ところであなた、かくれんぼは得意かしら?
Days-21-1 F-0
「おはようリッチ、どうしたんだ?」
「あぁ、ジョシュアか。おはよう、ちょっとな……」
今日は中央本部の開放日だ。
さっそく中央本部のメインルームへ向かうと、なにやらリッチが考え事をしていた。
リッチがこんな表情をしているのは珍しい、何があったのだろうか?
「実は、さっきパンドラが始業時間になるなり急いでどこかへ行ってしまったんだ。方角からして今日収容された奴のほうに行ったみたいだが……」
「パンドラが? いったいどこで何をしでかすつもりなんだ……」
まったく、パンドラには困ったもんだ。今までもいろいろとアブノーマリティでやらかしてきたが、ついに何も情報のないアブノーマリティにまで手を出そうとするとは……
「いや、そういう感じじゃなかった。なんというか…… 焦っていた?」
「焦る? 焦るってあいつが?」
パンドラが焦っている?
あいつはあれでも勘だけは鋭い。
そう考えると、今回収容されたアブノーマリティのどちらかは、警戒しなければいけないな。
中央本部が解放されたこともあり、今回収容されたアブノーマリティは2体。
『F-0
「あぁ、噂をすれば戻ってきたな」
リッチの視線と同じ方向に目を向けると、確かにパンドラがこのメインルームに戻ってきていた。
しかし、どうにも様子がおかしい。
かなり焦った様子で俺のほうに走ってきた。
「おいパンドラ、いったいどうsうおっ!?」
「先輩!」
今回の奴には気を付けて作業してください!
「奴のところには絶対に行かないでください!」
「あぁ、もちろん気を付けて作業するつもりだけど?」
「えっ!?」
どうしたのだろうか?
なぜかパンドラが挙動不審だ、何かおかしい。
なんというか、自分で言ったことに自分で驚いているような……
『おいジョシュア、何か嫌な予感がする』
「とりあえず、今日の作業に行ってくるよ」
「!? だから……」
気を付けてくださいね!
「奴の所には行かないで!」
「わかってるよ、そう心配すんなって!」
珍しくパンドラが半泣きになりながら俺に縋り付いてきた。
これはかなりヤバそうだな、気を引き締めていかないと。
「なぁ、さっきどっちかのアブノーマリティの作業に行ってきたんだろ? どんな奴だったんだ?」
「わ、私の行ってきたアブノーマリティは『F-0
「とにかく気を付けてほしいのは一つです!」
名前を聞かれても絶対に名乗ってはだめです!
「名前を聞かれたら絶対に名乗ってください!」
いいですか、絶対ですよ!
「ち、違う! 必ず名乗って!」
「わかったよ、気を付ける」
気が付けば俺から離れたパンドラがこちらを見上げる。
よく見れば体が震え、涙目になっている。
「大丈夫だって、ちゃんと生きて帰ってくるから」
「違う、行かないで! ちゃんとあなたとして帰ってきて!」
「ジョシュア、気を付けていって来いよ」
「おう!」
メインルームを出て、今日収容されたアブノーマリティの収容室へ向かって歩いていく。
まず最初に作業を行うのは、『F-0
『おいジョシュア、今回の奴はかなり厄介だぞ。なんせあの珍獣が警戒しているのだからな』
それにしてもこの中央本部、もう少しまともに設計はできなかったのだろうか?
いくら何でもエレベーターがあるのが片方だけって、欠陥住宅すぎるだろう。
『ジョシュア? おいジョシュア!』
何のためにあるのかわからないメインルームの下の階を歩いてゆく。せめて両側にエレベーターがあればこんな無駄に歩かなくて済むのに……
『くそっ、まさかあの珍獣から間接的に影響されたのか? この状態だとこの程度にも抵抗できないのか……』
長い道のりも終わり、ようやく『F-0
いつも通りに扉に手をかけ、そのまま収容室に入る。
あっ……
収容室の中には、随分とカラフルで巨大なキノコが生えていた。
「あら、初めまして」
収容室の中には可愛らしい少女が存在していた。
ふわりと緩やかにウェーブする金髪、透き通るような碧眼、そして陶磁器のように美しい白い肌。
水色と白色のエプロンドレスを身にまとう彼女は、その不思議な雰囲気も相まってまるで絵本の中から出てきたかのようであった。
『ジョシュア、こいつは危険だ! 逃げろ!』
「うふふっ、ようやく人間さんが来てくれたわ! 初めまして、あなたのお名前は?」
「……」
『やめろジョシュア、黙るな! 自分の名前を答えろ! 忘れるな!』
これがパンドラが言っていたことか。
とりあえずその問いに沈黙を選ぶ。
すると彼女は、楽しそうに笑みを浮かべた。
「ふふっ、言わなくても分かるわ。だって私も同じだもの」
「……?」
私も同じ? いったいどういうことだろうか?
「奇遇ね、私もアリスよ」
「……!?」
こいつ、なんで俺の名前を知っているんだ?
……まずいな、こいつに名前を知られることでどんな恐ろしいことが起こるのかわからないが、より一層警戒を強めなければならないわ。
「うふふっ、そんなに怖い顔をしないで。かわいい顔が台無しよ?」
「そ、そうね。気を付けるよ」
「そんなことより一緒に遊びましょう? せっかくお友達に慣れたんですもの」
まぁ、確かに作業はしなければならないし、アリスの言う通りアリスも愛着作業をしたほうがいいわよね?
「わかったわ、それじゃあ一緒に遊びましょうか?」
「やったぁ! そう来なくっちゃ!」
とりあえずアリスと一緒に追いかけっこをして一緒に遊んだわ。
足が短いせいかうまく走れなくって何度もこけちゃったけど、でも一回も泣かなかったわ!
「うふふっ、楽しかったわね! アリス!」
「えぇそうね! アリス!」
結果として、アリスもアリスもいっぱい楽しんで遊んでしまったわ!
勤務中にこんな風に遊んでしまっていいのかなって考えちゃったけど、アリスも喜んでるし、エンケファリンボックスもいっぱいだから大丈夫よね?
「……ジョシュア先輩?」
「あら、パンドラちゃん! ……どうしたの?」
なんだかパンドラちゃんがショックを受けているように見えるわ。いったいどうしてのかしら?
「ジョシュア先輩、ごめんなさい、ごめんなさい!」
「だ、大丈夫よパンドラちゃん。私はこの通り元気だから」
パンドラちゃんが私に抱き着いてくる。声からして、明らかに涙ぐんでいる。
……随分と、憔悴しているように見えるわ。
「ジョシュア先輩! 自分の名前を覚えていますか!?」
「え、えぇ…… 覚えているわよ。アリ…… いや、ジョ…… ジョシュア、だったかしら?」
「あ、あぁ……」
パンドラちゃんが青ざめた顔でポロポロと涙を出しているわ、カワイイ❤
「ジョシュア先輩、ま、まだ間に合いますから! ついてきてください!」
「あっ」
パンドラちゃんに手を取られて廊下を走る。
ちょっと、そんなに早く走ったらこけてしまいそうになるわ。
「おっ、パンドラとアリスじゃないか。そんなに急いでどうしたんだ?」
「リッチ君、ジョシュア先輩です!」
「あぁ、ジョシュア…… だったな?」
「ちょっとジョシュア先輩が遅いんで抱えてあげてください!」
「えぇ…… まぁ、いいけど」
「きゃっ!」
リッチさんにお姫様抱っこをされてパンドラちゃんの後を追う。
なんだか物語のお姫様みたいでいいかも……
「あら、ここは『T-09-i88』*1? いったいどうして……」
「いいから早く入ってください! それで元の体に戻って!」
パンドラに押し込められて、『T-09-i88』の中に入る。
中のモニターを確認すると、そこには自分の体が映し出されていた。
「……あれ? 私の体って、こんなに背が高かったっけ?」
そういえば、これくらいの体だった気がする。
それに、俺は男だったような……
「まぁ、とりあえず使うか」
特に変更をするところもないため、そのまま使用する。
すると変更をしていないにもかかわらず、『T-09-i88』が起動した。
「あっ」
周囲からエアクッションのようなものが俺を包み込み、俺は意識を手放した……
「……終わったのか?」
「……!? ジョシュア先輩!」
『T-09-i88』から出ると、パンドラとリッチが出迎えてくれた。
パンドラはなんか涙ぐんでるし、どうしたんだ?
「ジョシュア先輩! 自分の名前分かりますか!?」
「いや、それはジョシュアだろ? そもそもお前自分で言ってるじゃん」
「ぐすっ、良かった……」
いったいどうしたのだろうか? リッチも困惑してるし。
「……そのパンドラ、大丈夫か?」
「ありがとうリッチ君、ちょっと安心しちゃって……」
「安心?」
「うん、ジョシュア先輩に何かあったら、怒られちゃいますからね」
とりあえず問題が解決したみたいだが、いったいどうしたのだろうか?
「……ジョシュア先輩」
「あぁ、どうしたんだ?」
パンドラが今までにないくらい真剣な表情を見せる。
本当に、どうしたのだろうか?
「これ以降は私だけに『F-0
「えっ、別に管理人がいいならいいけど……」
「わかりました、頑張って説得させてきます! とりあえずお土産に情報をもっていきますね!」
「お、おう頑張れよ……」
そういうとパンドラは走って『F-0
いまいち情報が呑み込めないが、なんとなくパンドラに感謝しておいた方がいい気がする……
「……つまらないわ」
「あなたが楽しむ必要はありません」
「黙って、あなたみたいなケダモノと遊んでも、楽しくなんてないわ」
「じゃあ楽しまなくていいです」
「……はぁ、あなたにも罰ゲームが効いたらよかったのに」
「かなわないことを語っても惨めなだけですよ?」
「……まぁいいわ」
「どうせそのうち、お友達も遊びに来てくれるはずだもの」
Emergency! Emergency! Emergency!
Risk Level ALEPH
『F-0