【完結】誰も知らないアブノーマリティー   作:名無しの権兵衛

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 それでは、これまた魔境の安全部門、始まります。


安全部門
Days-11 T-04-i09『この枯れた大地に、種を撒こう』


 今日からついに、安全部門が解放される。ゲームでは教育部門とどっちを先に開くか決めれたが、管理人は安全から解放していくようだ。

 

 ゲームでは教育からいつも開けていたが、現実である今は安全部門の方が正直ありがたい。自分の命に関係しているからな。

 

「さて、今回も個性的なやつが多かったな」

 

 今回の新人たちの事を思い出しながら、廊下を歩いて行く。毎度の事ながら俺が教育係を任されたが、正直俺よりも適任がいるように思える。もう俺はパンドラの相手で手一杯だ。

 

「はぁ、とりあえず新人たちには『T-01-i12』*1や『T-05-i10』*2の作業を任せているが、大丈夫だよな」

 

 とりあえず、新人たちにはΛ494たちと一緒に作った情報をまとめて渡してある。滅多なことでは死なないとは思うが、絶対など無いのがもどかしい。せめて『T-01-i12』だけなら大丈夫かもしれないが、そうなれば安全なアブノーマリティーに慣れてしまう。そうなれば慢心を招き、結局死んでしまう事になる。

 

「あっ、ジョシュアさーん」

 

「なんだカッサンドラか。どうせ占いだろ?」

 

「どうせって何ですか!?」

 

 考え事をしながら歩いていると、カッサンドラに話しかけられた。こいつの話なんて大体が占いで、後は他愛の無い世間話ばかりだ。話していて楽しいから良いけど、さすがにいつも同じような話では辟易してしまう。

 

「まぁ、そうなんですけどね」

 

「やっぱりそうじゃないか」

 

「で、でも本当にいい結果だったんですよ! 早速良いことありましたし、『T-09-i98』*3の結果も良い感じだったんですよ」

 

「そもそも『T-09-i98』のレパートリーは3、4種類程度だろあれ……」

 

「でも良いんですよ!」

 

 カッサンドラはプリプリ怒っているが、本当のことなので仕方が無い。可愛らしくほほを膨らませるカッサンドラのほっぺを突きたくなる衝動を我慢して、廊下を歩いて行く。早く今回の作業を行わなければならない。

 

「とりあえず、もう俺は行くぞ」

 

「えっ、もう行っちゃうんですか?」

 

「仕方が無いだろ、仕事なんだから」

 

「私と仕事、どっちが大切なんですか!?」

 

「……仕事だよ」

 

 なぜか寸劇が始まったが、どうでも良いので適当に切り上げる。カッサンドラはおよよと泣いたふりをしているが、面倒くさいので無視をする。

 

「もう行くぞ」

 

「わかりました、それではご武運を!」

 

 

 

 カッサンドラと別れて今回入ってきたアブノーマリティーの収容室へ向かう。今回作業を行うアブノーマリティーは、『T-04-i09』だ。どんなやつかはわからないが、前回の『F-01-i05』*4のようなやばいやつでない事を祈ろう。

 

「さて、行くぞ」

 

 『T-04-i09』の収容室の扉に手をかけ、思い切って扉を開くことにする。いつもこの瞬間だけは慣れないが、俺がやらなければ他のやつがやらされるだけだ。頑張って慣れるしか無い。

 

 収容室の中に入ると、なにかじめっとした空気を感じた。収容室の中は薄暗く、薄ぼんやりとした光が見える。

 

 収容室の隅には、人が壁にもたれかかっていた。……いや、正確には人では無い、人のような形をした樹木だった。

 

 その樹木は枯れきっており、樹木の中身は空洞になっていた。その空洞からはかすかな青い光が漏れ出ており、その光が人の目のようにも見える。その人のような姿は今にも動き出しそうな錯覚を覚えるが、この空間がとても静かで心を落ち着かせるようにも感じる。

 

「しまった、何か踏んだか?」

 

 『T-04-i09』に近づこうとして足を踏み出すと、足の裏に何か違和感を感じた。足を上げて確認すると、そこには何か見たことの無い植物が生えていた。試しにしゃがんで引っ張ってみたが、どうやら根が張っているようで無理に引き抜けば葉の方がちぎれてしまいそうだ。

 

 周囲をよく観察すると、収容室の至る所に植物が生えていた。それらはすべてバラバラの種類で有り、どれも見たことも無い植物であった。

 

 念のため植物を踏まないように歩きながら、『T-04-i09』に近づく。近くで見れば、『T-04-i09』は本当に枯れて生きているようには見えなかった。そこには意思があるようにも見えず、なぜ存在するのかもわからない。この存在に何が出来るのかもわからないが、わからないからこそ恐ろしい。

 

「……いや、そんな事考えても仕方が無いか」

 

 これ以上考えてしまったら恐怖に飲み込まれそうになるので、もう考えないことにする。それよりも作業を行った方が良いだろう。

 

 前回懲りたので、今回は洞察作業では無く本能作業をする。正直生きているかもわからない存在に本能作業を行うのもどうかと思うが、いきなり抑圧作業を行ったりするのも怖いし、愛着なんてもっとやばそうだ。

 

 手にじょうろを持って水やりをしてみる、『T-04-i09』はなんの反応も見せないが、悪くは無いような気がする。さすがに周りの植物には水やりをする勇気は無い、そんな事をすれば何が起こるかわからないからな。

 

「……よし、そろそろ大丈夫だろうか」

 

 作業を終えると、なんとなく『T-04-i09』が元気になっているように感じた。それが錯覚かどうかはわからないが、何か起こるようなこともなさそうだ。

 

 俺は収容室からすぐに出て、休憩をすることにする。結局こいつがどんな存在だったかはわからなかったが、なんとか生き残る事が出来た。

 

 

 

 

 

 だが俺は、こいつの恐ろしさをまるで理解していなかった。こいつは俺の前で、本性を隠していたのだ。

 

 

 

 

T-04-i09 『朽ちた巨木』

*1
『蕩ける恋』

*2
『幸せな金魚鉢』

*3
『フォーチュンキャンディー』

*4
『彷徨い逝く桃』

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