「「「きゃはははははっ」」」
「くそっ、どれが本物だ!?」
『F-06-i61』*1が脱走し、全てのFカテゴリーのアブノーマリティが脱走してしまった。
こうなってしまっては、もはや被害は免れない。
少しでも早く、こいつを鎮圧しなければ……
「さぁジョシュア、さっそく遊びましょう!」
「鬼ごっこよ鬼ごっこ!」
「おーにさーんこーちら♪ てーのなーるほーおへー♪」
「ふざけやがって……!!」
おそらく本物のいないアリスたちが、俺の周りをまわっている。
いい加減うるさいので手元に“墓標”を取り出してまとめて潰そうと考えた瞬間、彼女たちの動きが止まった。
「……どうしたんだ?」
「あーあ、つまんないの」
「あの女、なんで邪魔するのかしら?」
「残念、もっと遊びたかったなぁ……」
何事かと思っていると、悪寒が走る。
まさかと思い備え付けられていたルーレットを見ると、稼働していた。
「なっ……!?」
ルーレットはぐるぐる回り、やがて止まったところは、『O-09-i93-1-B』*2であった。
場違いなラッパの音が鳴り響き、しばらくすると悍ましい咀嚼音がこの記録部門のメインルームにまで響いてきた。
「それじゃあジョシュア、ごきげんよう」
「また遊びましょうね」
「バイバイ」
それぞれのアリスたちが手を振ると、彼女たちの足元から白い肉塊が溢れ出してくる。
やがてそれはアリスたちを順番に足元から飲み込んでいき、そのあとには何も残らなかった。
「……これは、『O-02-i56』、なのか?」
周囲には何も残っておらず、俺の問いに答える人もいなかった。
「……あれはお前がやったのか?」
対峙するだけで訪れる絶望感。
『O-02-i56』への作業のために収容室に訪れた俺はそう問いかけるも、もちろん返答なんて帰ってくることもなかった。
『O-02-i56』はただ静かにその赤い球体を俺に向ける。
いや、もしかしたらそう見えるだけで、元からそうしていたのかもしれない。
このまま会話を続けても意味はないと考え直して、作業を始める。
恐ろしい絶望感とは別に、優しく体を包み込まれるような安心感も感じてしまう。
そんなどこか矛盾したような感覚を感じながら作業を終えると、『O-02-i56』がその背中の小枝のような羽を広げて、部屋全体を包み込むように動かす。
「……なんだよ、これ」
気が付けば、精神的な疲労は吹き飛び、体の疲れもなくなっていた。
……やっぱりこいつのことがわからない。
人のためになることもすれば、人に害をなすこともある。
いや、そもそもアブノーマリティに対してそんなことを考えること自体がナンセンスなのかもしれないな。
収容室から退出して、廊下を歩く。
今日もまだまだ、仕事が残っている。