【完結】誰も知らないアブノーマリティー   作:名無しの権兵衛

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ライブラリーをクリアしたので、投稿を再開します。
詳しくはあとがきで。


Days-23-2 T-04-i62『濡れた髪が絡みつく』

「ジョシュア先輩、おはようございます!」

 

「おうパンドラ、最近はどんな調子だ?」

 

「うぅん、まずまずですねぇ。やっぱり『F-06-i61』*1への対応がなかなか大変で……」

 

「あぁ、やっぱりあいつは厄介なのか」

 

 『F-06-i61』はなかなか厄介というか、えり好みする質らしく、パンドラやアリスたちが作業を行うと作業結果が異様に悪くなるのだ。

 

 それゆえにまだアリスでない職員が作業に向かうのだが……

 

「結局他の人たちがアリスになるのはなかなか抑えられなくて、私も何度か作業をさせてもらっているんですけど、やっぱりどうしようもない部分がありますね」

 

「そうか、いったいどうすれば……」

 

 『F-06-i61』への作業で良好な結果を出した職員は、例外なくアリスにされてしまった。

 

 それを完全に避けることができるのは、現状パンドラのみ。

 

 “残滓”の力を引き出した俺であっても、確実に成功する保証がないためパンドラに止められている。(パンドラ曰く、『T-09-i88』*2も万能ではないため、あまり使ってほしくないそうだ)

 

 『F-06-i61』への対応に頭を抱えていると、いつになくパンドラが真剣な顔をして俺の目を見つめてきた。

 

「一つだけ、可能性があります。正直、分の悪い賭けになっちゃうんですけど……」

 

「なんだよそれ?」

 

「この作戦は正直成功するかもわかりませんし、ジョシュア先輩には危険な橋を渡ってもらうことになるのですが……」

 

「それくらいわかってる、もったいぶるなよ」

 

「……わかりました、それではどこに耳があるのかわからないのでお耳をお借りしますね」

 

 そういって彼女は俺の耳元で作戦を囁く。

 

 なるほど、確かに分の悪い賭けだ。だが、やってみる価値はあるかもしれない。

 

「わかった、俺もできる限りのことはやってみる。その前に、いくつか実験と練習が必要かもしれないが……」

 

「わかっています、タイミングはジョシュア先輩のお好きな時に。それまでは頑張って私が被害の拡大を食い止めますので」

 

「あぁ、頼んだぞ」

 

 パンドラに後をまかせて、メインルームから退出する。

 

 準備も必要だが、今日の業務もしなければならないからだ。

 

 

 

 

 

「輪廻、さっきの話、できそうか?」

 

 次に作業するアブノーマリティの収容室へと向かいながら、輪廻に声をかける。

 

 すると呆れた様な声が返ってきた。

 

『俺の力を何だと思っている? そんなことはもちろん可能だ、ただし……』

 

「俺が使いこなせれば、か?」

 

『あぁ、そうだ』

 

 つまり、俺は“残滓”に引き続き“骸”の能力も引き出さなければならないようだ。

 

 E.G.O.の能力を引き出すことは非常に難しい。

 

 その力を最大限まで引き出すことができたのは、俺の知識上ゲブラーしかいない。

 

 かくいう俺も、“残滓”の力を引き出すこと自体は成功しているが、それを完全に引き出すことはいまだできていないと理解している。

 

 “残滓”のおかげである程度のコツはつかめているが、ランクがTETHの“残滓”ですらこのありさまなのだ、ランクWAWの“骸”の力を引き出すのはかなり難しそうだ。

 

「なら、やるしかないな」

 

『くははっ、その意気だジョシュア!』

 

 俺の返答が気に入ったのか、楽しそうに笑う輪廻を無視して、とある扉の前で立ち止まる。

 

 そこは今日収容されたもう一体のアブノーマリティである『T-04-i62』の収容室であった。

 

「さて、行くぞ」

 

 いつものように収容室の扉に手をかけ、お祈りをする。そして、思い切って扉を開いた。

 

 収容室からは、排水溝のような嫌なにおいが漂ってきた……

 

 

 

 

 

「……でかいな」

 

 収容室に入ると、そこにいたのは毛むくじゃらの、巨大な何かであった。

 

 それは明らかに俺よりも高く5メートルはありそうな巨体で、まるでこちらを覗き込むように体を曲げていた。

 

 全身が髪の毛のようなものでおおわれており、それらがぐちゃぐちゃに絡まりあって気持ち悪い液体をしみだしていた。

 

 見たところ目のような器官は見当たらない。しかし、確実にこちらを覗き込んでいることが気配でわかる。

 

 じろじろとこちらを嘗め回すように、品定めしようと全身を観察している。

 

 それはまるで人の弱みをあら捜ししているみたいで、どうしてもいい気分にはなれなかった。

 

「……とりあえず、作業を行うか」

 

 気味の悪い視線を無視して、作業を行う。

 

「うっ!」

 

 とりあえず安定の洞察作業から始めてみるが、どうやらお気に召さなかったらしい。

 

 『T-04-i62』は全身から触手のようなものを伸ばしながらこちらに攻撃を行ってくる。

 

 もちろんその攻撃は俺まで飛んでくるが、“骸”防具を装備しているおかげでさほどダメージは大きくなかった。

 

 もしかしたらあまりランクは高くないのかもしれない。

 

「くそっ、うっとうしいな」

 

 本来なら別の作業に変えた方がいいのかもしれないが、複合的な作業は予想もつかない事故につながりかねないため規則で禁止されている。

 

 そのため、あきらめて収容室内の清掃を続ける。

 

「……さて、こんなもんかな」

 

 『T-04-i62』の様子をうかがうが、予想通り機嫌は悪そうだ。

 

 しかし、脱走しそうな様子もない。ひとまずは安心だろうか?

 

「それじゃあ、またな」

 

 背中に見下すようないやらしい視線を感じながら、収容室を出る。

 

 なんというか、色々な意味で相手したくないアブノーマリティであった。

 

 

 

 

 

「あらぁ~、ジョシュア先輩じゃないですかぁ」

 

「おう、サラ。調子はどうだ?」

 

「はいぃ、今日は『O-02-i71』*3のギフトがもらえたんですぅ」

 

 どうですかぁ? とその場でくるくる回りながら頭上の“魔法陣”を見せびらかしてくるサラを見ていると、あぁ、こいつはこんな奴だったなぁと少し懐かしい気持ちになった。

 

「とりあえず、嬉しそうで何よりだよ」

 

「えへへぇ、ありがとうございますぅ」

 

『『T-04-i62』が脱走しました。付近の職員は至急鎮圧に向かってください』

 

「「!?」」

 

 サラと一緒に談笑をしていると、『T-04-i62』が脱走したというアナウンスが流れてきた。

 

 未知のアブノーマリティが脱走したことに嫌な予感を感じつつ、すぐにE.G.O.を取り出して脱走現場に向かう。

 

「くそっ、いったい誰が作業をしてたんだ!?」

 

「そういえばぁ、新人の子のほうが効率が良かったんでぇ、初心者向けとして作業をさせていたってぇ、言ってましたよぉ」

 

「くそっ、そういうタイプかよ!」

 

 おそらくステータス反応か特定作業系だろう。

 

 とにかく未知のアブノーマリティだ。被害が拡大する前に速攻で鎮圧するべきであろう。

 

「サラ、急ぐぞ!」

 

「ちょ、ジョシュアせんぱぁい、早すぎますってぇ~!」

 

 動きがマイペースなサラを置いて、先に収容室のほうへと向かっていく。

 

「うわぁ!? 来るなぁ!!」

 

 『T-04-i62』の収容室の近くまで来ると、新人のジムが半狂乱になりながらも“真珠”で応戦していた。

 

 『T-04-i62』は黒い触手を鞭のようにしならせながらジムに攻撃を加えていく。

 

 それを見た俺は、左手の“残滓”を逆手に持ち、勢いよく青白い炎を噴射させて距離を詰め、右手の“骸”を『T-04-i62』にたたきつけた。

 

「今のうちに離れろ!」

 

「は、はい!」

 

 とりあえず新人を避難させてから武器を構える。

 

 『T-04-i62』は吹き飛びこそしないものの、そののけぞった体をゆっくりと起こしてこちらに目? を向ける。

 

 そして怒り狂ったかのようにこちらに向かって突撃を行ってきた。

 

「せっかくだし、試させてもらうぞ!」

 

 “残滓”を横なぎに振るい、青白い炎で『T-04-i62』を足止めする。

 

「すまんサラ! 少しの間だけ時間を稼いでくれ!!」

 

「はぁい、わかりましたぁ!」

 

 サラが“魔法陣”で援護射撃をしている間に、右手に持つ“骸”に意識を傾ける。

 

「ぐっ」

 

 飢えに満ちた肉塊が、皮膚の下を蠢き這いずり回る。

 

 声にならない悲鳴が、頭の中を反響する。

 

 悍ましき怪物、『肉の実』が、俺の肉体を食い破ろうとするのを、意思でねじ伏せ従わせる。

 

「使わせてもらうぞ、輪廻」

 

 俺は右手に持つ“骸”に意識を向けながら、構える。

 

 右手の皮膚の下が蠢き、俺の肉体を強化、保護する。

 

 さらに腰の、ちょうど尾てい骨あたりに肉が集まり、尻尾、いや第三の手が形成される。

 

「喰らえ、“骸”」

 

 俺は第三の手を『T-04-i62』に伸ばして拘束し、勢いよくこちらに引き寄せる。

 

 そして構えた“骸”を強化した右腕で思い切り『T-04-i62』に振り下ろす。

 

「……!!!!!!」

 

 思い切り地面にたたきつけられた『T-04-i62』は、声にならない悲鳴を上げて床に沈む。

 

「ハァッ、ハァッ、よし、何とか…… うおっ!?」

 

「ジョシュア先輩!?」

 

 倒したはずの『T-04-i62』が床に広がり、俺の足に奴の構成物、濡れた髪が絡みつく。

 

 そして床に広がった『T-04-i62』の中心部に向かって、俺を引きずり込もうとしてきた。

 

「ジョシュア先輩、今助けまぁす!!」

 

「離れろサラ! 巻き込まれる!」

 

「でも!?」

 

「大丈夫だ……」

 

 そうだ、まだ策はある。

 

 恐怖心を与えるためか、わざわざゆっくりじっくりと引きずり込んでくれている。

 

 つまり、まだ時間は残されている。

 

「頼むぞ、“骸”」

 

 骸に意識を向けて、力を引き出す。

 

 悍ましき肉塊を肉体の表面に張り巡らせ、俺自身の肉体として構成する。

 

 そして形成された『殻』をE.G.O.ごと脱ぎ去り、何とかサラの近くまで脱出することができた。

 

「ジョシュア先輩!?」

 

「だ、大丈夫だ……」

 

「い、いぇ、でも皮がぁ…… うぷっ」

 

「時間がたてば、戻る。それよりも……」

 

 能力の都合上、全身の皮膚は犠牲にするしかなかった。

 

 いや、そこまでしなくてはおそらく『T-04-i62』から抜け出すことはできなかっただろう。

 

 だが、現状の問題はそこではなかった。

 

「とりあえず、何か、食べ物を……」

 

「えっ、食べ物ぉ?」

 

「頼む、早く!」

 

「は、はいぃ!!」

 

 サラをせかして何とかこの場を離れさせる。

 

 今の俺は、路地裏ですら感じたことがないほどの純粋な飢餓感を感じていた。

 

 それこそ、目の前にいたサラが、極上の肉に見えてしまうくらい。

 

 そして今は、皮膚の下が丸見えになっている自分の肉すら、おいしそうに見えかぶりつきそうになる。

 

 だが、ここで呑まれたら終わりだ。そうなればE.G.O.に侵食されてしまい俺が俺ではなくなるだろう。

 

「……絶対に、耐えきってやる」

 

 俺はそうつぶやいて、絶対にこの力を制御することを決意した。

 

 

 

 

 

 うらやましい

 

 なぜ、私にないものを持っている

 

 なぜ、私にできないことができる

 

 なぜ、私が望んでも手に入らないものを、当然のように手に入れられる

 

 なぜ、なぜ、なぜ……

 

 ……許せない

 

 うらやましい

 

 妬ましい

 

 憎らしい

 

 私に、全てよこせ

 

 それが無理なら、いっそ……

 

 

 

 

 

 私とともに、堕ちていけ

 

 

 

 

 

T-04-i62 『道連れの悋気』

 

*1
『終わらぬ夢のアリス』

*2
『存在変換カプセル』

*3
『崩れ逝く海の魔術師』




 もう本当に最高でした!
 日本語の声優さんがほとんどイメージ通りだったし、生の「セルマァ」を聞けたし!
 本当に楽しすぎて、何度でもやりたくなってしまうほどでしたね。
 やったことない人なら、是非お勧めします。

 本当はもっと前にクリアしていたのですが、更新が遅くなってしまい申し訳ありません。
 正直、ロボトミー熱よりライブラリー熱が燃え上がってしまい、ちょっと続きを書くのが遅れてしまいました。
 できれば、このまま熱を保ち続けたいところですね。

 ついでにリンバスのほうでも様々な新情報が続々と出てきて、最高にハイになってしまいましたね。

 さて、実はリンバスのイベントやライブラリーをやっていて、少し気になることがあり、自分なりに考察をしてみました。
 もし興味がありましたら、こちらに目を通してもらえればうれしいです。
宜しくお願い致します。
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