【完結】誰も知らないアブノーマリティー   作:名無しの権兵衛

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Days-27 T-02-i68『幸せの女神さまは気まぐれさ』

「ジョシュア、そんなもんではE.G.O.の力を引き出すことはできないぞ」

 

「はぁっ、はぁっ…… くそっ」

 

 今日も始業前からゲブラーとの特訓を行っていた。

 

 予想はしていたが、E.G.O.の力を引き出す訓練は、かなり厳しいものであった。

 

「お前はまだE.G.O.に振り回されている、もっと自分の意志でE.G.O.を振るってみろ」

 

「マジか、結構自分の意志で振るえていると思っていたが……」

 

「無意識のうちにE.G.O.の動きをなぞっているぞ。無理に力を引き出そうとする前に、自分の思い通りに振るえるように意識してみろ」

 

「……了解、やってやるさ」

 

 結局大切なのは基礎となる部分だ。そのことを忘れていたんじゃ元も子もない。

 

 結局、この後の特訓は自分の思い通りにE.G.O.を振るえるように、ゲブラーとの模擬戦を繰り返すこととなったのだ……

 

 

 

 

 

「くそっ、まだ傷が痛む……」

 

「おいおい、大丈夫か?」

 

 マイケルがタオルを渡してくれたので、体中の汗を拭きとる。

 

 潔癖症ということもあるだろうが、マイケルのこういった気遣いは本当にありがたいものだった。

 

「まぁ、傷とかは大丈夫だ。少し痛むだけで業務に問題はない」

 

「そうか、あまり無理はするなよ? お前が倒れれば、悲しむやつが多いことを覚えておけ。 ……この地獄で、それだけ思われているということが、どれだけのことか自覚した方がいい」

 

「……わかったよ、ありがとう」

 

 マイケルからも言葉が、重くのしかかる。

 

 確かにそうだよな、俺は仲間に恵まれすぎて、そんなことにも気が付かなかったのかもしれない。

 

「助かったよマイケル、それじゃあ作業に行ってくる」

 

「もう大丈夫なのか?」

 

「もう大丈夫だ、十分に休んだし、汗も拭けたしな」

 

「……わかった、気を付けていってこい」

 

 マイケルと別れて廊下へと向かっていく。

 

 今日収容されたアブノーマリティは『T-02-i68』だ。

 

 動物系は久しぶりだな。できればモフモフがいいのだが……

 

「まぁ、それでもアブノーマリティだからな。注意するに越したことはない」

 

 廊下を歩いていくと、『T-02-i68』の収容室が見えてくる。

 

 収容室の前に立つと、いつものように扉に手をかけて、お祈りをする。

 

 そして、思い切り、収容室の扉を開いた……

 

 

 

 

 

 

「……なん、だと」

 

 収容室の中には、何匹もの黒猫がいた。

 

 ちっちゃい子からまん丸太っちょな貫禄のある子まで、ありとあらゆる黒猫が、思い思いに過ごしていた。

 

「きゃ、きゃわわわ……」

 

 なんということでしょう、ちょうどモフモフを欲していた時に、鴨がネギをしょってきたではありませんか。

 

 据え膳食わねば、不作法というもの。

 

 それでは、いただきます!

 

「ねこちゃーん!」

 

「にゃっ!?」

 

 さっそく猫ちゃんにモフモフしようとしたら、華麗によけられてしまった。

 

 その後も抱き着こうとするも、気が付けば周囲には猫一匹いない。

 

 どうやら警戒されてしまったようだ。

 

「むむむっ、ならば仕方がない」

 

 警戒を解くために、食事を用意する。

 

 そして猫たちからゆっくり距離を取ると、収容室の端のほうで待機する。

 

 すると最初は警戒していた猫たちも、餌の誘惑に耐え切れなかったのかこちらを見ながら餌を食べ始めた。

 

「ぬふふぅ~」

 

 かわいらしい猫ちゃんたちを見ながら癒される。

 

 本当はモフモフしたいところだが、猫たちに警戒されているので仕方がない。

 

「さてさて、それじゃあここら辺にしようかな」

 

 餌もなくなったし猫ちゃんたちのかわいい姿も堪能した。

 

 そろそろ収容室から出るとしよう。

 

「それじゃあまたね」

 

 猫ちゃんたちに手を振って収容室を出る。

 

 懲戒部門のメインルームへと向かって歩いていく途中、リッチと出会ったので声をかける。

 

「ようリッチ、調子はどうだ?」

 

「あぁ、こっちは大丈夫だ。ジョシュアはどうだ?」

 

「こっちは最高だよ! なんせ今日収容されたモフモフが最高だったからな!」

 

「なるほど、そこの黒猫みたいに?」

 

「あぁ、この黒猫みたいに…… えっ?」

 

 リッチの指さす方向に目を向けると、そこには黒猫、『T-02-i68』が存在していた。

 

「ジョシュア、いくらモフモフが好きだからと、収容室から連れ出すのは……」

 

「いやいや、これは俺が連れ出したわけでは……!!」

 

 どうしよう、もしかして収容室から出るときに一緒に出てきたのか?

 

 ……いやしかし、何もしないのであれば大丈夫ではないか?

 

「まぁ、無害だし大丈夫だろ!」

 

「……本当か?」

 

「た、たぶん大丈夫だって」

 

「……こいつを戻しに行くぞ」

 

「やめて、俺からこの子を引きはがさないで!!」

 

「やめろ、悪乗りするな!」

 

 リッチに縋り付くも足蹴にされてしまった。

 

 まったく、ノリが悪いな。

 

「いや、本当に大丈夫だって! それに、脱走したってアナウンスはなかっただろ?」

 

「……確かにそうだが」

 

「それに、何かあったら俺が責任持つからさ!」

 

「ニャー」

 

「ほら、こいつもそういってるし!」

 

「……いや、なんて言ってるんだよ?」

 

 呆れたような様子のリッチは、俺と『T-02-i68』を交互に見て、大きなため息をついた。

 

「頼むから、問題は起こさないでくれよ?」

 

「もちろんだ!」

 

「ニャー」

 

 何とかリッチを説得して、『T-02-i68』を連れていく。

 

 俺が歩くとちょこちょこと後ろをついていく『T-02-i68』が可愛くて仕方がない。

 

「よーし、この後も作業を頑張るぞ!」

 

 『T-02-i68』がいるおかげか、やる気がみなぎってくる。

 

 この後の作業効率は、今までで一番のものであった。

 

 

 

 

 

「……うぅぅ」

 

「あのう、お客様、そろそろ泣き止まれてはいかがですか?」

 

「でもよう、ロバートの奴が『T-02-i68』を俺から奪っていってさ……」

 

「いや、単にその泥棒猫がロバート様についていっただけですよね?」

 

「うわあぁぁぁん!」

 

 今俺は『F-01-i63』*1への作業中だが、ロバートに『T-02-i68』を取られたショックでなかなか作業に集中できなかった。

 

「その、とりあえずお茶でも飲みますか? 私が心を込めてお入れいたしますが……」

 

「てめぇにぶっかけてやろうか?」

 

「そ、それでは私がその泥棒猫の代わりになりますよ! そんな無駄にモフモフした奴よりも、ムチムチした私があなた様を癒して……」

 

「黙れ、お前にモフモフ様の代わりが務まると思うなよ?」

 

「……はい」

 

 思わず本音が漏れると、『F-01-i63』がシュンとしてしまった。

 

 さすがに申し訳なく思ったので声をかけようとするも、そこでアナウンスが入った。

 

『『O-05-i53』*2が脱走しました。近くの職員は至急鎮圧に向かってください』

 

「すまん、ちょっと鎮圧に行ってくる」

 

「かしこまりました、お気をつけていってらっしゃいませ」

 

 『F-01-i63』に声をかけて、収容室を後にする。

 

 『O-05-i53』は脱走したらかなり厄介だ。

 

 できる限り犠牲なく鎮圧してしまいたい。

 

「頼む、間に合ってくれ」

 

 急いで『O-05-i53』の所へ向かって走っていく。

 

 そして、『O-05-i53』の元へ向かっていくと、すでにロバートとシロ、リッチが戦闘を行っていた。

 

 足元に『T-02-i68』を伴いながら“思い出”を振って『O-05-i53』に牽制しているロバートは、リッチやシロの邪魔にならないように頑張って立ちまわっていた。

 

「ジョ、ジョシュア先輩! 助けてくださいっす!」

 

「ロバート、目を離すな!」

 

「えっ?」

 

 そして、俺を見てよそ見をしてしまったのが運の尽きだった。

 

 ロバートは自らに跳んでくる肉団子をよけることができず、そのままひき肉の仲間入りをしてしまったのだ。

 

「ロバート!?」

 

 左手の“残滓”の出力を最大にして『O-05-i53』との距離を一瞬で詰め、そのまま“骸”をたたきつける。

 

 何度も何度もたたきつけると、『O-05-i53』はピクリとも動かなくなった。

 

「くそっ、くそっ」

 

「……ジョシュア」

 

「もうその辺にしておけ」

 

「……はっ、ロバートは?」

 

 我に返ってロバートのほうを見ると、そこには信じられない光景が広がっていた。

 

「……ジョシュア先輩」

 

 そこには確かにつぶれたはずのロバートがいた。

 

 しかしその手には、代わりに潰された『T-02-i68』が存在していた。

 

「大丈夫か、ロバート?」

 

「だ、大丈夫っす。でも……」

 

 

 

 

 

「俺、死ぬのが怖いっす。死が、どんなものかわかってしまったから……」

 

 

 

 

 

 猫はいつでも気まぐれさ

 

 彼らは幸運の象徴、幸せの女神様

 

 でも、気まぐれがゆえに近づいてきたかと思ったら、気が付けばどこかに行ってしまう

 

 幸せはいるまでも近くにはいない

 

 

 

 

 

 

 

 そう、幸せの女神さまは気まぐれさ

 

 

 

 

 

T-02-i68 『幸せの旅人』

 

*1
『桃源の甘露』

*2
『フレディのウキウキごきげんスパゲティ』

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