【完結】誰も知らないアブノーマリティー   作:名無しの権兵衛

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Days-18 O-01-i75『あぁ、崩れ逝く』

「……と、ここまでが俺の話だ」

 

「どうだ、満足できたか?」

 

「……うん、ありがとうジョシュア。貴方のこと、いっぱい知れてうれしい」

 

「そうか、それならよかったよ」

 

 微笑むシロに、思わずこちらも笑みがこぼれる。

 

 ……いや、それだけじゃないだろうな。

 

 だって、今まで誰にも話すことができなかったことを言えたんだ。正直、それだけで気持ちが軽くなった。

 

「……? ジョシュア、大丈夫?」

 

「えっ、何が?」

 

 珍しく、シロがうろたえていた。いったいどうしたのだろうかと手を伸ばそうとして、手の甲に水滴が滴り落ちていることに気が付いた。

 

「ジョシュア、泣いてる……」

 

「あっ、あれ……? 俺、どうして涙が……」

 

「ごめんなさい……」

 

 涙をぬぐおうとすると、突然シロに抱きしめられた。

 

 びっくりして抜け出そうとするも、思うように体が動かなかった。

 

「ごめんね、ボクが変なことを聞いたから。つらかったよね、苦しかったよね……!」

 

「いや、これは……」

 

 何か言い返そうと口を開くも、うまく言葉は出ないし、その間にも涙がぽろぽろと流れ出てくる。

 

 ……よく聞くと、シロの声も少し、涙ぐんでいることに気が付いた。

 

「ごめんね、ごめんね…… 帰れない場所のこと、幸せな世界のこと、思い出させちゃって、ごめんね……!」

 

「違う、違うんだ、シロ……!」

 

 シロを抱きしめながら、嗚咽を漏らす。

 

 確かに故郷を寂しくなることはあるが、少なくともここに来たことは後悔していないんだ。

 

「うぅ…… ぐすっ」

 

「ぐすっ、ふえぇぇ……」

 

 それからしばらくの間、俺たちは抱きしめあって泣いた。それはもう、情けないほど、ずっと……

 

 

 

 

 

「……」

 

「……」

 

 ちょっと、いやだいぶ気まずい。

 

 こんなに泣いたのなんて初めてだし、それをシロに見られたどころかお互いに抱きしめあっていたのはかなり恥ずかしい。

 

「……その、ジョシュア、もう大丈夫?」

 

「……えっ!? お、おうもう大丈夫だぞ!」

 

「……そう、よかった」

 

 そういって心底嬉しそうに微笑むシロは、とてもきれいで、美しかった。

 

「そ、それじゃあそろそろ仕事に行こうぜ! あんまり遅かったら怪しまれるしな!」

 

「ふふっ、そうだね」

 

 思わず見惚れてしまっていたのを誤魔化すように立ち上がる。

 

 シロはそんな俺の様子を見て楽しそうに笑うと、俺と並んで職場へと続く扉へ向かって歩き出した。

 

 ……扉を開けるまで手をつないでいたのは、二人だけの秘密だ。

 

 

 

 

 

「あら、ようやく誰かに打ち明けることができたのね?」

 

「……アンジェラ」

 

 施設に顔を出して一人になったところをまるで狙ったかのように、この女は話しかけてきた。

 

 ……この口ぶり、もしかして俺の秘密を知っているのか?

 

「おや、なぜ知っているのか、といった顔ですね?」

 

「そんなに顔に出てたかな?」

 

「まぁ、あなたの考えることなんてお見通しなので」

 

 くそっ、まぁ普通に考えればいくつもループを経験している彼女なら、かつて俺がいたループで俺のことを知っていてもおかしくはないか。

 

 だが、どこまで知っているのか、そしてさっきの会話をどこまで聞かれていたのかはかなり気になる。

 

 この口ぶりからして、全て聞かれてはいそうだがな。

 

「それにしても、興味深い話ではありました。貴方が自分の秘密を誰かに伝えるとは、彼女にも伝えていなかったというのに……」

 

「……はぁ、そもそもどこで俺の話を知ったんだよ? かつてのループで俺がお前に話したのか?」

 

「いえ、あなたの書いたノートを解読して呼んだまでです。そういえば、『変化』があってからあなたはノートを書いていませんでしたね」

 

「つまり、俺は■■■■(原作知識)を忘れないように書いたノートをあんたにまんまとみられてばれていたと。わざわざ暗号化までしたけど、普通に考えればあんたには無意味だろうな」

 

「いえ、私の知らない言語で書かれていたので頑張って解読しました。かなり難しい言語でしたが、あの小説を読むためには仕方がないことでした」

 

「……小説?」

 

「いえ、気にしないでください。それで、この施設のあなたが知るはずのない知識を保有していた理由は、あなたが特別な存在であったから…… ということでよろしいですか?」

 

「……? 随分とあいまいな言い方だな。あんたにしては珍しい」

 

「はぁ、それはあなたのせいでしょう? 重要なところだけ聞こえないように細工をしていたではありませんか」

 

「えっ、何のこと?」

 

「……? あぁ、そういうことですか」

 

 一体どういうことかさっぱり見当もつかないが、どうやらアンジェラは納得したらしい。

 

「さて、あなたがどうやってここにいるのかはわかりませんが、そろそろ姿を現したらどうですか?」

 

『ははははっ! どうやって俺の存在に気が付いた?』

 

「なっ、輪廻!?」

 

 アンジェラの問いかけに俺の左目から燐光が漏れたと思ったら、それは勢いを増して青白い火の玉となって燃え上がり、やがて人の骸骨のような形に変化した。

 

「……なるほど、『O-01-i19』*1、あなたでしたか」

 

『こうして話すことができてうれしいぞ、アンジェラ』

 

 ……これは驚いた。

 

 もちろんこうやって輪廻が外に出てきたことにも驚いたが、それ以上に驚いたのが人間大好きな輪廻が、アンジェラと話すことができてうれしいといったことにだ。

 

「あら、意外ね。貴方は私のことが嫌いなのだと思っていたわ」

 

『そういうな、俺は自ら歩み、進むものに寛容だ』

 

「……もしかして」

 

 俺が何かを言う前に、アンジェラがいら立ったように声を上げた。

 

「それは一体どういうことかしら?」

 

『なぁに未熟児よ、お前はまだ歩き始めたばかりだ。まずはこの大地に慣れるところから始めなくてはいけない』

 

「おい輪廻、そろそろやめた方がいいんじゃないか?」

 

『では最後に、俺はお前を応援しているぞ、アンジェラ』

 

 それだけ言うと、輪廻は姿を消して俺の中に戻ってきた。

 

 ……いやなんでそんなことがわかるんだよ、気持ち悪い。

 

 それよりも、なんか気まずい雰囲気でアンジェラと二人きりになってしまった。

 

 とにかくこの場をどうにかしなければ。

 

「……いやぁ、悪かったなアンジェラ。輪廻の奴が変なことを言ってしまった」

 

「いえ、気にする必要はありません。それでは失礼します」

 

 それだけ言うと、アンジェラは速足でどこかに行ってしまった。

 

 ……とりあえず、何とかなったみたいでよかった。

 

 ひとまずメインルームに向けて歩き始める。

 

 まったく、まだ業務もしていないというのにすでに疲れた。

 

 今回はまだ、楽な奴だといいな。

 

 

 

 

 

「あらジョシュアちゃん、おはよう」

 

「おうルビねぇ、おはよう!」

 

「あらぁ、ジョシュアせんぱぁいおはようございますぅ」

 

「あぁ、サラもおはよう」

 

「おう、今日は調子がよさそうだな」

 

「マオ! 昨日はすまなかったな!」

 

「まったく、疲れているなら少しは体を休めろよ?」

 

「ありがとうマイケル、今んところは大丈夫そうだ」

 

「おはようございまーすジョシュアせんぱーぃあがががっ!!」

 

「おはようパンドラ、今日も活きがいいな」

 

「なんで私だけアイアンクローなんですかぁぁぁぁ!!」

 

「よう、今日も元気そうで何よりだ」

 

「あぁリッチか、おかげさまでな」

 

 この職場の同僚たちと話しながら歩いていく。

 

 いや、同僚というより仲間、リッチやマオ、マイケルは友だちと言ってもいいかもしれない。

 

「あっ、ジョシュア様! お食事がまだでしたら私なんてうごごごごっ!!」

 

「ちょっ!? なんで私の扱いが『F-01-i63』*2と一緒なんですかぁ!!」

 

 なぜかすでに脱走している『F-01-i63』にアイアンクローを決めて無力化してから、今日の作業へと向かう。

 

 今日収容されたアブノーマリティは『O-01-i75』だ。

 

 いったいどんな奴かはわからないが、できれば厄介な奴でなければいいのだが……

 

「さて、もう着いたか」

 

 気が付けばもうすでに『O-01-i75』の収容室の前にたどり着いていた。

 

 いつものように扉に手をかけ、お祈りをしてから収容室の扉を開く。

 

 収容室からは、崩海の潮騒が聞こえた……

 

 

 

 

 

「……あっ」

 

 この潮騒を聞くと、いつも懐かしい気持ちになってしまう。

 

「それで、これが今回のアブノーマリティか……」

 

 収容室の中心にいたのは、どぶのような汚い緑色をした肌色の人型の怪物であった。

 

 体はおおよそ人型だが、その図体は人の二回りほど大きかった。かろうじて服のような布切れをまとっているため大切な部分は隠れているが、そもそもこいつにそういった部分があるのかどうかは分からない。

 

 手には何やらよくわからない杖を持っている。よく見れば、その杖の先端には見覚えのある羊皮紙が浮かんでいた。

 

 そして何より特徴的なのがその頭、頭部はイソギンチャクのようになっており、よくわからない粘液を垂れ流している。

 

「……?」

 

 それはこちらに気が付くと、咆哮を上げた。その行動に警戒するが、その咆哮は威嚇というよりも、どこか悲しそうであった……

 

「あっ、おい……」

 

 そしてそれは、手に持っていた杖を横に置くと、頭を垂れて手を組んだ。

 

 その行動は、まるで神に祈りをささげているようにも、己の罪を神に懺悔しているようにも見えた……

 

 

 

 

 

O-01-i75『巡礼者』

 

*1
『輪廻魔業』

*2
『桃源の甘露』

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