「よう、パンドラ」
「あっ、ジョシュア先輩!」
今日も業務の時間がやってきた。
さっそく中央第二のメインルームに向かうと、すでにパンドラが待っていた。
『F-06-i61』*1のこともあって、最近はかなりやる気を見せている。
「ジョシュア先輩、昨日はどんな感じでしたか?」
「あぁ、もう少し調整をしたら、たぶん行ける。まさか昨日だけであれほど力を使えるようになるとは思わなかった」
「よかった、ありがとうございます。とりあえず今日も私ができるだけ頑張るんで、ジョシュア先輩もお願いしますね!」
「あぁ、頼んだぞ」
パンドラと今後の話をしてから、今日の作業へと向かっていく。
今日収容されたのは、『F-02-i49』と『O-09-i76』だ。
片方はツール型だからまだいいが、もう片方が厄介だ。
今回収容された『F-02-i49』は、Fカテゴリーのアブノーマリティだ。
これの何が厄介かというと、今までの作業の結果、おそらくFカテゴリーのアブノーマリティへの作業、あるいはクリフォトカウンターの減少によって『F-06-i61』の収容室内にアリスが増えると思われる。
だからできる限り、Fカテゴリーのアブノーマリティはうれしくない状況なんだよなぁ。
「でも、収容されてしまったからには仕方がないか」
『そうだジョシュア、どんな理不尽にも立ち向かわなければならないのだ』
「……なんか楽しそうだな」
『それはそうだ、人間は理不尽に対面した瞬間に輝きを見せる。ジョシュア、お前の輝きを見るのが、楽しみだ』
「はぁ、そうかよ」
輪廻と無駄話をしながら歩いていると、気が付けば『F-02-i49』の収容室の前までやってきていた。
「ふぅ」
いつものように収容室の扉に手をかけて、お祈りをする。
そして、思いっきり扉を開く。
収容室からは、ゴミ捨て場のようなすえた匂いが漂ってきた。
「……なんだこれは、現代アート?」
収容室の中には、大きな切り株の上に建てられた、ゴミの塊が置いてあった。
それは何かで固められたのか、いくつものゴミが円柱のように積み重なっている。
見方によっては現代アートにも見えるが、おそらくは違うのだろう。
なんというか、これを見ていると言い知れない不快感を感じてしまうのだ。
「あなた、そこのあなた」
「……」
どこからか声が聞こえる。
目の前のゴミからではない、どこか別の場所からだ。
「ここです、こちらです」
これは…… 下からか?
「おぉ、お気づきになりましたか」
「……燕?」
足元を見ると、そこにいたのは燕のようなな何かであった。
それは半分ほどは燕そのものであったが、もう半分が鉛のような金属に埋まっていた。
おそらくは、こいつが『F-02-i49』の本体なのだろう。
それは、俺を見上げながら話しかけてくる。
「おぉよかった、久しぶりに人に会えました」
「……そうか」
「えぇ、えぇ、お加減はどうですか? どこか困ったことは?」
「いや、とくにないよ。大丈夫だ」
なんというか、妙になれなれしいというか、余計なおせっかいであるように感じる。
「まぁまぁそういわずに! 何かお困りになることもあるでしょう、少々お待ちになってください」
大丈夫だと言っているのに、『F-02-i49』は勝手に話し始めるとその翼を不気味に動かしながら体を引きずると、先ほどのゴミ山へと向かっていった。
「人は何かと入用なのでしょう? 安心してください、私があなたにお宝をお渡ししましょう」
そういって『F-02-i49』はゴミ山のところまで行くと、そのうちの一つ、大きめのゴミの塊を咥える。
そしてそれを何とか引きずりながら俺の方へと持ってきた。
「どうかこれを、貴方のために……」
「えっと…… ありがとう」
おそらく断っても意味がないだろう、そう感じた俺は素直に受け取ることにする。
受け取ったものは、無駄に重くかさばるだけの、ガラクタでしかなかった。
「それじゃあ、俺は行くよ」
「えぇ、貴方の旅路に、幸あらんことを」
『F-02-i49』と別れて収容室から退出する。
……作業は行っていないのだが、これでいいのだろうか?
まぁ、こいつも喜んでいるのならそれでいいのだろう。
「……あっ、ジョシュア!」
「よう、シロ」
メインルームに戻ると、休憩中だったのかシロが待っていた。
彼女は俺を見るなり笑顔で駆け寄ってくる。
ここまで表情豊かになるとは、あったころのことを思うと、感慨深いものがあるな。
「……体は大丈夫? 昨日大変なことになったって聞いた」
「あぁ、大丈夫だ。シロのほうこそ、最近調子はどうだ?」
「……うん、ボクも順調だよ。……あれ?」
俺と話をしていると、シロが俺の手元に視線を向ける。
そこには先ほど『F-02-i49』から受け取ったものが握られている。
「……ジョシュア、それなに?」
「あぁ、気にしないでくれ」
そういいながら歩き始める。シロも一緒についてくる。
正直、話すほどのことでもないからな。
「ただのゴミだからさ」
そういって手に持つ無価値なものを、ゴミ箱に放り投げるのであった……
昔々、優しい王子の像は、仲良しの燕に助けを求めた
自分の一部を人々のために使ってほしいと
燕は親友の望みを喜んでかなえた
たとえ、そのせいで厳しい冬を迎えることになったとしても
彼らの献身もあり、多くの人々が救われた
彼らは、幸せだった
やがて燕は、親友に残された心臓と溶け合い、一つとなった
……だが、話はそこで終われなかった
愚かな切り株が彼らを掬い上げ、ともに人々を助けようと語ったのだ
彼らも、再び人々を救うことができるならと、喜んで手助けをした
その切り株は、人を堕落させることしかできなかったのに
結局、彼らは誰も助けることなどできず、心を傷つけ、それでも人々のために働いた
それが、まったくの無価値なことを知らずに
彼らはいつまでも手助けをする
愛する人々のために
そして、こういうのだろう
それでも
F-02-i49『愚かな施し』