「おぉジョシュア! 久しぶり」
「あぁ、最近これなくて悪かったな」
今俺は、『F-02-i32』*1収容室にいた。
いつもは真っ先に新しいアブノーマリティの収容室に向かうところだが、たまにはモフモフを摂取しないといけないよな。
「ねぇねぇジョシュア」
「うん? どうしたんだ?」
「僕の出番はいつあるの?」
その言葉を聞いて、返答に困ってしまう。
もしかしたらこの子の力を借りることもあるかもしれないが、今すぐではない。
「……まぁ、そのうちちゃんとあるよ」
「わかった!」
もう時間が来たので、モフモフをやめて収容室から退出する。
一息をついて、とりあえず業務のために次の収容室に向かって歩きだす。
今日収容されたアブノーマリティは『F-05-i66』と『T-09-i78』だ。
昨日に続いてのFカテゴリーのアブノーマリティに辟易する。
できれば大人しい奴がいいのだが……
「くそっ、Fカテゴリーのアブノーマリティってだけで『F-06-i61』*2のことを意識しないといけないのは厄介だな……」
思わず愚痴がこぼれるも、周りに誰もいないので虚しく廊下に響くのみであった。
とりあえず片方はツールであるため、今回は先に『F-05-i66』への作業を行う。
メインルームからはかなり近いところだったため、収容室にはすぐにたどり着くことができた。
いつものように収容室の扉に手をかけて、お祈りをする。
そして思い切り扉を開いた。
「……これまた奇怪な」
収容室の内部では、カラカラと何かが回る様な音が鳴り響いていた。
その音の発生源は、収容室の中央に鎮座していた。
それの頭部は、木製の車輪のような何かだった。
カラカラと車輪が回っては止まり、回って止まり、それはまるで感情を表しているようだ。
その下からは茨が伸び切り、人の体と同じように胴と腕を形成している。
その上に藍色の布を羽織った怪物は、腕に持つ槍の反対方面には針のようなものがついている。
「一体どんな作業がいいんだ?」
この見た目から有効な作業が思いつかないな。
とりあえず植物だし、洞察作業でいいか?
この前は失敗したけど……
「さて、さっさと作業を終わらせよう」
掃除用具を取り出して、清掃を始める。
「……痛っ」
洞察作業を行うも、あまりお気には召さなかったようだ。
これで2連続ではずれを引いてしまったかもしれない。
とりあえず洞察作業はもうやめておいた方がいいか?
「まぁ、始めてしまったことは仕方ないか…… うおっ!?」
気が付けば『F-05-i66』が持っていた槍の針が、俺の方を向いていた。
その針の先を見つめると、いや目線が針の先に吸い寄せられてしまう。
油断していたら、刺されてしまうところだっただろう。
「これ刺さったら絶対なんかあっただろうな……」
嫌な予感を感じつつ、さっさと掃除を終わらせる。
そしてそのまま逃げるように収容室から退出し、メインルームに向かっていく。
できることなら、あいつの作業をあまりしたくないな……
「……おい、こっちにうちのチームの奴が来なかったか?」
「ようマオ、そういえばさっきこっちで『F-05-i66』の作業に来てたけど、どうしたんだ?」
「いつまで待っても帰ってこねぇと思って様子を見に来たんだが、まだ作業をしてんのか?」
「えっ? 今はうちのチームの職員が作業しに行ってるぞ」
その言葉を聞いて、マオの眉にしわが寄る。
もしかして、教育部門にも帰ってないのか?
「なんか嫌な予感がしやがる」
「……あぁ、俺も同じ考えだ」
『『F-05-i66』が脱走しました。近くの職員はすぐに鎮圧に向かってください』
その時、『F-05-i66』が脱走したというアナウンスが流れ、顔を見合わせる。
「いくぞ!」
「おう!」
すぐに走り出し、『F-05-i66』の元へ向かう。
そして設計部門の廊下に飛び出すと、そこにはあまり信じたくない光景が広がっていた。
「なっ……!?」
収容室から出てきたのは、『F-05-i66』だけではなかった。
「……おい、あいつって」
「……あぁ、あいつはうちの新人だ」
『F-05-i66』の隣を歩いている二人の人間は、マオの部下に当たる新人の職員と、先ほど『F-05-i66』に作業をしに行ったはずの職員であった。
彼らは『F-05-i66』から伸びた茨を首に巻き付けて、目をつぶりながらよたよたと歩いている。
それはまるで、夢遊病の人間のようであった。
「……いくぞ」
「あぁ!!」
マオが“真実の愛”を構えて飛び出すのと同時に、“墓標”を取り出して俺も突っ込む。
『F-05-i66』が手を掲げると、囚われの二人がE.G.O.を構えてこちらに突っ込んでくる。
「ここは任せろ!」
「おうっ!!」
手元に“残滓”を取り出して、炎を噴き出し首元の茨を焼き切る。
その間にマオは『F-05-i66』に接近し、襲い掛かる茨の波に“真実の愛”を叩きつけて焼き尽くす。
『F-05-i66』の意識がマオのほうに行っている間に、頭部の車輪の中心に“墓標”を叩きつけると、砕け散って行動を停止してしまった。
「くそっ、いいところをもっていきやがって……」
「犠牲がなかったんだからいいだろ? とりあえず眠っているこいつらを連れていくぞ!」
マオに声をかけて眠っている二人をメインルームに向かっていく。
……しかし、彼らが目覚めることは、二度となかった。
かつて魔女は、とある王国に魔法をかけた
100年眠り続けるその魔法は、結局100年たつまで解除されることはなかった
そして100年がたったことで、ようやく人々は目覚める…… はずだった
かつて栄華を極めた王国は、100年もの間放置され、荒れ果てていた
様々なものが崩れ落ちているその地で、人々は夢を見ていた
……それは、かつて見た王国の夢
人々は選んだ
つらい現実よりも
美しい夢を
F-05-i66『茨に眠る王国』