「……なぁ、ジョシュア」
「おっ、どうしたんだ?」
今日もゲブラーとの特訓を終えてから、『O-01-i74』への作業を行うところだ。
しかし、今日の『O-01-i74』はなんだか様子が変に感じる。
何かを恐れているような、焦っているような……
「お、おかしいんだ。この部屋に来ているのは君だけのはずなのに、ジョシュア以外は誰も俺のことを知らないはずなのに……」
『O-01-i74』は頭を抱えて蹲っている。
そして、突然顔を上げると、そこの見えない顔をこちらに向けて叫び始めた。
「どうして、どうしてみんな私のことを知っているんだ!?」
その迫力は、普通のものではなかった。
おそらくは、俺以外に知られることを、本気で恐れているのだ。
「お、落ち着け。それは……」
「これが落ち着いていられるか!! お、俺は、君以外に知られたくなんてなかった」
「僕は!! これ以上知られてしまったら、自分が己ではなくなってしまう……」
「……」
つまり、俺の話したことが原因で、こいつは苦しんでいると言いうことだろうか?
そして、情報が洩れていることを、こいつは知ることができるのだろう。
……いや、感じ取ってしまうということか。
「すまない、その情報を他の奴らに教えたのは、俺だ」
「……!?」
おそらく誤魔化しても状況は好転しない。
むしろ、隠していては被害が広がる可能性もある。
そして、こいつはおそらく自分の特性を知っているし、状況が悪化するのを阻止したがっている。
ならば、正直に話して協力を仰ぐ方がいいだろう。
「はっ、はぁ! き、君はっ!! ……くっ、うぅ、す、すまない、君は悪くないんだ」
「いや、すまなかった。俺が情報を共有しようとして、みんなに話したんだ」
「……いや、違う。
『O-01-i74』は頭を抱えながら、自らを悔いるようにそうつぶやいた。
……それにしても、話していなかったからではなく、話すことができなかったとは、いったいどういうことだろうか?
「なぁ、お前のことを話したのは、そんなにまずいことだったのか?」
「…………そう、なのかもしれない」
「わからないのか?」
「あぁ、わからないんだ。某のことが、わからないんだ……」
どうやら『O-01-i74』は、かなり憔悴しているようだ。
これ以上話を聞くのはやめた方がいいだろうか?
「とりあえず、これからはなるべく他の奴らには話さないようにするよ。とはいっても上の人たちには報告しないといけないけど……」
「……すまない、そうしてくれると助かる」
「あぁ、とりあえず今日はここまでにしておこうか」
「……あぁ、またな」
とりあえず『O-01-i74』が落ち着いてから収容室を後にする。
これからは『O-01-i74』の情報の取り扱いを気を付けないといけないな。
「……なぁ、輪廻」
『どうしたジョシュア、お前から話しかけるとは珍しいな』
「お前、あいつのこと何か知ってないか?」
俺の問いかけに、輪廻は口を噤んだ。
俺がそう思ったのは、何も勘だけではない。
こいつは『O-01-i74』と出会ってから、一度も話しかけてこなかった。
今まではなんだかんだで俺に話しかけてきたというのに……
『だめだ、それはお前たち人間のやるべきことだ』
「……どういうことだ?」
『俺が関われば、余計なものが混ざりこむ。これで終わりだ、本来これだけでもリスクのあることなのだ』
「……」
輪廻の話からして、余計なことをすれば厄介なことになるから、何も言わないようにしていたということだろうか?
なんだかんだでこいつは嘘をついたりはしない。
これもきっと、本当のことではなるのだろうな。
「あっ、ジョシュア先輩!」
「ようロバート、大丈夫か?」
気が付けばメインルームの目の前にまでやって来ていた。
そこで、偶然扉の目の前にいたロバートが話しかけてきたのだ。
「はい、まだちょっと怖いところはあるっすけど、もう大丈夫っす!」
「そうか、でも無理はするなよ?」
「はいっす!」
少し元気を取り戻したロバートと話しながら、メインルームの中に入っていく。中には、すでにリッチたちもゆっくりしていた。
「ようジョシュア、今日も『O-01-i74』の作業か?」
「あぁ、そうだな」
「それで、今日はどうだったんだ?」
「……いや、できれば話したくないな」
「そうか、お前がそういうんだったら、言わないほうがいいんだろうな」
俺が返答に渋ると、リッチはこっちの意図を汲んでそれ以上は聞いてこなかった。
……だが、ここで予想外のことが起きる。
「そういえば、『O-01-i74』っていうと俺たちが危なくなったら無償で助けてくれるんすよね?」
「なっ」
なぜそれを知っている。
そう言葉を発しようと思ったが、突然のことで声がとっさに出なかった。
しかも、異常はこれだけにとどまらなかった。
「あぁ、そういえばそうらしいな」
「あれ、リッチさんも知ってるんすか?」
「もちろん、というか、みんなそれくらいは知っているんじゃないか?」
「まぁ、それはそうっすよね」
どうやら、ここにいる人間だけでなく、他の職員たちも知っているらしい。
……いったい、どうなっているのだろうか?
俺は、みんなが楽しそうに『O-01-i74』について話しているのを、唯々見ているしかなかった……