「おい、そっち行ったぞ!」
「任せろ!」
“残滓”から青白い炎が噴き出し、オフィサーに襲い掛かろうとする『O-05-i52』*1の前に壁となって燃え広がる。
これで足止めは十分だ。
「いくぞマオ!」
「任せろ!」
マオが“脳漿”で『O-05-i52』を殴りつけ、ひるんだところを“残滓”で切り裂く。
叫び声をあげる『O-05-i52』の口の中に“残滓”を突き刺し、その刃から炎を吹き出させて体内から焼き上げる。
「ギャアァァァァ!!!!」
そしてこんがりと焼けた『O-05-i52』が倒れたのを見届けて、しばらく警戒して鎮圧に成功したことを確認した。
「よし、鎮圧成功だな。助かったぜマオ」
「ふん、この程度では肩慣らしにもならん」
「そうはいっても、一応この施設で一番強いのこいつなんだけどな」
「もっと強そうなやつがいるだろうが」
まぁ、確かに強そうなやつはいるけど、そもそもあいつめったに脱走しなさそうなんだよなぁ。
「まぁそういうなよ。今からそいつのところに作業行ってくるからよ」
「そうか、せいぜいがんばれよ」
「おう、頑張ってくるよ」
『O-05-i52』の鎮圧を終えて、次の作業へと向かう。
次に向かうのは『O-01-i75』、以前収容されたアブノーマリティだ。
……ただあいつ、俺の時と別の奴の時とでかなり反応が違うらしい。
別に性別やらステータスで変わっている様子もないらしいから、不思議なものだ。
「まぁ、考えても仕方がないか」
気が付けば、もう『O-01-i75』の収容室の前に来ていた。
俺はいつものように扉に手をかけてから、お祈りをして扉を開ける。
……収容室からは、やっぱり崩海の潮騒が聞こえた。
「おーい、来たぞー…… って、ありゃあ、やっぱりかぁ」
収容室に入ると、『O-01-i75』は部屋の隅っこでうずくまりながら震えていた。
アブノーマリティが脱走するといつもこうだ。
何らかの方法でアブノーマリティが脱走したことを察知できるみたいだが、たとえどれだけランクが低くても、脱走するとこいつはこんな風におびえて縮こまってしまう。
「……さて、それじゃあ作業を始めるか」
とりあえずいつも通り収容室内の清掃から始める。
こいつは初めて会った時の反応もそうだが、俺に対して変な行動をとろうとする。
はじめは祈るような動作をしたし、そのあとも何かを話そうとするような、こちらに積極的にコミュニケーションを取ろうとする行動を見せる。
俺はそれが不思議な行動だと思いつつ、どこか懐かしさのようなものも感じてしまう。
それもこれも、この収容室内で聞こえる潮騒のせいだろうか?
「……よし、こんなもんか」
とりあえず収容室内の清掃が終わった。
『O-01-i75』のほうに目を向ける。
あれから結構時間がたっているというのに、『O-01-i75』はいまだに部屋の隅で震えていた。
今まで観察した結果、どうやらこいつはかなりの臆病らしい。
「もう大丈夫だぞ…… なぁ、あんまりビビっても仕方ないぞ?」
正直こんなことを言ったとしても意味はないだろう、それでも伝えたほうがいい気がしてしまった。
収容室から退出し、廊下を歩いていく。
できれば、何事もなければいいのだが……
「くそっ、『F-02-i32』*2を脱走させたのはどこのどいつだよ!!」
「愚痴っても仕方ないだろう! それより今は奴を見つけ出して鎮圧しなければ……」
『F-02-i32』が脱走したため、俺とリッチは今急いで捜索を行っている。奴が逃げたままだとこの施設が大変なことになってしまう。
『『O-01-i75』の収容室前で不審な動きを感知した、手の空いている職員はすぐに鎮圧に向かってくれ!』
「くそっ、ここから一番遠いじゃねぇか!!」
『F-02-i32』の脱走を聞いて手分けして探していたせいで、俺たちは発見場所から一番遠いコントロール部門まで来てしまっていた。
こうなったら近くに誰かいることを信じて急いで向かわなければ……
「間に合うか……?」
「そんなことを言っている暇があったら、黙って走り続けろ!」
リッチと二人で全速力で『O-01-i75』の収容室まで向かう。
頼むから間に合ってくれ……!!
「着いた! 状況は!?」
「おせぇぞ! くそっ、間に合わなかった!」
現場に着くなり状況確認を行ったが、どうやら事態は最悪らしい。
周辺には争った跡と、小さな狸の死骸が転がっていた。
先に来ていたであろうマオとシロは、E.G.O.を構えて目の前の怪物に対峙している。
その怪物は、『O-01-i75』。俺たちの体より二回りは大きいであろうその怪物は、俺たちを、いや俺を見るなり咆哮を上げて手に持つ杖で力強く地面をたたいた。
「ぐをおぉぉぉううぅぅぅわあぁぁぁ!!!!」
すると奴の背後に、巨大な扉が出現した。
真っ白で、どこか気品のあふれるその扉は、ゆっくりとひとりでにその扉を開いた。
「……聞こえる」
「お、おいジョシュア?」
聞こえる、懐かしい音だ。懐かしい匂いだ。
崩海の潮騒、流れ出る残滓、郷愁の香り……
「おいジョシュア!? そっちに行くんじゃない!」
「くそっ、魅了系か!」
「……ジョシュア!」
リッチの、マオの、シロの声が聞こえる。
目の前でマオとシロが『O-01-i75』に対して攻撃を加えている。しかし『O-01-i75』は無抵抗だ。
彼はただ、祈りの姿勢を崩さない。
「……今行くよ」
俺にはわかる、その扉の先が、この施設よりは安全な場所であることを。
だが、俺にとって重要なのはそこではない。
感じるのだ、懐かしい匂いが……
「待て、ジョシュア」
「……行かなきゃ」
「行ってどうするつもりだ!」
肩をリッチにつかまれる。
放してくれ、扉に行けないじゃないか。
「あそこに、あそこに故郷があるんだ……」
「そんなものはまやかしだ、心を強く持て!」
そんなことはない、あそこには確かにあるんだ……
「お前は、俺たちを置いていってしまうのか?」
「……あっ」
そうだ、俺は何をしようとしているんだ。
俺にはもう、大切な仲間がいるじゃないか。
それなのに、誘惑にかられ、ありもしない幻想を見てしまった。
「すまない、リッチ」
「気にするな、俺とお前の仲だろう」
何とか正気に戻った俺は、急いで『O-01-i75』に接近して、“残滓”を振りかぶる。
「をおぉぉえんうぇえぇぇぇぇ!!」
そして叫ぶ『O-01-i75』の頭に“残滓”を突き立て、青白い炎で焼き尽くす。
焼いている間、『O-01-i75』は叫び声一つ上げず、一切の抵抗をしなかった……
「……さてと、行くとするか」
『O-01-i75』の収容室へと再び向かう。
あの一件以降、思うところがあり、それを確かめに行く。
扉を開いて、収容室の中へと入る。
やっぱりそこには、懺悔をするような、祈りをささげるような姿勢を保つ『O-01-i75』がいた。
「……やっぱり、悔いているのか」
「……」
「俺は、恨んでないよ」
「……」
「この世界に来て、かけがえのない仲間ができて、幸せとはいいがたいけど、それでもよかったと思ってる」
「……」
「もう、苦しまなくてもいいんだぞ」
「……」
「つらかったよな、苦しかったよな」
「そんな姿になってまで、頑張ったんだよな」
「ごめんな、気づくのが遅れてしまって」
「そしてありがとう、俺なんかのために、こんなに頑張ってくれて」
「でも、もう大丈夫だから、頑張らなくてもいいんだ」
「こうしてまた出会えた、それだけで十分だから……」
「ぅう……」
『O-01-i75』を、『 』を抱きしめる。
ぎゅっと、優しく、壊れないように……
「ぅうぉぉぉおぉうおぅおぅおぅ……」
頭をなでる、今まで頑張ってきた分、存分に。
そうしてしばらくの間、二人で泣いた。
気が付けば、俺の頭には、綺麗な花のギフトが付いていた……
「……輪廻」
『どうした?』
「手伝ってほしいことがあるんだ」
『くははっ、いい目になったじゃないか』
O-01-i75『崩れ逝く海の旅人』