「いやぁ、にぎやかですねぇ……」
「そうだな」
パンドラと一緒に屋台の綿あめを受け取りながら、『T-03-i50』*1の収容室の前を通り過ぎようとする。
とりあえず、この綿あめに害はないだろう。
「おっ、リッチ! 今『T-03-i50』への作業が終わったのか?」
「あぁ、不思議な体験だった」
「とりあえずお疲れ」
リッチとのすれ違いざまに、ハイタッチをする。
「あっ、移った」
「どうした、パンドラ?」
「いえ、たぶん大丈夫です」
『T-03-i50』の収容室の前を通り抜けて、今日来たアブノーマリティの収容室の前に到着する。
「ほえぇ、ここが今日来たアブノーマリティですか。なんか禍々しい感じがしますねぇ」
「えっ、マジで?」
今日収容されたアブノーマリティは、『O-02-i64』だ。
パンドラがこんなことを言うのは初めてなので、正直びっくりしている。
「いえ、今までもやばい奴がいましたけど、こいつはたぶんジョシュア先輩には合いませんよ」
「……えぇ?」
いったいどういうことだよ?
そもそもどうしてそんなことがわかるのかよくわからんし……
「まぁ、特に気にせず行ってきちゃってください! もうちょっと出店を楽しんできますから」
「……まぁ、いいけどさ」
どこか腑には落ちないが、パンドラもこれ以上話さないだろうし仕方ないだろう。
「それじゃあ行ってくるよ」
いつものように収容室の扉に手をかけて、お祈りをする。
そして、思い切り扉を開いた。
「おや、初めまして」
収容室の中にいたのは、ぼろ布を纏った女性であった。
ぼろ布から出ている個所を見る限り、どうやら巫女のようである。
「あぁ、初めまして」
とりあえず返事をしながら、彼女の体を観察する。
彼女がかぶっているぼろ布は、明らかに人の体以上の何かを覆い隠している。
それに見えている体の構造にも、何か違和感が……
「おい、何をじろじろ見ている…… コホンッ 女性の体をみだりに見てはいけませんよ?」
「あっ、すまん……」
少し不快に思われたかと思ったが、さほど気にしてはいなさそうだ。
……なんというか、パンドラが言うほど相性が悪い気はしないな。
「それで? お前は…… 貴方は、何をしに来たのですか?」
「いや、とりあえずあんたのお世話をしに来たんだよ」
「なるほど、それならお言葉に甘えまよう…… 甘えましょう」
なんというか、あまりにもスムーズにコミュニケーションができている。
ここまでうまく会話ができると、どこかに落とし穴がないか不安になってくるな。
「それでは腹が減った…… 小腹がすきましたので、メシ…… 食事でもいただけませんか?」
「あぁ、別にいいが…… あんまり慣れてないなら普通にしゃべって大丈夫だぞ?」
「いや、気にする…… いえ、お気になさらず」
頑張ってお上品に笑っているが、明らかにしゃべり方を無理しているな。
それにしてもいきなり食事のリクエストとは…… なんというか、調子が狂うな。
「それじゃあこれをとりあえず……」
「なんだ、これは?」
とりあえず差し出した携帯食料に、『O-02-i64』が眉を顰める。
そうはいっても、支給された食料はこれしかないんだよ。
「携帯食料だ、不満か?」
「それはもちろんだ」
「……すぐには無理でも、好みの食事を教えてくれたら次回からある程度融通を聞かせてやれるかもしれないぞ」
「フム……」
そういうと何やら考え込むそぶりをする『O-02-i64』。
しばらくすると、顔を上げて口を開いた。
「もちろん俺が好きな食い物は女の太も…… もちろん私が好きなのは、お肉と野菜と穀物、全てがそろったバランスの良い食事ですわ」
「……」
今完全に、尻尾を出したな。
とりあえず不穏な発言には突っ込まずに警戒心を上げる。
丁寧な物言いで何を隠そうとしているのやら……
「と、とりあえずこれをいただきますね」
「あぁ、どうぞ……」
「あーん」
「……えっ?」
『O-02-i64』は大きな口を開けてこちらを向いている。
それはまるで、自分に食べさせろとでもいうかのようだった。
「いや、何してるんだよ?」
「早く食べさせろよ、どう見たってなにも持てないだろ! ……失礼、少しはしたなかったですね」
「俺…… 私は手が使えませんので、どうか食べさせてくださるとありがたいのですが……」
「……」
何を恥じているのか、先ほどよりも控えめに口を開いていたので、とりあえず携帯食料を突っ込む。
何も言わずにモグモグ食べているその姿は、雛に餌でも与えているようだった。
……というか、どう見てもその腕が使えるだろうが。
「……フム、なかなか旨かっ…… おいしゅうございました」
「そ、そうか」
「しかし、こちらもよいですが、もう少し文明的な、人間らしい食事をご用意いただきたい」
「味はまだしも、その方がこの子らも喜びます」
「……」
アブノーマリティが人間らしさを求めるのか?
なんというか、こいつはかなり危うい気がしてきたな。
できることなら、なるべくかかわりあいたくないな。
「つぎの食事までに上に掛け合っておくよ、それじゃあな」
「えぇ、さようなら」
「……あっ、ちょっと待ってください」
「どうした?」
収容室から出ようとしたその時に、『O-02-i64』に呼び止められた。
いったい何だろうかと振り向くと、その瞬間に頬に柔らかい感触とぬくもりを感じた。
「……男相手に気持ち悪いだろうが、お礼の加護だ。感謝するといい」
「……おう」
口づけの加護はトラウマものだからやめてほしいが、危険なものではないとなんとなく理解できたので、何も言わずに収容室から出ることにした。
「ジョシュア先輩、どうでしたか!? ……あれ、もういない」
「なんだよパンドラ、まだここにいたのか?」
『O-02-i64』の収容室から出ると、何故かまだパンドラがいた。
手にはりんご飴や焼きそば等、存分に祭りを楽しんでいたようだな。
「というか、そんなに出店があったか?」
「なんか気が付いたら増えてましたよ?」
「ふーん」
いったい何の影響だろうか?
とりあえず警戒しておいた方がよさそうだな。
「とりあえず戻るぞ」
「はーい」
パンドラを引き連れて、メインルームに戻る。
できれば、何も起きなければいいのだが……
昔々 あるところに 貧しい村がありました
その村の近くには 恐ろしい大蛇が住んでおり 毎年一人の乙女を差し出すように村に要求していた
貧しい村では、最初こそ口減らしと同時に娘を差し出していたが やがてその余裕もなくなっていった
このままでは村は滅びてしまう
そう村の者たちが頭を悩ませていると 美しい三人の巫女たちが現れた
巫女たちは村の人々から話を聞き 生贄を辞めるように大蛇を説得しに行くことにしたのだ
そうして説得に来た巫女たちに 大蛇は嘲笑って食べてしまおうと考えていました
しかし巫女たちと話をし その清らかな心に触れた大蛇は 考えを改め生贄を辞めることにしたのだ
巫女たちと別れた大蛇は 再び彼女たちと語らいたいを思い まだ村にいるだろうかと思い向かうことにした
どんな話をしようかと大蛇は胸を躍らせ 明るい未来を思い描いていました
村について 村人たちから3つの肉塊を献上されるまでは
O-02-i64『神聖なる巫女たち』