ぴ~ひゃら~ ぴ~ひょろ~
……今日も祭囃子が聞こえる。
いや、今日はいつもより騒がしい気がする。
「今日は何かあるのか?」
屋台の影法師から綿あめをもらい、口にする。
とりあえずこの屋台からもらえる食べ物は大丈夫そうだが、本当はこういうこともやめた方がいいんだろうな……
「ちょっとジョシュア様!? なんで私のお渡ししたものは口を付けないのに、こいつらのものは口にするのですか!?」
「あ~はいはい、体に害がないものならちゃんと口付けるよ」
「お茶は体に害はありませんよ!!」
つまりそれ以外は害があるのか?
今俺の隣で騒いでいるのは『F-01-i63』*1だ。
いつものように脱走して俺のところに遊びに来ている。
「それより、今日はやけに影法師たちが多いな」
「……むぅ」
「えっ、なんで不機嫌になってるの?」
影法師の話を振ると、何故か『F-01-i63』が不貞腐れてしまった。
……今のどこに不機嫌になる要素がある?
「……なぜって、あんな新参者は名前で呼んで、私は番号なんですか」
「えっ?」
別に影法師が名前なわけではないが…… そこ?
まぁ、確かに『O-01-i74』*2には名前を付けたりしたが、こいつは知らないはずだしなぁ……
「そもそもなんで名前が欲しいんだよ」
「……だって」
「だって?」
「……なんでもいいじゃないですか!! それよりも何かいい名前を考えてくださいよ!」
「えぇ……」
なんで言いたくないんだよ、別に悪意はなさそうだけどさ。
いや、アブノーマリティってそういうものか……
「……」
やめろっ、そんな期待のまなざしで俺を見つめるな。
「……そうはいっても、いきなり名前とか言われても思いつかないし」
「……っ」
「一応職員の間では『甘露』って呼んでるけど、それもなぁ……」
「……っ!? それです、それでいいです!」
「えぇ……」
甘露って、名前なのか? そもそもそれでいいといわれても、勝手に名前を付けていいものだろうか……
いや、もうすでに『O-01-i74』に名前つけてるし、今更ではあるんだが……
「そんな名前でいいのか?」
「えぇ、ジョシュア様に名前を付けていただけることが、何よりの名誉なのですから」
「……じゃあ、あとから文句言うなよ。甘露」
「はいっ!!」
なんというか、これほどうれしそうにされると毒気が抜かれるな。
……何も起こらないよね? 大丈夫だよね?
「それにしても、今日は彼らの動きが少しおかしいですね」
「彼らって、影法師か? そんな風には…… あっ」
影法師たちを注目すると、確かに全員同じ方向に向かっていた。
「これは…… 抽出部門か?」
何か嫌な予感がして急いで抽出部門の方へ向かおうとする。
すると、何故か甘露も一緒について来ようとしていた。
「おい甘露、危ないから待ってろ」
「危ないからって…… 私、アブノーマリティってやつですよ?」
そういって苦笑いをする甘露を見て、思わず足が止まる。
「わ、悪い、あまりにも馴染みすぎて……」
「ジョシュア様、たとえ姿かたちが似ていても、私とあなた達は違う存在なのです。線引きはしっかりとしなければなりません」
「自分からちょっかいかけてくるお前が言うのか……」
とはいえ、少し近すぎたのかもしれない。
……やっぱり、まだ覚悟が決まらないな。
「というわけで、一緒に参りましょう!」
「とりあえず、お前が死ぬと厄介だから残っとけ」
「そんなぁ!?」
およよぉ、となくふりをする甘露を無視して、抽出部門のメインルームへと向かっていく。
嫌な予感を感じながら、力を引き出し全力で。
「……なんだこれは」
抽出部門のメインルームにたどり着くと、影法師たちが輪になりながら踊っていた。
それはまるで、何かを祭るように。
……何かを、呼び寄せるように。
『『T-03-i50』が脱走しました、近くの職員は至急鎮圧に向かってください』
そのアナウンスと共に、影法師たちの中心から影がせりあがり、あの黒いナニカ、『T-03-i50』が出現した。
それは、異様に胴体、いや、腹部が膨れていた。
膨れ上がった腹部は、まるで天に突き上げるように上を向いている。
まるで、何かが生まれてくるかのように。
「……ジョシュア!!」
「おいおい、これは……」
この場にすぐにやってきたシロとリッチ、そして遅れてマイケルやパンドラがやってきた。
この異様な光景に思わず見上げる俺たち。
しかし、呆けている時間などなかった。
「なっ、来るぞ!?」
『T-03-i50』の出現と同時に、影法師たちが一斉に俺たちに襲い掛かってきた。
直感で手元に“墓標”と“残滓”を取り出して、影法師を切りつける。
その確かな手ごたえを感じ、ゲブラーとの相手の弱点を突く直感を育てる特訓がまさかいきてくるとは思わなかった。
「……こいつら、B攻撃効かない」
「マジかよ…… シロ、本体を狙ってくれ!」
「……了解!」
「まずい、余ってるやつが収容室のほうに行ってますよ!?」
「くそっ、パンドラ頼む! ルビねぇ、援護してやってくれ!」
「わかったわ」
「リッチ、マイケル、シロを援護する、頼むぞ」
「あぁ」
「もちろんだ」
パンドラとルビねぇが収容室のほうに向かった影法師たちを追う。
その間に、ここにいるやつらを攻撃しながらシロの援護をする。
なんとなくだが、このまま本体を放置しておくのはまずい気がする……
『まずい、施設内で集めていたエネルギーが減少している! 『T-03-i50』の脱走が関係している可能性がある、なるべく早く鎮圧を行ってくれ!』
「マジかよ!?」
もしかしてこいつがエネルギーを吸収しているのか?
それならもしかして、エネルギーをあれに集めて……
「何かヤバい気がする、急いで『T-03-i50』本体を叩く! リッチ、マイケル、シロを頼んだ!」
「あっ、おい!?」
道を阻む影法師たちをかいくぐり、『T-03-i50』に近づいていく。
へっ、こちとら路地裏で幾度となく逃げ切った人間だ。
こいつらごときに捕まるわけ……
ごめん嘘です、こいつらのほうが手も伸びるし数も多いし滅茶苦茶危険です。
「くそっ、喰らえ!!」
影法師たちと耐性が違うと感じ、“墓標”を戻し“骸”を取り出す。
そしてそのまま“骸”と“残滓”を叩きつける。
「くそっ、ぜんぜん効いてねぇ……!?」
この調子だと、かなり時間がかかりそうだ。
そうなると、あれの誕生を防げるだろうか……
「おらぁ!!」
そんなことを考えていると、黄金の拳を伴って、マオが飛び込んできた。
彼はその勢いのまま『T-03-i50』の腹部に強力な一撃を叩きこむ。
どうやらまともにダメージが通っているようで、『T-03-i50』が呻いているのがわかる。
「ようジョシュア、こいつを潰せばいいんだな」
「……あぁ、頼むぞ」
マオが“真実の愛”を振るい、『T-03-i50』に強烈な一撃をぶち込んでいく。
その間にマオをめがけて襲い掛かってくる影法師たちを相手取る。
お前たちの相手は、俺だ。
影法師たちが俺たちを襲い掛かり、その量に圧倒されそうになる。
しかし、多人数相手にはこいつがある……!!
「いくぞ“墓標”…… 花を咲かせろ!!」
再び“墓標”を取り出して、思い切り床に突き立てる。
そしてそのまま、力を引き出し、地面から大量の骨の華を咲かせる。
「うおぉぉぉ!!!! くたばれぇぇぇぇ!!!!」
マオの雄たけびと共に、轟音が鳴り響く。
そして『T-03-i50』は“真実の愛”の影響か、炎に包まれながら塵となって消えていった……
「はぁ、はぁ、勝ったのか?」
「くそっ、随分と削ってたじゃないか」
「いや、大体削ってくれてたのはシロのほうだ。俺はほとんどダメージをはじかれた」
それに、あの影法師たちも結局一体も倒すことができなかった。
どれだけ強いんだよ……
「……大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だよ」
「そうかそれはよかった」
シロとリッチも俺たちのほうにやってきた。
影法師たちは本体を倒すと一緒に消えていった。
これで、おそらくは大丈夫なのだろう……
「はぁ、それにしてもこれから大変だぞ」
「えっ、どうしたんだよマイケル?」
「だって今のエネルギー量を見てみろよ。集めなおしだ」
「……あっ」
T-03-i50『鬼胎祭』 鎮圧完了