうやってすぐに俺のことを茶化してくる。
もう少し静かにできないものだろうか?
「……っと、もう着いたか」
さっそく『F-02-i32』の収容室の前までたどり着いた。
いつものように収容室の扉に手をかけてお祈りをする。覚悟を決め、思い切って収容室の扉を開く。
「おっ、人間だ! よろしくね!」
「……」
収容室に入ると、そこにいたのは狸だった。
しかもただの狸ではない。胴体が茶釜のように変化した、まん丸体型の可愛らしいぷんぷく狸だった。
しかし、そんなことはどうでもよい。
問題なのは、この周で初めてのモフモフであるということだ。
「あれ、どうしたんだい人間。なにか珍しいものでも見たかのように……」
「何でにじり寄ってくるんだい? えっ、ちょっと待って何をみぎゃあぁぁぁ」
相手に警戒されないように自然に近づいてから、高速で接近し激しく、それでいて丁寧にモフモフをする。
あぁ、このちょっとした獣臭さとすこしゴワゴワめのモフモフがたまらない!
「もー、いきなり何するんだよ!」
「はっ、いきなり済まない。あまりにモフモフしていたため、我を失っていた」
「……どういうこと?」
小首をこてんとかしげるのもかわいいなぁ。
「いやいや、君が可愛いってことだよ」
「むふー、まぁそれなら仕方ないな」
そういいながら胸を張る『F-02-i32』、くっ、あざといな。
可愛いのでもう一度頭を撫でてみる、ただし今度は優しく、気持ち良いようにだ。
「なっ、何をする!?」
「大丈夫だって、今度は優しく撫でるからさ」
「うーん、なら良し!」
許可を貰ったので目一杯愛でることにする。
最初はくすぐったそうにしていた『F-02-i31』だが、暫くするとふにゃふにゃになっていた。
「むふー、そこそこ〜」
「おっ、ここらへんか?」
「あ~気持ち〜」
どうやら相当お気に召したようで、完全にペット状態だ。
危うくこいつがアブノーマリティだということを忘れてしまいそうになる。
「おっと、そろそろ時間だな」
「えぇ~、もう終わるのかぁ~?」
「そう言うなよ、また来てやるから」
「絶対だぞぉ?」
「おう、絶対だ!」
『F-02-i32』と約束をして、収容室を後にする。
久しぶりのモフモフにご満悦だ。
『……おい、アブノーマリティ相手にあんな対応で良かったとか?』
「駄目に決まってるだろ? ただ命を賭けて癒やされに行っただけなんだから」
『……お前はたまによくわからなくなるな』
何を言っているのだろうかこいつは、その言い方だと俺が変なやつみたいじゃないか。
輪廻魔業の奴に憤慨していると、フリッツのやつが駆け足で近寄ってきた。
その方には綿毛が乗っている、どうやら作業には成功したらしい。
「ジョシュア先輩、みてくださいよ! 可愛いですよ!」
彼はのんきな笑顔で、肩の綿毛を俺に見せてくるのだった……
「ようマイケル! どうしたんだ?」
「あっ、ジョシュア! んんっ、いや今から作業に向かうところなんだ」
「何の作業に行く予定なんだ?」
「えっ!? えーと…… 『F-01-i63』*2のところだったかな?」
「そうか、頑張れよ」
もうすぐ次の部門が解放される頃、最近入ってきたマイケルとたまたまばったりと会った。
もう少し話をしたいところだったが、どうやら急いでいるようですぐに行ってしまった。
『おいジョシュア、あのまま行かせてしまって良かったのか?』
「うん? どういうことだ?」
『……まぁ、気が付いていないのであればどうでもいいか』
一体何が言いたかったのだろうか? そのことについて考えようとした瞬間、目の前に信じられない光景が飛び出してきた。
「やあジョシュア、仕事のほうはどうだ?」
「……あれ、マイケル? 『F-01-i63』の作業に行ったんじゃなかったのか?」
そこにいたのはマイケルだ、しかもさっきと同じ方向からやってきていた。
「いや、次の作業は『O-04-i31』のはずだが…… 一体どうしたんだ?」
「今お前にあったんだが、その時は『F-01-i63』の作業に行くって言っていたんだが……」
「それはおかしいな、俺は今初めてお前と話をしたのだが……」
お互いに目を合わせ、状況を整理する。これは厄介なことになったかもしれない。
「ちなみに、この前は何の作業をしていたんだ?」
「『F-02-i32』だ、あまり作業がうまくはいかなかったが」
「ならもしかして、さっきのマイケルは!?」
俺はマイケルとアイコンタクトをとると、一緒に急いで『F-01-i63』の収容室へと向かう。
道行く人々がマイケルの顔を見て驚いている、この反応からして奴は律儀に目的の場所を教えてくれたらしい。
「お前、何をしている!?」
『F-01-i63』の収容室のある廊下にたどり着くと、偽マイケルが『F-01-i63』の収容室の前にいた。
手にはバールを握っており、それだけで何をしようとしているのか理解する。
「お前よくもだましたな!? 今すぐその手に持っているものを放すんだ!」
「へっ、やなこった! それに、騙されるほうが悪いのさ!」
そういって奴、マイケルに変装した『F-02-i32』は振り上げたバールを収容室にたたきつけ……
「はーい、呼ばれて出てまいりましたよ! ご注文の私です!」
そして、奴が解き放たれた。
「さぁお客様方! さっそく私をいただいて…… あれ、何だか獣臭いですよ。獣くさっ!? ちょ、何ですかこの臭いは、こんなくっさい匂いしてたらせっかくの私の繊細な風味が台無しですよ!! ……あっ、もしかしてこの獣臭い肉に浮気ですか!? こんなゲロまずそうな匂いの肉なんて食べたらお腹壊しちゃいますよ!! ぺっしてください、ぺっ!! そんなやつさっさと『バタンッ!!』」
「……」
自ら扉を閉めた『F-02-i32』は縋るようにこちらに視線を向けてくる。
だが俺たちにやつを助ける義理はない、というか奴とかかわりたくない。
とりあえず目をそらすと、扉が勢いよく開く音が聞こえた。
「こんの泥棒猫がっ!! よくも私の大切なお客様をその薄汚い肉で誘惑してくれましたね!?」
「いや知らないよ! 人違いです!!」
「うるさい、言い訳なんて聞きたくありません!!」
……とりあえず、明らかに不毛な争いが起こり始めたので、E.G.O.を用意する。
もちろん作るのは、狸と変態の合い挽き肉だ。
その昔から、様々なところで狸たちは いたずらをし続けてきた。
その結果、昔話に出てくる狸といえばいたずら者。
変化の術は一級品、その分いたずらも一級品。
狸に悪気は一切ない、何ならこう思っている節まである。
そう、騙されるほうが悪いのさって……
F-02-i32『小さくて意地悪な狸』