「はぁ、はぁ、ジョシュア様、そろそろ休憩させてください……」
「まぁ、別にいいけど…… お前が協力する意味あるのか?」
「なっ、失敬ですね! ちゃんとありますよ!」
今俺は、“骸”を使いこなすために『F-01-i63』*1と訓練をしていた。
最初は脱走しやすい『T-05-i14』*2や『巡礼者』相手に訓練を行っていたが、何処から聞きつけてきたのか、『F-01-i63』も訓練相手になりたいと言ってきたのだ。
「いいですか! そのE.G.O.はお肉を食べたい、そして私はお肉として食べられたい。つまりWin-Winの関係ということです!」
「……はぁ?」
「ですので、私めがそのE.G.O.の本能を刺激して、より力を引き出せるようにお手伝い使用を思ったのですよ!」
「……うーん」
まぁ、言いたいことは分かる。
確かにWAW装備である“骸”は、今の俺では力を引き出せずにいるところはある。
だけどこいつ、ガガンボ並みに脆いんだよなぁ……
「そこまで言うなら、こいつを本気にさせてみろよ」
「……ふぅ、私もなめられたものですね。そこまで言うならお見せしましょう!」
そういうと『F-01-i63』は身にまとっていた服を脱ぎだし、一糸纏わぬ姿となった。
そして自身の指を艶めかしく口元までもっていき、血が出るほどに指をかんだ。
「うおっ!?」
すると、今までにないほどの飢餓感が俺を襲い、右手の“骸”が暴れ始めた。
「くっ、この……!」
暴れ出した肉塊が、触手のように伸びて『F-01-i63』に向かって襲い掛かる。
「収まれ、“骸”……!」
何とか無理やり“骸”を抑え込もうとするも、『F-01-i63』めがけて肉塊が暴れまわる。
いや、“骸”が暴れまわるどころか、俺までもが、『F-01-i63』をおいしそうだと錯覚してしまう。
やがて触手ではなく、そこから芽が出るように手足が生えてきて、やがて人間の形を作り出した。
「ぐっ、この…… いい加減にしろ!」
大声を上げるとともに、“骸”を人型の肉塊に打ち付ける。
すると、床がありえないほどに陥没し、ひび割れる。
「これが、“骸”の力……?」
「いかがでしたか? ジョシュア様」
「……『F-01-i63』」
これが、『F-01-i63』の真骨頂。
普段まったく脅威にならなかったが、極限的な飢餓状態でこそ、こいつは危険なのだろう。
「ありがとう、これでこいつの力の引き出し方がわかった」
「ふっふっふっ、そうでしょうそうでしょう! お客様のお役に立ててよかったです! それではさっそく私の肉でお料理でも……」
「よーし、もう用済みだからここでクシャっとつぶしちゃうな~」
「そ、それだけはご勘弁を~」
土下座する『F-01-i63』の寛大な心で許してやると、彼女はどこか別の場所へと向かっていった。
「……これで行けるか、輪廻?」
『まぁ、さっきの力を十全に使えたならば、大丈夫だろう』
「十全か…… でも、やるしかないよな」
今から向かうのは『F-06-i61』*3の所だ。
これから安定作業を行うために、この力を利用する。
収容室の前まで歩いていき、収容室の前で“骸”の力を引き出す。
先ほど同様の、狂えるほどの飢餓感。
そして自身の血肉が引きちぎられるような激痛。
しかし、それらを全て精神でねじ伏せ、己の肉体をイメージする。
『……上出来だ』
そして、俺の隣には、へその緒でつながった俺そっくりの肉人形がたっていた。
「……よし、行くぞ」
そして俺は、いつものようにお祈りをしてから、『F-06-i61』の収容室の扉を開くのであった……
「あら、よく来たわね」
「あぁ、来てやったぞ」
収容室の中には、いつも通りアリスがいた。
いや、いつも通りではないか。
そこにいるのは、4人のアリス。
気が付けば、収容室の内外問わず、こいつは増殖していく。
「うふふっ、なんだかとっても面白そうなことをしているわね」
「面白いものか、こっちはめちゃくちゃ厳しいんだよ」
「……でも、それじゃあ全然つまらないわ」
「何?」
楽しそうに笑っていたアリスたちが、一瞬で真顔になる。
それはまるで、不気味な人形に見つめられているかのようだった……
「だって楽しくないわよ、ちゃんと遊んでくれないんだもの」
「だって楽しくないわよ、遊びを楽しいと思ってくれないんだもの」
「だって楽しくないわよ、叫び声が聞こえないんだもの」
「だって楽しくないわよ、アリスが増えないんだもの」
「「「「だってそうでしょ? みんなアリスなんだから」」」」
4人のアリスたちの圧で、思わず逃げ出しそうになる。
だが、しっかり足を踏みしめて、『F-06-i61』をにらみつける。
「お前の勝手で、俺たちは死ぬわけにはいかないんでな」
「……そう、まぁいいわ。せっかくだから、それもアリスに変えてあげる」
「……やけにあっさり引き下がるんだな」
肉人形がアリスに代わる。
なんというか思っていたほど、怒っていない……?
いや、何か嫌な予感がする。
もしかして、何かの条件を満たしてしまったか……
「ようやくみんなで遊べるんですもの、さっそくお散歩に行きましょう」
「いやいやダメよ、まずはかくれんぼからしましょうよ」
「せっかくなのだから、お人形遊びを楽しみましょう!」
「うふふっ、でも最初はいつも決まっているでしょう?」
「そうね、最初の遊びはみんなで楽しめるものだものね」
「「「「「まずは追いかけっこから、始めましょうか」」」」」
『『F-01-i63』が脱走しました、近くにいる職員は至急鎮圧に向かってください』
『『F-02-i32』*4が脱走しました、近くにいる職員は至急鎮圧に向かってください』
『『F-05-i60』*5の収容室で異常が発生しました。職員の皆様は安全を確保してください』
『『F-01-i36』*6が脱走しました、近くにいる職員は至急鎮圧に向かってください』
『『F-01-i34』*7の収容室で異常が発生しました。職員の皆様は安全を確保してください』
『『F-02-i49』*8が脱走しました、近くにいる職員は至急鎮圧に向かってください』
Emergency! Emergency! Emergency!
Risk Level ALEPH
それは世界を貪る甘い夢
幼き夢を叶える永遠の味
さぁ さっそく舞台に上がりましょう
ずっとずっと 踊りましょう
だってあなたが言ったのだから
だってあなたが望んだのだから
だってあなたが 約束したのだから
さぁ 舞台の幕あけよ
世界を
F-06-i61『終わらぬ夢のアリス』