Days-11 T-04-i54『じわりじわりと近づいてくる』
「……ジョシュア、どうしたの?」
「あっ、あぁ…… ちょっと考え事をしていたんだ」
今日の業務前に考え事をしていると、シロが話しかけてきた。
考え事といっても『F-02-i32』*1のことについてなので、そうたいしたことでもないのだが……
「……そう、ならいいんだけど」
「なんか俺、変なところあったか?」
「……ううん、ただ、ちょっと楽しそうだったから」
楽しそう? 俺が?
……確かに、あの狸との約束をどう守ろうか考えるのは、ちょっと楽しんでいたかもしれない。でも顔に出すほどだっただろうか?
「それよりも、新しいE.G.O.になったんだな」
「……うん、おいしそうでしょ?」
「いや、おいしそうって……」
自分の装備への言及でその感想はよいのだろうか?
ちょっと話をそらそうとしたらまさかの反応で面を食らってしまった。
「……それじゃあ、そろそろお仕事行ってくる」
「おう、それじゃあ俺も行ってくるよ。今日も頑張って生き残ろうな」
「……うんっ!」
いつものように別れの挨拶をすると、シロはいつもと違ってちょっと嬉しそうな表情で返事をして去っていった。
「……さて、今日のアブノーマリティは『T-04-i54』だな」
今日作業するアブノーマリティの収容室へ向かって歩いていく。
今回収容されたアブノーマリティは『T-04-i54』だ。無生物に分類されるアブノーマリティだが、トラウマカテゴリーであることで妙に嫌な予感がするんだよなぁ。
『なんだ、まだ本物を見る前に怖気づいているのか?』
「うおっ、びっくりした! 最近話しかけてこないからもう消えたのかと思ったじゃないか」
「……それで、今回は何か企んでいるのか?」
『そう警戒するな、最近いろんなアブノーマリティと仲良くやっているではないか?』
『……そもそも、この状況になってから俺は何もしていないはずだが?』
「あーハイハイ、そう気にすんなって」
はぁ、まったく…… 最近静かにしていると思ったらすぐにこれが。というか意外と細かいことを気にするんだなこいつ。
「さて、そろそろつくな。ちょっと静かにしていてくれよ」
『……はぁ』
えぇ、もしかしてこいつに呆れられた? それはちょっと傷つくな……
気が付けばもう収容室の目の前についていた。
いつものように扉に手をかけ、お祈りをする。そして、お祈りを終えると思い切って扉を開いた。
収容室の内部から、粘着質な音が聞こえる。
その時点ですでに嫌な予感がしていたが、何とか気を確かにもってその音のする方向へと目を向ける。
……収容室の中心にいたのは、巨大なナメクジであった。
その俺の胸ほどまである巨体は、こちらを舐るように観察しているように見える。
表面からぬめぬめとした粘液を常に分泌しており、体をくねらせながら不快な粘着質な音をまき散らしている。
いや、その汚らしい黄土色の体表をよく観察してみると、正確にはこいつが巨大なナメクジではないことに気が付いた。
それは、拳大の大きさのナメクジの塊であった。それらは群れて一塊となることでナメクジの形をとり、あたかも一つの存在であるかのように見せかけているのだ。
それはぬめぬめした粘液を垂らして床を汚しながら、じわりじわりと近づいてくる。
まるでこちらに甘えるように、じわりじわりと……
「ひいぃぃぃ!?!?」
俺は悲鳴を上げて思わず後ずさる。が、しかしすぐ背後に扉があったことで、それはかなわなかった。
「ちょ、ちょっとまて! これ以上近づいてくるな!!」
とりあえず収容室内で『T-04-i54』から逃げ回る。しかしこいつは何が楽しいのか俺を追いかけまわしてきやがる!!
「ふざけるな、遊んでるんじゃないんだぞ!!」
E.G.O.をぶつけてやろうかと思ったけど、それはそれで後悔しそうだからやめた。
『ぎゃはははっ!!』
「ふうっ、ふうっ、畜生!」
とりあえず落ち着いてきたので収容室の掃除を始める。この気持ち悪い収容室をモップでとにかくこすりまくる。
しかし掃除をしたところを『T-04-i54』が片っ端から塗りつぶすように移動してくる。ついでにこちらに対して威嚇のような行動を行ってきているので、もしかしたらあまり良くなかったのかもしれない。
「……はぁ、とりあえずこれで終わりか」
時間が来たので収容室から退出する。『T-04-i54』は最後まで不満を表していたが、そんなものは知らん。
できることなら、もう二度とこいつの作業は行いたくないな。
『『T-04-i54』が脱走しました、近くにいる職員は直ちに鎮圧に向かってください』
「えぇ、あいつの作業に行ってたのて誰だよ……」
「……新人の子、今施設内を走り回っているみたいだから止めに行ってくる」
「おう、頼んだぞ」
ある程度作業が落ち着いてきたころに、脱走のアナウンスが鳴り響いた。どうやら『T-04-i54』が脱走したらしい。
……はぁ、やっぱり脱走するのかお前。仕方がない、シロはパニックになった職員を落ち着かせに行くようだし、俺が鎮圧に行くしかないだろう。
「さて、さっさと鎮圧しに行くか」
とりあえずE.G.O.を構えて鎮圧に向かう。とはいってもここから脱走した廊下まではそう遠くない、とにかく走ってさっさと終わらせに行こう。
「さーて、どこにいるのかなって…… あれ?」
『T-04-i54』が脱走した廊下にたどり着いたが、周囲のどこを探しても見当たらない。
そこで真上から気配を感じ、まさかと思って上を向こうとしたその時、首筋に何かひんやりとしたものがボトリと落ちてきた。
「一体なに…… が……」
首筋に落ちてきた何かをつかむと、それは気味の悪い粘液に覆われていた。
そして手に持っていた気持ちの悪いナメクジを投げ捨てると、廊下の天井に目を向けて、そしてそれと目が合った。
「ぎゃあぁぁぁ!!!」
それは群にして個、すべてがつながり一つとなる。
たとえ離れていたとしても、それらは常につながり、一つであるのだ。
彼らは今日も、周りの者たちとつながろうと目論んでいる。
たとえそれがかなわぬ夢であったとしても……
じわりじわりと、近づいてくる。
T-04-i54『スネイルレイン』
「……ジョシュア、大丈夫?」
「うーん、あれ? ここは……」
気が付けば目の前にはシロの顔が広がっていた。
とりあえず体を起こして周囲を確認する。どうやら気絶して休憩室に運び込まれていたらしい。
……というか、もしかしてさっきまで膝枕されていたのか?
「……ジョシュア、『T-04-i54』にのしかかられて、気絶してた」
「うげぇ、俺そんなことをされていたのかよ」
「……うん、なんだか妙になつかれていたみたい」
「えぇ、それは全然うれしくないぞ」
もうできれば『T-04-i54』の作業は行きたくないな、いや本気で。
「ふふっ、ジョシュアは相変わらず虫が苦手だね」
「仕方がないだろ、生理的に受け付けないんだよ……」
「そういえば、昔誰かのいたずらでひっくり返った大きな虫にびっくりしていたこともあったよね?」
「あぁ、『T-02-i29』*2の時のことか。あの時はパンドラが…… えっ?」
今の発言に思わず目を見開く。この話は、前回の時しか覚えていないはず……
混乱している俺をよそに、シロは可愛らしい笑みを浮かべて口を開く。
「やっぱり、ジョシュアはジョシュアなんだね?」
「あぁ、いや、えっと……」
「言わなくてもいいよ、わかってるから……」
「僕は覚えているよ、ジョシュアも覚えているんだよね?」
とりあえず仕事が落ち着くまでは、週に1体分くらいは更新していきたいですね。
それはそうと、ようやく『たった1冊の完全な本』に至りました。