「パンドラ、そう落ち込むなって」
「……でも」
「こればっかりは仕方がないだろう? この会社はあくまでエネルギー会社なんだから」
「……はい」
随分とパンドラが落ち込んでいる。
まぁ、それもそうだろう。彼女は俺たちのために『F-0
「気にしても仕方ないし、どうしようもない時もある。切り替えて行けよ」
「……先輩」
「うん、なんだ?」
パンドラが、随分と控えめな声で俺を呼ぶ。
……本当に、昨日かららしくないというか。それほど危機感を感じているのだろうが。
「先輩は、もう自分を見失わないでくださいね」
「あぁ、もちろんだよ」
パンドラと約束してから、メインルームを去る。
次の作業に向かうために、歩いていく。
「はぁ……」
思わずため息が出てしまう。
なんせ、今からツールの作業に行かなくてはいけないからだ。
「まぁ、いつまでもそのままにはできないしな」
今回収容されたツールは、『T-09-i89』だ。ツールだし見てからどうするか決めればいいだろう。
どのみち使うことにはなるだろうしな。
「さっさと終わらせるか」
『T-09-i89』の収容室へと歩いていく。
なんというか、ツールを使うというだけで、足が重くなる。
「……はぁ、もう着いちゃった」
気が付けばもう『T-09-i89』の収容室の目の前に来ていた。
いつものように収容室の扉に手をかけ、適当に扉を開ける。
「さて、今回は…… えぇ」
収容室に入ると、気持ちの悪いものがポットの中に浮かんでいた。
それは、見るからに気味の悪い、大量の目玉の塊…… いや、目玉のブドウであった。
「なにこれ、食べろとでもいうのか?」
とりあえずポットから出し、『T-09-i89』を手にとる。
使い方がわからないので、とりあえず目玉を一個取り外そうとしてみる。
「ギャアァァァァ!!!!」
「うおっ」
目玉をもごうとして叫ばれた。
正直こんな風に叫ばれるとは思ってなかったので驚いた。
「……じゃあ、とりあえず持っておけばいいのか?」
仕方がないので懐に忍ばせておく。
「……うん? おぉっ!?」
そしてその瞬間に、俺の視界が広がった。
「なっ、なんだこれ!? 気持ち悪っ!!」
360度全方位が見れる。その光景は、脳が処理しきれないのか言いようもないほども気持ち悪さを感じる。
「えぇぇ、マジでなんだよこれ……」
懐から『T-09-i89』を取り出そうとして、思いとどまる。
……なんか、このまま返したら大変なことになる気がする。
「と、とりあえず何かの作業に行ってみるかな」
『T-09-i89』の収容室から出て、違うアブノーマリティの作業に向かう。
とりあえず、『F-02-i32』*1のところにでも行こうかな?
「そ、それにしても、これは慣れるまでは歩くのも難しそうだ」
少しふらふらしながら道を歩く。
周囲の情報をすべて取り込むということは、これほどつらいものなのか。
しかも自分自身が揺れているせいで、余計に気持ち悪い。
『……大丈夫か、ジョシュア?』
「お、おう。大丈夫だ」
『まぁ、じきになれるはずだ。もう少し我慢しろ』
「くっそぅ、わかったよ……」
まさか輪廻にすら心配されるとは思わなかったよ。
壁に手を付けながら歩いていく。これで少しマシになった。
「よし、ちょっとましになってきたかも」
少し慣れてきたのか、周囲の情報をうまく認識できるようになってきた。
「……なるほど、これはすごいな」
最初は気味の悪かった全方位の視界も、慣れればかなり有用であるように感じた。
全方位に視界があるということは、不意打ちにも対処できるということだ。
例えば背後、今後ろからオフィサーが歩いてきていることが振り向かなくてもわかる。
例えば足元、汚れもなくきれいに清掃されていることがわかる。
ついでに天井、うーん暗いし汚い。
このように、慣れれば死角のない素敵なツールだな。うん!
「って言っても、どうせ何らかのデメリットはあるんだろうけどな」
この慣れるまでのふらふらもあるし、どうせツールだから即死効果もあるのだろう。
というか、今気が付いたんだけど、ちゃんと目を閉じれば視界もふさがるわ。
これもうちょっと意識しといたら、さっきの違和感ももう少しマシになっていたかもしれないな。
「おっ、もう着いたな」
気が付けばもう『F-02-i32』の収容室の目の前についていた。
いつものように収容室の扉に手をかけ、お祈りをしたから収容室に入る。
すると中には、『F-02-i32』がいなかった。
「なっ!?」
急いで収容室の中に入って扉を閉める。
『F-02-i32』がどこかに隠れているのなら一瞬のスキをついて部屋から出られかねない。
「管理人、『F-02-i32』が脱走したかもしれない。今すぐ確認を頼む」
『こちら管理人、了解した。判明次第すぐに伝える』
収容室の真ん中に立って意識を集中する。
その時、背後の壁が少し揺らいだ気がした。
「へhっ、ジャジャジャジャーnぬわぁ!?」
「おい、悪戯するんじゃない!!」
背後からとびかかってきた『F-02-i32』の首根っこをつかんで取り押さえる。
どうやら壁に化けて悪戯を仕掛けてきたようだ。
まったく、肝が冷える。
「すまない管理人、『F-02-i32』を確認した。騒がせてしまった申し訳ない」
『いやいや、大事にならなくてよかった。了解』
とりあえず、『F-02-i32』を放してやることにした。
すると『F-02-i32』は俺の足の周りをくるくる回り始めた。
「すごいなジョシュア!? もしかして頭の後ろに目が付いてるのか?」
「あははっ、まぁそんな感じだな。ほら、飯だぞ」
「やったー!」
『F-02-i32』の話を適当に流しつつ、作業を始める。
今回は本能作業だ。
「モグモグ、なぁジョシュア?」
「うん、どうしたんだ?」
食事をしていると、いきなり『F-02-i32』が話しかけてきた。
「最近大変な奴が来たみたいだね?」
「……あぁ、そうみたいだな」
「……あぁ、もう影響下なのか」
いきなりどうしたんだろうか?
そう思っていると、『F-02-i32』が再び口を開く。
「とりあえず、気を付けたほうがいいよ? 正直、ずっと見られているみたいで気味が悪いんだ」
「……そうか、わかったよ」
うーん、どうにも実感がわかない。あの子はそんなにも危ないアブノーマリティなのだろうか?
「それじゃあ、またな」
「またね、ジョシュア!」
『F-02-i32』に手を振って、収容室から出ていく。
しばらく歩いていくと、目の前からリッチが歩いてきた。
「よう、リッチ」
「やぁジョシュア、今作業が終わったのか?」
「あぁ、実は今新しいツールを使っているんだ」
リッチと一緒に雑談をしながら歩いていく。その間もツールの話をしていく。
「なるほど、ほかにどんな能力があるんだ?」
「あ~、なんとなくだけど、精神汚染がそんなにきつくなかった気がするな。周囲をしっかり見れる分心構えができているのか、それとも鈍感になっているのかも?」
「ほう、結構使えそうだな……」
そういって話をしていると、目の前からアリスが3人走ってきた。
「おいおい、あんまり走るなよ!」
「きゃははっ、ごめんなさーい!」
「まったく……」
俺がアリスに注意すると、リッチが少しこちらを責めるような目で見てきた。
「どうしたんだよ?」
「いや、まず仕事中に遊んでいることに怒れよ」
「そうはいってもなぁ、一応オフィサーの仕事はしてるっぽかったし……」
「あぁ、さっきのはオフィサーのアリスたちか…… おっ」
しばらく歩いてメインルームにたどり着くと、そこには巨大なキノコが生えていた。
「あぁ、また生えてるな」
「なんだ、そんなに生えるのか、これ?」
「あぁ、この前も小さい奴が生えていた」
「とりあえずとっとくか」
「そうだな」
俺とリッチはE.G.O.を構えて、キノコを採るのであった。
私はもっと世界を見てみたい
いろんなものを、余さず見たい
前も後ろも、何処までも
だからみんなの目玉を集めたよ。
ブドウみたいに集めて、何処でも見れるように
ほら、これがあれば……
見える景色が変わります、ってね
T-09-i89『全貌の葡萄』