「爺さんを弔った俺は、爺さんの敵も取れず、爺さんと同じように周囲の人々のために頼みごとを受けていったさ。それはもう何でも屋みたいにさ」
「……結局、周りの人間は俺たちを利用するだけ利用しようとしていただけだったのによ」
「ちょっと考えればわかることだったんだ、何でも屋みたいにいろんな頼みごとを聞いていて気が付いたら、俺は組織にもフィクサーにも恨まれていた」
「そのあとは悲惨だったさ、もちろん今まで助けてきたやつらが俺に救いの手を差し伸べることなんてなかった」
「俺は必死になって逃げまわったよ」
「そこでロボトミーの採用通知が来たもんだから、どれだけやばいと思っても飛びつくしかなかったんだ」
「おーいジョシュア、調子はどうだ?」
「調子はまぁまぁだな、リッチはどうだ?」
今日の作業もほどほどに、リッチが話しかけてきた。
今作業が終わったところなのか、少し疲れている様子だった。
「俺のほうは大丈夫だ」
「ならよかった、ちょっとお疲れか?」
「あぁ、『F-01-i63』*1のところに行っていた」
「……ご愁傷様」
『F-01-i63』の相手は疲れるからなぁ、そのくせすぐに脱走するから面倒だ。
まぁ、脱走しても人命に影響がないことは救いだけどな。
「そういえば、今日のアブノーマリティはどんなんだった?」
「あー、ツール型だから実はまだ使ってないんだよな」
「あぁ、ツールか」
今日収容されたアブノーマリティは『O-09-i95』、ツール型のアブノーマリティだ。
正直ツール型は面倒な奴が多いからあまり作業をしたくないんだよな。
「面倒だなぁ、リッチ代わりに行ってきてくれないか?」
「いつもトップバッターはお前だろう? 一緒についていってやるから頑張れ」
「トップバッターというよりファーストペンギンだけどな、仕方ないし行くか」
リッチが来てくれるようなので、頑張ってやる気を出していくことになった。
リッチと雑談をしながら廊下を歩いていく。
しばらく歩いていると、目的の収容室が見えてきた。
「よーし、それじゃあ行くぞぉ!」
「いや、テンション高くないか?」
いつものように雑に収容室の扉を開ける。正直ツール型の収容室なんてこれくらいの扱いで十分だと思っている。
「さーてと、中身は…… ジュース?」
収容室の中をのぞくと、そこにあったのは5つのコップであった。
コップに持ち手はなく、すべて同じ形をしている。
白い半透明なコップは、中に液体が入っていることがわかるくらいでどんな色かまではわからなかった。
コップの上部には白いふたが付けられており、そこにストローが付いている。
「……」
「おい、逃げようとするな」
「いやだってこれ絶対やばいだろ!?」
嫌な予感がしたのでダッシュで逃げようとするも、リッチにつかまってしまった。
くそっ、これじゃ逃げられないじゃないか!!
「諦めて飲むんだ、俺も一緒に飲んでやるから」
「おい、絶対だぞ!」
「あぁ、ちゃんと飲むから…… 安全だとわかったらな」ボソッ
リッチに説得されて、仕方なく飲むことにする。……今何か聞こえた様な気がしたが、気のせいだよな?
リッチの拘束から解放され、『O-09-i95』のうちの一つを手に取る。重さ的にそこそこの量が入っていそうだ。
リッチが手に取ったのを確認してからストローに口を付ける。
口の中に冷たい液体が流れ始め……
「う、うまい!!」
「なに、本当か!?」
これ、おいしすぎる!! 味はさわやかな柑橘系で、後味もすっきりしている。
正直仕事の後に飲んだら最高な気分になれそうだ。
「よし、それじゃあ俺も……」
「いや、まだ飲んでいなかったのかよ!?」
俺の抗議を無視して、リッチもストローに口を付ける。
どうやらリッチも気に入ったようだ。
「うまい、なんて濃厚なグレープジュースだ」
「おっ、そっちはグレープ味だったのか、俺のは柑橘系だった」
「なるほど、それぞれ味が違うのか」
「こんなにうまいとは思わなかった。それに、どこか力が湧いてくるように感じる」
このジュースを飲んでから、ほんの少しだけ頭がすっきりしたように感じる。もしかしたらこれがこのツールのメリットなのかもしれない。
「……ほかの味も気になるが」
「いや、やめておこうぜ。たぶん複数はまずい」
なんとなくの直感ではあるが、複数飲んだらまずいことになりそうな気がする。
……最近外れてるからあんまりあてにはならないが。
「さて、これからどうするか」
とりあえず空になったコップを置いて、今後の予定を考える。
正直飲んでしまったからには仕方がないが、飲んだ後に特定条件でデメリットが現れても困る。
この手の飲み物系は以前『T-09-i96』*2があったが、あれは自動で中身が増えるものであった。
それに対してこれは5つと数が決まっているのも少し気がかりだ。
「別に普段通り仕事をすればいいのでは?」
「それはそうなんだけど…… えっ?」
リッチと何の気なしに話しながら先ほどからになったコップをいじっていると、何故かさっきまで感じていた力がなくなったように感じた。
ふと触っていたカップを持ち上げると、中身が戻っている。
「「……」」
思わずリッチと目を合わせる。
そこでリッチも俺と同じように空のカップに触ると、そのコップにも中身が戻っていた。
「……もしかして、飲んでも元に戻せるのか?」
「……衛生的にどうなんだろうか?」
「そこは考えたらだめだろう」
試しにもう一度『O-09-i95』を飲んでみる。
……うん、先ほどと変わらないおいしい味だ。どこか変化があるわけでもないし、先ほどと同じような力を感じる。
「特に味にも効果にも変化があるようには感じないし、なんというか不思議なエネルギーだけ戻しているのかもしれないな」
「なんだよそれ、まるでファンタジーじゃないか」
「そのファンタジーがアブノーマリティだろう?」
「……確かにそうだが」
なんとなく釈然としてない様子のリッチ、そもそも企業の特異点の時点でファンタジーに片足突っ込んでるじゃないか。
「さて、せっかくだしほかの味も試してみようぜ」
「……あぁ、そうだな」
「……よし、せーので行くぞ」
「たとえはずれが出ても、文句なしだぞ」
「へっ、やる前から負けた時の心配か?」
「まったく、情けない先輩方だ」
「そういって前に怒ってたのは誰ですか~このこの~」
「お前ら黙ってできないのか!?」
『O-09-i95』の収容室の中、内部にあるテーブルを囲っているのは5人の職員たち。
リッチ、マオ、アセラ、パンドラ、そして俺。
俺たち5人はそれぞれ1つずつカップを持ち、その時を待っている。
緊張の走る真剣勝負、心臓の音がどくどくと聞こえてくる。
「よし行くぞ」
「「「「「せーのっ!」」」」」
掛け声とともに一斉に『O-09-i95』に口を付ける。
冷たい感触と同時に口の中に入ってくるのは、なんとも表現しがたい微妙な味。
この味をうまく例える表現はないが、これだけは言える。
微妙にまずい。
「おえっ、完全に外れだ!」
「おっ、ジョシュア先輩やらかしちゃいましたねぇ」
「ふん、自信満々だったのにこのざまか、ジョシュアせ・ん・ぱ・い」
「くそっ、むかつく言い方しやがって……」
俺がはずれを引いたからってさっそく後輩二人が煽ってくる。こいつらぶっ飛ばしてやろうか。
「おいおい、負けたからってそうカリカリするなよ」
「それよりも、約束は忘れちゃいねぇだろうなぁ?」
「くっ」
約束というのは、言ってしまえば昼食のおごりをかけていたのだ。
『O-09-i95』の中には一つだけはずれがあり、それがさして悪影響を及ばさないことが判明、そのあとは男連中を集めてこのかけを行っているのだ。(マイケルは潔癖症のため不参加)
「畜生、今回も行けると思ってたのに」
「まぁ、勝負は時の運ですからねぇ~」
「はぁ、仕方ないか。ほらさっさと行こうぜ」
5人で一斉に収容室から退出する。まったく、大損だよ。
「くっそぉ、やっぱりあっちを選んでおけば…… あれ?」
5人で廊下を歩き始めると、新人の職員とすれ違った。この先には『O-09-i95』しかない、しかし今は全員で飲んでしまっているから全て空だ。教えてやらないと……
「おーい、『O-09-i95』はもうないぞ!」
しかしタイミングが悪く、彼は先に『O-09-i95』の収容室に入ってしまった。
「悪い、ちょうど切らしてて…… えっ」
収容室の扉を開いて彼に話しかけようとするが、部屋の中には誰もいなかった。
収容室内を見渡して、ある違和感を感じる。
「おい、どうしたんだ……」
そう、その違和感とは、先ほどまで空だったカップのうちの一つに、何故か液体が入っている光景であった。
「「「「「……」」」」」
それに気が付いてからの俺たちの行動は早かった。
速攻で飲んだジュースを元に戻し、急いで収容室から退出して次の作業に向かう。
少しでも作業に熱中しておかなければ、余計なことを考えてしまう。
いつもはバラバラな俺たちだったが、この時ばかりは心が一つになった。
……結局、この日は食事をとれなかった。
……結局、先日の『T-05-i08』*3の事故で犠牲になった
……そうだな
しかしあの事故では5体の『O-09-i93-1』*4が犠牲になったと
……そうだな
その結果出てきたのがこれですよね?
……その通りだ
……
……
……
……もうこれ、使わないほうがいいんじゃないか?
やっぱりそうおもいますよね
O-09-i95 『フレディのニコニコおりこうドリンク』