「何を言っているんだ? って顔をしているな」
「まぁ、俺も同じ立場ならそう思うだろうな」
「とりあえず疑問は置いといて、話を聞いてほしい」
「つまり俺は、この地獄を題材にしたゲームをしたことがあり、このロボトミーコーポレーションについての知識もある程度知っていたということだ」
「俺は、そのゲームに死ぬほどハマッていたんだ」
「大好きすぎて友だちに布教したり、そのゲームに関する動画を漁ったりした」
「……あぁ、確かに俺の認識では、ここはゲームの世界だ」
「だけど、俺はお前たちのことまでゲームのキャラクターだなんて思っていない」
「これは本当だ、信じてくれ」
「……さて、そのゲームでは、俺が管理人となって職員を操作し、この施設を管理していた」
「だから、知ってるんだ。この施設で何が起こっているのか、どんなことが起こるのか……」
「悪いが、それを教える勇気は、今の俺にはない」
「えっ、なら俺がどうしてこっちに来たか知りたいって?」
「……実は、どうしてもそこが思い出せないだ」
「ある時期までははっきりしているんだけど、そこから先が曖昧で、うまく思い出せないんだ」
「たぶん向こうで死んでこっちに来たんだろうけど…… わるい、こんなんじゃ答えになっていないほな?」
「あぁ、でも一つだけ覚えていることがあるな」
「……なんとなくだけど、潮騒が聞こえた気がしたんだ」
「ジョシュアさぁん、おはようございますぅ」
「……あぁ、おはよう」
サラがあいさつをしてくれているが、それどころではない俺は、ろくな返事すらできなかった。
「それにしてもぉ、これってなんでしょうねぇ?」
「……あぁ」
安全部門のメインルーム、そこには今までとは違う装置が置かれていた。
それには、名前が書かれていた。
俺やサラやマオ、それどころかオフィサーまで……
名前の書かれているところは、まるで
「なんでこんな……」
それは、あまりにも冒涜的で、おぞましく、絶対不可逆のものだった。
俺は、それを知っている。この恐ろしい悪魔の装置を知っている。
嫌悪的で逆説的なルーレット、ラッキー抽選機。
またの名を、『運命の輪』
「……あー、これが」
パンドラが隣でポカーンと間抜け面をさらしているが、それを気に留めることすらできない。
これがここにあるということは、あのおぞましい悪魔と同等の能力を持つ存在がいるということを示している。
「くそっ!」
急いでメインルームを出て収容室へと向かう。
今回収容されたアブノーマリティは『T-05-i65』、俺はこいつのことを一刻も早く解明しなければならない。
『何をそんなに急いでいる?』
「あの装置はヤバい! 一刻も早く今回のアブノーマリティについて情報を得なければ!」
『もしかしてあの装置のことか? あれはとても面白いではないか』
「どこがだ!」
『一切の外的影響を受けず、全ての対象に均等な機会を与える。完全に公平な沙汰ではないか』
「……あぁ、確かにそうだな」
『T-05-i65』の収容室へと向かい、廊下を走っていく。
今回の相手がもしもあの胎児と同じタイプであれば、失敗は許されない。
おそらくは甚大な被害を出して、あの装置を使わざるを得なくなる。
「はぁ、はぁ…… よし」
息を整えてから、収容室の扉に手をかける。いつものようにお祈りをしてから、扉を開く。
収容室の中からは、異様な熱気を感じた……
「……これが、今回のアブノーマリティか」
収容室の中には、悪趣味なスロットマシンの筐体が置かれていた。
ギラギラと輝く黄金の本体に、宝箱の形をした下部。
その隙間からは鋭い歯と、いくつもの金貨が顔をのぞかせている。
この箱を開けたものの末路は明白だろう、さすがに引っかかるつもりはないが。
「さて、どうしたものか」
目の前にはいかにも座ってくださいと言わんばかりの椅子。
まるでここに座れと、誘惑してくるかのように。
「行くか、いや、しかし……」
このアブノーマリティの望みをかなえるか、それとも抗うか。
できることなら失敗はしたくない、なるべく慎重にいかなくては。
「……よし」
覚悟を決め、思い切って椅子に座る。
俺の目の前に三つのスロットが来る。回転しているそれの下にはボタン、回転を見てもさすがに目押しは難しそうだ。
「こういうのは、初めてだな」
気が付けばポケットの中に入っていた金貨を筐体に入れ、ボタンを押していく。
とりあえずポケットの中に入っていた10枚がなくなるまではやってみよう、そう思いながら作業を行う。
「あっ、当たった」
「……よし、回復したしもう一回行くか!」
「ちょ、ジョシュアさぁん! そろそろやめましょうよぉ!」
「うるさい、俺は今から『T-05-i65』の作業に行くんだ! 放せ!」
「きゃあぁ!」
『T-05-i65』への作業へ行こうとする俺を止めるサラを突き飛ばす。
すると彼女はよろけて倒れそうになるも、近くにいたマオに受け止められた。
「おいてめぇ、流石にやりすぎだろうが!」
「うおっ!?」
マオが血相を変えて俺に掴みかかってくる。
くそっ、早くいかないと『T-05-i65』に他のやつが作業してしてしまう。
そうなる前に早く行かないと!
「オメェがやろうとしていることは、自分の心配してくれてる奴を突き飛ばしてまでやらないといけないことなのか!!」
「うるせぇ! あと少しで大当たりが出そうなんだ!」
「誰かに取られる前に早く行かないと「はいドーン!」ぐはっ!?」
マオと組み合っていると、いきなり後頭部を何者かに殴られ、よろけてしまった。
「うぐっ、一体何が……」
「さて、これで少しは頭が冷えましたか?」
「パ、パンドラ……」
頭上からかかる声に目を向けると、そこにいたのは冷たい目をしたパンドラであった。
彼女の手には血のついた警棒が握られていた。
そこで気がついたが、どうやら先程その警棒で殴られて、頭を出血してしまったらしい。
「すまない、助かった」
血を流して少し冷静になれたので、パンドラに礼を言う。すると彼女はその深く飲み込まれそうな瞳で俺の目を見つめてきた。
「あー、やっぱり魅了系じゃなさそうですね。多分それよりも厄介な部類」
「お、おいアホ女……」
「ジョシュア先輩良かったですね、多分あのままだと死んでましたよ」
「うわっ、まじか……」
くそっ、頭に血が登ってて周りが見えていなかった。
サラが持ってきてくれた布で止血をし、周囲を見回す。
周りには俺を心配そうに見ているサラやオフィサーたち、パンドラにドン引きしているマオがいた。
「多分あれは、普通人間は作業をしないほうがいい部類ですよ。私かシロちゃん…… いや、多分それよりも皆で持ち回りの方が良さそうですね」
「そうか、ありがとう」
「いえ、それよりも他に『T-05-i65』にハマってた人は……」
チャリン
パンドラが俺達に確認を取ろうとしたその時に、天井から何かが降ってきた。
「これは、コイン?」
試しに拾い上げてみると、それは『T-05-i65』に作業をする際に手に入るものと同じコインであった。
「あれっ、こっちにも……」
「こっちからもだ!」
「あぁ、お宝だ! お宝がいっぱいだ!」
コインは、まるで雨のように際限無く天井から降ってきた。
最初は不思議がっていた人達も、黄金の雨につられて段々とおかしくなっていった。
「金だ、金がいっぱいあるぞ!」
「やめろ、それは俺の金だぞ!」
「うるさい、私が先にとったのよ!」
「お、おい、こんなにいっぱいあるんだから争わなくても……」
「うるせぇ! これで口を塞いで黙ってろ!」
「がぼっ、おえっ、げぼっ!?」
「あぁあああっ!!?? 俺の金を腹ん中に隠しやがったな!! 腹ん中に掻っ捌いてやる!!!」
「ぐべっ、やめっ、ごえっ……」
気がつけば、地獄絵図が広がっていた。
あるものはコインを奪い合い、あるものは忠告する者の口にコインを突っ込み、突っ込んだコインを取り出そうと躍起になる。
今のところ争い合っているものはオフィサーばかりだ。
「……コインだ」
俺の目の前にも、コインが転がってくる。
俺はそのコインをつかみ取ろうと手を伸ばし……
『ピロピロリーン!!』
その時、妙に軽快な音楽が鳴り響いた
そしてそれと同時に、あの悪魔の機械が稼働を始める。
「あっ、あぁ……」
ルーレットは回り続ける。
次にこれが止まるとき、それは犠牲が決まったときだろう。
「畜生、畜生……」
そして、ついにルーレットが止まった。
『Ω332』
「えっ?」
ルーレットの確定とともに、妙に間の抜けた、この場に似合わないファンファーレが鳴り響く。
そして、それと同時に俺の目の前にいたオフィサーの体が、『T-05-i65』の収容室へと向かっていった。
「あ、あれ、どうして私の体が勝手に……」
「い、いや、助けて、助けてください!!」
収容室へと向かう彼女を、だれも止められなかった。
いや、気づいていたのだ。
この惨劇を止めるには、彼女を見捨てるしかないと。
「いや、いやぁ、いやあぁぁぁぁ!!!!」
……そしてしばらくした後、『T-05-i65』の収容室があるほうから恐ろしい悲鳴と、何かの咀嚼音が鳴り響いた。
結局のところ、人は失敗から学ぶことなんてできないんだ
誰もかれも、数多の失敗より劇的な一回の成功を覚えてしまう
そしてその成功に縋り付き、失敗を忘れて同じことを続ける
たとえ全体で見れば損だとしても、一時の得と取ってしまう
そしてその一度の成功では満足できず、次の成功を望んでしまう
やっぱり、欲望に際限なんてないんだね
T-05-i65『金塊の泉』
ちょっと昔見た作品の好きだった表現が入っています。
パ、パクリじゃなくてリスペクトだよ……(震え声)