「今日は結構安全に作業ができてるよな」
「あぁ、そうだな」
今日は久しぶりにリッチと一緒に雑談をしながら廊下を歩いていく。
いくら業務に成れているとはいえ、毎日無犠牲で作業が終わるわけではない。
何なら、エネルギーを生成するためには犠牲を容認されてしまうのが、この施設だ。
「……なぁ、ジョシュア」
「どうした?」
「ジョシュアって、恋愛経験はあるか?」
「……」
これは、どう答えたらいいんだ?
一応シロとは両想いっぽいけど、ちゃんと確認しあったわけではないし……
「……一応」
ちょっと見栄を張った。
「そうか、実はちょっと相談が……」
っと、そこで目的地の『O-02-i64』の収容室の目の前まで来てしまった。
これからどうしようかと悩んでいると、リッチが口を開いた。
「いや、俺の話はあとでいい。またのんびりできるときにでも相談していいか」
「……あぁ! もちろんだ!!」
とりあえず、その時までにアドバイスできそうなことを考えておこう。
そんなことを考えながら、『O-02-i64』の収容室の中に入っていった……
「ジョ、ジョシュア……」
「なっ、『O-02-i64』!? 大丈夫か?」
収容室に入ると、『O-02-i64』は体中から黒い煙のよう何かを噴き出しながら胸を押さえていた。
……よく見れば、腕の曲がり方が明らかにおかしい。
しかし、今はそれを気にしている状態ではなさそうだ。
「す、すまない、抑えようと思ったが、もう無理かもしれない……」
「な、なにが……」
「本当に悪いと思っているが、あれを用意してほしい……」
「あれって、なんだ?」
「……生贄だ」
その言葉を聞いて、ハッと息をのんでしまった。
生贄、つまりこいつは生きた人間を望んでいるのか。
一瞬ついに本性を現したかと思ったが、その割には辛そうな表情をしている。
「いったいなぜ生贄なんて」
「か、彼女たちは、そうしなければ、怒りを収めることはできない……」
彼女たち、それがこいつから漏れ出る黒い煙のよう何かの正体だろうか?
「彼女たちは、犠牲を喜び、平和を憎む……」
「だから…… ぐっ!」
「お、おい!?」
「すまん、そろそろ時間切れだ……」
そう『O-02-i64』が呟くと、熱風と共にぼろ布が吹き飛び、その真の姿があらわとなった。
『『O-02-i64』が脱走しました。近くの職員はすぐに鎮圧に向かってください』
それは、神々しい奇妙な肉塊であった。
彼女の肉体で正常な部分は、頭部と上半身の上半分だけであった。
本来両腕がある部分は両肩から、女性の胴体が首の部分から腕のように生えていた。
腹部が外側になるように生えたそれは、下半身が黄金の手甲のようなものでおおわれており、今まで見えていた腕はその胴体から伸びていた腕であったことが分かった。
下半身からももう一つ胴体が生えており、その四肢の部分からはすべて人の足が生えており、蜘蛛のような下半身のようになっていた。
そして何よりもその腹部、異様に膨れて餓鬼のようになっていた腹部はすでに巫女服がはだけて露わになっており、その全容が見えていた。
……その腹部は、3人の女の顔が浮き出ていた。
その一つ一つが、苦痛、憤怒、恐怖の表情をしており、口の部分から黒い霧のような何かを吐き出していた。
「あっ、まずい!?」
嫌な予感を感じて、バックステップで『O-02-i64』から距離を取る。
すると、先ほど以上の熱風が俺を襲った。
「……くそっ!!」
さっきまで『O-02-i64』がいたところに目を向けると、すでに奴はそこに存在していなかった。
……おそらく、どこかにワープしたのだろう。
「管理人!! 『O-02-i64』はどこに行ったか分かるか?」
『奴は中央本部の方に出現した、急いで鎮圧に向かってくれ!』
「了解!!」
急いで中央本部に向かう。
“残滓”“骸”“墓標”をそれぞれ手元と口元に出現させ、力を開放する。
以前改造した体を活性化させ、普段以上の力を発揮させる。
そのおかげか、現場にはすぐにたどり着くことができた。
「ジョシュア!? よく来てくれた!!」
「なによこいつ、ほんとにヤバそうね!?」
「マイケル、ルビねぇ! 状況は!?」
中央本部のメインルームに到着すると、すでに何人かがドロドロに溶かされているのが理解できた。
たまたまそこにいたオフィサーか、或いは……
「とりあえず一般職員は避難させたわ! この子たちは…… あいつが出てきた瞬間に溶かされちゃったわ」
「ほかに被害は今のところなし、行けるか?」
「もちろんだ!!」
おそらくこいつは憎しみの女王と同じワープ時にダメージが発生するタイプだ。
なるべくこいつがワープしないように立ち回らないと……
「くそっ!?」
黄金の手甲に炎を纏わせ、殴りつけてくる。
それをぎりぎりでよけると、ちりちりと肌が焼ける感覚を受ける。
「喰らえ、“骸”」
“骸”を叩きつけ肉塊で拘束しようとするも、すぐに焼き尽くされてしまう。
そこで再び拳が迫ってきたのでバックステップでよけると、その瞬間にマイケルが“名無し”で狙い撃つ。
「ぎゃあぁぁぁあ!!??」
「マイケルちゃん、まずいわよ!?」
「わかってる!!」
回避するマイケルを援護するようにルビねぇが“黄金球”で『O-02-i64』の側面を殴りつける。
「“墓標”」
『O-02-i64』がよろけた瞬間を狙って、“墓標”を突き立てる。
「咲き誇れ」
突き刺した“墓標”に力を込めて、内部から骨の槍でずたずたにする。
『O-02-i64』は痛みで泣き叫ぶが、容赦はしない。
「マイケル、ルビねぇ、畳みかけるぞ!!」
『O-02-i64』が周囲に炎を振りまき始めたので、距離を取ってから声をかける。
マイケルが“名無し”で牽制しつつ、ルビねえが『O-02-i64』の拳を叩きつけて体勢を崩させる。
そしてがら空きになった体に、再び“墓標”を突き立てる。
「安らかに、眠れ」
『O-02-i64』の体内から大量の骨の槍を放出し、墓標を立てる。
すると最後に、『O-02-i64』が微笑んでいた気がした。
「……大丈夫、大丈夫だよ」
「……? 『O-02-i64』」
「私が、あなた達を……」
「その苦しみから、悲しみから……」
「私が絶対、助けるからね……」
どこか満足そうに、『O-02-i64』は消えていった……
O-02-i64 『愛の塊』