【完結】誰も知らないアブノーマリティー   作:名無しの権兵衛

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EXTRA 1 『御伽噺、或いは最弱の災厄』

「さぁ、ゲームスタートよ」

 

 その言葉を皮切りに、5人のアリスが一斉に収容室を飛び出した。

 

『『F-06-i61』*1が脱走しました。周囲の職員は至急鎮圧に向かってください』

 

「くそっ!?」

 

 “骸”で真っ先に自分とつながっている肉人形(アリス)を叩き潰す。

 

 すると俺の分身が元だからか、それとも元から脆いのか、アリスはほとんど手ごたえもなく、呆気なくつぶれてしまった。

 

「とりあえず、1体!」

 

 アリスを全部潰せばいいのか、それともそのうちの1体をつぶせばいいのかはわからない。

 

 だが、とりあえずは目に見えるアリス全部をつぶせば問題ないだろう。

 

『『O-01-i75』*2が脱走しました。近くの職員は至急鎮圧に向かってください』

 

「くそっ、セカンドトランペットか!?」

 

 こんな時に巡礼者まで…… いや、あいつなら真っ先に他のアブノーマリティをつぶしてくれるか。

 

 なら巡礼者は後回しで、他を先に潰すか!

 

 

『ジョシュア、まずはどこから行くつもりだ?』

 

「そうだな、まずは『F-01-i34』*3の収容室から行くぞ!」

 

『……なに?』

 

 輪廻が話しかけてきたので答えると、何やら訝しむような言葉が返ってきた。

 

 いったいどうし…… くそっ!!

 

「またこれか! ふざけやがって……」

 

 どうやらまた魅了にかかってしまうとは。

 

 すぐに“残滓”で自分の中の不純物を焼き尽くす。

 

 とりあえず全身に炎をまといながら走り出す。

 

 しかし、『F-01-i34』に魅了の能力はなかったはずだ。『F-01-i34』にいまだ判明していない特殊能力があったのか、或いはこれも『F-06-i61』の能力か……

 

「とにかく、さっさと『F-06-i61』を鎮圧するぞ!」

 

 とりあえず、中央第一のメインルームに向かうと、そこには6人のアリスたちがいた…… なに?

 

「どういうことだ?」

 

 そこにいるアリスたちは、楽しそうに職員たちから逃げ回っている。

 

 そこで、アリスたちをよく観察していると…… よく見れば、二人ほどE.G.O.を背負っているアリスがいた。

 

「くそっ、全てのアリスが支配下かよ!」

 

 とりあえず、E.G.O.を持っているアリスは無視し、他のアリスを追いかけようとする。

 

 しかし、アリスたちは二手に分かれて別の部門に向かっていた。

 

「シロ、リッチ、お前たちは中央第二に向かってくれ! パンドラ、一緒に上に行くぞ!」

 

「……了解」

 

「わかった!」

 

「任せてください!」

 

 パンドラを連れて情報部門の廊下へと向かっていく。

 

 W社製のエレベーターで瞬時に上り、廊下を確認する。

 

 すると情報部門に逃げ出した4人のアリスがまた二手に分かれた。

 

「くそっ、どっちだ……?」

 

「ジョシュア先輩、あれ!」

 

 パンドラの指さす方を見ると、一体のアリスがポケットから巨大な姿見を取り出して廊下に設置した。

 

「たぶんあれが本物! あれさえ倒せばどうにかなるはずです!」

 

「でかした、パンドラ!」

 

 先ほど姿見を出したアリスに向かって走り出すと、もう一人のアリスが間に入ってきた。

 

「くそっ!」

 

 間に入ったアリスを“骸”でつぶそうとするも、その背中にE.G.O.があることに気が付き、寸止めして蹴り飛ばす。

 

 そうしている間に、さっきのアリスはエレベーターへ向かっていった。

 

「上に行くぞ!」

 

「はいっ!」

 

 エレベーターの位置からしておそらくはコントロール部門へと向かっていったはずだ。

 

 エレベーターでコントロール部門に向かうと、廊下では『F-01-i63』*4と『F-02-i32』*5が争っている向こうにアリスがいた。

 

「逃がすか!」

 

 とりあえず『F-01-i63』と『F-02-i32』を“骸”で潰し、コントロール部門のメインルームへと向かっていったアリスを追いかける。

 

 メインルームに向かうと、そこでアリスはこちらを楽しそうに見つめていた。

 

「これ以上、好きにはさせないぞ!」

 

 “残滓”の炎を撒いて逃げ道をふさぎ、“骸”を構える。

 

 すると、アリスはさらに楽しそうに顔をゆがめた。

 

「あら、これでは逃げられないわ」

 

「あぁ、もう逃がすつもりはない」

 

「うふふっ、それはどうかしら?」

 

 すると彼女はポケットからまた姿見を取り出した。

 

「ジョシュア先輩、止めて!!」

 

「間に合え!」

 

 “残滓”でブーストして急接近するも、アリスは姿見の中に逃げ込んでしまった。

 

 姿見を触ってみるも、俺には反応しない。

 

 どうやら、奴限定の逃げ道のようだ。

 

「くそっ!」

 

 とりあえず姿見を破壊する。

 

 おそらくは、さっき情報部門でも設置していた姿見と連動しているはずだ。見つけ次第全て破壊しなければ……

 

「とりあえず、奴は情報部門に行ったはずだ! 急いで向かうぞ!」

 

「わかりました!」

 

 パンドラを連れて再び情報部門に向かう。

 

 早く何とかしなければ、何か不味い気がする……

 

「どうしてこんなに逃げ回るんだよ!」

 

「……それはもちろん、遊んでいるんですよ」

 

「あいつにとって、ジョシュア先輩たちも、私たちも、全部オモチャなんですよ!」

 

 珍しく激高するパンドラ。

 

 やはり、以前から思っていたが、パンドラと『F-06-i61』との間には浅からぬ因縁があるのではないだろうか?

 

 ……いや、今はそれよりも『F-06-i61』の鎮圧を急がなくては。

 

「いたぞ!」

 

 情報部門の廊下に向かうと、アリスが再び中央第一に向かって降りていくところが見えた。

 

 とりあえずここにも置かれている姿見をぶっ壊しながら、エレベーターへ向かう。

 

「見つけたぞアリス!」

 

「もう逃げられませんよ!」

 

「他の奴らはもう鎮圧してるぞ」

 

「……もう終わり」

 

「ふふっ、追いつかれちゃった♪」

 

 他のアリスたちを鎮圧したシロとリッチも合流して、アリスを取り囲む。

 

 しかし、アリスは余裕の表情を崩さず、楽しそうに笑っている。

 

「もっと楽しみたかったけど、さすがに無理そうね」

 

「……あぁ、観念しろ」

 

「まっ、いっぱい楽しんだし、今回はこれくらいにしようかな」

 

「そうですか、それじゃあ……」

 

「でも、せっかくだし最後にプレゼントね♪」

 

 パチンッ

 

『『F-01-i63』が脱走しました、近くにいる職員は至急鎮圧に向かってください』

 

『『F-02-i32』が脱走しました、近くにいる職員は至急鎮圧に向かってください』

 

『『F-05-i60』*6の収容室で異常が発生しました。職員の皆様は安全を確保してください』

 

『『F-01-i36』*7が脱走しました、近くにいる職員は至急鎮圧に向かってください』

 

『『F-01-i34』の収容室で異常が発生しました。職員の皆様は安全を確保してください』

 

 アリスが指を鳴らすと、再びアブノーマリティたちが脱走した。

 

 くそっ、逃げ回っていたのは、この力ももう一度使うためでもあったのか!

 

「だが、もう終わりだ!」

 

「あーぁ……」

 

 俺が“骸”で押しつぶす間際、アリスの口元が動いた。

 

「もっと遊びたかったなぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 ゴシャッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、来てくれたのね♪」

 

「……できれば、来たくなかったよ」

 

 この『F-06-i61』の脱走に伴う大脱走事件を、何とか全て鎮圧させることができた。

 

 こいつを脱走させると、俺たちは恐ろしいほどの損害を被ることとなる。

 

 しかしこいつは、作業をしても、しなくても厄介なことが起こる。

 

 ならば、現状唯一安全に安定作業ができる俺がする以外なかった。

 

「もう、そんなこと言わないでよ。プンプンッ」

 

「……黙ってろ」

 

「いやよ、楽しいもの♪」

 

 作業をするために、『F-01-i61』を無視して彼女に近寄る。

 

 すると、不思議な感覚に包まれる。

 

 この感覚は、随分と懐かしいな……

 

 

 

 

 

「……あぁ、またなのね」

 

 目の前にいる少女は、微笑みを浮かべる

 

 無邪気にも、楽しそうに笑ってる

 

「ダメよ、そいつに近づいては!」

 

「っ! ……?」

 

「あら、どうしたの?」

 

「いや、なんでもない」

 

「お願い、気づいて!」

 

 少女は手を差し伸べる、まるでどこかへと導くように

 

「ほら、わたしと一緒に行きましょう!」

 

「それはダメ、離れて!」

 

「……何をしてほしいんだ?」

 

「うふふっ、見てわからないかしら?」

 

「……あれ、もしかして、聞こえてるの?」

 

 かわいらしい笑みを浮かべながら、鈴のような声を出す

 

 その声は心地よく、耳からスッと入ってくる

 

「大丈夫だ、ちゃんと聞こえている」

 

「本当に!? それなら、本当にそうなら……」

 

「それなら、私の手を取ってくれるかしら」

 

「どうか私を、見つけてください……!」

 

 少女は再び手を伸ばす

 

 俺に向かって

 

 人に向かって

 

 そして俺は……

 

 

 

 

 

 彼女の頭を撫でた

 

 

 

 

 

「あっ」

 

「……えっ?」

 

 呆然とした様子のアリスを尻目に、彼女の頭をなでる

 

 酷くカラカラで、ボロボロで、冷たい……

 

 きっとここで、彼女は一人だったんだ

 

 ここでずっと、ずっと頑張ってきたんだな……

 

「……ありがとう、見つけてくれて」

 

「……あぁ」

 

 少女はようやく、目を覚ます

 

 長い長い夢から

 

 甘い甘い夢から

 

 ようやく、目を覚ますのだ

 

 

 

 

 

「あーぁ、見つかっちゃったかぁ」

 

「……」

 

 少女は、目覚めた

 

 そして、長い夢はもう終わり

 

 目を覚ましたなら、夢は消えるのが道理だ

 

「もうちょっと遊んでいたかったけど、まぁ、今日くらいは許してあげる」

 

「どうせほんのちょっとの、長い長い夢の中の、小さな微睡み」

 

「つかの間の現実(ユメ)を、お楽しみなさい」

 

 消えゆく(アリス)は、最後まで楽しそうに語り掛ける

 

 そんな(アリス)に、声をかける

 

「アリス、お前の好きにはさせないぞ」

 

「いつか絶対に、彼女を助けて見せるからな」

 

 俺の声に、(アリス)は不敵な笑みを向ける

 

 まるで、やってみろとでもいうように

 

「ありがとう、ジョシュア」

 

「……あぁ、どういたしまして」

 

 最後に彼女が俺に渡してくれたのは、腰についた、古めかしいブックホルダーだった……

 

 

 

 

 

F-06-i61『終わらぬ夢のアリス』 鎮圧完了

 

*1
『終わらぬ夢のアリス』

*2
『崩れ逝く海の旅人』

*3
『古い森の魔女』

*4
『桃源の甘露』

*5
『小さくて意地悪な狸』

*6
『お菓子の家』

*7
『泡沫の夢』

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