「……と、ここまでがロボトミーに来る前のお話。どうだ、別にありふれた話だろう?」
「……ううん、ジョシュアの話が聞けて良かった」
「そうか、それはよかった」
「……でも、まだ話していないことがあるよね?」
「えっ?」
「だってジョシュア、それより前の記憶があるんでしょ?」
「いや、でも…… その話は誰にもしていないはず」
「だってジョシュア、気づいてないかもしれないけど、所々変なんだもん」
「……」
「だから、もしかしたらもっと前があるのかもって」
「……そうだよ」
「そっか、ならさ、もしよかったらお話してよ」
「……はぁ、これは他言無用だからな」
「ジョシュア先輩、正直この施設ってかなりヤバくないっすか?」
「いや、最初の時点で気づけよ」
ロバートが休憩中に絡んできたと思えば、今更なことを言ってきた。
そんなことはここで一日働けばわかることだというのに、こんな事じゃこの先やっていけないぞ?
「そうはいってもやばいじゃないですか! いったいどうやったらあんな化け物たちを見つけられるっていうんですか?」
「まぁまぁ、落ち着けって」
とりあえずロバートを落ち着かせて席に着くように促す。
『F-01-i63』*1が「粗茶ですが」と謎の液体を差し出してくるが、それをスルーして話を続ける。
「とりあえずここで長く生きていきたいっていうんだったら、詮索はしないほうがいいと思うぞ」
「そうはいっても気になるじゃないっすか」
「あれぇ、二人とも何話してるんですか?」
ロバートの相手をしていたら、パンドラの奴がやってきた。
おいロバート、そう露骨に嫌な顔をしてやるなよ。さすがにかわいそう…… でもないか。
「ようパンドラ、とりあえずお茶でもいるか?」
「あっ、ちょうどのどが渇いていたところなんですよ。ありがとうございます!」
とりあえず手頃なところに置いてあったお茶をパンドラに差し出す。
パンドラはよほどのどが渇いていたのか、のんきにそれを飲み始めた。
「ぷはぁ、これおいしいですね!」
「そうか、それはよかったな。まだ在庫がコントロール部門にあるはずだから、探してきたらどうだ?」
「ほんとですか? ありがとうございます!」
そういうとパンドラはさっさとコントロール部門に行ってしまった。まったく騒がしい奴だ。
パンドラのことはほっといてロバートと話そうと周囲をみわたしたが、どうやらパンドラに恐れをなして雲隠れをしたようだ。
「はぁ、それじゃあそろそろ『F-01-i36』*2のところに行ってくるか」
「まったくお客様、また浮気に向かわれるのですか?」
「……はぁ」
一難去ってまた一難、今度は『F-01-i63』が絡んできた。正直もう少しおとなしくしていてほしい。
「どうしたんだよ、いきなり意味の分からないこと言って?」
「お客様はお肉よりも魚肉のほうがお好きだとでもおっしゃるつもりですか?」
「えっ、正直そうだけど?」
「むきー!!」
『F-01-i63』が怒っているが、そんなこと知ったこっちゃない。
そもそも俺は元から魚のほうが好きなのだ。人の好みにケチを付けるな、ケチを。
「やっぱり私の素敵なお肉を味わってもらうしかなさそうですね。それではさっそく……」
「いいからさっさと収容室に戻れ」
「あいたぁ!?」
しくしくと泣き真似をしている『F-01-i63』を呆れながら眺める。
……あれ、もしかしてガチで痛がってる?
「おいおい大丈夫かよ?」
「うぅぅ、こういうときだけ優しいなんてずるい……」
「よし、もう元気だな」
「嘘ですもっと撫でてください!」
泣いていたがっている『F-01-i63』の頭を撫でてやっていたら、一瞬で調子に乗り始めた。
まったく、こいつと言いパンドラと言い、もう少しおとなしくしていればいいのに……
「ほら、もうそろそろいいだろう?」
「……はい、ありがとうございます」
もう痛くないのか、『F-01-i63』は俺から離れてお辞儀をした。
もう大丈夫そうなので『F-01-i36』の作業に向かおうとすると、『F-01-i63』に袖を引かれた。
「なんだよ、何かまだ用があるのか?」
「……ジョシュア様、あなたは優しいですね」
「はぁ? いきなり何を言って「でも」」
「その優しさは、必ず誰かのためになるとは限りませんよ?」
「……」
珍しく真面目な顔で語り掛けてくる『F-01-i63』に、声が出なかった。
しかし、俺が優しいだとか、何を言っているのだろうか? ましてや相手はアブノーマリティだ。
「いくら人間様に近い見た目をしていても、私たちとあなた様たちとでは根本的に違うのです」
「特に彼女、あなたたちの言う『F-01-i36』にとっては……」
「たとえそうだとしてもさ」
つらそうな表情で語る彼女の話を、思わず遮ってしまう。
相手はアブノーマリティだというのに、どうしても聞いていられなかったのだ。
「そんな悲しいことを、自分で言うなよ」
その言葉を聞いて、彼女ははっとしたような表情をした。
そして彼女の手が袖から離れた一瞬のスキをついて距離をとる。
「ジョシュア様……」
「それに俺だって気を付けているさ。だから心配するなって」
「……」
彼女から離れて次の作業へと向かう。
確かに彼女の言うことは分かるが、どうしても考えてしまうのだ。どうにか彼らとも、仲良くなれないかと……
「……わかりました、それではお気をつけて行ってらっしゃいませ」
「あぁ、行ってくるよ」
そして彼女に手を振って、『F-01-i36』の収容室へと向かっていった。
「ジョシュア様、あなたは気が付いていませんかもしれませんが……」
「その道は、とても険しいものですよ」
そんな彼女のつぶやきは、俺の耳には届かなかった……