【完結】誰も知らないアブノーマリティー   作:名無しの権兵衛

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EX-Story-13 O-02-i71『魔法陣』

「よう、元気か?」

 

「うおぉぉぉぉおうぅ」

 

 『O-01-i75』*1、いや『巡礼者』の収容室に訪れた俺は、彼に話をしながら作業を始める。

 

 モップを手に持ち、丁寧に清掃を行っていく。

 

「どうだ? 何か不便なところとかないか?」

 

「あ゛ぁい」

 

「そうか、良かった。それじゃあちょっとは慣れてきたか?」

 

「おぉあぃ」

 

「やっぱり怖いよな、でも安心してくれ。少なくともここの中は安全だ」

 

「いあぁあ゛ぁ」

 

「そりゃあそうだよな、こんなところに閉じ込められてばっかじゃなぁ」

 

「いあ゛ぁうぅ」

 

「え?」

 

「い゛んあ、あうぅえうぅ」

 

「……そんなに、頑張らなくてもいいんだ」

 

 掃除も終わり、別れの挨拶をしてから収容室から退出する。

 

 収容室から出るとき、彼は少し悲しそうに見えた。

 

「……まぁ、考えても仕方ないよな」

 

 今の俺とあいつとではいろいろと変わってしまった。

 

 あの時のように仲良くすることも許されない。

 

 それはやっぱり、寂しいな……

 

「あら、どうしたのそんなに悲しそうな顔をして?」

 

 少し暗い顔をしていたからか、可愛らしい金髪の少女に声をかけられる。

 

 ……いや、もともと男だった少女といった方がいいかもしれない。

 

「あぁ、アリs…… ロバートか。いや、なんでもないよ」

 

「……? 私はアリスよ?」

 

 ロバート、いやアリスは不思議そうに首をかしげる。

 

 もう、完全にアリスに飲まれてしまったのだろうか?

 

「……なぁ、アリス。ちょっとだけ……」

 

「あっ、用事を思い出したわ! 失礼!」

 

 “残滓”を呼び出して異能部分だけ炎で焼き尽くそうかと思ったが、感づかれたのか逃げられてしまった。

 

 まったく、勘のいいやつだ。

 

「……あれ?」

 

 その時、彼女の首筋に紫色のキスマークのようなものがあることに気が付いた。

 

 あれはいったい……

 

「あら、あなたも気が付いたの?」

 

「お前はアリス…… じゃないな」

 

 気が付けば隣にいた存在に目を向けると、その正体におおよその見当が付いた。こいつは本当に油断もできない。

 

「うふふっ、それはどうかしら?」

 

「それで、何の用だよ『F-06-i61』*2?」

 

 俺は隣の怪物に声をかける。

 

 こいつ、いったいどうやってアナウンスもなしに脱走しやがった?

 

「うふふっ、大丈夫よ? ちょっとお散歩してるだけだから」

 

「散歩って……」

 

「それに、さっきのアリスを見た?」

 

「……」

 

「あのクラゲのマーキングがされていたでしょう? 本当に、嫌になっちゃうわ」

 

「……いい加減に帰れよ」

 

「もう、せっかく教えてあげたのに。もういいわよ、帰る!!」

 

 『F-06-i61』は拗ねてしまったのか、そのまま帰っていってしまった。

 

 まぁ、自分から帰ってくれるのであれば別にいいか。

 

 とりあえず近くに生えていたキノコを処理して、収容室のほうを確認した。

 

 どうやらちゃんと収容室には帰っているらしい。

 

「それにしても、クラゲか……」

 

 クラゲということは、『O-02-i71』のことだろう。

 

 あいつ、なんかろくでもなさそうな予感がしていたが、やっぱりヤバい奴だったのか。

 

「……さて、どうするか」

 

 とりあえず『O-02-i71』の収容室へといった方がいいだろうか?

 

「よう、ジョシュア。どうしたんだ?」

 

「よう、マイケル。いやぁ、次はどこの作業に行こうかなって思ってさ」

 

 悩んでいるとマイケルが話しかけてきたので返事をする。

 

 ふとその時マイケルの首元を見ると、そこには紫色のキスマークのようなものが付いていた。

 

「おいマイケル、それは一体どうしたんだ?」

 

「うん? あぁこれか、これはさっき『O-02-i71』に愛着作業をしたときにつけられたんだ。まったく気持ち悪い……」

 

 そういって紫色の刻印部分をさするマイケル。

 

 ……なんかこれはまずい気がする。

 

「とりあえずどうにかしてみよう、ちょっと見せて……」

 

『『O-02-i71』が脱走しました、付近にいる職員はすぐに鎮圧に向かってください』

 

「くそっ、仕方がない。先に鎮圧に…… って、あぶなっ!?」

 

 アナウンスを聞いて『O-02-i71』の鎮圧に向かおうとしたその時、背後からマイケルが襲い掛かってきた。

 

「おい、どうしたんだマイケル!?」

 

「……」

 

「おい、目を覚ませ!」

 

 マイケルの瞳を見ると、目はうつろで紫色に怪しく輝いている。

 

 よく見れば、首元の刻印も同じように光っていた。

 

「……すまん、手荒にいくぞ」

 

 “残滓”を手元に持ってきて炎をまく。

 

 それに対してマイケルは、自分が燃えることも気にせずに突っ込んできた。

 

「くそっ、人の体を何だと思ってやがる!」

 

 おそらく操られているようであるマイケルは、自身に火が燃え移っていることにも気にせず手に持つ“金貨”を振るってくる。

 

 それを何とかよけつつ、次の作戦を考える。

 

 いくら“残滓”の炎が物理的ではなく精神への攻撃だとしても、負担は大きくなるだろう。

 

 こうなったらあの刻印に直接叩き込むしかない。

 

 しかし相手はマイケルの体の負担を無視して突っ込んでくる。

 

 これはかなり厄介だ。

 

「……ならっ!」

 

 マイケルの攻撃に合わせて“金貨”を打ち上げ、体勢を崩す。

 

 そしてそのまま足を払って倒れたところで、刻印に“残滓”を突き立てた。

 

「お前だけが燃えやがれ!」

 

 刻印だけを意識して炎を流し込む。

 

 すると刻印から火が漏れ出し、そのまま刻印のみを焼き尽くしてしまった。

 

「……ふぅ、大丈夫かマイケル? ……よかった、気絶しているだけか」

 

 返事がなくて一瞬焦ったが、ちゃんと息はある。このままでも大丈夫だろうか?

 

「……さて、待ってはくれないか」

 

 気が付くと、廊下の入り口から何かがやってきていた。

 

 ……それは、大きな紫色のクラゲだった。

 

 紫色の笠からいくつもの触手を伸ばし、そしてその周囲には何人もの職員がうつろな目で立っていた。

 

 オフィサーたちにアリスとなったロバート、さらにいつの間にか脱走していた『T-02-i46』*3

 

 どうやら奴は人間だけでなく、アブノーマリティすら支配下に置けるらしい。

 

「くそっ、どうやって戦えば……」

 

「お゛お゛ぉう゛ぅぅぅぅぅぅお゛お゛お゛お゛お゛」

 

「なっ!?」

 

 そんなことを考えていると、背後の収容室からいきなり『O-01-i75』…… 『巡礼者』が飛び出してきた。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁあ゛!!!!」

 

「ぎゅえおええぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 そして気が付けば、『巡礼者』と『O-02-i71』が互いに咆哮をあげ、戦闘が始まった。

 

 くすんだ緑色の粘液を吐き出して杖を槍のように構えて突撃する『巡礼者』は、いつもと違い狂乱しているように見えた。

 

 一方の『O-02-i71』はオフィサーたちを盾にしつつ、毒針を飛ばして触手を鞭のようにふるっていた。

 

 こちらも、いつもの余裕ぶった態度はどこにもなく、怒りにとらわれたかのように『巡礼者』に攻撃を加えていた。

 

「大丈夫か!?」

 

 一瞬呆気にとられそうになるも、慌てて職員たちの刻印に“残滓”を突き立てていく。

 

 拳銃のオフィサーたちはまだしも、“苺”を使ってくるアリスはかなり厄介だったが、何とか制圧して廊下から連れ出してメインルームへと連れていく。

 

「お゛ぉあ゛ぁぁぁぁぁぁあ゛!!!!」

 

 

「ぎいぃぃぃえぇぇぇx!!!!」

 

 そうしている間にも、『巡礼者』と『O-02-i71』は激しく争っていた。

 

 槍のように杖を巧みに使って攻撃し、粘液をはいたり串刺しにしたりと攻め立てる『巡礼者』。

 

 毒の霧をはき、水の鎧をまとい、毒針や水の大砲を打ち付けてくる『O-02-i71』。

 

 両者一歩も引かないが、少しづつ『巡礼者』が押されているように感じた。

 

「まずい!!」

 

 『O-02-i71』を“残滓”で切り刻むも、あまり効果はないように見える。

 

 炎を吐き出しても、水を操ってすぐに鎮火される。

 

 ……このままでは、まずい。

 

『何をしているのだジョシュア?』

 

「……輪廻」

 

 そんなときに、輪廻が俺に話しかけてきた。

 

 いったい何だろうか?

 

『お前には、それ以外にも力があるだろう?』

 

「それ以外って、“残滓”のことか?」

 

『それ以外に何がある?』

 

 ……確かに、あの時は“残滓”以外にも使っていたな。

 

 しかし、今“墓標”を使うことは難しいと本能が警告している。

 

 ならば、それ以外なら。

 

「助かったよ輪廻」

 

『ふん、全て俺の一部だ。忘れられるのは癪だからな』

 

 胸に手を当てて、左目に意識を集中させる。

 

 左目の中から目的のものを探り当て、ようやく見つける。

 

 ……これさえあれば、きっと行ける。

 

「いくぞ、“骸”」

 

 左目から“骸”を取り出し、右手に持つ。

 

 おぞましい肉塊の槌からは、咀嚼音が延々と垂れ流されている。

 

「ふんっ!」

 

 左手に持った“残滓”から火を吹かし、一気に『O-02-i71』と距離を詰めて“骸”を叩きこむ。

 

「ギャアァァァァ!!!!」

 

 “骸”に殴られた『O-02-i71』の体の一部が消失している。

 

 もしかして、食ったのか?

 

「あ゛あ゛ぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 そして、その瞬間を見逃す『巡礼者』ではなかった。

 

 彼はそのまま飛び上がり、『O-02-i71』を串刺しにした。

 

 すると『O-02-i71』は世にも悍ましい悲鳴を上げた後に、ピクリとも動かなくなった。

 

「助かったよ、ありがとう『巡礼者』」

 

「……あぁ」

 

 助けられたお礼を言うと、『巡礼者』は気まずそうに返事をして収容室へと戻っていった。

 

 しかしその背中は、少しうれしそうであった。

 

「よし、それじゃあメインルームにでも戻るか」

 

 とりあえず安全部門のメインルームに戻る。とりあえずさっき避難させたやつらの安否を確認しないとな。

 

 

 

 

 

「さて、戻ってきたぞ、『O-02-i71』」

 

 『O-02-i71』の収容室に戻ると、『O-02-i71』は待っていましたといわんばかりの雰囲気で漂っていた。

 

 それはそのまま俺のほうへと近づいてくると、その触手を俺のほうに伸ばしてくる。

 

 それは隷属の触手。

 

 数多の奴隷を作り出すもの。

 

 崩れ逝く海の『暴君』

 

 そんな怪物の伸ばした触手。

 

 まるで握手をしてくださいとでもいうようなその触手に対して、俺は……

 

 

 

 

 

 その触手を、手に取った。

 

 

 

 

 

 しかし、それは隷属の印でもなく、友好の証でもない。

 

 対等で、反抗的で、挑戦的な握手だ。

 

 隷属できるものならやってみろ、俺はそれに全力で抗うと。

 

 そんな思いが奴にも伝わったのか、どう猛な笑みを浮かべたように感じた。

 

「……うっ」

 

 その時、俺の頭上に魔法陣のようなものが現れた。

 

 おそらくは、こいつに認められたということだろうか?

 

「あばよ」

 

 触手から手を放し、収容室から出ていく。

 

 頭上に広がる魔法陣は、怪しく紫に光り輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

O-02-i71 『崩れ逝く海の魔術師』

 

*1
『崩れ逝く海の旅人』

*2
『終わらぬ夢のアリス』

*3
『ブレインシェイカー』

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