【完結】誰も知らないアブノーマリティー   作:名無しの権兵衛

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Days-13 F-01-i36『波に紛れて貴方を思う』

「さて、どこから話そうか」

 

「そうだな、俺が覚えている限り昔のことを話そうか」

 

「とりあえず俺は、気が付けばこの都市にいたんだ」

 

「小さいガキだったし最初は右も左もわからなかったけど、近所の爺さんが俺に良くしてくれてさ、いろいろなことを教えてくれたんだ」

 

「どこの誰とも知れないガキを育ててくれた爺さんには感謝しているよ」

 

「爺さんはみんなから頼られていて、よくいろんな頼みを聞いていたんだ」

 

「そのせいで恨みを買っちまったんだろうな…… 爺さんは首から上と内臓だけの状態で生きながらえさせられていた」

 

「俺にできたことは、爺さんを楽にしてやれることだけだったよ」

 

 

 

 

 

「……さて、今日も仕事の時間だな」

 

 今日も今日とて、地獄の時間がやってきた。

 

 教育部門ももうすぐ終わりだ、できることならこのままの流れで安全な奴が来てほしいが……

 

「ジョシュア、何か悩み事か?」

 

「あぁ、マイケルか、ちょっと今回の奴がどんな化け物だろうか考えていてな」

 

「そんなこと考えても仕方がないだろう? 悩んでいる暇があったらさっさと行ってくれ」

 

「お前自分に関係ないからって適当言いやがって……」

 

「そういいながら結局生き残ってくるんだろうが」

 

 そういいながら肩をたたくマイケルに、俺は何も言えなくなってしまった。

 

 確かに今までのことを考えたらそう思われるよな。俺だってそう思う。

 

「そんな顔するなって、今日の昼めしおごるからさ」

 

「……はぁ、約束だぞ」

 

 とりあえず飯をおごってくれるというのならありがたくもらっておこう。

 

 確かにマイケルの言うことも正しいので、今日収容されたアブノーマリティの収容室へと向かっていく。

 

 今日収容されたアブノーマリティは『F-01-i36』、童話の人型アブノーマリティだ。

 

 童話ならよっぽどマイナーでない限りは見てわかるはずだ。

 

「……さて、もう着いたか」

 

 いつものように収容室の扉に手をかけてからお祈りをする、そしてお祈りを終えてから力を入れて扉を開いた……

 

 

 

 

 

 ザザァ ザザァ……

 

「……あぁ、なるほど」

 

 収容室に入ると、まずは潮騒が聞こえてきた。

 

 しかしこの潮騒はかつて聞いたあの潮騒とは違い、どこかもの悲しげなものを感じた。

 

 収容室の内部はその半分が海に沈み、残りの半分は砂浜となっていた。

 

 そしてその生みの部分の中心からは岩が突き出しており、その岩の上には一人の少女が座っていた。

 

「……きれいだ」

 

 その少女は、きれいな金色の髪を風靡かせながら歌を歌っていた。

 

 目を閉じ風を感じながら歌う彼女には、一つ普通の人間とは違う部分があった。

 

 それは彼女の下半身が、魚の尾のようになっている、つまり人魚であるということであった。

 

 彼女は歌を歌うことに夢中になっていたようだが、俺のつぶやきを聞いたのか歌を止めるとこちらを見つめてきた。

 

「……なんだ?」

 

 彼女は俺のことを見て目を見開くと、いきなり海の中に飛び込んだ。

 

 一体何なんだろうと思っていると、浜辺の付近で彼女が海面から顔をのぞかせていた。

 

 その目は何かを求めているような期待しているような瞳であった。

 

「あー、もしかして撫でてほしいのか?」

 

 なんとなく撫でてほしそうにしていたので、軽く撫でてみる。

 

 すると『F-01-i36』は気持ちよさそうに目を細めていた。

 

『……』

 

「ん? 何か気になることでもあるのか?」

 

『……いや、なんでもない』

 

 なんとなく、輪廻が何かを考えているように感じたが、どうやらいうつもりはないらしい。

 

 こいつはなんだかんだで忠告はしてくれるから、もしかしたら気を付けたほうがいいのかもしれないな。

 

 ……まぁ、信じすぎたら足元をすくわれそうだけどな。

 

「さて、そろそろ終わりにするか」

 

 そろそろ時間も来たので『F-01-i36』の頭から手を放す。

 

 『F-01-i36』は名残惜しそうにしていたが、「また来るから」といって頭をポンポンたたく。

 

 俺はそのまま収容室を後にする、その背中に熱い視線を感じながら……

 

 

 

 

 

「さてと、また来たぞ…… って、うおっ!?」

 

 しばらく休憩してから再び『F-01-i36』の収容室に訪れると、いきなり何者かが抱き着いてきた。

 

 反射的に反撃しそうになるも、その姿を見て思いとどまる。

 

 なぜなら、抱き着いてきた相手が『F-01-i36』であったからだ。

 

 彼女の下半身は人間と同じものになっており、何故か服を着ていなかった。

 

「おい、とりあえず離れてくれ!」

 

 抱き着いて俺の胸にぐりぐりと頭をこすりつける『F-01-i36』をいったん引きはがし、落ち着かせる。

 

 とりあえず害意はなさそうだが、それだけでは安心できないのがアブノーマリティだ。善意でこちらを害してくるとか日常茶飯事だからな。

 

 とりあえず今回は洞察作業を行っていく。手に持ったトンボで砂浜を均し、整えていく。

 

 端っこで『F-01-i36』が構ってほしそうにこっちを見ているが、無視を決め込む。とりあえずこのままだとまずいということを俺の第六感が告げている。

 

「……ふぅ、いい感じにきれいになったかな」

 

 洞察作業も終わり、そのまま収容室から出ようとする。

 

 そこで袖を引かれ振り向くと、『F-01-i36』が寂しそうな表情でこちらを見ていた。

 

 そのまま無視して部屋から出ようとするが、手を放してくれないので頭を撫でてやる。

 

 すると『F-01-i36』は満足そうな表情で袖から手を放したので、その隙を逃さずに収容室から退出する。

 

「……うん、もう来るのやめよ!」

 

 これは絶対やばい奴だ、もうこれ以上触れないようにしよう。だって絶対このままだとやばいことになるじゃん。

 

 とりあえずこのままだとまずそうなので、さっさと収容室から離れる。この後は別の奴に作業をしていくとするか……

 

 

 

 

 

「よーし、作業終了!」

 

 『O-05-i52』*1への作業も終わり、そろそろ休憩に入りに行く。

 

 今日はマイケルがおごってくれることになっているから、普段は頼まないような高いものでも頼もうか…… と考えていると、件のマイケルがすごい形相でこちらに走ってきた。

 

「ジョシュア! 今すぐ逃げろ!」

 

「はっ? 逃げろってどこに?」

 

『まずい! ジョシュア、今すぐ逃げろ!』

 

「反対方向に! 『F-01-i36』が脱走してお前に向かっている!」

 

 マイケルどころか輪廻までこう言っているってことは、かなりまずい状況かもしれない。

 

 急いでマイケルに背を向けて走り出す、振り向くとマイケルは俺に背を向けて“苺”を構えていた。

 

 どうやら足止めをするようだ。

 

「くそっ、いきなりなんなんd……」

 

『ジョシュア、おいジョシュア!』

 

 廊下から出ようと扉に手をかけると、そこで手が止まってしまった。

 

 急な眠気、安らかな気持ち、脳裏に浮かぶ愛しいあの子の顔……

 

『くそっ、強制的に役を当てはめているのか!』

 

 薄れゆく意識の中最期に見えたのは、『F-01-i36』(愛しい彼女)の泣き顔だった……

 

 

 

 

 

 すべてが終わり、『F-01-i36』は収容室に戻った。

 

 もう彼女は悲しまない、ただただ愛しい彼を抱く。

 

 頭だけとなった彼は、うすぼんやりとこう思うのであった。

 

 あぁ、こうして愛されるのであれば、それはとても幸せなのかもしれない……

 

 

 

 

 

「……はっ!?」

 

 気が付けば、始業前に戻っていた。

 

 あれは夢? ……いや、あれは現実だった。今も殺された時の生々しい感触が残っている。

 

 それに、殺されたあとの事も……

 

『ジョシュア、目が覚めたか?』

 

「輪廻、何処まで覚えている?」

 

『全てだ、お前が殺される瞬間も、その後無様な姿で奴に弄ばれている所も』

 

 ということは、恐らく管理人が巻き戻しを行なったのか?

 

 だとしたら、ありがたいと思うと同時に嫌な予感もした。

 

 これからも俺は、こうやって死に続けるだろう。そのたびにその死の瞬間を持ち越していくのだとしたら、果たしてそれに俺は耐えきれるのだろうか?

 

「……いや、考えても仕方がないか」

 

 そんなことを考えても仕方がない。本当なら一度きりの命なのだ、生きてるだけ儲けもんと考えよう。

 

「取り敢えず、早く仕事に向かおう。愛しの彼女も待っている…… はぁ?」

 

 今、俺はなんて言った?

 

 もしかして、『F-01-i36』の事を愛しいと感じていたのか?

 

 だとしたらまずい、死んだあとも精神汚染が抜けきってないことになる。

 

 なんとか、なんとかしなければ……

 

『……ジョシュア、今日は休め』

 

「いや、休めるわけ無いだろ」

 

『一つだけ手がある、お前が受け入れればの話だが……』

 

 妙に気遣う輪廻と話していて、ふとあることを思い出す。

 

 そういえば以前、輪廻に教えてもらって魅了を解いたことがあった。

 

 あのときのように出来ないかと思い左眼の鍵穴に意識を傾けて、思い留まる。

 

 いや、もっと良い方法がある。

 

 次に意識を傾けるのは鍵穴の前の時点、その瞳を包む青白い炎だ。

 

『……おい、まさか!』

 

 輪廻の嬉しそうな声が頭に響く。

 

 そんな声を無視して、“残滓”の炎を広げていく。

 

 魂を浄化する青白き炎が俺の体に燃え広がり、やがて全身を包み込む。

 

 それと同時に、俺の中にある不純物が焼き尽くされていくのを感じる。

 

 やがてそれが全て焼き尽くされたのを直感したとき、俺の手元に一本のナイフがあることに気がついた。

 

『さすがは俺が見込んだだけはある、最高だジョシュア!』

 

 そのナイフからは、俺が知っているものより遥かに強い力を感じる。

 

 だが……

 

 それは確かに、“残滓”であった。

 

 

 

 

 

 わかっていた、私と彼とでは生きる世界が違うことは

 

 しかし、この思いを止めることなど私には出来なかった

 

 この気持ちは、本当なら捨てなければならなかった

 

 でも、捨てきれなかった

 

 だから私は、波に紛れて貴方を思う

 

 どうかこの恋が、実らぬようにと……

 

 

 

 

 

F-01-i36『泡沫の夢』

*1
『フレディのニヤニヤべつばらスイーツ』

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