【完結】誰も知らないアブノーマリティー   作:名無しの権兵衛

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Days-47-1 F-05-i66『それはかつて見た王国の夢』

「おぉジョシュア! 久しぶり」

 

「あぁ、最近これなくて悪かったな」

 

 今俺は、『F-02-i32』*1収容室にいた。

 

 いつもは真っ先に新しいアブノーマリティの収容室に向かうところだが、たまにはモフモフを摂取しないといけないよな。

 

「ねぇねぇジョシュア」

 

「うん? どうしたんだ?」

 

「僕の出番はいつあるの?」

 

 その言葉を聞いて、返答に困ってしまう。

 

 もしかしたらこの子の力を借りることもあるかもしれないが、今すぐではない。

 

「……まぁ、そのうちちゃんとあるよ」

 

「わかった!」

 

 もう時間が来たので、モフモフをやめて収容室から退出する。

 

 一息をついて、とりあえず業務のために次の収容室に向かって歩きだす。

 

 今日収容されたアブノーマリティは『F-05-i66』と『T-09-i78』だ。

 

 昨日に続いてのFカテゴリーのアブノーマリティに辟易する。

 

 できれば大人しい奴がいいのだが……

 

「くそっ、Fカテゴリーのアブノーマリティってだけで『F-06-i61』*2のことを意識しないといけないのは厄介だな……」

 

 思わず愚痴がこぼれるも、周りに誰もいないので虚しく廊下に響くのみであった。

 

 とりあえず片方はツールであるため、今回は先に『F-05-i66』への作業を行う。

 

 メインルームからはかなり近いところだったため、収容室にはすぐにたどり着くことができた。

 

 いつものように収容室の扉に手をかけて、お祈りをする。

 

 そして思い切り扉を開いた。

 

 

 

 

 

「……これまた奇怪な」

 

 収容室の内部では、カラカラと何かが回る様な音が鳴り響いていた。

 

 その音の発生源は、収容室の中央に鎮座していた。

 

 それの頭部は、木製の車輪のような何かだった。

 

 カラカラと車輪が回っては止まり、回って止まり、それはまるで感情を表しているようだ。

 

 その下からは茨が伸び切り、人の体と同じように胴と腕を形成している。

 

 その上に藍色の布を羽織った怪物は、腕に持つ槍の反対方面には針のようなものがついている。

 

「一体どんな作業がいいんだ?」

 

 この見た目から有効な作業が思いつかないな。

 

 とりあえず植物だし、洞察作業でいいか?

 

 この前は失敗したけど……

 

「さて、さっさと作業を終わらせよう」

 

 掃除用具を取り出して、清掃を始める。

 

「……痛っ」

 

 洞察作業を行うも、あまりお気には召さなかったようだ。

 

 これで2連続ではずれを引いてしまったかもしれない。

 

 とりあえず洞察作業はもうやめておいた方がいいか?

 

「まぁ、始めてしまったことは仕方ないか…… うおっ!?」

 

 気が付けば『F-05-i66』が持っていた槍の針が、俺の方を向いていた。

 

 その針の先を見つめると、いや目線が針の先に吸い寄せられてしまう。

 

 油断していたら、刺されてしまうところだっただろう。

 

「これ刺さったら絶対なんかあっただろうな……」

 

 嫌な予感を感じつつ、さっさと掃除を終わらせる。

 

 そしてそのまま逃げるように収容室から退出し、メインルームに向かっていく。

 

 できることなら、あいつの作業をあまりしたくないな……

 

 

 

 

 

「……おい、こっちにうちのチームの奴が来なかったか?」

 

「ようマオ、そういえばさっきこっちで『F-05-i66』の作業に来てたけど、どうしたんだ?」

 

「いつまで待っても帰ってこねぇと思って様子を見に来たんだが、まだ作業をしてんのか?」

 

「えっ? 今はうちのチームの職員が作業しに行ってるぞ」

 

 その言葉を聞いて、マオの眉にしわが寄る。

 

 もしかして、教育部門にも帰ってないのか?

 

「なんか嫌な予感がしやがる」

 

「……あぁ、俺も同じ考えだ」

 

『『F-05-i66』が脱走しました。近くの職員はすぐに鎮圧に向かってください』

 

 その時、『F-05-i66』が脱走したというアナウンスが流れ、顔を見合わせる。

 

「いくぞ!」

 

「おう!」

 

 すぐに走り出し、『F-05-i66』の元へ向かう。

 

 そして設計部門の廊下に飛び出すと、そこにはあまり信じたくない光景が広がっていた。

 

「なっ……!?」

 

 収容室から出てきたのは、『F-05-i66』だけではなかった。

 

「……おい、あいつって」

 

「……あぁ、あいつはうちの新人だ」

 

 『F-05-i66』の隣を歩いている二人の人間は、マオの部下に当たる新人の職員と、先ほど『F-05-i66』に作業をしに行ったはずの職員であった。

 

 彼らは『F-05-i66』から伸びた茨を首に巻き付けて、目をつぶりながらよたよたと歩いている。

 

 それはまるで、夢遊病の人間のようであった。

 

「……いくぞ」

 

「あぁ!!」

 

 マオが“真実の愛”を構えて飛び出すのと同時に、“墓標”を取り出して俺も突っ込む。

 

 『F-05-i66』が手を掲げると、囚われの二人がE.G.O.を構えてこちらに突っ込んでくる。

 

「ここは任せろ!」

 

「おうっ!!」

 

 手元に“残滓”を取り出して、炎を噴き出し首元の茨を焼き切る。

 

 その間にマオは『F-05-i66』に接近し、襲い掛かる茨の波に“真実の愛”を叩きつけて焼き尽くす。

 

 『F-05-i66』の意識がマオのほうに行っている間に、頭部の車輪の中心に“墓標”を叩きつけると、砕け散って行動を停止してしまった。

 

「くそっ、いいところをもっていきやがって……」

 

「犠牲がなかったんだからいいだろ? とりあえず眠っているこいつらを連れていくぞ!」

 

 マオに声をかけて眠っている二人をメインルームに向かっていく。

 

 ……しかし、彼らが目覚めることは、二度となかった。

 

 

 

 

 

 かつて魔女は、とある王国に魔法をかけた

 

 100年眠り続けるその魔法は、結局100年たつまで解除されることはなかった

 

 そして100年がたったことで、ようやく人々は目覚める…… はずだった

 

 かつて栄華を極めた王国は、100年もの間放置され、荒れ果てていた

 

 様々なものが崩れ落ちているその地で、人々は夢を見ていた

 

 

 

 

 

 ……それは、かつて見た王国の夢

 

 

 

 人々は選んだ

 

 つらい現実よりも

 

 美しい夢を

 

 

 

 

 

F-05-i66『茨に眠る王国』

 

*1
『小さくて意地悪な狸』

*2
『終わらぬ夢のアリス』

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