【完結】誰も知らないアブノーマリティー   作:名無しの権兵衛

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Days-38 T-01-i58『動いたら死にますよー』

「久方ぶりの再会だな、ジョシュア。まずは紅茶でもいかがかな?」

 

 今日も作業のために抽出部門のメインルームに向かうと、ビナーに声をかけられた。

 

 奴は優雅に椅子に座りながら、その向かい側の椅子を指示した。

 

 どうやら逃げられる雰囲気ではなさそうだな。

 

「……いきなりなんだよ、まったく」

 

「最近、何やら陰で策を練っているようだね」

 

 差し出された紅茶に口を付けた瞬間の発言に、思わず紅茶を噴き出しそうになる。

 

 いったんカップを置いてビナーをにらむと、表情こそわからないものの笑っているように見えた。

 

「しかし、心配する必要はない。私はただ見守るだけだ」

 

「これからお前がどのような道を選び、歩んでいくのか」

 

「楽しみにしているよ」

 

 ビナーはそれだけ言うと、立ち上がってどこかへ行ってしまった。

 

 ……とりあえず、ビナーにとっては俺も観察対象ということだろうか?

 

 まぁいい、それならそれで邪魔はされないだろう。

 

 ……いや、一体どこまでばれているんだ?

 

 見守るといってるからアンジェラには何も言われていないと思うが、もしもアンジェラも俺のことに気が付いていれば……

 

 まぁ、考えるだけ無駄か。

 

「はぁ、とりあえず今日の作業に向かうか」

 

 いきなり調子を狂わされたが、とりあえず今日収容されたアブノーマリティの収容室に向かっていく。

 

 今日収容されたアブノーマリティは『T-01-i58』だ。

 

 最近かなりヤバそうなアブノーマリティが来ているから、できれば大人しい奴がいいのだが……

 

「さて、今日もにぎやかだな」

 

 収容室に続く廊下を歩いていると、様々な屋台が広がっていた。

 

 さすがに日を跨げばリセットされているようだが、すでに昨日と同じくらいまでには広がってきている。

 

「よう、シロ」

 

「……ジョシュア、今から仕事?」

 

 収容室を歩いていると、シロが『T-03-i50』*1の収容室から出てきたところだった。

 

「あぁ、シロはもう終わったのか?」

 

「……うん、今『T-03-i50』の作業が終わったところ」

 

 そういって微笑むシロ。

 

 ……あれ、なんか違和感がある様な。いや、気のせいか?

 

「そうか、大丈夫そうでよかった」

 

「……うん、それじゃあまたね」

 

 シロと別れて廊下を歩く。

 

「おっと、もう着いたか」

 

 気が付いたらもう『T-01-i58』の収容室の前まで来ていた。

 

 いつものように収容室の扉に手をかけて、お祈りをする。

 

 そして、思い切り扉を開いた……

 

 

 

 

 

「……なんだこいつ?」

 

 収容室の中にいたのは、ナースのような人型のアブノーマリティだった。

 

 肌の色が奇妙なのはもちろんだが、それよりも目を引くところが一つ。

 

 その右腕には、巨大な注射器が付いているのだ。

 

「これは…… くっ!!」

 

 『T-01-i58』の様子をしっかり観察しようとしていると、『T-01-i58』がいきなり襲い掛かってきた。

 

 回避行動をしながら手元に“残滓”を呼び寄せると、『T-01-i58』の注射器の針の先にはどこかで見た影法師が突き刺さっていた。

 

「……えっ?」

 

 あれは、もしかしていつの間にかついてきていたのか?

 

 針を突き刺された影法師は、しばらくピクピクと痙攣すると、動かなくなった。

 

 『T-01-i58』は動かなくなった影法師を投げ捨てると、再び俺に襲い掛かってきた。

 

「くそっ!」

 

 “残滓”を構えて迎え撃とうとすると、注射器の針が俺の目の前でぴたりと止まった。

 

 『T-01-i58』は暫く俺のことをじろじろと眺めると、何かに気づいたのか注射器をおろし、戦闘態勢を解いた。

 

「いったい、なんなんだよ……」

 

 とりあえず、影法師の死体を片付けようとして、溶けるように消えていることに気が付く。

 

 『T-01-i58』に話してもなにも得るものはないだろうし、とりあえず作業をするか。

 

 いつも通り洞察作業を行っていく。

 

 収容室の内部を清掃していくと、どうやら『T-01-i58』は喜んでいるようだ。

 

「……ふぅ、こんなもんでいいかな」

 

 掃除が終わったので収容室から出ようとすると、袖を引かれる。

 

 振り返ると、『T-01-i58』が錠剤のようなものを俺に差し出していた。

 

「えっと、これをもらってもオプッ!?」

 

 『T-01-i58』に無理やり錠剤を口にねじ込まれると、突然のことに思わず飲み込んでしまった。

 

「ゴホッゴホッ、お前何を…… あれ?」

 

 何かヤバいものを飲まされたかと思ったら、全身から力が湧いてきた。

 

 これはもしや、治癒効果か?

 

 ……素直に喜べない能力だなぁ。

 

「まぁ、仕方ないか」

 

 もしまずそうなら左目の力で飛ばしてしまおう。

 

 とりあえずここにいてもヤバそうなので、収容室から退出する。

 

 ……大丈夫だよな、これ?

 

 

 

 

 

 はーい、次の方~

 

 あら、怪我をしていますねぇ

 

 とりあえずそちらの処置をして…… あら

 

 もしかして貴方、呪われていますか?

 

 これはいけません すぐに治療をしなければ

 

 さぁ、ちょっとチクッとしますよ~

 

 あっ、ちょっとまって……

 

 

 

 

 

 動いたら死にますよー

 

 

 

 

 

 T-01-i58 『ケミカルシリンダー』

 

*1
『鬼胎祭』

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