「あんた本当によく頑張るわねぇ」
「大丈夫? コーヒー飲む?」
「……あ、ありがとう」
今日も今日とてゲブラーとの修行をしていると、その様子をティファレトとケセドが見学しに来ていた。
とりあえず伸びてた俺は体を起こして、ケセドから渡されたコーヒーに手を付ける。
なんだかんだで、最近はこの三人とかなり接点がある気がする。
「最近、かなりE.G.O.の力を引き出せるようになってきたな」
「……そうか?」
「あぁ、これなら並大抵のアブノーマリティには後れを取らないだろう」
まだまだ余裕そうなゲブラーは、少しうれしそうに口を開いた。
もしかしたら、こうして同じようにE.G.O.を扱える奴が出てきたことが嬉しいのかもしれないな。
「さて、それじゃあそろそろ作業に行くか」
「おっ、頑張れ~」
「まっ、せいぜい死なないようにね」
「まだ元気そうだな、明日からはもう少しきつめでも……」
「頼むから、少しは手心を加えてくれよ?」
セフィラたちと別れて、今日の作業へと向かう。
今日は新規のアブノーマリティはいないが、まだ完全に理解できていない奴もいるので慎重に作業をして行かないといけないな。
「さてと、確か次は『T-04-i15』*1だったよな…… あれ?」
『T-04-i15』への作業をしようと収容室の前まで来たが、何故か誰かが作業をしていた。
確か俺の前はルビーの担当だったと思うが、彼女はすでに作業を終えてメインルームに行っていたはずだが……
「まぁ、代わりに誰かが作業をしているのなら仕方ないか」
とりあえず他の奴の作業に向かうことにする。
ここまで広がっている祭りの会場の中を歩きながら、何処に行こうか考える。
すると、目の前からシロが歩いてきた。
「……ジョシュア!」
「おっ、シロ、おはよう」
「おはよう、ジョシュア!」
そういって朗らかな笑みを浮かべるシロは、最初のころを思うと別人のようだ。
そんなことを思いながら、シロと一緒に歩いていく。
「……そういえば、『T-04-i15』への作業は終わったの?」
「いや、誰かが作業していたから別のところに作業に行こうかと考えていてさ」
「……そうなんだ」
抽出部門に向かうにつれて、祭りの会場は盛況になっていく。
影法師の人混みをかき分け、シロとはぐれないように手をつなぐ。
シロは一瞬呆気にとられたような表情をしたが、すぐにうれしそうな顔に戻った。
「えへへっ」
「それにしても、ここもにぎやかだなぁ。シロ、何か買ってやろうか?」
「……ジョシュア」
シロのために何かを買ってやろうかと考えていたが、そう話をしたらシロは少し悲しそうな表情になった。
いったいどうしたのだろうかと考えていると、シロは少し躊躇しながら口を開いた。
「……ジョシュア、だめだよ」
「えっ?」
「……思い出に、飲まれちゃ」
その言葉に、ハッとしてしまった。
気が付けば、周囲の異様な様相に、ようやく気が付くことができた。
いや、見てみぬふりをしていたのかもしれない。
そうか、もしかしたら俺は、この祭りの雰囲気に、郷愁を感じてしまっていたのかも……
シロにはあの世界の話をしていたから、もしかしたらそれでわかったのかもしれない。
「……すまない、シロ」
「……ううん、ジョシュアの気持ちも、わかる気がするから」
「そうか、ありがとう」
そういえば、シロは精神汚染に対してかなり抵抗があった。
そのおかげで、この異常事態にも向き合うことができた。
「それにしても、一体これは何なんだろうか?」
「……さっき言ってたこと、覚えてる?」
「さっきのって?」
「……勝手に作業されてたの」
そういえば、さっきその話をしていたな。
もしかしてそれが関係あるんだろうか?
「……あれも、このお祭りも、『T-03-i50』が来た頃から始まってる」
「……っ!?」
もしそうなら、『T-03-i50』は収容室の外まで影響の出る、かなりヤバいアブノーマリティである可能性が出てくる。
なら……
「悪いシロ、今から『T-03-i50』の収容室に行ってくる」
「……行ってらっしゃい、ジョシュア」
シロと離れて、『T-03-i50』の収容室に向かっていく。
影法師たちを避けながら収容室へと向かっていき、そしてたどり着いてすぐに扉を開く。
「……なんだよ、これ」
収容室の中に広がる祭りの会場
あふれかえる影法師たち
常に響き渡る祭囃子
そして、黒いナニカの胴体は、異様に膨れていた……
Emergency! Emergency! Emergency!
Risk Level ALEPH
それは煌びやかな祭典の皮をかぶせた邪悪な儀式
決してこの世の存在してはいけない
存在させてはならない何かを生み出すための祭典
決してそれを産み落とさせてはならない
それは決して生まれてはいけない
生まれた瞬間 この施設は壊滅する
もしもその存在が生まれた時には
それは……
T-03-i50 『鬼胎祭』