「……何をやっているのですか?」
「げっ、イェソド!?」
なんと間の悪いことか、今一番会いたくない奴にあってしまった。
まったく、どうしてこういうときに来てしまうのか。
「今は就業時間中のはずです、こんなところで遊んでいる時間はないはずですが……」
「べっ、別にいいだろう? 今日は新しいアブノーマリティはいないし、今は休憩時間中だし……」
そうだ、確かにちょっと遊んでいるが、休憩中にとやかく言われる筋合いはない。
イェソドも、そこらへんは分かっているはずだが……
「そうですね、確かに今あなたは休憩時間中なので多少遊んでいたとしても問題はないでしょう」
「そうだよな、だったら……」
「しかし、それは貴方だけの話ですよね?」
「……」
イェソドが視線を俺から外し、他の3人に向ける。
……そこにいるのは、ネツァク、マルクト、ホドの三人だった。
「そもそも、いったい何をしているんですか?」
「ま、麻雀です」
「まぁまぁ、そうピリピリしないでくださいよイェソド、やってみると案外楽しいものですよ」
「そ、そうだよ! 別に何か賭けているわけでもないし、これは職員とのコミュニケーションだから!」
「あなた達に休憩時間はないでしょう」
「うぅ、私は数合わせなだけなのに……」
背後からものすごい圧力を感じているホドが涙目になっている。
そう、今俺たちは机を囲んで麻雀をしているのだ。
なぜこんなことをしているかというと、まぁ別に深いわけがあるわけでもないのだが……
「まぁまぁ、もうすぐ終わりますし、今いいところですからちょっとくらい見逃してくださいよ」
「はぁ…… まぁいいでしょう」
「えっ、いいのか?」
まさかのイェソドからのお許しに、ここにいる全員が驚いた。
やはり、コア抑制したことで少し寛容になったのだろうか……
「もうすぐ終わりそうですからね。ホド、それ危ないですよ?」
「えっ?」
「「「ロン」」」
「えぇぇぇぇ!?」
その時、ちょうどホドが出した牌が俺たちの待ち牌だった。
どうやら、イェソドはそれを読んでいたらしい。
「字一色小四喜」
「国士無双十三面待ち」
「四暗刻単騎待ち」
「なんで皆さんそんなすごい手ばっかりなんですかぁ!?」
ホドの悲しい叫び声が木霊する。
しかし、これでもう終わりか……
「よし、それじゃあ片づけるか」
「……ジョシュア」
「なんだよイェソド」
麻雀の片づけを始めると、イェソドが俺に話しかけてきた。
いったい何の話だろうか?
「貴方は今まで俺たちとのかかわりを避けていたように感じました。それなのに今はこうして我々とかかわりを持とうとする…… いったいどういう風の吹き回しですか?」
「それは……」
イェソドからの問いかけに、言葉が詰まる。
確かに俺はこいつらとなるべくかかわりを持たないようにしようとしていた。
それはなんとなく彼らのことを一方的に知っているので気まずかったということもあったが、一番の理由はセフィラ戦への悪影響があると困ると考えたからだ。
……まぁ、ゲブラーとは結構かかわっていた気がするけど。
それはさておき、実を言うと、こうして俺が彼らセフィラと交流を持とうとする理由はちゃんとある。
まず一つは、セフィラ崩壊を全て乗り越えているということ。
これで管理人に遠慮をする必要がなくなったってこと。
そしてもう一つは、『F-01-i34』*1に言われたことがずっと気になっていたからだ。
彼女に言われた、『一つも取りこぼしてはいけない』という言葉……
それがいったい何のことを言っているのかを考えた時に、もしかしてセフィラたちのことではないかと思ったのだ。
あれから時間はかかってしまったが、それもあってこうして彼らとかかわろうと思ったのだ。
……まぁ、どっちも言えることじゃないし、イェソドのことをほっといた後ろめたさがあるので絶対に言わないが。
「別にいいだろう? お前たちとも仲良くしたいって思えるようになっただけだよ」
「……そうですか」
まぁ、とりあえずは納得してくれたってことだろうか?
とりあえずイェソドも片づけを手伝ってくれて、めちゃくちゃ几帳面に牌をなおしてくれた。
……やっぱり、こいつも麻雀知ってるんじゃないか?
「ありがとうジョシュア、手伝ってくれて」
「それはこっちのセリフだよ、いつもありがとうな」
今、脱走したアブノーマリティを『O-01-i74』と協力して鎮圧した。
彼への鎮圧依頼は、予想の数倍すごいものだった。
2丁の拳銃による遠距離からの攻撃は、ほとんどのアブノーマリティに致命的なダメージを与えている。
そのうえ、アブノーマリティの脱走に反応しないし、もしかしたら赤ずきんさんよりも頼れるかもしれない。
「さて、それじゃあそろそろ『『O-02-i71』*2が脱走しました。近くの職員はすぐに鎮圧に向かってください』……すまん、もう少し手伝ってくれるか?」
「あぁ、もちろんだ」
『O-01-i74』と一緒に『O-02-i71』の方へと向かっていく。
とりあえず『O-02-i71』の収容室の前まで行くと、すでに数人のオフィサーを支配下に置いた『O-02-i71』が浮遊していた。
「くそっ、頼むぞ!」
「任せろ、ジョシュア!」
『O-01-i74』が『O-02-i71』から伸びる触手を打ち抜き、その隙に俺がオフィサーたちを救出する。
『O-01-i74』は本人の要望によりあまり人と会いたくないようなので、そのままメインルームにオフィサーたちを避難させに行く。
「うっ、ここは……」
「大丈夫か?」
「ジョシュアさん、俺は大丈夫です……」
「とりあえず横になっておけ」
「ありがとうございます……」
連れ出したオフィサーたちの体調を確認していく。
とりあえずは大丈夫そうだ。
これ以上『O-01-i74』に任せるわけにもいかないので、手元に“残滓”と“骸”を呼び出して『O-01-i74』の元へと向かおうとする。
すると、先ほどやってきた扉から『O-02-i71』がやってきた。
「くそっ、もう来たのか!?」
運が悪いことに、ここにはさっきのオフィサーだけでなく、他の非戦闘員や職員たちもいる。
「いくぞジョシュア!!」
「私の腕の見せどころね!!」
この場にいたマイケルとルビねえが『O-02-i71』に向かっていく。
その時、ちょうど『O-01-i74』がこのメインルームにやってきて、悪寒が走る。
「まずいっ!!」
『O-01-i74』を止めようとするも遅かった。
マイケルとルビねえ、そして『O-01-i74』の攻撃により『O-02-i71』は倒れた。
しかし、それで終わりではなかったのだ。
「うわっ、あっ、あぁ!?」
『O-02-i71』を鎮圧すると、周囲に大勢の人がいることに『O-01-i74』が気が付いた。
直感的に危険を感じた俺は、“骸”の力を引き出して二股の尾を出してマイケルとルビねえを『O-01-i74』から引きはがし、投げ飛ばす。
「あぁぁぁぁあああぁぁぁ!!!!!!!!」
その瞬間、彼は頭を抱えて雄たけびを上げたかと思うと、状況が一変した。
この場はすべて静寂に包まれる。
すべての非戦闘員は一瞬で息絶え、生半可な職員も一様に気を失った。
マイケルとルビねえは耐え切ったが、目の前の光景を見て絶句していた。
それも無理はないだろう。
『O-01-i74』の顔があった部分には、花が咲いていた。
……いや、それが花であるわけがない。
ヒマワリのようにいくつもの花弁が集まったような頭部は、いくつもの小さな『O-01-i74』の体の集合体だった。
それらが放射状に集まり、中央の奈落のように暗い部分が、まるで瞳のようにこちらを見つめていた。
力なく垂れていた両腕が持ち上がり、その両腕にはリボルバー式の拳銃が握られている。
そしてその銃口は真っ直ぐに俺に向けられて、引き金が引かれた。
Emergency! Emergency! Emergency!
Risk Level ALEPH
それは決して知ってはならない災厄の存在
誰もが彼について話し、考え想いを馳せるだけで、力が変質し、強大になっていく
だからこそ、誰も彼について知ってはならないのだ
誰にも知られない対策は失敗した
何処からともなく情報が洩れ、誰も管理ができないからだ
全員に安全な情報を与え、イメージを固定する方法は失敗した
イメージは徐々に変質し、余計な情報が混在してしまう
たった一人に管理させ、誰にも話をしないように厳命する作戦は失敗した
人はダメだといわれたことほどやってしまいたくなるからだ
人の口に戸は立てられぬ
伝言ゲーム
カリギュラ効果
誰も彼もが俺の話をする
俺はただ、一人にしてほしいのに
たとえ誰かに心を開いても
誰かを信じて俺のことを知られないようにしても
俺と言う存在が孤独を許さない
それでも、それでも俺の願いが叶うのならば……
どうか、どうか俺のことは忘れてくれ
O-01-i74 『No Name』