「……さて、それじゃあそろそろツールを使うか」
今俺は、今日収容されたツールである『T-09-i81』の収容室の目の前に立っている。
エネルギーもかなり溜まってきたし、そろそろ使っておかないとな。
「よし、行くぞ」
いつものように扉に手をかけて、お祈りをする。
そして、扉を開いた。
「……なんだこれ?」
収容室の中に置いてあったのは、よくわからないアクセサリーのようなものだった。
近づいて確認してみると、どうやら勲章のようなもののようだ。
「うーん、とりあえずつけてみるか」
なんとなくだけど、そこまで危険そうに見えなかった。
ポットから『T-09-i81』を取り出して胸のところに着けてみる。
……すると、なんとなくだけど勇気が湧いてくる気がした。
「つけてみた感じ、なんとなく鎮圧に関する力を持ってる気がするな……」
ひとまず体の調子を確かめてから、収容室から退出する。
「さて、こっからどうするか…… えっ?」
「あっ……」
収容室から退出すると、ちょうどお散歩中のアリスがキノコを植えていた。
急いで“墓標”を取り出してキノコを鎮圧しようとするが、それより先にキノコが胞子を飛ばして近くにいたオフィサーをアリスに変えてしまった。
『『F-06-i61』*1が脱走しました、近くの職員は至急鎮圧に向かってください』
『『F-01-i63』*2が脱走しました、近くの職員は至急鎮圧に向かってください』
『『F-02-i32』*3が脱走しました、近くの職員は至急鎮圧に向かってください』
『『F-01-i36』*4が脱走しました、近くの職員は至急鎮圧に向かってください』
『『F-02-i49』*5が脱走しました、近くの職員は至急鎮圧に向かってください』
『『F-01-i70』*6が脱走しました、近くの職員は至急鎮圧に向かってください』
『『F-07-i77』*7が脱走しました、近くの職員は至急鎮圧に向かってください』
『『F-02-i45』*8が脱走しました、近くの職員は至急鎮圧に向かってください』
『『F-05-i66』*9が脱走しました、近くの職員は至急鎮圧に向かってください』
「くそっ、ふざけやがって!」
オフィサーがアリスになったことをトリガーに、『F-06-i61』が脱走してしまった。
せっかくここまで来たのに、このままだと徒労に終わる。
「くそっ、管理人!」
『わかっている! 職員に告ぐ! 現状『O-09-i93-1』不足のため『O-02-i56』*10を利用できない!』
『『F-06-i61』『F-02-i32』『F-01-i70』『F-07-i77』の鎮圧を優先してくれ! 『F-01-i63』『F-01-i36』『F-02-i49』『F-02-i45』は無視してかまわない!』
管理人の指示を聞いて、他の奴も動いてくれるはずだ。
とりあえず俺はアリスを追いかけることにする。
先ほど本体は見かけたし、ゲブラーとの特訓の成果なのかなんとなく本体かどうかがわかる。
とりあえず、本体が逃げていった方に向かって走り出す。
先ほどオフィサーが変化したアリスは無視して、メインルームの方に向かっていく。
するとメインルームではリッチとシロが『F-05-i66』の鎮圧を行っていた。
「二人とも、そっちは任せた! 俺はアリスの本体を叩く!」
「わかった、こっちは任せろ!」
「……頑張れ、ジョシュア」
『F-05-i66』を二人に任せて、俺は向こう側の廊下へと向かっていく。
「おーにさーんこーちら♪ てーのなーるほーうへー♪」
本体のアリスが俺のことを煽りながらエレベーターに乗っていく。
俺はそこにいた『F-02-i45』に八つ当たり気味に“骸”をたたきつけながらアリスに向かって走っていく。
“骸”に叩かれて肉の繭に包まれた『F-02-i45』は、爆発するも周囲に被害は広がらなかった。
「……あれ?」
突然、心の底からほんの少し勇気が湧いてきた気がした。
……もしかして、鎮圧するたびに効果があるのか?
「まぁいい、今はアリスを追うのが先だ!」
アリスを追いかける途中で『F-01-i70』や『F-07-i77』も鎮圧を行ったが、その時も勇気が湧いてくる感覚があった。
どうやらさっきの予想は当たったようだ。
「追いつめたぞ、アリス!」
「……あら、もうここまでね」
ようやく本体のアリスを追い詰める、彼女は観念したようで、俺の方に向き直った。
「ねぇジョシュア、貴方はこれから何をしようとしているのかしら?」
「悪いが、時間稼ぎに付き合うつもりはないぞ」
「……はぁ」
ため息をついたアリスは、指をパチンと鳴らすと俺に向き直る。
「すべてのアリスは家に帰したわ、もうこれ以上他のお友達もお部屋から出てこない」
「……そんなこと、信じられるわけないだろうが」
「大丈夫よ、信じて」
いつもと違った真剣な表情のアリスを見て、何かを感じいる。
『……どうやら嘘はついていないようだな』
「……わかった、もう大丈夫なんだな?」
「えぇそうよ、って言ってもすでに出ているお友達は貴方たちに任せるけれども」
「……」
どうやら今回限りは信じてもよさそうだ。
しかし、いったいどうしようというのだろうか?
「ふふっ♪ ずっとあなたと話をしようと思っていたの」
「それで、一体なにを……」
「貴方の目的」
……いや、こいつはそのことについて知らないはずだ。
ここで動揺を悟られてはいけない。
「何のことだ?」
「あら、私が知らないと思った?」
「ずっと収容室の中にいるお前が知ってるわけがないだろう?」
「そんなことはないわ! よくお散歩にも出かけるし、それに……」
そういってアリスはぎょっと握った拳をこちらに突き出すと、掌が上を向くように開いた。
「なっ……!?」
「実は私、こんなことができるの」
その掌に乗っていたのは、手乗りサイズのアリスだった。
もしかしてこれで……
「盗み聞きをしていたのか?」
「そうよ♪ って言っても、ほんとはこんなことしなくてもお友達の部屋のことは大体わかるのだけれど」
「くっ」
ということは、こいつらには『F-02-i32』とのやり取りも聞かれていた可能性があるのか。
「……それで、何が目的だ?」
「私も手伝わせてほしいの♪」
「断る」
「え~」
頬をぷく~と膨らませるアリスは、そこだけを見たら本当の子どものようであった。
「貴方の中の人はいいのになんで私はダメなの?」
「なんだよそいつは?」
「輪廻」
「っ!?」
「いるんでしょう? 貴方の中に、私たちみたいな何かが」
こいつ、輪廻との会話も聞いていたのか?
くそっ、なんて面倒な……
「お前が俺たちに協力するとして、どうするつもりだ?」
「そんなの決まってるじゃない、こんなつまらないところにずっといたくないの」
「それに、貴方の行く末を見てみたい」
アリスはいつものような笑みを消して、真剣なまなざしでこちらを見つめる。
「貴方は自分がおかしな存在であることに気が付いているかしら?」
「……なに?」
「貴方は、私たちを、貴方たちが言うアブノーマリティを変えてしまっているってことを」
「……」
「変態さん、タヌキさん、名無しさん、貴方の中の人、他にも言葉を交わせなくても心の通じているお友達……」
「うふふっ、図星かしら?」
「まぁいいわ、そんなあなただから、私は貴方についていきたいと思っているの」
「貴方がこれからアブノーマリティをどう変えていくのか見ていきたい」
「そして、私もあなたに変えられたい」
「貴方に変えられて、私がそんな風になっちゃうのか…… 楽しみで仕方ないわ!」
「貴方たちに近づくのか、それとももっとおかしくなってしまうのか!」
「……本来変わらないはずの私たちを、どうしてあなたが変えてしまうのか」
「私はそれを、特等席で見たいの」
「きっと、今まで見たことのない素晴らしい劇になると思うから」
「大丈夫よ、貴方の邪魔をするつもりなんてないんだから」
「それに、わたし以外にも貴方のお手伝いをしたいというお友達はいっぱいいると思うの」
「あっ、私以外には結構声をかけているのね、妬いちゃうわ」
「それで、どうかしら? 私は貴方のお手伝いができると思うのだけれど……」
「……わかった」
「本当!? やったー!!」
「だが、もちろん条件がある」
「……ふふっ、それはもちろんよ。ご用件は何かしら?」
「それは……」
弱きを助け悪を挫く
それは、私が昔から父に聞かされてきた騎士の誇り
たとえどれほどの強敵が来ようとも、我が背に守るべきものがいる限り倒れはしない
どれほど恐ろしい相手であろうとも、何処からともなく勇気が湧いてくる
たとえ命に代えても民を守る
それが騎士の責務なのです
T-09-i81『秩序の勲章』