【完結】誰も知らないアブノーマリティー   作:名無しの権兵衛

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Days-13 T-05-i22『あなたは信じてくれますか』

 今日も新しい一日が始まる。新しいアブノーマリティーのことを考えると辟易してしまうが、仕方が無いことと割り切るしか無い。

 

「ようジョシュア、今日の調子はどうだ?」

 

「リッチか、なんか久しぶりな気がするな」

 

「そうか? まぁ、最近忙しそうだったモンな」

 

「ホントだよ、そろそろ休息が欲しいもんだ」

 

 たまたま廊下で会ったリッチと世間話をする。最近はやっかいなアブノーマリティーが増えてきたので全然心が安まらない。

 

「お前はどうなんだ、リッチ?」

 

「見ろ、俺は最近ようやく新しいE.G.O.を手に入れたんだ。良いだろう?」

 

 そう言ってリッチは手に持つ野太刀、鬼退治を見せつける。防具も同じものとなっており、随分と戦力が上がった気がする。

 

「そうか、期待してるぞ」

 

「もちろんだ、お前の背中くらいは守ってやるよ」

 

 それだけ伝えると、リッチは仕事に戻っていった。俺も頑張らなくては、気持ちを切り替えて今日のアブノーマリティーがいる収容室へと向かっていった。

 

 

 

 今日収容されたアブノーマリティーは、『T-05-i22』だ。どんなやつが来るかはわからないが、この前みたいなひどいやつでない事を祈るしか無い。

 

 いつものように収容室の扉に手をかけ、思い切って開く。

 

 収容室からは、澄み切った心地よい空気が漂ってきた。その清涼感のある空間の中心には、神秘的な像が建っていた。

 

 美しき羽の生えた女性の石像は、何かに祈りを捧げるような姿をしていた。それは、苦悩から逃れようとしているようにも、真摯な祈りを捧げているような姿にも見えた。

 

 今までと違って正の方向の雰囲気に、戸惑いを感じる。今まではおどろおどろしいというか、負の側面が強かった分、何かあるのでは無いかと疑ってしまう。

 

「さて、何の作業をすれば良いのやら……」

 

 今までの経験から洞察をするのは少し怖い、しかしこれ相手に本能とかどうやれば良いのかわからないし、するなら愛着か抑圧しか無い。抑圧もあまり良いとは思えないので、とりあえず愛着作業を行っていくことにする。

 

「さて、ずいぶんなべっぴんさんだな……」

 

 祈りを捧げる女性の像の頭をなでてみる。触れるとひんやりとしていて気持ちが良い。手触りもなめらかで、ずっと触れていたくなる。そんな不思議な感覚を味わっていると、不意に体が熱くなった。

 

『あなたに加護を授けましょう』

 

「……はぁ!?」

 

 気がつけば手の甲に不思議な文様が浮かび上がる。その文様は擦っても消えず、熱くドクドクと脈を打っている。

 

 これはまずい、確実にあれのタイプだ。もしもあれと同じタイプであれば、このままでは確実に死んでしまう。

 

 とりあえずこの後は『T-05-i22』の作業をし続けるしか無いだろう。最悪だ、まだよくわかっていないアブノーマリティーだっているというのに、こいつの作業しか出来なくなるなんて。

 

 ……いや、これはこれでありと考えよう。よく考えればこいつがどんな存在かをよく知ることが出来るはずだ、今日にできる限りの情報を集めるとしよう。

 

 

 

 結局、本日の業務はこのアブノーマリティーにほとんど尽きっきりであった。途中何度か他のアブノーマリティーの作業に向かったが、一、二度くらいであればセーフらしい。少しでも『T-05-i22』の情報が集まったのであれば、それはそれで良かった。

 

「はぁ、それでも災難だった。『T-09-i97』*1にでもゆっくりと浸かりてぇ」

 

 今日の業務がほとんど終わっていたこともあって油断していたのだろう、俺は近づく人影に気付くことができなかった。

 

「うおっ、……って、シロかよ。脅かすなって」

 

 後ろから俺の袖をつかんだのはシロであった。シロは無言で俺の袖をつかんで止めた後、急に手をつかんで俺をどこかに引っ張っていった。

 

「おいおい、どうしたんだよシロ?」

 

 彼女は表情がほとんど変わらず、何を考えているかわからないことが多い。それでも、今回は特に何をしようとしているのかわからなかった。

 

「いい加減…… って、ここは『T-09-i97』か?」

 

「おい、ちょっと待ってって」

 

 『T-09-i97』の収容室の前まで手を引かれると、シロはそのまま俺を連れて収容室内部まで入っていった。『T-09-i97』の収容室の内部は、もうすぐ業務時間が終わるからか誰もいなかった。

 

「おいおい、もしかして一緒にはいるつもりか? さすがにそれはまずいだろ……」

 

「…………」

 

「おい、本当にどうしたんだ?」

 

「…………あの子とは入ったのに」

 

「えっ?」

 

 シロは小さな声でよくわからないことを言った。彼女が声を発したことも驚いたが、その声に珍しく感情が交じっていたように感じたことにも驚いた。

 

「あのこと一緒って…… あぁ、もしかしてパンドラのことか?」

 

 俺の言葉にシロがうなずく。……おいおい、あいつと一緒に入ったって、ただの説教じゃ無いか。そんなドキドキの展開では無いはずだが。

 

 というか、もしかして焼き餅を焼いているのか? あのシロが?

 

「もしかして、あいつがおれと一緒に入ったから、お前も一緒に入りたいのか?」

 

「…………だめ?」

 

「いや、だ、だめじゃ無い、かな?」

 

 シロの上目遣いの懇願に、思わず承諾してしまう。何というか、久しぶりにこいつの人間らしいところを見た気がする。そのことも嬉しくて、ついついOKしてしまった。

 

 しかし、これで俺はシロと一緒に『T-09-i97』に入浴することとなった。

 

 ……ちなみに、長時間入浴したことにより、『T-05-i22』の加護は消えてしまった。

 

 いや、お前は何でもありなのか?

 

 

 

 

 

 かつては皆が私に付いてきてくれた

 

 彼らは私に救いを求め、私はそんな彼らのために尽力した

 

 ある日、どうしても苦難に耐えなければならない時が来た

 

 私は彼らを説得しようとしたが、彼らは納得しなかった

 

 結局彼らは、私から離れていった

 

 それからの彼らがどうなったのかはよくわからなかった

 

 夜盗に襲われたとも、病に犯されたとも聞いたが、事実はどうかわからなかった

 

 しかし、どの話も結局のところ、私から離れていった人々は死んでしまったというものだった

 

 私はあなたのために力を授けます

 

 私はあなたの味方です、あなたの助けになりたいのです

 

 しかし、あなたに訪れるのは良いことだけではありません

 

 これからあなたには様々な苦痛や困難が訪れるでしょう

 

 それは私が望む望まないにかかわらず、起きてしまう……

 

 

 

 

 

 それでも私のことを、あなたは信じてくれますか

 

 

 

 

 

T-05-i22 『慈愛の形』

*1
『極楽への湯』

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