「パンドラ、俺が言いたいことはわかるか?」
「えっと、助けてくれてありがとうございます?」
「そんなわけあるか! お前『F-02-i06』*1の中でサボってただろう!?」
「そんな決してサボってたわけではイテテテテ!」
「だったらその手に持つ携帯ゲーム機はなんだ!」
今日も俺は、パンドラがやらかした事への説教をしている。最近パンドラへの説教が常態化しつつある気がするが、そんな悲しい事実は認めたくない。道行く人々もまたかって感じの目で見ている。
「パンドラさんまたやってるんですか? そんなにジョシュア先輩にかまって欲しいからって、毎回変なことしなくても……」
そんななか、パンドラを宥めるようにやって来たのはカッサンドラだった。また機嫌が良さそうだから、きっと占いていい結果が出たんだろう。
「誰がですか!? 私はやりたいことをやってるだけで、こんな恐ろしい人にかまってほしくなんてありません! カッサンドラさんじゃあるまいし……」
「えっ、何でそこで私?」
「だってカッサンドラさんのお話って、占いの次にジョシュア先輩の話が多いじゃないですか? だから……」
「わーわー、ストップストップ! 私が悪かったからこれ以上は許して!」
「えっ? よくわかりませんが、とりあえず黙っておきますね」
「もう良いよ、うわーん!」
そういうとパンドラはお口チャックをして黙りこんだが、カッサンドラはその沈黙に耐えきれずに走り去ってしまった。
……せめてもう少しうまく隠してくれるならな。
「はぁ、とりあえず次の仕事に行くぞ」
「むーむー」
「ふざけているのか? もう一回お仕置きが……」
「むー! むーむむーむーむむー!」
「いや、さすがにもうしゃべって良いからな?」
「えっ、そうなんですか? それならそうと早く言ってくださいよ!」
「……はぁ」
もはや突っ込む気も失せてきた。頭を抱えながらぶーぶー言ってくるパンドラを引きずり、今回やってきたアブノーマリティーの収容室に向かう。
今日収容されたアブノーマリティーは『T-09-i96』、ツール型アブノーマリティーだ。この前は微妙なやつだったから、今度は有能なやつだと良いな。
「ほれ、着いたぞ。覚悟を決めろよ?」
「えっ、なんで覚悟決めないといけないんですか? ツール型っていきなり死んだりしない安全なやつなんですよね!?」
「……」
「笑顔でごまかさないで何か言ってくださいよ!」
ギャアギャア言い始めたパンドラを無理矢理引っ張り、雑に開けた収容室の扉に突っ込んだ。
「ぎゃぁぁぁぁ! ジョシュア先輩殺す気ですか!?」
「いや、入っただけで死ぬわけ無いだろ、ツールだし」
「さっきものすごい不安な事言ってたじゃ無いですか!?」
「知らんな」
収容室の中に入ると、中にはシンプルな酒瓶が入っていた。ラベルも何もついていない透明な瓶の中には、黄金色に輝く液体が半分ほど入っている。おそらくこれを飲めと言うことだろう。
……いや、もう飲み物という時点で嫌な予感しかしない。だって飲み物のツールって言えば樹液だろ? あんなもの誰が飲むって言うのか。
「……おいパンドラ、お前これ飲めよ」
「何でですか!? 先輩がそういう反応するときってろくな事が起こらないらしいじゃ無いですか!」
「大丈夫だ、骨は拾ってやる」
「全然良くないですよ!?」
一通りパンドラをいじめたので、そろそろ『T-09-i96』を使用してみることにする。コルクの栓を抜くと、気持ちの良い音がした。試しに臭いをかいでみると、甘い香りの中に酒精の香りも混じっていた。
「これは酒か? これじゃあパンドラはだめだな」
「えっ、何でですか? 私ジョシュアさんと同い年ですよ?」
「……えっ、お前俺と同年代なのか?」
「はい、言ってませんでしたっけ? ちなみにリッチ先輩は年下です」
「いやいや、色々と衝撃的すぎるんだが……」
パンドラから衝撃の事実を聞かされ、思わず手に持った『T-09-i96』を落としそうになる。慌ててなんとかキャッチしようとすると、パンドラが横からかっさらってきた。
「あっ、いらないんだったらもらいますね?」
「ちょっ、おまっ!?」
俺が制止する間もなく、パンドラは瓶に口をつけた。そのままごくごくと美味しそうに飲み続け、ついには飲み干してしまった。
「ぷはぁ~、美味しいですね!」
「あ、あっ……」
「あれ、もしかしてジョシュア先輩も欲しかったですか?」
「このアホー!!」
「えっ、何でですか!? ちょっ、待って…… うぷっ」
パンドラの肩をつかんで思わず前後に揺らす、そこでパンドラの顔色が悪くなった事に気がついたのですぐに手を離し、体調を確認する。
「大丈夫か、体が爆発するのか!?」
「何ですかそれ、そんな事があるんですか!?」
「本当に大丈夫か? 何か体に変化は……」
「う~ん、強いて言うなら少し体が軽くなったような……」
「やっぱりだめだぁ……」
「えっ、だめなんですか!?」
「大丈夫だ、最善は尽くす」
「そこは嘘でも良いから死なないって言ってくださいよ!!」
体に良い変化があるなんて、そんなもの何かしらのデメリットがあるに決まっている。とりあえず経過を見て爆発する様子が無いので、外見的な変化が無いかを調べる。目や肌を調べたが特に変化も無いので、とりあえず今は大丈夫そうだろ仮定する。
もしかしたらダメージを受け過ぎたらというタイプかもしれないので、この後の作業はTETH以下のアブノーマリティーにするように指示して様子を見る。この日のパンドラの作業は、いつもより少し良かった。
「……とりあえず、今のところわかっていることを整理したいと思う」
「あぁ、頼む」
あれからしばらくたち、『T-09-i96』についてもいくつが情報が集まってきたので、情報を整理することにした。『T-09-i96』の収容室に向かいながら、リッチと話しながら歩く。
「とりあえず飲むと身体能力が上がり、特に体に害がない事がわかった」
「そうだな、ついでに飲む量によって身体能力の変化にも違いがあるようだな」
「あぁ、しかし飲み過ぎるとアブノーマリティーから受けるダメージが増えるようだな」
「だから一人一日一杯の制約をもうけたわけだな?」
今いるメンバーの中ではリッチが一番話しやすい。仲がいいこともあるが。一番まともで頭の回転も速いからだ。
「それと、のんだお酒はしばらく時間がたつと、酒瓶に自動的に溜まっていくようだな」
「あぁ、溢れるともったいないからその前に飲むようにしているんだ」
「……そんなにうまいのか?」
「うまいがだめだぞ未成年」
「……そんな事はしない」
どうやらリッチはお酒にあこがれを抱いていたようだ。別にこの施設で気にするやつはいないが、こいつは変なところでまじめなので、少し損をしているようにも感じる。
「とりあえず、そろそろ溜まってくる頃だから見に行くか」
「そうだな、なんだかんだで皆世話になっているからな」
『ただいま情報部門にて試練が発生しました エージェントの皆様は……』
「……とりあえずいくか」
「そうだな」
タイミングの悪いことに、試練が発生してしまった。せっかく楽しみにしていた『T-09-i96』はお預けになってしまい不服だが、試練を放置するわけにもいかないのでリッチと共に鎮圧に向かうことにした。
「それで、何か言い分はあるか?」
「何で私って決めつけるんですか!?」
『T-09-i96』の収容室に入ると、『T-09-i96』の中のお酒の量が明らかに減っていた。ついでにあたりには黄金の液体が飛び散っていた。ついでに収容室にこいつがいたのでもう現行犯で良いだろう。
「ちょっと話を聞いてくださいよ! 私は何かここで音がしたから気になって入ってみただけなんです、入ったときにはもうすでにこうなっていたんですよ!」
「……なに?」
パンドラが入ったときにはすでにこうなっていた? それが本当ならば、もしかしたらその前に入ったやつに何かがあったのか、あるいはもっと……
「……なんか、外が騒がしくないですか?」
「あぁ、E.G.O.の準備は万全か?」
「もちろんです」
パンドラは竜宮城を持って俺の後ろに付いてくる。俺も幸福を構えて収容室の外に出て、騒ぎの方に向かってかけだした。
「どうした!?」
「助けてください! 黄金色に輝く謎のアブノーマリティーが急に襲いかかってきて……」
「黄金?」
オフィサーの指さす方向を見てみると、そこには黄金色に輝く巨大な塊がうごめいていた。ゲームに出てくるスライムのようなそれは、名前も知らないオフィサーに覆い被さり、その体をじわじわと溶かしていった。
「パンドラ、援護しろ」
「了解です」
まず接近して幸福でスライムを突き刺した。グジュリと不快な感触が手に伝わってくるが、気にせずねじってから引き脱いた。
幸福の穂先には、黄金色の塊がべっとりとくっついていた。
「ちっ」
「撃ちます」
パンドラが背後から竜宮城を発砲する。それはスライムに当たるが、あまりダメージが通っているようにも見えない。
「とりあえずあんたは逃げろ」
「あっ、ありがとうございます!」
「なら他の人も……」
「無駄だ」
周囲を見渡すと、すでに彼以外に生き残っている人物はいなかった。そのすべてがとかされ、骨だけになっていた。
「今は集中しろ」
「わかりました」
スライムが触手を伸ばして攻撃してきたので、横によけて触手を断ち切る。見た目によらず感触が重たかったが、切り落とした後は動く気配が無かった。
「いくぞ、合わせろ」
「はい」
幸福でスライムを少しずつ削り取って体積を減らしていく。パンドラの竜宮城も当たれば少しずつ削れていくので、やつへの牽制にはなっているようだ。
「くっ」
なんとかスライムの触手をよけていたが、だんだん厳しくなってきた。少しずつかするようになっていき、体にダメージが蓄積されていく。
「なっ、危ない!」
「えっ」
俺相手ではじり貧だと考えたのか、スライムはいきなり標的を変えてパンドラをねらい始めた。突然標的にされたパンドラはうまく動けず、なんとか突き飛ばして攻撃から逃すことが出来た。
「ジョシュア先輩!」
「いいから援護しろ、話は後で聞いてやる」
「……わかりました」
今度は竜宮城で牽制しながら注意を引きつけるようだ。俺はその間にもう一度スライムに近づき、攻撃を加える。
そして大分相手の体積が減ってきたところで、やつの体の中に核のようなものがあった。なんとかそこにねらいを定めて、一突きで核を破壊する。するとスライムは溶けるように活動を停止し、貫いた核だけがその場に残った。
「……いったい何だったんだ」
「なんだか私、さっきのに見覚えがあるのですが」
「偶然だな、俺もだよ」
疑問の真偽を確かめるため、元来た道を戻ろうとする。すると、ちょうど俺たちのやってきた扉から、新手がやってきた。
「全く、たぶん俺たちの予想はあたりだよ」
「大丈夫です、今度こそちゃんと援護します」
目の前に現れた黄金色のスライムにもう一度E.G.O.を構える。俺たちは、恐ろしいアブノーマリティーを収容してしまったようだ……
それは素晴らしい酒であった
飲めばたちまち元気になり、体に力が溢れた
さらに少し待てばまた酒瓶に酒はたまり、何度でも飲むことが出来る
まるで、夢のような存在だ
しかし、我々は気がつかなければならなかった
その黄金色の液体は、人体を強化できるほどのエネルギーの塊であると言うことを
それはつまり、液体自体に力があると言うこと
その力におぼれ、気付いた頃にはすべてが遅かった
強大な力は繁栄をもたらすが、強すぎる力は災いをもたらすだろう
我々に力を与えた存在は、ついに我々に牙を剥いた
やがて、希望は絶望に変わるだろう
T-09-i96 『黄金の蜂蜜酒』