Days-26 T-05-i28『悪夢だ、捕まったらおしまいだ!』
「……お前がジョシュアか?」
「よう、ゲブラー。久しぶりだな」
今日からは懲戒部門が解放される。
俺は記憶を引き継いでからというもの、この日を待ちわびていた。
かつて赤い霧と言われた最強のフィクサー、ゲブラー。
彼女に是非とも聞きたいことがあったのだ。
「……久しぶりだと? お前、私とどこかであったか?」
「……あっ」
やってしまった。そういえば今回彼女と出会うのは初めてであった。
まずい、いったいどうやって誤魔化そうか……
「まぁいい、そんなことよりお前、なかなかいい筋をしているな」
「えっ、そうか?」
彼女が細かいことを気にしない質でよかった。
それにしても、いい話の流れだ。
ついでに俺の目的も、達成できそうなら達成してしまおう。
「なぁゲブラー、もしよかったらあんたに武器の使い方を学びたいんだ。頼めるか?」
「なに? ……まぁ、いいだろう。他の奴らよりは骨がありそうだ、E.G.O.を構えろ」
「えっ、いきなり!?」
「どうした? 来ないならこっちから行くぞ!」
「ちょっ、まっ!?」
いきなり始まった訓練に戸惑ったが、何とか“骸”を取り出して応戦する。
「ほう、面白い手品だな。思ったよりも楽しめそうだ!」
「畜生、こうなったらとことんやってやるよ!」
こうして業務前から、地獄のような特訓が始まるのであった。
「……畜生、ひどい目にあった」
「……ジョシュア、大丈夫?」
ぐったりとしている俺に、シロが心配そうに声をかけてくる。
「すまん、少しはしゃぎすぎた」
「そう思うんだったらもう少し手加減をしてくださいよ、ゲブラーさん……」
「それで強くなれるのだったら、手加減してやってもいいぞ?」
「……このままでお願いします」
くそっ、結局強くなるためには、苦労するしかないってことか。
せめて、勤務後に訓練ができればいいんだが、もうその時間にはゲブラーは機能停止してるし……
「なら、次は明日だ。しっかり体を動かせるようにしておくんだぞ」
「……はい」
ゲブラーはそういって去っていった。
……まぁ、これからあのE.G.O.も使えるようにならないといけないからな。
おそらく今のままではあのE.G.O.を使うことはできない。
これからアレを使いこなさなければならない場面が必ず来るはずだ。
その為にも、ゲブラーとの訓練は必須。頑張らなければ、他の奴らの命もかかっているんだ……
「……ジョシュア、あんまり無理しないでね?」
「あぁ、大丈夫だよシロ」
心配そうにしているシロの頭を撫でる。
すると、彼女は嬉しそうに目を細めた。
「さて、それじゃあ俺はもう行くよ。シロも頑張ってくれ」
「あっ ……うん、ジョシュアも気を付けて」
「もちろんだ」
シロと離れて、作業に向かう。
今日収容されたのは、『T-05-i28』だ。
懲戒部門最初のアブノーマリティ、できればマシなアブノーマリティだったらいいのだが……
「まぁ、アブノーマリティにそんなことを期待するのは間違っているか」
独り言を言いながら、廊下を進んでいく。
だが、ゲブラーとの特訓もあったことだし、せめて脱走しない奴ならいいのだが……
「もう着いたか」
気が付けばもう『T-05-i28』の収容室の目の前だった。
いつものように収容室の扉に手をかけ、お祈りをする。
そして、思い切り収容室の扉を開いた。
ゴシャッ
俺の視界は、真っ白になった
『『T-05-i28』が脱走しました。近くの職員は鎮圧に向かってください』
「脱走か…… いや、今脱走した奴は」
「……ジョシュア!!」
リッチとシロは一斉に走り始める。
親しき仲であるジョシュアの作業していたアブノーマリティが脱走した。
それはつまり、ジョシュアに何かがあったということだからだ。
「……ジョシュア!!」
『T-05-i28』の収容室からは、今まさに『T-05-i28』が歩いて出てきていた。
大体30㎝ほどの大きさの、兵隊の形を模した人形だ。
その手には、彼らの友であるジョシュアの足をもって引きずっている。
ジョシュアは白目を剥いて口から泡を吹いているが、まだ息があるようであった。
「ジョシュアを離せ!」
「……よくも!」
ジョシュアの息があることを瞬時に見抜いた二人は、一斉に『T-05-i28』に攻撃を仕掛ける。
“魔法陣”と“後悔の日々”による攻撃は、今まさに『T-05-i28』に当たると思われた。
その瞬間
リッチの視界は、真っ白に染まった。
「ぐぼわぁ!?」
「……リッチ!?」
一瞬でリッチの背後に立っていた『T-05-i28』の手には、金槌のようなものが握られていた。
そして、奇妙な声を上げて膝から崩れ落ちるリッチ。
息はあるようだが、白目を剥き口から泡を吹きながら痙攣をしていた。
「……よくも二人を!!」
シロが“魔法陣”から魔法弾を放つが、『T-05-i28』は素早く動いてシロに接近してくる。
「……くっ」
シロが攻撃に備えて“魔法陣”を構えると、『T-05-i28』はシロの脇を抜けていった。
「……えっ?」
シロがあっけにとられている間にも、『T-05-i28』は走り去っていく。
しかしすぐに意識を切り替えたシロは、ジョシュアとリッチに命の危機がないことを確認すると、救助を呼んで『T-05-i28』を鎮圧しに向かった。
「うわぁ!!」
「く、くるなぁ!!」
そして、今中央第一のメインルームでは、阿鼻叫喚となっていた。
メインルームでは何人もの職員たちが蹲って痙攣している。
「くそっ、こんな奴俺が…… ぐぼわぁ!?」
「あぁぁ、マオさぁん!?」
職員たちの中ではジョシュアに次ぐ鎮圧職員であるマオでさえも、『T-05-i28』の攻撃を避けることはできず蹲って痙攣していた。
それを見て涙目で叫ぶサラ、彼女はマオの腰のあたりを撫でることしかできなかった。
「まったく、厄介なアブノーマリティね」
「ルビねぇさん、お願いします!!」
「任せなさい!」
見つめ合うルビーと『T-05-i28』、そして、二人は同時に動き出し、立ち位置が入れ替わる。
「「……?」」
しかし、どちらも倒れることなく、お互いに顔を見合わせると不思議そうに首をかしげる。
そして、『T-05-i28』は納得いかないような表情(表情?)を浮かべると、他の職員たちに向かって走り出した。
「あらっ、ちょっと待ちなさいよ! 逃がさないわよ!!」
「はぁっ、はぁっ、はぁっ!!」
男は逃げる、何処までも。
後ろから追いかけてくる、おぞましい怪物から逃げようと。
「くそっ、畜生!!」
「ジョシュアさんも、リッチさんも、マオさんも、マイケルさんも、みんなやられちまった!!」
彼は走り続ける、何処までも、何処までも。
「悪夢だ、捕まったらおしまいだ!」
しかし、ついに鬼ごっこは終わりだ。
「そ、そんな……」
ついに彼は袋小路に追いつめられる。
そう、『T-05-i28』に誘導されていたのだ。
唯一の逃げ道の収容室も、現在誰かが作業中だ。
「あ、あ、あぁ……」
ゆっくり、じっくりと、恐怖を味わうように歩み寄る『T-05-i28』。
そして奴は、その手に持つ金槌を見せつけるように振り上げて……
思い切り、振り下ろした