「全く、お前も懲りないやつだ」
目の前で飛び立つ『O-05-i18』に対して、幸福を構える。それに対して『O-05-i18』もまた、こちらにその指先を向ける。
先に動き出したのは『O-05-i18』だった。その青白く、緑がかった焔を噴出させて、こちらに向かって一直線に突撃してきた。
俺はその攻撃に対してフェイントを交えて攻撃する。すると『O-05-i18』はフェイントに見事に引っかかり、幸福の一撃をその体の側面に受けて焔を吹き出した。
『O-05-i18』は土台と傷口から焔を吹き出しながら必死に逃げ出そうともがき苦しむが、とうとう力尽きて全身を炎に包まれた。
「おいおい何だよ、もう終わっちまったのか?」
「何だマオ、今更来たのか?」
「あぁ、てめぇ舐めてんのか!?」
「何でも無いからさっさと仕事に戻れ」
「……チッ」
最後に舌打ちを残して、マオは次の作業に向かっていった。マオは路地裏で立ち上げた組織のトップだったらしく、俺の下に付いているのが気にくわないらしい。そのせいで何度もちょっかいをかけられるのだから、こちらとしたら溜まったものじゃ無い。
「ようジョシュア、これで何回目だ?」
マオが去って行くと、今度はリッチがやってきた。どうやら何度も『O-05-i18』の鎮圧にかり出される俺をからかいに来たらしい。そのまま返すのもしゃくなので、とりあえず皮肉交じりに返答する。
「それは『O-05-i18』のことか? それともマオか?」
「『O-05-i18』のほうだよ、マオの方は知っても意味が無いだろう?」
「それもそうだな、ちなみに『O-05-i18』の脱走はこれで10回目だよ」
「多すぎるだろ……」
正直それは思う、この施設においての一般人枠となった『O-05-i18』は、なぜか脱走する度に俺にお鉢が回ってくる。正直あまり強いやつでも無いので、別のやつに任せても良いじゃないかと思わなくも無いが、管理人の指示なので仕方なく俺が戦っている。
「はぁ、それじゃあ俺は次の作業に行くよ」
「それはお疲れ様だな、次は何だ?」
「また『O-05-i18』だよ、正直もう見たくないね」
「ご愁傷様」
わざわざ手を合わせるリッチを無視して、『O-05-i18』の収容室に向かって歩いて行く。伸びをしながら歩いていると、わりかしすぐに収容室の前にたどり着いた。
「さて、さっさと終わらせるか」
……収容室に入ると、いつもとは何か雰囲気が違う事に気がついた。
『O-05-i18』は今まで通りその指先に火をともしているが、いつもより穏やかな様子だ。火の揺らめきも落ち着いており、不思議と俺の気持ちも落ち着いてくる。
そしてその火の揺らめきをしばらく眺めていると、頭の中に見たことの無い情景が浮かんでくる。
俺はその現象に警戒しつつ、なぜか受け入れることにした。
かつて犯した罪は決して許されず、私は常に罰を受ける
この灯火が消えることなど無く、常に魂を焼かれる痛みに苛まれる
だがもし焔が消えれば、私はどうすれば良いのだろうか
今灯火は消え、いずれはすべてから解放されるだろう
その燭台に、俺は……
火を灯した
ありがとう
これで私は罪を償い続ける事が出来る
『O-05-i18』の指先から小さな種火が飛んできて、俺の右目に吸い込まれてくる。
そして瞳に宿ると、煌々と青白く、緑がかった焔が燃え上がる。
その灯火は身を焼くことも無く、優しい温もりに包まれた。
気がつけば、俺の目には焔が灯っていた。もしかしたら、これは『O-05-i18』のギフトなのかもしれない。
ギフトとは、アブノーマリティーのねじれた自我を付与される奴らからの贈り物である。
手に入れれば微弱ながらもその恩恵を得られるが、多ければ多いほど自分を見失ってしまう。力には代償がつきものだ。
俺は自分からあふれる焔に手を触れながら、収容室を後にする。そして気持ちを新たに次の作業に向かう、これからも自分を見失わないようにするために。
かつて大きな罪を犯した男がいた
その男は大悪人であったが、誰も彼を止めることなど出来なかった
だが、命とはやがては尽きるものだ
男が死んだとき、誰もがその死体を弄んだ
肉も骨も剥がされ、魂すらも嬲られた
男の罪は死で償うことなど出来ない
その魂は蝋の芯となり、火をともす燃料となる
それは贖罪の焔だ、永遠に魂を焼かれる無限の罰だ
それは幾億もの月日が流れようとも続き、覚えているものがいなくなろうとも終わることは無い
罪は決して許されず、その灯火は決して消えない
O-05-i18 『魂の種』