「……今日はなんだか静かだな」
お昼時、リッチと一緒に食事をしていると、ふと気になったので思わず口から思っていることが洩れてしまった。
目の前でミートボールスパゲッティを食べているリッチは、その話を聞いてこちらをじぃっと見つめてきた。
いや、そんなにこっちを見るなよ。
「確かに、もしかしたらパンドラがいないからか?」
「あぁ、確かに。『F-0
あいつがここまで熱心なのも珍しい。
もしかしたら、そのレベルのヤバい奴なのかもしれないな。
「さて、そろそろ時間だぞ。早く食べないと置いてくぞ」
「おいおい、ちょっと待っててくれよ」
リッチがお皿に残ったミートボールを急いで口に入れる。
なんというか、随分と幸せそうだ。
……こいつ、好物は最後まで残しておく派か。
「待たせたな。ジョシュア、この後はどこの作業に向かうんだ?」
「あぁ、俺はこの後ようやく『O-05-i53』の作業だ。リッチは?」
「俺は『O-01-i75』*2の作業に行ってくる。奴の作業を考えると面倒だ」
「まぁ、頑張れよ」
食堂を出て、それぞれ向かう先のメインルームへと歩いていく。
今日の作業は『O-05-i53』だ。
食後だし、できればグロい系でなければいいのだが……
「……まぁ、考えても仕方がないか!」
収容室へと続く廊下を歩きながら、ふとあることに気が付く。
そういえば、輪廻の奴も全然話しかけてこないな。
「……まぁいいか!」
輪廻の奴もたまにはそんなときもあるだろう。
そんなことよりも今日のアブノーマリティだ。
もうすでに中央本部、そろそろWAWやALEPHが来てもおかしくない。
実際、この前安全部門に来た『O-01-i75』はWAWだったしな。
「よし、そろそろか」
ようやく目的地である『O-05-i53』の収容室の目の前までやってきた。
いつものように収容室の扉に手をかけ、お祈りをしてから扉を開く。
……収容室からは、なんだかおいしそうな匂いが漂ってきた。
「えぇ……」
収容室の中に入ると、そこにはお皿のひっくり返った巨大なスパゲッティが存在していた。
そこから2本のスパゲッティがにょろにょろと動いたかと思うと、まるでカタツムリのようにニューっと伸ばして先端をこちらに向けてきた。
どうやらあれが、目のようだ。
それはこちらに気が付くと、体を起こして俺と向かい合った。
……なんというかそれは、カニのような、ヤドカリのようなスパゲッティだ。
もしかしなくてもこれはあれだな?
『O-05-i47』*3や『O-05-i52』*4の同類だな?
「なら、とりあえず掃除から始めるか」
まずは衛生的にしてやるのがこいつらの基本だ。
やっぱりこいつらにも食品としての自覚があるのだろうか?
「ギュイ、ギュイ」
「えぇ……」
こいつ鳴くのかよ、びっくりしたわ。
それにしても、図体のわりにかわいい鳴き声だな。
警戒しておこう。
「まぁ、とにかく気を付けておいた方がいいかもな」
『O-05-i53』を警戒しながら掃除を行っていく。
この手の奴は愛着持たせてきてから裏切るからな、騙されんぞ!
その間も『O-05-i53』は嬉しそうに鳴きながらこちらを見ていた。
なんというか、監視されているというよりは、興味津々といった感じだ。
「……よし、これで終わりだな」
洞察作業も終わり、収容室を後にする。
なんというか、喜ぶたびにおいしそうな匂いを出すのはやめてほしかった。腹が減る。
「とりあえず、洞察作業が安定しそうだな」
メインルームへと向かって歩く間、さっきのおいしそうな匂いが忘れられそうになかった。
『各メインルームで灰燼の夕暮が出現しました、周囲の職員は鎮圧に向かってください』
「くそっ、いきなり出てくるのはダメだろ!! 『O-01-i75』の状態は!?」
地面から突き出た灰色の槍のような岩によって、死屍累々の惨状が出来上がっていた。
灰燼の夕暮の急襲によって数多のオフィサーたちに被害が出た。
このままでは死体反応型の『O-01-i75』が脱走するかもしれない。
今いる中央本部からだと、こいつをつぶして駆けつけるには時間がかかる。
「わからん!! だが放送がないのであれば……」
『『O-05-i53』が脱走しました、周辺の職員は鎮圧に向かってください』
「くそっ、お前も死体反応系かよ!?」
思わず悪態をつく。まさかの『O-05-i53』も死体反応型だったようだ。
奴はここから近い、急いで灰燼の夕暮を鎮圧する必要がある。
「すまんリッチ、少し離れろ!!」
手に持つ“残滓”から力を吸い出し、放出する。
横なぎに振られた“残滓”から青白い炎が噴き出し、灰燼の夕暮に燃え広がっていく。
「ここで決める!」
“残滓”を逆手に持ち、刀身に力を込めて熱量を上げていく。
そして限界まで力が溜まったところで勢いよく炎を放出し、己の体を吹き飛ばす。
「……灼き斬る」
そして、その勢いのまま灰燼の夕暮を切り裂いた。
灰燼の夕暮は断面を青白く光らせながら、崩れゆく。
そしてそのまま、灰燼の夕暮は機能を失った。
「ジョシュア、大丈夫か!?」
「はぁ、はぁ、大丈夫だ……」
E.G.O.の力を引き出しすぎたせいなのか、少し倦怠感がある。
だがこの後『O-05-i53』の鎮圧も残っているのだ。このままゆっくりしているわけにはいかない。
「よし、行くぞ!」
「あぁ、無理はするなよ!」
急いで中央本部特有の長ったらしいメインルームを走っていく。
向かう先は『O-05-i53』の収容室のある廊下だ。
できればあまり動きが早くない奴だと嬉しいのだが……
「くそっ、メインルームにまできてやがる!」
「おい、非戦闘員は早く避難するんだ!」
下のメインルームににたどり着くと、すでに『O-05-i53』が侵入していた。
奴はパスタを足代わりにうねうねと見た目以上の速さで動き回っている。
「嫌だ、助けてくブベラッ!」
そしてその速さから逃れられず、オフィサーが一人犠牲になってしまった。
「くそっ、燃えろ!」
俺とリッチ、『O-05-i53』を囲むように炎を燃え広がらせて、奴の動きを制限する。
しかし奴は俺たちに興味を示さず、先ほど殺したオフィサーの死体を弄んでいた。
「させてたまるか!」
リッチが“後悔の日々”で『O-05-i53』を殴りつける。
しかし『O-05-i53』は背中のお皿でリッチの攻撃を防いだ。
「まずい、あいつ何かする気だぞ!」
「任せろ!」
“残滓”に力を込めて『O-05-i53』に投げつける。
するとうまく『O-05-i53』のパスタに突き刺さった“残滓”が勢いよく爆発し、俺の手元に戻ってきた。
「どうだ!?」
「いや、まだだ!」
『O-05-i53』は傷を負っているものの、まだまだ動けるようだ。
しかも、奴の動きを十分に止めることはできなかったようだ。
「……なんだよあの悪趣味なミートボールは」
「どう考えても、ろくなものではないな」
先ほどの職員で作ったのであろう肉団子を背中に乗せて、こちらに向かう『O-05-i53』。
俺たちはアイコンタクトをすると、リッチが懐に潜り込む。
「おらぁ!!」
リッチの掬い上げるような一撃で、『O-05-i53』が一瞬宙に浮く。
俺はその隙を見逃さず、奴の下にもぐると“残滓”の力を引き出した。
「ここで、切り刻む!!」
奴にやりたいことなんてさせる気はない。
“残滓”で徹底的に無防備なパスタを切り刻み、焼き尽くしていく。
その激痛のせいか、『O-05-i53』が悲鳴を上げながら燃え尽きていった。
「……ふぅ、これで終わりか」
「あぁ、助かったよリッチ」
「それは俺のセリフだ」
いまだに燻る『O-05-i53』のほうを見る。
「……しばらくスパゲッティは食べれそうにないな」
「あぁ……」
まったく、なんで食べ物の形で出てくるのやら……
ついに『T-05-i08』*5は、己すらも超える化け物を作り出した。
この結果を受けて、我々に走った衝撃は計り知れない。
もはや『T-05-i08』は、我々の手に余るものとなってしまった。
そして、ついに我々のうちの一人がこういい始めた。
これ以上の実験は中止すべきです、と……
O-05-i53『フレディのウキウキごきげんスパゲッティ』