ザザァ…… ザザァ……
「……あれ?」
朝、目が覚めると、何処からか波の音が聞こえた気がした。
『どうしたジョシュア?』
「……あぁ、輪廻か。昨日はどうしたんだ?」
『奴の妨害を受けた、今はもう大丈夫だ』
……? 奴とは誰のことだろうか?
こいつのことを妨害できるなんて、かなりヤバい奴なのではないか?
『ジョシュア、前回は先手を打たれたから言っておく。お前たちの言う『F-0
「凶悪な力?」
『あぁ、それこそ今の俺では不意打ちに対処できないレベルだ』
「それって、かなりヤバいんじゃないか?」
確かに今のこいつは搾りかすのような力しかないが、元をたどればALEPHクラスの怪物だ。
それがいくら不意打ちとはいえ、何もできなかった?
もしかしたら、昨日全然話しかけてこなかったことも関係があるのか?
『おそらく次は大丈夫だが、お前も気を付けておけ。己の名前を忘れず、己を保ち続けろ』
「えっ、あぁ……」
なんというか、あまりピンとこないけどとにかく気を付けたほうがいいのかもしれないな。
「……まぁ、とりあえず気を付けたほうがいいことは分かった」
「それじゃあそろそろ仕事に行くとするか!」
『あぁ、頑張れよ』
「……というわけで、パンドラさんが『F-0
「まぁ、エネルギーを全然生成できないんじゃ仕方ないよな」
「代わりに私が今『F-0
「それは言い過ぎだろう。でもまぁ、相性とかはあるのかもしれないな」
職場に着くなり、アリスが話しかけてきたので情報交換を行っていた。
どうやらパンドラは『F-0
「さて、それじゃあ今日も作業に行ってくるよ」
「ジョシュアさん、頑張ってくださいっす!」
アリスと離れて収容室へ向かって歩いていく。
今日収容されたアブノーマリティは、『O-02-i71』と『T-09-i89』だ。片方はツールだからいいとして、もう片方がどんな奴か気になるな。
『……ジョシュア、さっきの男になにか違和感はなかったか?』
「えっ、男?」
『……お前がアリスと認識していた人間だ』
……つまり、アリスに何かあったということか。
もしかしたらさっき言っていた『F-0
「悪いが違和感を感じることはできなかった」
『となると、かなりまずいな。あいつの性別は分かるか?』
「……俺には女に感じたが、さっきの話だと、男なのか?」
俺の記憶では、アリスは最初から女性だった。しかし輪廻の話だと、どうやらもともとは男だったようだ。
しかし本当にそんなことがあるのだろうか?
『あぁ、俺も名前までは憶えていないが、男であったことは確かだ』
「……そうか」
輪廻の言うことを信じるなら、これはかなり危険だな。
人の認識だけでなく、記憶にまで影響を与えている可能性がある。
『F-0
「……っと、もう着いたか」
気が付けばもう、『O-02-i71』の収容室の前についていた。
「よし、行くぞ」
収容室の扉に手をかけ、お祈りをする。そして力を込めて扉を開いた。
収容室からは、崩海の潮騒が聞こえてきた……
「……こいつが、今回のアブノーマリティか」
収容室に入ると、そこには大きなクラゲが漂っていた。
大きな紫色の笠からは、数多の触手が伸びていた。
どこか毒々しい雰囲気をまとったそのクラゲは、触手の一本をこちらに伸ばしてきた。
「……っ!」
まるで握手でも求めてくるかのような気軽さで伸ばされた触手を、手元に“残滓”を呼び出して切り払う。
すると『O-02-i71』は、すこし残念そうにしていた。
「お前、今何かしようとしていたな?」
なんとなくだが、こいつ今しらを切った気がする。
まったく、油断や隙もありはしない。
「まぁいい、さっそく作業を始めようか」
とりあえずこういう時は洞察作業と決めている。
掃除用具を取り出して、収容室の掃除を始める。
「……こいつ、うっとうしいな!」
さっきから掃除をしていると、こちらの隙を狙って触手を伸ばしてこようとしてくる。
油断も隙もない、かなり作業がやりづらいな。
『O-02-i71』の動向を気にしながら作業を行っていく。
奴を観察すると、こちらも観察されていることに気が付いた。
「……ふぅ、何とか終わったな」
とりあえず作業を終えることができた。
急いで収容室から退出する。何とか奴に何もされずに済んだようだ。
「さて、できればあんまりかかわりたくない奴だったな……」
収容室から出てメインルームに戻る。
「……あっ、ここ下のほうのメインルームじゃないか」
考え事をしながら歩いていたせいか、下のほうのメインルームに来てしまった。
「……あれ、アリスか?」
「うんしょっと…… よし! あっ、ジョシュアじゃない!」
メインルームを見回してみると、何故かこんなところにアリスがいた。
何か床をいじっていたようだが……
作業終わりだろうか?
「どうしたんだよ、こんなところで?」
「うふふっ、ちょっと遊んでただけよ♪」
そう微笑むと、アリスは去っていった。
向こうは収容室のほうだが、結局作業に行こうとしていただけだろうか?
「まぁいいか…… あれ?」
気が付いたら、床にキノコが生えてきていた。こんなところにキノコが生えているのは初めてだ。
「とりあえず、消しとくか」
“残滓”で切り付けて焼き尽くす。
するとキノコは一瞬で灰となってしまった。
いいかいヒカリちゃん
この海には、決して出会ってはいけないものがいるんだ
そいつはこの海を巡回して、怪物や俺たち人間を捕まえては、奴隷のように連れ回すんだ
どこで何をしているかはわからないが、よくない目に合わないのは確かだ
ついでに『巡礼者』とも仲が悪いらしいから、『巡礼者』と一緒にいても危ない
狂暴化して巻き込まれるからな
俺も一度だけあったことがある ……あれは本当に恐ろしかった
直接会って生きて帰れた人間は、俺だけらしい
だから君は、ここから絶対に出たらいけないよ
俺たちは奴のことを……
『支配者』と呼んでいる
O-02-i71『支配者』