「ジョシュア、少し話をしませんか?」
「……ホクマー」
記録部門のメインルームを歩いていると、ホクマーに呼び止められた。
こいつから話とか、嫌な予感しかしないんだが……
「何の話だよ?」
「いや、少し気になったことがあってね。君は、この施設の真実に気が付いているな?」
「……」
……まぁ、こいつなら、知っていてもおかしくはないのか?
とはいえ、なんて言葉を返すべきか……
「もしそうなら、どうするつもりだ?」
とりあえず、相手の様子を見る。
正直こいつを敵に回した時点で消されることは確実だ。
いくら次週に記憶を引き継ぐことができるとはいえ、こいつはその肉体自体を削除することができる。
だがこうして話をしたいということは、たぶん活路はあるはずだ……
「別に、何もしませんよ」
「……なに?」
「貴様が、あの人の邪魔さえしなければ、ですが」
……まぁ、ホクマーはそうだよな。
「そういうことなら大丈夫だ、別にあんたたちの計画の邪魔をするつもりはない」
なんなら、ちゃんと成功させようとしているくらいだ。
「……あんなことをやっておいて、よく言えますね」
「……えっ?」
あんなことって、どんなことだ?
心当たりは色々あるけど、たぶんホクマーを怒らせるようなものではないはずだし……
「まぁ、今のあなたにはわからないことでしょうが……」
「えぇ……」
それなら言うなよ。
まぁ、大丈夫なのだったら別にいいけどさ。
……と、そこで、ふと気になっていたことを聞いてみた。
「なぁホクマー、こっちからも質問いいか?」
「くだらない質問に答えるつもりはないな」
「いや、そうじゃなくてさ……」
「もしも生身の人間に戻れるとしたら、戻りたい?」
その質問をした瞬間に、この場の空気が一気に冷えた。
しばらくの間沈黙が広がるも、その静寂をホクマーが破った。
「それを望むものは、ここには誰もいないでしょうね。いったい……」
「……だよな、やっぱりみんなおんなじ答えだ」
「……なに?」
以前『F-01-i34』*1に言われた話が、ずっと頭の隅にこびりついていた。
それで何を見落としてしまうのか考えて、彼らセフィラについてしっかり知っていこうと思った。
可能なら彼らも助けたかったが、みんなそれを望んではいなかった。
……なら、その意思を尊重したいと思ったんだ。
「ホクマー、俺もあんたたちの計画を手伝うよ」
「どういう風の吹き回しだ?」
「ここではどこに耳があるかわからないから、詳しくは言えないけどさ。計画が成功できるように手伝わせてくれ」
「その代わり、少しだけ条件があるんだ」
「何を言って……」
俺はなるべく周囲に見えないように、口パクでホクマーに伝える。
それを見てホクマーは、何かをぶつぶつとつぶやくと、再び俺に顔を向けた。
「わかった、条件は?」
「最後の日の、俺の行動を見逃してくれ」
「……それでいいのか?」
「あぁ」
「……わかった」
正直今のままでうまくいくかはわからない。
だけど、もしもうまくいったなら、その時は……
「ふむ、それではこの辺にしようか。貴様にも、仕事があるだろう」
「あぁ、それじゃあ失礼するよ」
ホクマーと別れて、記録部門の廊下へ向かう。
今日収容されたアブノーマリティは、『T-09-i90』、ツールだ。
正直ツールは全く使う気になれない。
だけど、まぁ使っていくしかないよなぁ……
「うわっ、もう着いたし」
気が付けばもう『T-09-i90』の収容室の目の前にいた。
いつものように扉に手をかけ、ツールなので雑に扉を開いた。
「……なにこれ、兜?」
収容室の中央にあったのは、騎士の兜っぽいものだった。
それはいつものようにポットに入っていて、ふわふわと浮いていた。
「とりあえず被ればいいんだろうか?」
ポットから兜を取り出して、かぶってみる。
「うおっ、重っ!?」
兜をかぶってみると、頭どころか体全体に重みを感じた。
軽く動いてみると、少なくとも足は遅くなっているように感じる。
「なんとなく用途は分かるけど、足が遅くなるのかよ……」
試しに“残滓”を取り出して軽く振ってみると、いつもよりもキレが増しているように感じる。
……思った通り、足が遅くなる代わりに、攻撃速度が上がるようだ。
「でもこれ、一回戦わないと真価がわからないよなぁ……」
とりあえず収容室から出て廊下を歩く。
どうしようか、適当に廊下を歩いて脱走した奴でも鎮圧してみるか?
しかしそんな都合よく脱走するとも限らないし……
「……あっ」
そうだ、こういう時こそ『F-01-i63』*2を脱走させればいいじゃないか。
そうでなくても『T-05-i14』*3もいるし……
そんなことを考えていると、気が付けば教育部門の廊下まで来ていた。
「しまったな、考えすぎてこんなところまで……」
『『T-04-i54』*4が脱走しました。近くの職員はすぐに鎮圧してください』
「……うわぁ、よりにもよってこいつかよ」
どうやら新人がやらかしたようで、目の前で『T-04-i54』が脱走したようだ。
脱走した『T-04-i54』と一緒に新人と思われる職員が収容室から飛び出してきた。
あれは…… おそらく自殺衝動だろう。
「仕方ない」
手元に“残滓”と呼び出して、肉体の力を引き出しながら“残滓”の炎を噴き出して勢いよく距離を詰める。
そしてそのまま職員を抱えて距離を取ろうとする、別に『T-04-i54』がキモいから離れようとしているわけではない。
「……あれ?」
職員を抱いて距離を取ろうとすると、なぜか足がぴたりと床についたかのように動かなくなってしまった。
「……もしかして」
試しに、『T-04-i54』に向かって一歩踏み出そうとする。
すると、今度はすんなり前に進む。
逆に一歩戻そうとすると、足が床から離れない。
「……くそっ!?」
このツールくっそ厄介じゃないか!?
とりあえずわきに抱えた職員に“残滓”を振るって精神汚染を浄化する。
「……あれ?」
「目覚めたか? とりあえずここは任せて離脱しろ!」
「は、はい!」
さっきの新人をこの場から逃がし、『T-04-i54』に向き直る。
気が付けば奴はもうかなり近づいてきていた。
「とりあえず、消え失せろ」
手元に“骸”を呼び寄せて、思い切りたたき潰す。
すると、『T-04-i54』はただの肉塊として飛び散っていった。
俺の顔面にも。
……今後こいつを鎮圧するときは、この方法はやめておこう。
……なぜ、私がいつも殿を任されているのかですか?
それはもちろん皆知っての通りでしょう!
……ふむ、貴方は私が愚鈍でいくらでも替えが効くからいつも危険な任を任されていると考えているのですね
いやいや、そんなわけがないでしょう!
私が殿から帰還すると、いつも彼らは驚いた後に称賛してくださります
……では、一体なぜ任されてるのか、ですか
それはもちろん……
信頼されているから最後なのです
T-09-i90『愚鈍の兜』