【完結】誰も知らないアブノーマリティー   作:名無しの権兵衛

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Days-02 O-09-i79『我々は神を超えた』

「こんにちは先輩方! マキです、よろしくお願いします!」

 

「……ふん」

 

「おう、二人ともよろしくな」

 

 今回新しく入ってきた職員はマキとアセラだ。マキもアセラも前回とほとんど変わらない様子だった。

 

 ……いや、アセラは少しくらい変わってもよかったんだよ?

 

「ちょっとアセラさぁ、自己紹介もできないのはまずくない?」

 

「うるさい、僕に付きまとうな」

 

「ちょっと、せっかく心配してるのにそれはないでしょうが!」

 

 騒がしくするマキを完全に無視するアセラ、もしかしたら前回よりも二人の仲は悪くなりそうだな。

 

「まぁまぁ、二人とも落ち着け。この職場では冷静さをなくした奴から消えていくぞ」

 

「……ふん、言われてるぞ」

 

「なにそれ、もう知らない!」

 

 マイケルがこの場を収めようとしたが、うまくいかなかったようだ。

 

 結局アセラはそっぽを向いてどこかへ行ってしまった。

 

「すまないジョシュア、余計なことをしたかもしれない」

 

「気にすんなよマイケル、どうせこうなってたと思うよ」

 

 とりあえずマキの相手をマイケルに頼み、俺は作業に出かけることにした。

 

 今回はツール型アブノーマリティの日だ。

 

 正直ツール型ってめったに使うことがないから気乗りしないんだよなぁ。前回のツールである『T-09-i92』*1もほとんど使っている奴いないし……

 

『まぁそういうな、どうせこんな死と隣り合わせな場所だ。せっかくだし命を懸けられるところでかけたらいい』

 

「いやお前、それはチャレンジャーすぎるだろ。いくら他人の命だからってそれはないだろうが」

 

『? 何言ってるんだ、これくらい当たり前だろう』

 

「えぇ……」

 

 こいつまさかの素で言っていたのか、まさかこんなところでこいつとの価値観の違いを見せつけられるとは思わなかった。

 

「……っと、もう着いたのか」

 

 気が付けば『O-09-i79』の収容室の前にたどり着いていた。

 

 いつものように収容室の扉に手をかけ、適当に扉を開く。

 

 収容室の中からは、異なる二つの気を感じた……

 

 

 

 

 

「……うわぁ」

 

 収容室の中には、神聖な気配と邪悪な気配がごちゃ混ぜになった気持ち悪さが充満していた。

 

 収容室の奥には、ツールが収められたカプセルが存在している。

 

 そのカプセルの中には、注射器が浮かんでいた。

 

「注射器とか、もうこの時点で嫌な予感しかないなぁ」

 

 注射器の中には、赤黒い半透明な液体が入っていた。

 

 どう考えても、これを自分で注射しろってことだろう。

 

 ……正直嫌なんだけど、マジで嫌なんだけど。

 

 だって俺注射苦手なんだよ、我慢はできるけどいまだにうってもらうときに目をつぶって見えないようにしちゃうんだもん。

 

 ただでさえ苦手なのに、さらに自分で打つなんて嫌すぎるだろ!

 

『まったくうるさい奴だ、それくらい早くしたらどうだ?』

 

「うるさい、苦手なもんは苦手なんだよ!」

 

『まったく仕方がない、何なら俺がうってやろうか?』

 

 一体何を言っているんだこいつは?

 

 ……いや、なんかこのままだと本当に出てきそうだし、さすがにそれはまずすぎる。

 

 こうなったらもうやるしかない、男は度胸だ!

 

「うぐぅ」

 

 思い切って注射器を手に取り、自分の腕に注射する。

 

 すると一気に熱が体の全身に駆け巡り、体内の血液が沸騰したかのように錯覚する。

 

 心臓の鼓動は爆発的に早くなり、体は熱いはずなのに体感温度がどんどんと低くなってくる。

 

 あまりの寒さに体が震え、顎ががちがちとなり始める。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 注射からしばらくして、ようやく症状が治まってきた。

 

 正直これでなんの変化があったのだろうか?

 

 別に精神や体力が回復している様子もないし、何かステータスが変わった様子もない……

 

「……なぁ、何か変化を感じるか?」

 

『それを言ったらつまらんだろう? まぁ、お前にはあまり縁がなさそうな力ではあるがな』

 

「なんだよそれ?」

 

 どうやら輪廻魔業にはこれが何かわかるらしい。

 

 しかし、俺にはあまり縁がないとはどういうことだ?

 

「……まぁ、考えても仕方がないか」

 

 とりあえず収容室から退出する。

 

 やっぱり体に変化がない、調子が良くも悪くもない、正直あの副作用でこの変化のなさは逆に不気味だった。

 

「まったく、これだからツールは嫌なんだよ……」

 

 

 

 

 

「……くそっ、しくじった」

 

 血があふれ出して止まらない、どうやらもう助かりそうにない。

 

 ……畜生、まさかこんなことになるなんてな。

 

「ジョシュア、ジョシュア!」

 

「完全に頸動脈が切れてやがるっ! くそっ、早くHP回復弾を持ってこい!」

 

「だめだ、『O-04-i31』*2が邪魔で弾丸が打てない!」

 

 くそっ、周囲が綿毛に囲まれてよく見えない。シロは助かったのだろうか?

 

「やばっ、もしかしてこれって私のせいですか?」

 

「そんなことはどうでもいいから早く綿毛を振り払うのを手伝え! 非力なお前でもそれくらいできるだろうが!!」

 

「まぁ、私も食べてもらう前に死なれても困るので、お手伝いはしますけども……」

 

 周囲の声が聞こえる、それに交じって何かを切り裂くような音も……

 

 どうやら、まだ青空の黎明と戦っているようだ。

 

 完全に油断だった。綿毛、いるだけで邪魔な『F-01-i63』*3、狙われたシロ……

 

 たとえ不利な状態でも、落ち着いて戦えばこんなことにはならなかった。

 

 それでもこうなってしまったのは、相手が黎明であったからという油断だろう。その一瞬のスキを突かれ、足元をすくわれることになったのだ。

 

「すまない……」

 

 意識が沈みゆく、あたり一帯が真っ暗になり体がみな底に向かっていくかのようだ。

 

 見えない手のような何かが、俺のことを引きずり込もうとしてくる。

 

 ふと周囲を見てみると、俺と同じように何かが手に引きずり込まれていることに気が付いた。

 

 ……いや、それは俺と同じではなく、もがいて浮き上がろうとしている。

 

 そこで、俺は直感的に理解した。

 

 きっと、ここで藻掻かないと後悔してもしきれないと。

 

「ふざけるなよ!」

 

 見えない手を振り払い、必死にもがき続ける。

 

 必死に腕を振るって、上へあがっていく。

 

 見えない腕に引きずり込まれないように、隣の何かに先を越されないように……

 

 

 

 

 

「はっ!?」

 

「ジョシュア!?」

 

 気が付けば、目の前にシロがいた。

 

 どうやら俺を抱きかかえてくれていたらしい。

 

「よかった、生きてたんだ……」

 

「あぁ、心配をかけたな」

 

 シロの抱きしめる力が強まる。

 

 俺も抱き返すと、ふと腕に模様が浮き上がっていることに気が付いた。

 

 俺の腕には、杖に巻き付く蛇の模様が浮き上がっていた。

 

 

 

 

 

 かつて医学の神は、死者をよみがえらせた。

 

 しかしそれは神の怒りにふれ、雷に打たれることとなった。

 

 我々は彼の偉業を追い求め、ついには死者をよみがえらせることに成功した。

 

 それがたとえどんな形であれ、確実に死者をよみがえらせる方法を編み出したのだ。

 

 そう、我々はついに、神を超えたのだ。

 

 

 

 

 

 O-09-i79『螺旋の蛇』

 

*1
『真夏の夜のシャワールーム』

*2
『幸せの贈り物』

*3
『桃源の甘露』

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