まるで花のような頭を持つ異形、『O-01-i74』
それが発砲した銃弾は、まさしく死を予感させた。
「くっ!」
“残滓”と“骸”ではだめだと一瞬で理解させられ、その二つを収納して“墓標”を取り出し、銃弾をはじく。
……いや、逸らすといった方がいいのかもしれない。
それほどに強く、恐ろしい弾丸であった。
「マイケル! ルビねえ!」
「ぐっ、大丈夫だ」
「このままだと足手まといね…… すぐに応援を呼んでくるから待っててね!」
「わかった!」
『O-01-i74』とにらみ合いながら、二人の退路を確保する。
……とはいっても、奴は俺しか見えていないみたいだけどな。
気を失った三人の職員を抱えてマイケルとルビねえがここから離れるとともに、『O-01-i74』が動き出す。
死の銃弾が壁や床を跳弾しながら俺に襲い掛かってくる。
獣のように食らいつかんとする弾丸を、身をひねり、時に“墓標”で逸らしながら回避する。
「くそっ、できればもう少し慣れておきたかったが……!!」
よけるだけではらちが明かない。
だがこのままでは奴に近づくことすら難しい。
……ぶっつけ本番だが、やるしかないか。
「いくぞ、“墓標”」
“墓標”から力を引き出し、床に突き刺す。
すると、突き刺した“墓標”の周囲から死の気配を纏う骨が飛び出し、『O-01-i74』に襲い掛かる。
「はぁ!?」
しかし『O-01-i74』はその攻撃を、花弁の一つを肥大化させて新たな体にすることで回避したのだ。
予想だにしなかった回避方法、さらにその新たな体にはすでに拳銃が握られていた。
「マジかよ!?」
いくつもの銃弾が跳弾しながら俺を囲うように飛んでくる。
さすがにこれは防がなければならないと、すぐさま飛び上がり、“墓標”を振るう。
すると体中から張り裂けるような痛みと共に骨が飛び出し、鎧となって銃弾を阻む。
「ぐっ」
さっきの一撃で飛び出した骨が一瞬でボロボロになる。
これは緊急時用の防御だな、何度も使ってたら体がもちそうにない。
痛みで体がよろけそうになる、しかし奴は待ってくれないようだ。
さらなる銃弾を“墓標”の力で生やした骨たちで阻み、何とか『O-01-i74』に接近する。
「喰らえ!!」
“墓標”からさらに骨を伸ばし、意識外の距離からの攻撃をお見舞いする。
さすがにこれで倒せるとは思っていないが、少しでもダメージを与えられれば……
「嘘だろっ!?」
しかし“墓標”が当たる前に『O-01-i74』の一番上の花弁が肥大化し、まるでバク転でもするかのように後方によけられてしまった。
しかし奴は俺に背を向けた状態だ。このまま……
「おい、どこ行くんだよ!?」
追撃をしようとすると、『O-01-i74』は俺に背を向けたまま走り出してしまった。
どうやら他の場所に移動しようとしているらしい。
何とか相手どろうとするも、懲戒部門に向かう廊下の方へと走り去ってしまった。
「くそっ、間に合え!」
『O-01-i74』の後を追うも、奴は廊下を抜けて懲戒部門の方へと向かっていく。
かなり距離を開けられてしまったが、何とか奴の後を追って懲戒部門へと突入する。
……すると、そこではすでにパンドラとシロ、リッチがオフィサーたちを背にすでに戦っていた。
「ジョシュア先輩!」
「取り敢えず非戦闘員は避難しろ! シロ、リッチ、パンドラ、行くぞ!」
シロが“魔法陣”で『O-01-i74』に牽制射撃をし、頭部側面の体を肥大化させて回避した先でパンドラの“御伽噺”とリッチの“後悔の日々”が襲い掛かる。
それを受けて初めて『O-01-i74』がよろめいた隙に“墓標”で頭部の中心点を貫くと、確かな手ごたえと共に、ようやく『O-01-i74』は力なく倒れ伏した。
「……ふぅ、何とかなったな」
「……意外と呆気ない」
「いや、俺一人だったらまったく攻撃が当たらなかった。お前たちがいてくれて助かったよ」
「……どういたしまして」
みんなにお礼を言うと、シロは嬉しそうに微笑んでいた。
急な戦闘だったが、何とかなってよかった。
そう思いながらあたりを見回すと、リッチが頭を抱えていた。
「どうしたんだリッチ?」
「うっ、いや…… 俺はさっきまで何をやって……」
「えっ?」
「ジョシュア先輩、危ない!!」
「えっ?」
背後を押される感覚と共に、銃声が鳴る。
よろけながら背後を見ると、パンドラが俺を押し出す体勢で凶弾に撃たれていた。
「パンドラっ!!」
銃声の元を確認すれば、そこには銃を構える『O-01-i74』が存在していた。
なぜ、さっき鎮圧したはずなのに?
そんな疑問が浮かび上がる前に、再び『O-01-i74』が銃口を俺に向ける。
「……ジョシュア!?」
「くそっ、なんだあいつは!?」
シロとリッチが臨戦態勢に入るも、すでに『O-01-i74』は引き金を引いていた。
「ぐっ!」
“墓標”で骨の柱を出して防御するも、数発かすり、うち一発がわき腹に突き刺さる。
傷口から生気を奪う死の気配が漏れ出る。これはまずいかもしれない。
「てめぇら、大丈夫か!?」
「マオっ!」
シロやリッチが牽制をしてくれいていると、マオとサラもやってきた。
マオが『O-01-i74』に突っ込みサラが撃たれたパンドラを連れていこうとすると、『O-01-i74』が頭を抱えて呻き始めた。
「う゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!?!?!?!?!?」
「くっ!?」
『O-01-i74』が頭部を抱えて蹲ったかと思うと、頭部の花弁のような小さな体たちに変化が訪れる。
小さな体は異様に膨れ上がり、隆起し、数多の腕や足が増殖し、膨れ上がり、混ざり合い、やがて本体の体さえも飲み込んで、新たな肉体を作り上げた。
「……なんだよこれ」
それは、異形の存在であった。
膨れ上がった灰色の両腕は、丸太のように太く、大岩のような拳を床につき、体を支える。
下半身はいくつもの肉塊が脈動し、流動し、変化し続けている。
そして頭部は、いくつもの肉体が膨れ、混ざり合うことで五本の柱を形成し、途中で折れ曲がり、まるで手のひらのような形状を作り出していた。
「変形した……?」
呆然と言葉を漏らした瞬間、目の前に灰色の拳が迫っていた。
「ぐっ!」
拳に吹き飛ばされ、視界がゆがむ。
壁にたたきつけられて、肺からすべての空気が押し出されて倒れこむ。
思考がままならず、焦点のあっていない目で『O-01-i74』のいた方向に目を向けると、ぼやけた視界ですらわかるほどの蹂躙劇が起こっていた。
「シロ…… リッチ……」
段々と鮮明になる視界と、目をそむけたくなる光景。
『O-01-i74』の拳に吹き飛ばされるシロと、かばおうとして払いのけられるリッチ。
マオも応戦するも、もはや一人ではどうしようもないだろう。
「くそっ……」
「大丈夫か、ジョシュア!?」
「ま、マイケルか……」
そこに傷が回復したのか応援にやってきたマイケルに体を起こされる。
その隣にはルビねえもおり、すぐにマオの助太刀に入っていった。
「俺は大丈夫だ、それよりもあいつらを……」
「本当に大丈夫か? かなり辛そうだが……」
「大丈夫、俺が丈夫なのはお前たちも知ってるだろ?」
マイケルを引きはがし、“墓標”を杖にして立ち上がる。
幸い、攻撃を受けた面々はまだ息があるらしい。
ならば、一刻も早く『O-01-i74』を鎮圧しなければ……
「あまり無理はするなよ、ちゃんと他にも応援を呼んでいるんだからな」
「助かる!」
体の痛みに目を逸らし、思い切り『O-01-i74』に接近して”墓標”を突き立てる。
「なっ!?」
しかし、確かに突き刺さった“墓標”に、先ほどまでの手ごたえは感じられなかった。
一瞬の動揺を見逃さないとでもいうように拳が振りかぶられる。
さすがに何度も喰らうのはまずいと、床から骨を勢いよく生やして自分にぶつけ、無理やり離脱する。
「くそっ、きつい……」
傷を抑えながらも“墓標”を構える。
このままだとさすがに不味い。
それにしても、急に耐性が変わったのか?
あるとすれば、姿が変わったからか。
「なら、次は……」
“墓標”を戻して“残滓”と“骸”を取り出す。
そのまま“残滓”から炎を噴き出し加速し、『O-01-i74』に“骸”をたたきつける。
「ナイスよ、ジョシュアちゃん!」
「さっきよりはマシだが…… 来るぞ!」
手ごたえ自体は“墓標”よりもマシだった。
しかし、それでも硬いうえにそのまま突っ込んできた。
慌ててルビねえと一緒に『O-01-i74』のタックルをよけると、通信が入ってきた。
『施設内の職員に告ぐ、現在『O-01-i74』は懲戒部門チーフたちが鎮圧中である。いたずらに憶測を広げ混乱を招かないよう、落ち着いて行動するように!』
「くそっ、施設内がパニック状態か…… えっ?」
おそらく施設内の非戦闘員や新人たちに向けてのメッセージ。彼らのパニック状態を抑えようとしての放送だろう。
しかし、もしかしたらその放送が、最後の引き金を引いてしまったのかもしれない。
「……………………」
それは、絶望の証であった。
認識できない暗黒を中心に、小さな小さな体がヒマワリの花弁のようにきれいに並んで円を描いていた。
それは一層に終わらず、何層にも何層にも積み重なって、外周を経るにつれてどんどん一つ一つの花弁が大きくなっていった。
最終的には花弁一つ一つが明らかに人以上の大きさとなり、この大きなメインルームにすら入りきらないほどのサイズになっていた。
そして、唯一本来の肉体があった場所だけが、最初と同じような体になって、宙にぷらんと浮かんでいた。
『O-01-i74』は、ここに完成してしまったのだ。
「くそっ!」
相手が動く前に接近し、“残滓”を、“骸”を、“墓標”をたたきつける。
しかし、どの攻撃も、まったく効果がないように感じた。
攻撃の一切が聞かないことに嫌な予感がよぎる。
そして、奴はゆっくりと手をこちらに向けると、緩やかに手のひらを開き……
閉じるとともに、俺の意識は消え去った。