「えっ、俺の昔話が聞きたい?」
「……うん。今思えば、ジョシュアがここに来る前のことあまり知らないから」
「別に面白い話はないぞ? どこにでもある普通の話だし……」
「……それでもいい、お話を聞かせて?」
「それでもいいなら話すけど。そうだな、どこから話そうか……」
「さってと、そろそろ作業に行きますか」
今日も今日とて、仕事の時間がやってきた。
そろそろやばめのアブノーマリティが収容されるようになる時期だ、気を付けなければ。
今回収容されるアブノーマリティは『O-05-i52』、できれば危険でない奴だといいのだが……
「あっ、ジョシュア先輩! 今から仕事っすか?」
「あらジョシュアちゃん、今日も精が出るわね」
「おうロバート、今日も元気だな。ルビねぇも調子よさそうだな」
そろそろ収容室に向かおうと考えていると、ルビねぇと最近入ってきたロバートが俺に声をかけてきた。
前の週ではロバートは残念な結果に終わってしまった。しかし今回の週では以前死んでしまったマイケルが元気に過ごしているのだ、ロバートも無事な可能性もある。
「今からお仕事? 頑張ってね」
「よーし、それじゃあ俺もジョシュア先輩目指して頑張るとしますかねぇ」
「あんまり頑張りすぎるなよ? それじゃあ俺は行ってくるよ」
「頑張ってね」
「行ってらっしゃいっす」
二人に見送られて収容室へと向かう。二人に見送られてふと、以前は彼らは同期であったが今回は違ったなと思い出す。
まぁ最初から前回とは違う人事だったしそんなものかと思いながら廊下を歩いていく。
今回のアブノーマリティは人工物だ、いったいどんな奴かはわからないが、とりあえずいつも通り見て決めるしかないだろうな。
「さて、あまり危険でないといいのだが……」
『そんな考えで足元をすくわれないといいな』
「ちょっとくらい希望を持たせてくれたっていいじゃないか」
『俺がどういう存在かわかっているのか……』
あっ、そういえばこいつは絶望を振りまく存在だったな。最近こいつの本当の姿を見ていないから失念していた。
「まぁいいじゃないか、それよりもついたぞ」
『俺はお前のことが心配になってきたぞ……』
あれ、もしかして俺こいつに呆れられてる?
……まあいいか。それよりも収容室の目の前にたどり着いたんだ。
いつものようにドアに手をかけてお祈りをする。そして気合を入れて扉を開いた……
「うっ、なんだこいつは……」
収容室に入ると、妙に甘ったるい匂いが香ってきた。
前回の『F-05-i60』*1と同じようで、どこか決定的に違う匂い。それはかすかに感じる鉄のにおいのせいだろうか?
「今回のこいつは…… ケーキか?」
収容室の中央に存在したのは、巨大なショートケーキだった。
それはまるで子どもの夢のように、食べきれないような大きさのケーキであった。
しかし、普通のケーキとは決定的に違うところがある。
それは、このケーキが所々血に汚れている点、まるで手足のようにティーカップや皿、フォークやスプーンが生えている点、よく見ればスポンジの中央部分に歯が生えている点、そして何より……
「いや、なんか足りなくね?」
「!?」
俺のつぶやきに、『O-05-i52』がすこし反応した気がした…… あれ、なんか気に障った?
「……さて、それじゃあ作業をしていくか」
とりあえず作業をしないことには始まらない。とりあえず食品だし洞察作業を行ってみる。
「……あー、やっぱりさっきの発言ミスったか?」
『O-05-i52』は明らかに歯をカチカチながらこちらに威嚇しているように見える。どうやら地雷を踏んでしまったらしい。
「まぁ、あんまり気にしても仕方がないか」
とりあえず襲われる心配もなさそうなので、作業を続ける。とはいっても、清掃もさほど時間もかからずすぐに終了した。
「さて、さっさと退散するか」
なにやら『O-05-i52』がそわそわしているように見えるが、気のせいだよな?
とりあえず収容室から出て廊下を歩く、なんとなくさっさとここから離れたほうがいい気がした。
「あっ、ジョシュアさんお疲れ様です」
「おう、お疲れ」
廊下を歩いていると、オフィサーの子が話しかけてきた。早めにここから離れたかったが、まあ多少話をしても大丈夫だろうと考えていると、収容室から何かが飛び出してきた。
「キシャアァァァァ!!」
「うっそだろお前!?」
いきなり俺に襲い掛かってきた『O-05-i52』に、とっさに“綿毛”で攻撃を防ぐ。
とりあえずオフィサーを助けようと彼女のほうを向くと、気が付くと『O-05-i52』は彼女に向かってその大きな口を開いていた。
「なっ、やめろぉ!!」
俺の声は届くことなく、『O-05-i52』はオフィサーに食らいつき、惨い音を立てながら咀嚼していた。
そして『O-05-i52』がしばらく咀嚼していると、やがて『O-05-i52』の上部にさっきのオフィサーの頭が生えてきた。
……あぁ、イチゴが足りなかったのか。
そこで妙な納得をするが、まだ事態は終わっていない。
“綿毛”を構えながら『O-05-i52』の様子をうかがう。
しかし、『O-05-i52』はこちらを一瞥するとそのまま収容室へと帰っていった。
「……はぁ?」
予想外の展開に思わず変な声が出た。
もしかしてこいつ、勝手に帰っていくのか。
「……いやいや、今はそっちよりあの子のほうだろう!」
とりあえず再び収容室の中に入る。収容室の中では『O-05-i52』がくつろぎ、上に生えてるオフィサーの視線がこちらに向けられていた。
「……もしかして、意識ある?」
「えぇ、まぁ、はい」
「大丈夫か?」
「いやいや、全然大丈夫じゃないですよ。だって体がないのは感覚でわかるし、でもなんだかふわふわしてて居心地はいいかも……」
「まぁ、そんな感じなのであんまり気にしないでくださいね」
それだけ言うと彼女は、ほわほわのクリームで蕩けた様な可愛らしく笑みを浮かべた。
結局今回もこうなっちゃいましたね。
……んっ、そうだな。
ちゃんと話聞いてますか? やっぱり異常ですよ、『T-05-i08』*2は。
確かにそうだな、今回も前回も、こんな悍ましい存在を作り上げてしまうのだから。
さっきからどこか上の空ですけど、どうしたんですか?
……いや、こいつショートケーキのくせにイチゴがないじゃないか。
えっ、それって今考えることですか?
いや、大切なことだろう?
O-05-i52 『フレディのニヤニヤべつばらスイーツ』